一目見れば誰も忘れられないその容姿

紫のロングヘア

天までとどきそうな超音波ボイス

個性的といえばあまりに個性的なファッション

天真爛漫な笑顔

そして、純粋な瞳




ひびきの高校生 寿 美幸




人は彼女を「ひびきのの幸運の女神」と呼んだ。

 幸運の女神
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主人 公二が寿 美幸と出会ったのは、公二がひびきの高校に入学して間もなくのことであった。

「あ〜あ、退屈だなぁ。何かおもしろいことないかなぁ……あれ、ダンプカーが女の子を!」

キキキキキキーーーーッ!ドンッ!

「はにゃ〜〜〜!」
「おい!大丈夫か!」
「はにゃ〜。だいじょうび〜。だいじょうび〜」
「大丈夫じゃないだろ!は、はやく病院へ!」
「えっ……じゃあお言葉に甘えて〜」

公二が病院へ美幸を連れていって驚いたことがふたつあった。

ひとつは、彼女がまったくの無傷であるということ。
もうひとつは、彼女が車に轢かれるのは日常茶飯事だったということ。
病院の人が「ああ、また来たのね」って言っていたからたぶん間違いない。
 
「ごめんね〜。美幸のために〜」
「き、君、美幸っていうんだ……」
「うん!わたし、寿 美幸っていうんだ。よろしくね〜!」
「あ、ああ……」

公二は、その能天気なぐらいの明るさに戸惑いながらも、何か惹かれるものを感じていた。

公二と美幸はひびきの高校の同級生ということもあり、
それから、公二は美幸と一緒に休みの日に出掛けることが多くなった。
別に恋人としてというわけではない。単なる遊び友達としてである。

しばらくして、公二はあることに気がついた。
美幸と一緒にいると、公二にラッキーなことが起こるようになったのだ。

最初は、適当に出かけた映画館が待ち時間なしで入れた。
何も知らずに入った喫茶店が地元では隠れた名店であった。
本当にささやかなラッキーであった。

しかし、最近ではささやかではなくなっていた。
拾った福引券で一等を当てたこともあった。
動物園に行ったら、通算100万人目の入場者だったりした。
とにかく、ものすごいラッキーな事も起こるようになったのだ。


それと同時に、公二にとっては困ったことが起こっていた。
それは、公二にラッキーなことが起こると、必ず美幸に不幸なことが起こるのだ。

映画館では美幸の前の人が相撲取りで、美幸は映画がよく見えなかった。
隠れた名店の喫茶店では、ウェイトレスがコーヒーを美幸の顔にこぼした。
福引で一等当てた直後には、上空から植木鉢が頭に直撃した。
動物園の100万人目のときは、ゴリラに襲われそうになった。

そのたびに
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
「どうして、美幸ばっかりに……」
「だいじょうぶ〜、美幸は不幸なことに慣れているから〜」
「でも……」
「美幸はねぇ〜。主人君がラッキーな事で喜んでくれればそれで幸せなの〜」
「ありがとう……」
「主人君の不幸は、ぜ〜んぶ美幸が引き受けてあげるからね!」
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

こんな会話になるのだ。
その度に、公二は心を痛めるのだった。

(なんで、俺だけがラッキーなことが起こって、美幸は不幸なことしか起こらないんだ……)
(美幸は、大丈夫とかいっているけど、本当はつらいだろうな……)
(できることなら、俺がなんとかしてあげたい……)


そんな気持ちが次第に恋心に変わっていくのには、それほど時間が掛からなかった。

時は過ぎて元旦、それは美幸の誕生日でもあった。
公二と美幸と正式につきあうようになってから3ケ月たった。

(俺が「美幸、俺とつきあってくれ!」っていったら、「うれしい!美幸、最高にラッキーだよ!」って喜んでたなぁ……)

「ねえ、ぬしりん〜」
「あ、ごめんごめん!ついぼ〜っとしていて」
(ぬしりんっていう変なあだ名も、もう慣れたかな?)

公二と美幸は初詣にひびきの神社に来ていた。
実は神社に着くまでに公二は財布を拾って、美幸が財布を落としていた。
 
「ねえ、ぬしりん。おみくじ引かない?」
「えっ!」

公二は驚いた。
美幸はおみくじ等の運任せのものは嫌いなのか、どうせろくな結果にならないとわかっているのか、一切やろうとしなかったのだ。

「いいの?」
「うん!美幸も好きじゃないけど〜、ママから元旦はここでおみくじを引きなさいっていわれているの〜」
「はあ?」

美幸の言っている意味がわからなかったが、とにかくおみくじをひくことにした。
結果はいうまでもないが、公二が大吉、美幸が大凶だった。

「はにゃ〜。今年も大凶だ〜」
「美幸ちゃん、今年もまた大凶かい?」
「うん。今年も大凶なの〜」
「おじいさん、誰ですか?」
「わしは、ここの神主じゃよ」
「か、神主さん!す、すいません……」
「いいの、いいの」
「ところで、なんで美幸ちゃんの事を?」
「ひびきの神社のおみくじで大凶をひいたのは、ここ10年間で美幸ちゃんしかいないんじゃよ」
「10年間で美幸ちゃんだけ!」
「そんな子の名前はいやでも覚えてしまうものじゃ。それに彼女は……いや、なんでもない」
「美幸ちゃんがどうかしたんですか?」
「いや、なんでもない……忘れてくれ……」
「はにゃ〜?」

公二と美幸は神社を出たあと、街へ出掛けた。
公二は美幸に誕生日プレゼントで猫のぬいぐるみをプレゼントした。
美幸はとても喜んでいた。
公二には住職の言葉が少々気になっていたが、とっても楽しいデートだった。

このころから、美幸の周辺のラッキーぶりと、美幸自身の不幸ぶりは、学校でも評判になってきた。
 
体育祭では、総合優勝を決める最後のリレーで先頭集団が一斉に転倒するというハプニングが起こった。
結果、最後尾を走っていた美幸のクラスがトップでゴールイン、見事逆転優勝したのだ。
その直後、大玉転がしの玉が美幸を襲ったというおまけつきで。
 
美幸はテニス部に所属している。腕はたいしてうまくないらしい。
そのテニス部がインターハイ予選の団体戦で、あとワンポイントで負けるという場面で
相手選手が急に調子が悪くなり、それを契機に大逆転勝利を納めたときもあった。
ただし、その場面から敵味方問わずたくさんのスマッシュボールが控え選手の美幸の顔面を直撃するのだが。
 
また、公二とのデート中に起きた出来事が、美幸が他の人と遊んでいる時でも起こったということで噂になった。
 
「ラッキーな出来事の近くにはいつも寿 美幸がいる。」
 
ひびきの高校内で、そのことに気がつき始めた人が増え出した。
いつしか、彼女は「ひびきのの幸運の女神」と呼ばれるようになった。

しかし、美幸自身に起こる不幸な出来事に目をむける人は少なかった。
あまりに、日常茶飯事だったこともあるが、美幸本人が

「美幸、不幸なことは慣れているからだいじょうぶだよ〜」

というので気にしなかったのが事実だ。
それに、どんな事故でも美幸は無傷だったので、不幸と思わなかった生徒も多かった。

その結果、
「美幸のまわりにはラッキーなことが起こる」
とか、
「美幸にはいつも不幸なことが起こる」
とかいろいろ言われるようになった。
 
しかし、真実は、

「美幸のまわりにラッキーな事が起こった直後に、美幸自身にいつも不幸な事が起こる」

というなのだ
この真実に気がついていたのは、ひびきの高校で公二ぐらいだった。
いや、もうひとりいた。

「あ、主人さん」
「ごめんごめん、待った?」
「いいえ、私もちょうど来たところです」

公二と待ち合わせをしていたのは美幸ではない。
白雪 美帆
突然、妖精さんとお話をするということで敬遠する生徒もいるが、占いの名人としてひびきの高校で人気があった。
そして、美幸とは中学校からの一番の親友でもあった。
公二は、美幸のことで大事な話があるといって、美帆から図書館に誘われたのだ。

「さっそくだけど、美幸のことって?」
「美幸ちゃんの不幸の原因について話そうと思いまして」
「やっぱり、そうか……しかし、なぜ、俺に?」
「美幸ちゃんが私に主人さんの事を話しているときが一番幸せそうでしたから」
「それってどういう意味?」
「美幸ちゃん、本当に主人さんが好きなんだなあって感じるんです……」
「そうなんだ……」
「いつも不幸ばかりの美幸ちゃんに幸せになって欲しい……だから、主人さんには事実を知ってほしかったんです」


「そんなに重大な事実なのか?」
「はい、たぶん美幸ちゃんもこのことは知りません。私も中学のとき美幸ちゃんのお母さんから聞いた話ですから」
「なぜ、美幸に話さずに、白雪さんに話したのだ?」
「これは美幸ちゃん自身ではどうしようもないことなのです」
「えっ?」
「美幸ちゃんのお母さんも藁にもすがる気持ちで、私に話したのだと思います。」

もはや、友達に助けを求めざるおえない程の事情とはなんだろうか。公二は興味と不安を隠しきれなかった。

「わかった、じゃあ、話をきかせてくれないか?」
「はい、これから話すことは誰にも内緒ですよ……」
「もちろんだ。美幸に迷惑は掛けたくない……」
「この話を聞いて精神的ダメージを受けるかも知れません……」
「そんなにすごいのか?」
「はい。私は立ち直るのに3日かかりました……覚悟はいいですね?」

「美幸のためだから………覚悟はできている。」

公二はそれなりに覚悟はできていた。しかし、甘かった。
美幸の秘密は公二の想像以上に衝撃的なものだった。

「寿家って、代々異常な強運の持ち主の一族なのだそうです」
「うん、美幸を見れば納得できる」
「寿家の財産はほとんど運がらみだそうです」
「宝くじとか、競馬とか?」
「ちょっと違います。例えば拾った宝くじが1等だったとか、たまたま堀った穴から石油が出たとかです」
「でも、美幸ちゃんの家って大金持ちに見えないけどどうして?」
「実は、寿家の家訓に『偶然の産物は不幸な人に分けるべし』というのがあるそうです。」
「運任せの財産は困ったひとに寄付しろということなのかな?」
「はい、今でも寿家は慈善団体に寄付しているそうですよ」

「へぇ〜。でも、それが美幸ちゃんと何の関係があるの?」
「ここからが本題です……実は昔、一族の中にその家訓を守らなかった人がいたんだそうです」
「金に目がくらんで、財産を独り占めしたのか?」
「そうです。しかも、村が飢饉で食糧不足のときでも、食べ物を分け与えなかったそうです」
「人間のやることじゃないな……」
「そしてあまりの強欲ぶりに、とうとうひびきの神社の神様の怒りに触れてしまったのです」

「どういうこと?」
「よく聞いてください……神様がこう言ったそうなんです
『おまえの孫のさらに孫の娘に呪いを掛けてやる……一族の持つ運を一切使えなくしてやる』
これは寿家の文献に書いてあるから間違いないそうです」

「まさか、その孫のさらに孫の娘って……」
「美幸ちゃんのことなんです……美幸ちゃんの世代で女の子は美幸ちゃんだけだそうです……」
 
残酷な美幸の運命だった。美幸の不幸は一族への呪いだったのだ。
ひびきの神社の神主が美幸のことを知っていたのは、単に大凶を引くからではない。
神様の呪いが掛かっている娘であることを知っていたからだろう。
美幸の両親が正月に美幸に無理矢理おみくじをひかせるのは、そんな運命をそれとなく知らせるためだったのだろう。
 
「美幸ちゃんへの呪いって……」
「美幸ちゃんにはふたつの呪いがかかっているそうです。
 一つは自分の強運が他人にしか使えないこと。
 もう一つは、他人の不幸を自分が吸い取ってしまうこと……」

公二はいままで美幸に起こっていたことに納得がつく。いや、まだもうひとつ疑問がある。

「美幸は自分で強運がつかえないのに、なぜ交通事故では無傷なんだ?」
「神様は悪魔ではありません。命にかかわる時には強運が使えるようにしてあったのでしょう」
「わかった……これで、すべて納得がいった……でも」
「でも?」
「俺は……いったい、俺はどうしたらいいんだ!」
「相手は神様の呪いです……私にもどうしようもできないのです……」
「ちくしょう……俺は美幸になにもしてあげられないのか……」
「……」

美帆から美幸の運命を聞かされた公二は、その直後ショックで2日寝込んでしまった。

それからしばらくした、ある夏のこと。

美幸に衝撃的な事件が起こった。
美幸が怪我をしたのだ。

いつものように車にはねられたのだが、なんと右腕を骨折してしまったのだ。
ダンプに轢かれても無傷の美幸が怪我をしたというニュースはひびきの高校じゅうにあっというまに広まった。

「おい、美幸、大丈夫か!」
「うん、だいじょうぶ〜。でも今日はちょっと運が悪かったのかな〜」
「そうかもしれないな、そのぶん明日はラッキーな日になるよ」
「そうだね〜。ぬしりん、ありがと〜!」

このときは、公二も単に運が悪かっただけだと思っていた。
ところが、事態はさらに悪くなっていった。
いままで、どんな不幸でも無傷だったのだか、ちょっとした不幸でも美幸にダメージを与えるようになったのだ。
もはや、車にはねられれば大怪我をするし、さらにちょっとしたことでも怪我をするようになった。
この前は壁にちょっとぶつかっただけで、右肩を脱臼したこともあった。

それでも、美幸のまわりのラッキーぶりは何の変化もなかった。

「主人さん!」
「いったいどうしたんだい?」
「美幸ちゃんのことで心配なことがありまして……」

公二は美帆に急な話があると屋上に呼び出されていた。

「美幸がどうかしたのか?」
「最近、美幸ちゃんの様子がおかしいですよね?」
「ああ、確かに美幸の不幸だけが大きくなっているな」
「私、心配で美幸ちゃんの運勢を占ってみたんです」
「でも、運が悪いとしか、結果はでないような気がするが……」
「確かに運が悪いとでたのですが……それに加えて」
「加えて?」

「…………死相が出ているんです…………」

普通の占いなら、冗談ですむが、占いの名人である美帆の占いの結果では、冗談ではすまされない。
公二は自分の顔から血の気が引くのを感じた。

「死相?ちょっと、どういうことだよ!」
「私にもよくわかりません……でも」
「でも?」
「最近思うようになったのですが、人間の運って無限にあるなのでしょうか?」
「そういえば、一生幸運の人って少ないよな……」
「やっぱり、人間の運って、有限なのではないかと思うんです。人間はその運を少しずつ使っていくものだと思うんです。」
「そうかもしれないな……」
「いくら、強運といっても急激に運を使っていけば、なくなってしまうと思うんです。」

「まさか……」
「そのまさかだと思います……もう、美幸ちゃんの運は残り少ないと思います……」
「もし、運を使い果たすと?」
「その時点で美幸ちゃんは死んでしまうかもしれません……」

「う、嘘だ!……そんなの信じられるか!……」
「わ、私だって信じたくありません!……でも、今の美幸ちゃんの様子を見るとそうとしか……」
「俺たちは、ただ見ているしかないのか……ちくしょう……ううっ」
「美幸ちゃん……ううっ」

公二と美帆はその場で泣くしかなかった。美幸の運命に、そして自分たちの非力さに……

その日、公二と美帆は一緒に帰宅することにした。

「……」
「……」

美幸のことを考えると、ふたりとも何も話すことができなかった。
しばらくして横断歩道で別れてそれぞれの道へ歩こうとした瞬間!

グゥォォォーーーーン

「!!!キャーーーーーッ!」

美帆の前方から暴走するダンプカーの姿が見えた。
今から逃げようとしても間に合わない。
ふたりとももうだめだと、覚悟を決めたそのとき

「みほぴょん、あぶない!」

聞き慣れた声を聞いた美帆はその瞬間、道路の端へ突き飛ばされていた。
その直後……

キキキキキキーーーーッ!ドンッ!

「み、みゆきぃぃぃぃぃぃ!」
「みゆきちゃん!」

寿 美幸にはもう強運は残っていなかった……

美幸は救急車で病院へ運ばれた。
美幸は集中治療室で治療を受けていた。

「ご、ごめんなさい……私のせいで……」
「美帆ちゃんのせいじゃない……それに、美幸は大丈夫だ……」

がらっ

手術医が集中治療室から出てきた。

「み、美幸は大丈夫なんですか…………」

しかし、医者の答えはふたりのわずかな希望を木っ端みじんに打ち砕くものであった。

「我々も懸命の治療をしました。しかし、出血や骨折がひどく、助かるかどうかはわかりません……」
「う、うそ……」
「そんな……」
「我々もできるかぎりのことはしました……あとは、彼女の運次第です……」

「運次第」
運を使い果たした今の美幸にとっては、死の宣告と同じであった。
公二と美帆は、集中治療室に飛び込んだ。

「あ、みほぴょんにぬしりん……」
「美幸……」
「美幸ちゃん……」

「もう、お別れだね……」
「馬鹿なことを言うな!」
「そうでしょ!いままで大丈夫だったじゃない!」
「美幸は知ってるよ……美幸にラッキーはもう残ってないって……」
「美幸……」
「だからね、知ってるよ……あと1回ラッキーが起こると美幸死んじゃうって………」
「美幸ちゃん……」

「美幸はね……みほぴょんやぬしりんがラッキーなことで喜んでくれるのが一番幸せだったの」
「だってね……美幸が一番好きな人たちだから……」
「だからね、みほぴょんやぬしりんのために、美幸のラッキーがなくなってもよかった……それが運命だから……」
「でもね、最後ぐらいは、ラッキーじゃなくて自分の力で助けたかったの……それができてよかった……」
「そして、最後にみほぴょんとぬしりんに会えてラッキーだった……」
「だから、もうおしまい……」
「……」
「……」

美幸が美帆を助けたのは、親友として助けただけじゃなかった。
不幸なことで死ぬよりも、自分の意志で死ぬことを選んだのだ。
美幸が人生の最後に、たった一度だけ、自分の忌まわしい運命に抵抗したのだ。
もはや、公二と美帆は何もいうことができなかった。

「美幸は・みほぴょん・と・ぬしりん・に・出会えて・本当・に・し・あ・わ・せ・だ・っ・た・よ……」

そう言って美幸は静かに瞳を閉じた。

「みゆきぃぃぃーーーー!!」
「みゆきちゃぁぁぁぁん!」

天国へ旅立っていった美幸の顔は満面の笑顔だった……

美幸が死んだあと、、公二と美帆の豹変ぶりはまわりの人達を驚かせた。
実は美幸は自分の命を削って、公二と美帆を喜ばせていたという事実がふたりを苦しめたのだろう。


公二は恋人を失ったショックで一週間寝込んだあと、半分鬱状態になっていた。
美帆は自分を助けて死んでいったことにショックと責任を感じ、得意な占いを封印してしまった。

さらにふたりとも運がらみのことを極端に避けるようになったのだ。


それでも、ふたりがお互いを慰め、励まし合っていくようになった。
なんとか立ち直ることができたのは、それから1カ月半後、美幸の四十九日のことである。

その後、辛い境遇を乗り越えたふたりが恋人同士になったのは自然ななりゆきだったのかもしれない。

時はたって、新年、元旦。美幸がこの世から去ってからは初めての美幸の誕生日であった。

公二は去年と同じようにひびきの神社に来ていた。

去年と違うことが2点ある。
ひとつは、ひびきの神社に大勢の人がお参り来ていること。
もうひとつは、公二の隣にいるのが美幸ではなく美帆であるということ。
 
「公二さん、一緒におみくじを引きませんか?」
「ああ……」

あれから、公二も普通の生活を送り、美帆も占いを解禁した。
しかし、いまだに運がらみのことは避けていた。美幸のことが頭にあったからだ。

「私たち、いつまでも美幸ちゃんに頼るわけにはいきません……」
「美帆……」
「これからは、不幸なことはふたりで半分ずつ分担しましょうね……」
「そうだな……あと、ラッキーなことはふたりで半分ずつ分けような」
「はい……」

公二も美帆も心に決めていた。
いままでは、美幸を助けるつもりが、本当は美幸に助けられていたのだ。
これからは、美幸に頼らずに自分の力で幸運をつかんでいきたい。
そして、その幸運を隣にいる愛しい人と分かち合いたい。
そして、今日がその第一歩にしようと。
その記念にと、公二と美帆はおみくじを引いた。

ところが……

「ええっ!」
「ええっ!」

ふたりがおみくじを開いて同時に声を挙げた。

「こ、公二さん……け、結果は………」
「だ、大凶だ……」
「じ、実は、わ、私も大凶なんです……」
「ここ10年間で美幸しか引いたことがない、大凶……」

ふたりの会話に周辺もざわついている。
それもそうだ、過去10年間で美幸しか引いたことがない大凶を、ふたりが同時に引いたのだから。
あまりの異常事態に神主が思わず駆けつけた。

「なにっ!大凶がふたり!しかも美幸ちゃんではなくて……」
「あっ!神主さん!」
「あっ!去年美幸と一緒に来た……」
「はい……その節はどうも……」
「それと、彼女は美幸の友人だっけな……」
「はい、生前、美幸ちゃんには大変お世話になりました……」

神主はふたりの顔を見て、なにかわかったような顔つきをした。

「ふたりの様子だと、ふたりは今つきあっているのか?」
「はい、美幸ちゃんは今でも好きです。でも、今は美帆を愛しています」
「はい、私も公二さんを愛しています」

結婚式の誓いみたいなことを言ってしまい公二と美帆は思わず頬を赤くした。

「そうかそうか。じゃあ、大凶の原因は美幸ちゃんかもしれないな。」
「えっ?」
「美幸ちゃんが?」
「美幸ちゃんが、ふたりに幸せになってほしくて、大吉を引かせようとしたんじゃろ」
「でも、美幸ちゃんが引いたから」
「大凶になってしまったってことですか」
「そういうことじゃ!」
「あははは!」
「美幸ちゃんらしいですね!」

「なあ、ふたりとも……美幸ちゃんのためにもぜひ幸せになってくれ、そうしないと美幸が悲しむから……」
「はい、絶対に美帆を幸せにします」
「ふたりの不幸は美幸ちゃんに頼らず、ふたりで半分ずつ引き受けます」
「そうか……また、美幸ちゃんに会いにきてくれんかのう……」
「はい、来年も、再来年もずっと………」
「だって、かけがえのない友達ですから………」

美幸は今、神社の社の中に眠っている。
美幸の両親が、せめて呪われた娘の魂だけは、ひびきの神社の神様の許しを得て幸せになって欲しいという願いからであった。
神主もそれを快諾した。

それから、ひびきの神社に異変が起きた。
「ひびきの神社にお参りするとラッキーなことが起こる」という評判が広まったのだ。
それも噂ではなく、本当にラッキーなことが起きたという人が続出したためだ。
マスコミにも取り上げられるようになり、ひびきの神社はいまや、観光名所になっていた。
正月でも静かだった1年前とは想像もつかないほどの賑わいぶりだ。
その原因は、社のなかで眠る寿 美幸であるのは明白であった。

しかし、なぜ御利益がでるのかとのマスコミからの質問には、神主が口を固く閉ざしたため、美幸の名が世間に知れ渡ることはなかった。

「なあ、美帆」
「なんですか、公二さん」
「美幸ちゃんって、呪われた女の子ではなくて、本当は幸運の女神なんだって思うんだ……」
「私もそう思います……」
「だって、ひびきの神社の女神様になんだからな……」

「………」

「あれ?」
「美帆、妖精さんでもいたのかい?」
「いいえ、妖精さんと違う声がしたような……」
「ふ〜ん、気のせいじゃないか?」
「そうかもしれませんね……」
 
いいえ、気のせいではありませんよ。
美帆ちゃんは、公二と美帆への姿なき祝福の声を聞いたのですよ。

「みほぴょんとぬしりんの不幸は、ぜ〜んぶ美幸が引き受けてあげるから、ずっと幸せになってね!」



END


後書き 兼 言い訳

これは私の初SSです。

初SSでいきなり暗いお話(汗

このSSの背景でも話しておきます。
話の最後の美幸の台詞ですが、私がとあるSSを読んだときに、印象に残った美幸の台詞です。

それと同時に昔読んだある漫画のストーリーをおもいだしました。
ヤングジャンプの連載していた(まだやっていたっけ?)「Y氏の隣人」という一話読み切り形式漫画です。
知らないひとに説明しますと、「軽めの笑ぅせえるすまん」といった感じの漫画です(こら
そのなかの話に「自分の運を好きなだけ引き出せるようになった男」の話がありました。
途中は忘れましたが、最後は、その男は欲張ったために、自分の持っていた運を使い果たして突然死してしまうというお話でした。

このふたつから思いついたのがこのSSです。

初めてだったので、読み返してみると、いろいろ不満な点がありますが、自分では満足している作品です。


(ちなみに、再公開にあたって少し台詞等を修正しています)


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