第9話目次第11話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
「芹華さん、わかるの?」
「わからない。でも、たいてい察しはつく」


専門家による化け物退治は終わった。
その専門家は今はなにやら古めかしい本をじっと見ているところ。
その助手として化け物退治を手伝った花桜梨は専門家と一緒に見ている。
そして、結局その間なにもしなかった奈津江と詩織は、救急車で都子と彼を運んだ後で二人を見ているところ。

ちなみに、救急隊には専門家から「階段から転んで頭を打った」と事情を説明した。
その彼女は、救急隊を見送った後で「どうせ、化け物に襲われた、なんて言っても誰も信じてくれないよ」とつぶやいていた。


「花桜梨、ところであの二人は?」
「え〜っと、襲われた人の彼女の知り合い……でいいのかしら?」
「じゃあ、彼女のこと知ってるのか」
「たぶん」


花桜梨がそういうとその専門家は遠くでみている奈津江と詩織のところにやってくる。


「ところであなたは?」
「ああ、名乗ってなかったね。あたしの名前は神条芹華。まあ、花桜梨が言ったように専門家、ということにしておいてくれ。ところで、さっきの彼女のこと何か知ってる?」
「知っているとは?」
「彼女が何かおかしかったとか、そんなところ」
「それならば、彼女、ずっとおかしかったわよ」
「ちょっと聞かせてくれないかな」


奈津江はこれまでの都子の二度の豹変ぶりを簡単に説明した。
芹華はその話に何度も頷いて聞いていた。







「なるほどね……じゃあ、犯人はやっぱりこいつだな」
「原因わかったんですか?」
「ああ、犯人はこいつだよ」


そういって芹華が二人に見せたのは分厚くて古めかしい本。


「これ……あっ、もしかして」
「奈津江ちゃん、もしかしてって?」
「恵が変な本を大倉さんが持って行ったとか言ってたの、もしかしてこれかも」
「ん?知ってるのか?読めないと思うけど見てみるかい?」


芹華は持っていた本を奈津江に渡す。
奈津江はその本を開くとぱらぱらとページをめくる。
詩織は横からその本の中をのぞき見る。


「奈津江ちゃん、わかる?」
「まったく。これ、読めるんですか?」
「まさか、あたしもまったく読めないよ。でもなんだか想像はつく」
「なんですか?」
「たぶん、古い魔道書じゃないかな、魔術とかそういうことをやるための本、たぶん、中世のヨーロッパあたりにつくられたもんじゃないかな」
「これが犯人ってどういうこと?」


もっともな奈津江の質問に対して、芹華は渡した本を自分に返してもらいつつ話を続ける。


「正確にはこれに取り憑いた魔物が犯人だな」
「取り憑いてた?」
「そう、たぶん大昔に誰かに魔力を弱められてこの本に封印されたんだろうな」
「それが彼女に対して何かしたの?」
「たぶん、彼女が相当精神的に衰弱するような出来事があったんだろう。そのときに彼女に取り憑くことに成功したってところ」
「そんなことできるの?」
「こんな本に閉じ込められているぐらいだから普通の状態では絶対に無理、でも精神的に相当弱っているときは別。取り憑くって言っても本の中から近くで操るぐらいのことしかできないと思うけど。家の外とかそこまでは無理だね」
「彼女に何させたの?」
「たぶん、この本に書いてある魔物召喚とか、そういう自分にパワーをつける呪文とかおまじないとかやらせたんだろう。彼女自身は恋のおまじないだと思ってるだろうけど」
「なんでそんなことを?」
「この本から脱出するためだよ。自分で動ける魔力がつけば取り憑くものは必要なくなるわけだね」
「それで脱出に成功して襲い始めたと」


ここで芹華が首を横に振った。


「それは違う。中途半端なところで止まっちゃったんだよ」
「なんで?」
「さあ?でも、聞いた話から推測すると、たぶん彼女の精神状態が元に戻って操れなくなった、というところかな」
「ふ〜ん、じゃあ、さっきの化け物は?」
「焦ったんだろうな、無理矢理人形に取り憑きなおしたんだな。ほら、人形って霊力が入りやすいから取り憑きやすいんだよ。でも、中途半端だから弱い弱い。簡単に倒せた」
「それで?」
「弱った魔物がこの本に戻ろうとしてたから、その前にとどめ刺して消滅させた。今はなんでもないよ」


芹華の事情説明はこれで終わり。
芹華は化け物の話は他言無用であることを念押しして、花桜梨と一緒にバイクで帰っていった。
ちなみに、芹華が弱いと言っていた魔物だが、花桜梨から言われると「芹華さんが強すぎるだけ」とのことだそうだ。







奈津江と詩織は少し荒れた都子の家を整理したあとで病院へ。
ついてみたら二人は驚いた。


「えっ、手術中なの?」
「奈津江ちゃん、大丈夫って言わなかった?」
「私は大丈夫だと思ったんだけど」


血の量は多かったが、傷自体はたいしたことではないからそんなに心配することではないと思ったら、病院ではまだ手術中だった。
どうやらかなりの出血多量の上に血が止まらないようで、さらに頭を殴られたため、治療には慎重になっているようだ。

手術室の前には彼の両親と都子がいた。彼の両親には都子が連絡してくれたようだ。
奈津江と詩織は彼の両親に挨拶がてらの事情説明をしたあとで、長いすに一人中央にうつむいて座っている都子の前に立つ。


「大倉さん」
「あっ、先輩……玲也が、玲也が……」


詩織が声を掛けても、都子は青くなった顔を上げてそう答えるのが精一杯だった。
それをみて二人はお互いの顔を見合わせる。


(まあ、しょうがないわね)
(私たちだって、同じ立場ならこうなるわよ)


二人はこれ以上都子に声を掛けず、都子の両端に座って黙って待っていた。







ガチャ


手術室の扉が開く。
手術着の医師が姿を見せる。
その瞬間に都子がいきなり立ち上がり、医師に向かって猛ダッシュ。
両隣の二人が気づいたときには都子は医師の前に詰め寄っていた。
胸ぐらをつかむぐらいの勢いで顔を近づけて問い詰めている。


「先生!玲也は大丈夫なんですか!?」
「き、君は……」
「先生!教えてください!」
「いや、危ないというわけではないんだが……」
「何ですか?!」
「いや、実は血液が足りなくなって、彼と同じ血液型の人がいれば」
「私、彼と同じO型です!私の血を使ってください、必要ならば全部使ってください!」
「い、いや、全部とは」
「お願いです!玲也を助けてください!」
「わ、わかったから、こちらに……」


終始戸惑った医師は、結局都子以外の人に聞くことなく、都子を手術室の中に入れてしまった。
それを遠くからみていた奈津江はぽつり。


「あんなところまで、詩織そっくりじゃない」


それを聞いた詩織は少し不満そう。


「私、全部なんていわないわよ」
「じゃあ、なんて言うのよ?」
「致死量ぎりぎり」
「そういうのは五十歩百歩って言うの!」


それはともかく、結局、措置はうまくいき、彼は頭部の怪我だけで後遺症もなく、入院の必要もないとのこと。
どうやらこれで、都子とその彼の問題は原因も含めてすべて解決したようだが、奈津江と詩織はなにもわからずじまいで今日を終わらせてしまった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
そういうわけで種明かし。
私にはこんなところしか思い浮かびません。
他のSSではどういう解釈してるんですかね。
(謎、ということで適当に片付けてしまうのも多いような気がしますが)

さて、次には都子に真実を語ってもらいましょうかね。
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