ひびきの高校入学式の日のこと


ゴツン!


「あ、あ、ゴメンなさい。私がよそ見してたから・・・。あっ!!


「光か?」


「公二ちゃん!」


これが、伝説の始まりであった。 
フィールドの紅い彗星
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主人 公二と陽ノ下 光は家が隣同士の幼馴染みでご近所ではとても仲良しと評判であった。
ところが、小学校2年のとき公二が家の都合で引っ越してしまった。
あれから7年、公二はまたひびきのに戻ってきた。
そして、ひびきの高校の入学式の日に運命の再開となったのであった。

同じクラスにもなった公二と光は再開を喜び、放課後には離れ離れの7年間の様子を話すようになった。
しかし、光にはなにかひっかかるものがあった。
(公二ちゃん……昔の話をするとき、なんか寂しそうな顔してる……向こうでなにかあったのかな?)

しかし、その理由を聞けるわけもなく、幾日か過ぎた。

入学してから1週間たったある日。
そろそろ部活動を決める時期になってきた。

休み時間や放課後の1年の教室は部活勧誘で賑わっていた。
中学で活躍した人とか、スポーツができそうな人とかには、休み時間に先輩が1年の教室に直々に勧誘にやってくる。

光も例外ではなく、陸上部からの勧誘を受けていた。
中学校でも陸上をやっていたので、高校でも陸上をやろうと思っていた。
(そういえば公二ちゃん……中学の部活について話してくれなかったな……高校では何部に入るのかなぁ?)

ふと思いついて公二の席をみると、公二も3年生から熱心な勧誘を受けていた。
とぎれとぎれに聞こえてくる会話からどうやらサッカー部の勧誘らしい。
しかし、公二は寂しそうな顔をしながら、首を横に振るばかりであった。

「ねえ、光ちゃん」

次の日の放課後、クラスメイトでもあり学校の情報通でもある坂城匠が光に話しかけてきた。

「坂城君、どうしたの?」
「公二のことで何か知ってる?」
「何かって?」
「岬から聞いたんだけど、公二、中学のときサッカー部にいたんだって」

岬は公二達のクラスメイトでサッカー部入部が決まっている。
1年後、彼がひびきの高校サッカー部のエースとなるのだが、それはまた別の話。

「えっ、そうなんだ!」
「えっ、光ちゃん、知らなかったの!」
「うん」
「まあいいか……しかも、あいつU-15日本代表候補にまでなった逸材だったらしいぞ」
(えっ!知らなかった……公二ちゃん、そんなにすごかったんだ)
「でも、3年生のとき大会で怪我をした後、サッカー部をやめたらしいんだ……怪我は治ったみたいだけど……変だろ?」
「うん、変だね」
「岬も公二に聞いてみたんだけど、あいつ何も話さないんだ。いったい何が……」

「頼むから、ほっといてくれよ!」

見ると、今日もサッカー部の熱心な勧誘をうけていた公二が突然立ち上がって、教室から走り去っていった。
光は公二の後を追った。
(公二ちゃん、いったい何があったの?中学のときに何があったの?)

公二の後を追いかける光は、公二の走りをみてあることに気付いた。
光は陸上をやっていたから一目でわかったのだ。
(公二ちゃん、走り方がおかしい……全力で走れないみたい……まさか!)

公二は屋上にいた。公二の目はグラウンドに向けられていた。
その目はとても寂しそうだった。
光は公二の様子をしばらく見た後、おもいきって話しかけることにした。

「公二ちゃん……」
「光……」
「話、全部聞いちゃった……」
「光……今は一人にしてくれないか……」
「公二ちゃん……足に障害があるでしょう……」
「!!!……な、なぜ、それを……」
「私、中学で陸上やってたんだよ……公二ちゃんの走りがおかしいのぐらいわかるよ……」

「そうか……ばれちゃったか……」
「ねえ公二ちゃん、むこうで何があったの?……話したくなければいいけど……でも苦しみを一人で抱えないで!」
「光……」
「私……公二ちゃんの事もっと知りたい!……公二ちゃんのためなら何でもしてあげたい!」
「……」

「だって……7年間公二ちゃんの事、ずっと想い続けてきたから……」

「ごめん、光……」
「……」
「中学の怪我、治ったって聞いたろ……あれ嘘なんだ……実は俺、もうサッカーできない体なんだ」
「!!!」
「右足の骨折だったんだけど……ついでに神経もやられちまって……もう、全力では走れないって医者から言われた」
「……」
「将来を期待さえたのに……くやしくて、情けなくて……だから、怪我は治ったって、嘘の発表をしてもらったんだ」
「……」
「そのままそこで暮らしているのも辛くなって……両親に無理矢理頼んで、ひびきのに引っ越してもらったんだ」

「ごめん、そんな辛いことだったなんて……無理矢理話させてしまって……」
「そんなことない……俺、まわりの人の目が怖かったんだ……期待を裏切ったから冷たい目で見られているような……」
「そんなことないよ……」
「そうだな……そんな考えは間違っていたんだよな……俺にも温かい目で見守ってくれるひとがいたんだからな……」
「……」

「光、心配掛けたな……また、何か新しいことを始める気になったよ……ありがとう」
「公二ちゃん……」

光は公二がなにか吹っ切れたような顔をしているように見えた。

「さっそく、何をしようなぁ……文化系クラブでも入ろうかな、でも生徒会はいやだなぁ……ところで、光はどうするんだ?」
「陸上やってたから、陸上部にでも入ろうかなって」
「そうか……」

公二は再びグラウンドの方を向いた。目の先にはサッカー部の練習風景があった。その目はいまだ寂しそうだった。

「国立競技場で……プレーしたかったなぁ……」

公二はふとつぶやいた。

(公二ちゃん、サッカーにまだ未練があるんだ……なんとかしてあげたいなぁ……私に何かかできることは……)

光はあることを思いついた。

(決めた……公二ちゃんとなら、私にだって……公二ちゃんの夢をかなえられる!)

「ねえ、公二ちゃん」
「なんだ、光」
「サッカーをプレーできなくても、教えることはできるでしょ?」
「ああ、教えることなどわけないさ……光、おまえ、まさか!」

「私、女子サッカー部に入る!……公二ちゃんを国立競技場に連れていく!」

「光、正気か?」
「うん、私、一緒に公二ちゃんの夢をかなえてあげたいの!」
「光……」
「だから、公二ちゃん……私の専属コーチになって」
「光……ありがとう……俺のために」
「そういうわけじゃないよ……ただ、こうすれば、いつも公二ちゃんと一緒だから……」

「わかった……俺の持っているすべてを光に教えるよ!」
「ありがとう、公二ちゃん!」
「よし、持久力をつけるために明日から早朝ランニングをやるぞ!」
「うん、了解了解!」

サッカープレーヤー陽ノ下 光の誕生の瞬間であった。
それからは、公二の指導もあって、光の技術は急成長を遂げていく。

2年後、光を擁するひびきの高校女子サッカー部は国立競技場に立っていた。
光は背番号10を背負い、チームの指令塔として縦横無尽の大活躍。
ついに全国大会の準決勝まで勝ち上がってきたのだ。
 
「俺の夢だった国立競技場……ここに立てるのも光のおかげだよ、ありがとう」

公二は光の専属コーチだったが、その指導力を認められ、高校生ながら女子サッカー部の監督になっていた。

「お礼をいうのは私よ……ここまでこれたのも、公二ちゃんのおかげだから」

いつしか、光は「ひびきのの紅い彗星」と呼ばれるようになり、その名は全国に知れ渡っていた。

「ここに来れただけで、俺は満足だよ」
「もう、そんなこといってぇ〜、せっかくだから勝たなくっちゃ!」
「そうだな、でも無理するなよ!」
「うん、了解了解!」
 
公二と光の夢舞台は今、幕を明けようとしている。




ピピーッ!





END

後書き 兼 言い訳

「Fieldの紅い伝説」の原作というべき短編SSです。
これを書いたあと、いろいろイメージが浮かんできて連載を始めてしまった次第です。

「サッカー部ひかりん」の理由ですが、
実はあるところでひかりんの画像を見つけたのです。
それが「サッカー部ひかりん」の画像だったのです。

普通、光は陸上部しか所属していません(当たり前ですが)
もし、他の部活だったらどうだろう?
そんなことから思いついたSSです。

なかなかどうして、光の魅力がでているのかな?という気がします。


(再公開にあたって、台詞等をすこし修正してあります。)

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