もえぎの高校を卒業してから４年。
俺は４月からもえぎの高校の教師になる。
あの卒業式から４年。
ふたたび俺はここに通うことになった。
もえぎの高校は小高い丘の上に建っている。
丘のふもとには、今は使われていない１本の石畳の坂道がある。
その坂にまつわるひとつの伝説。
『運命のその日、桜の舞い散る中で愛を誓い合った二人は永遠に結ばれる』
俺たち二人は確かにその伝説を成就した。
この坂はそんな二人の始まりの場所。
そしてそんな二人の別れの場所。
俺は今年も卒業式の日にこの場所に立ち、愛する人を待つ。
……芹華……
君は今どこでなにをしているんだい？
ときメモ３芹華レアＥＤＳＳ
Written by Ｂ
俺が神条 芹華と出会ったのは高校入学して間もない頃だった。
お昼休み、ふと屋上に登ってみたら昼寝をしていたのが彼女だった。
彼女は迷惑そうな顔をして立ち去ってしまった。
そんな彼女に俺はなにか不思議な魅力を感じていた。
その後も何回か彼女の姿を見た。
彼女はいつも一人だった。
俺との口調はぶっきらぼうで男っぽかったが、瞳はいつもどこか寂しそうだった。
どことなく不思議な雰囲気をかもちだす芹華
俺はいつの間にか、彼女のことがもっと知りたくなった。
しかし、俺が遊びに誘っても芹華は断った。
それでもめげずに俺は芹華を誘った。
俺の熱心な誘いに諦めたのか、１年の秋に俺に電話番号を教えてくれた。
彼女が遊びの誘いを受けたのはそれからしばらくしてからのことだ。
「最近、お前スポーツで頑張っているみたいだからさ」
芹華はこう言ってくれた。
俺は部活には入っていなかった。
家の都合で夜はバイト生活だったからだ。
それでも家でのトレーニングは欠かしたことがない。
その成果が体育祭は水泳大会で現れたのを芹華は目にしたのだろう。
初めて芹華と遊びに出かけてから親しくなるのには時間がかからなかった。
俺も芹華も考え方がよく似ていた。
騒がしいところが嫌い。
体を動かすことは大好き。
ロックなど音楽が大好き。
逢えば逢うほど、話せば話すほど俺と芹華が似ていることに気が付いた。
２年生のとき、芹華と一緒のクラスになった。
体育祭では二人三脚でペアを組んでくれた。
こういう行事にはほとんど参加しない芹華も照れながら参加してくれた。
結果はダントツの１位。
部活には入ってないけど、運動能力は伊達じゃないからな。
特にボウリングなんか、アベレージ２００の俺も一度も芹華に勝てないぐらいなんだから。
それからも、俺たちは二人で遊びに出かけた。
友達の矢部や白鳥からは「デートだろ？」って突っ込まれたけど、俺たちはそんなつもりはなかった。
お互いに一番の友達という認識だった。
待ち合わせのとき芹華はいつも時間に遅れてやってきた。
芹華は時間を守らない人ではない。急な仕事が入ってしまったからだという。
毎度毎度そんなに忙しい仕事とは何か聞きたかったが、芹華は仕事のことは一切話そうとしなかった。
それでも、いつもすまなそうな顔をしてやってくる芹華の姿をみれば信用せずにはいられなかった。
男らしくて、ぶっきらぼうでクールな芹華。
そんな芹華だが、２年の夏頃から芹華の別の面が俺の心の目には映っていた。
もしかして……芹華は寂しいのでは？
芹華は学校でも友達はほとんどいない。
芹華自身も友達を作ろうとする気力がない。
そんな態度と裏腹に微かに見せる寂しそうな芹華。
動物園の子犬と子猫の施設からなかなか離れなかった芹華。
ペットショップを好んで入る芹華。
そして、公園の親子連れを羨ましそうな顔で見ていた芹華。
普段の強気な姿から見え隠れする弱い一面。
俺はそんな芹華にまた惹かれていった。
そして秋の関西への修学旅行。
クラス行動でも自由行動でも一緒だった。
そして最終日の夜。
俺は芹華に夜景を見ようと誘われた。
それが初めての芹華からの誘いだった。
二人で見た夜景は絶景だった。
「ずっと、一緒に見ていたい気分だよ……」
そういう芹華の表情は今まで見せたことのない柔らかい表情だった。
綺麗だ。
正直にそう思った。
そして気が付いた。
俺は芹華が好きなんだ、と。
その頃から、芹華の様子がおかしくなっていく。
学校には怪我をした状態でやってくる。
顔にはいつも絆創膏が張られるようになった。
理由を聞いても「転んだ」の一点張り。
怪しいとは思うのだが、俺にできることは芹華を信用することしかなかった。
学校でもおかしな事件が起こる。
何者かが体育館の倉庫を荒らしたのだ。
その荒れようは嵐のようだったが、何一つ盗まれていなかったそうだ。
芹華に話をしてみると、驚きながらも興味がなさそうな顔をしていた。
結局その事件は犯人がわからずじまいになった。
３年生になったら芹華とは別々のクラスになってしまった。
それでも俺たちの関係は続く。
体育祭や水泳大会は他のクラスである俺を芹華は応援してくれた。
デートも海や山、プールに水族館。色々な場所に出かけていった。
相変わらず芹華はクールだが、相変わらず寂しそうだった。
そして時は流れてクリスマス。
芹華が自分の家に呼んでくれた。
なんでもクリスマスを二人で過ごしたいから、手料理をご馳走するとのこと。
俺は初めて芹華の家を訪れた。
芹華は一人暮らしだった。
そして芹華が作ったのはすきやき。
「ごちそうと言ったらこれしか思い浮かばなかったからさ……」
芹華らしい。素直にそう思った。
しかし、続く芹華の言葉に俺は大きく心を動かされた。
「両親がいて、私がいる。そんな幸せな食卓なんて何年ぶりなんだろう……」
俺は確信した。
芹華はずっと孤独を強制されられていたんだ。
もしかしたらずっと寂しがってたんだ。
守ってあげたい。
普段はライオンのように気丈だが
本当は小さな子猫のような芹華を守ってあげたい。
俺は思わず芹華を抱きしめたくなった。
しかし俺はしなかった。
そんなことで芹華は救われるのか？
芹華は俺を必要としてくるのか？
俺は芹華の何をわかっているのいうのだ？
そして俺は芹華を守ることができるのか？
Yesとは自答できなかった。
自信がなかった。
そんな俺にできることは、
すきやきを囲んで二人きりの楽しいクリスマスを送ることだけだった。
そして卒業式。
俺は下駄箱に「伝説の坂で待ってます」とだけ書かれた手紙を見つけた。
そして夕方、伝説の坂にやってきた。
桜が舞い散る中、芹華が待っていた。
「ごめん。実はあたし、これからこの町を出て行かなくてはならない。
もしかしたら、もう二度と戻ってこられないかもしれない。
だから、せめてあたしの気持ちだけは知って欲しくて……」
そう言って、芹華は俺に自分の心の内を語ってくれた。
自分には友達なんて作る資格なんてないとずっと思ってきたこと。
最初は自分の事をおせっかいな奴だと思っていたこと。
でも、だんだんと自分の凍り付いた心が溶かされていったということ。
それは俺がずっと側にいてくれたからだということ。
そして最後に芹華は言った。
「愛してる……」
俺も同じ言葉を返した。
俺の言葉に芹華は喜び半分驚き半分の表情を見せる。
「いいのかい？こんなあたしで……」
「あたしにもわからないんだ。これからどうなるのか。どこに行くのか……」
「本当にいいのかい？こんな……あ、あたし……な、なんか……」
「……」
芹華は辛そうな表情を見せた。
想いは通じたのにすぐに別れなくてはいけない。
俺だって同じ気持ちだ。
しかし、俺の気持ちはそんなことでは変わらない。
「芹華、俺は芹華がいいんだよ……」
芹華の表情に笑みがこぼれる。
「知らないよ、あたしを好きになって、これからどうなっても……」
「でもこれだけは誓える。あたしがどこに行こうと、あたしがどうなろうと」
「お前を愛し続けると……」
芹華の目は潤んでいた。
俺はそんな芹華を抱きしめる。
「俺も芹華がどこに行こうと、ずっと芹華を愛し続けるよ……」
そして、俺と芹華は誓いのキスを交わした……
「いつになるかわからないけど、きっと帰ってくるから……」
「ずっと待ってるからな……」
「本当かい？本当にあたしを待ってくれるのかい？」
「約束する。毎年この日に俺はここで帰りを待ってるからな……」
これが俺たちが交わした最後のまともな会話だった。
芹華がどうしてこの町を出て行かなくてはならないのか？
どうして戻ってこられるかわからないのか？
なぜ芹華はひとりぼっちだったのか？
芹華はいったい何者なのか？
俺は最後の最後まで聞かなかった。
聞くべきではないと思った。
たぶん俺にでも言いたくないことなのだろう。
言えることだったら既に言っているはずだから。
俺はそんなことで芹華の心をかき回したくない。
俺に出来ることは芹華の帰りをここで待つことだけ。
帰ってくればきっと芹華は話してくれるだろう。
それまでは俺はじっと芹華の帰りを待つ。
俺は地元の大学に進学した。
大学では真剣に勉強した。
バイトも一生懸命にした。
高３の春、大学でやることと聞かれても答えられなかった。
ただキャンパスでぶらぶらしている自分しか想像できなかった。
そんな目的もなく入った大学で俺は一生懸命にやっている。
なぜか？
それは芹華のため。
芹華がいつ帰ってきても自分一人で迎えられるようになるため。
ひとりぼっちの芹華を守れるようになるため。
クリスマスのときに芹華を抱きしめられなかった自分を変えるため。
目的があればこんなに努力できるんだと自分でも驚くほど努力した。
経済学部だったが、芹華がいつ帰ってきてもいいように教師を目指した。
努力の甲斐もあって、教員免許も取り、もえぎの高校への就職も決まった。
大学では男女問わず友達もたくさんつくった。
自慢じゃないが「つき合って欲しい」と言われたことも何度かあった。
もちろん俺は断った。
「もったいない」と友達から何度言われたかわからない。
でも俺はそれでいいと思ってる。
笑いたければ笑うがいいさ。
そりゃあ、俺は待つことしかできない。
しかし、これが俺のできる精一杯の愛だから。
芹華はいつ帰ってくるのか？
本当に帰ってくるのか？
俺にも自信はない。
これまで３回卒業式の日がやってきた。
俺はそのたびに一日中ここで芹華の帰りを待った。
しかし芹華は帰ってこなかった。
それでも俺は落胆しなかった。
今年帰ってこなければ、来年待てばいい。
来年帰ってこなければ、再来年待てばいい。
愛と命がある限り、俺は毎年卒業式の日に伝説の坂で芹華を待つ。
俺たちには愛があるから。
俺たちは伝説の坂で永遠の愛を誓い合ったのだから。
もう辺りに夕日が差してきた。
今年も芹華は来なかった。
「また来年か……」
俺は諦めて坂道を下る。
坂道は満開の桜が咲いている。
「そういえばあのときもこんな満開だったなぁ……」
道には散った桜が綺麗に舞っている。
「うわぁ！」
突然、強風が吹き荒れる。
桜の花びらが紙吹雪のように舞い散る。
そして桜は静かに舞い落ちる。
そして桜が舞い落ちている視線の先には、おぼろげに人影が見え始める。
「あっ……」
そう、それは４年前の再現。
「芹華……」
二人の時は再び動き出す……
Forever with you.
Go to Girl's side
後書き 兼 言い訳
久しぶりの単発は初のときメモ３ＳＳです。
なんでこんなものをかいたのか？
これは私の実際のプレーが元ネタです。
優紀子、恵美に続いて、芹華をクリアしたのですが、
ここでとんでもないことをしでかしてしまいました。
１．体育倉庫が荒らされたきり、事件が起きてない。
従って、魔物退治のシーンを見ていないため芹華の正体が謎のまま。
２．芹華の進路が「音信不通」
どこがスィートエンドなんだ！
ちっともスィートじゃないだろ！
ということでこのタイトル。
「salted and sweetened」とは辞書では「甘辛な」という意味です。
話を聞いてみるとかな〜りレアなエンディングらしい。
っていうか、どう考えてもあまりに衝撃なラスト。
ＳＳにしないわけにはいかない。
ということで勢いで書きました。
「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものです。（汗
ストーリーの流れは自分の実際のプレーにほぼ準じて書いてます。
ちなみに台詞とか告白台詞とか少し適当です。
それにしても私の書いた中では一番シリアスかも（汗
ちなみにこの芹華エンディングですが、セーブを全然しなかったので、セーブデータが残ってない（T-T）
慎重にセーブをしておけばよかった（涙）
解説：ときメモ３をやったことが無い方へ
女の子とのハッピーエンドのことを、３ではスィートエンドと呼びます。
バッドエンドのことは、３ではビターエンドと呼びます。
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