「先輩、今日はメイと一緒に電脳部へ行くのだ」
「え?」
「今日は先輩に見てもらいたいものがあるのだ」
「見てもらいたいもの?」

彼女より一つ上の学年である青年・西川隆は首をかしげながら彼女の隣を歩いていた。
その時だった。

「おーい!隆!」
「ん?
 あ、ほむらじゃないか」
「なに!?」

隆がほむらの名前を呼ぶと、メイの顔が極端に変わった。

「よう!
 今日暇だろ?
 これから、ゲーセンにでも行かないか?」
「あ〜…」

隆が何か答えようとすると、メイが間に入った。

「先輩はこれからメイと一緒に電脳部に行くのだ。
 野猿には用はないのだ」
「なんだとぉ!伊集院、てめぇ〜」

ほむらが右手の拳を震わせながら、メイを睨んでいた。
メイは隆の腕に寄り添うと、ほむらに向かってアカンベーをしていた。
それを見ていた隆は、本当に由緒正しきお嬢様なのかと思っていた。

「伊集院家は下賎な庶民と付き合わないはずだろ?
 隆はその下賎な庶民だから、付き合うはずないだろ」
「先輩は特別なのだ。
 真の下賎な輩は、貴様なのだ野猿」
「ぬぅあんだとぉ〜〜〜〜〜〜〜」
「先輩、赤井ほむらがメイをいじめるのだ」

まるで、か弱い少女のように隆の体に自分の体を寄せる。
その騒動の原因は呆れながら笑っていた。
その時、3人に近寄ってくる人物がいた。
メイの護衛の三原咲之進である。

「メイ様、ゲームの準備が出来ました」
「ん?そうか?」
「ゲームって?」

隆が尋ねると、メイはニコッと微笑みながら見上げた。

「前に先輩が提案したアイディアをメイが実行したのだ。
 伊集院家の諜報員を散らばせて、ゲームに使えそうな人物を観察したのだ」
「観察って…もしかして、俺も?」
「うむ」

自分を指しながら言うと、メイは力強く頷いた。



「はい。
 あなた様のご注文通りの対戦格闘ゲームが出来上がりました」



咲之進が彼に説明すると、懐から数枚の紙を手渡した。
その中に書かれていたのは、自分を含めこの学校に存在している生徒の名前だった。

…とまあ、そんな感じで今に至る。
それで、なんで二人がこうなったかと言うと。
隆がそのゲームで今までの決着を付ければいいと言ったのである。

それが誰かの耳に入り、電脳部の部室は格ゲー好きの人間がここに集っていた。

「じゃあ、二人ともいいか?
 時間は無制限、どちらかが2本先取した方が勝ちだ。
 ダブルK.Oの場合は引き分けとみなすからな」

隆が説明すると、彼女達はモニターを挟んで席に座った。
ゲームセンターの対戦台のように向かい合った形になる。
二人は同時にコントローラー(ゲームパッド)を持つと、自分の名前が書かれているキャラクターを選んだ。



The Battle in school

Written by 飛燕


それにしても、咲之進め。
メイだけではなく、まさか赤井ほむらのデータ―を入れるとは……。
くくく…。
負けたときのこやつの顔が今から楽しみなのだ。



『ケリをつけようぜ…伊集院』
『貴様の敗北は目に見えているのだ』



スピーカーから、メイと野猿の声が聞こえた。
こ、こんなところまでも収録したのか?



『ラウンドワン、ファイト!』



試合開始の合図が聞こえると、赤井ほむらはメイに向かって突っ込んできた。
猪のように突撃とは、能がないのだ。

「よし、早速先制なのだ」

ジョイパッドを操作すると、メイの動かすキャラは空を飛び、赤井ほむらのキャラの背後に着地した。

「今なのだ!」

ポンポンとリズムよくボタンを押しながら、コマンドを入力する。

「あ!てめぇ!!」

向かい側の方から、野猿の声が聞こえた。



『覚悟はよいか』



セリフと共に画面が暗転すると、メイのキャラは相手に接触した。



『バカなのだ!腰抜けなのだ!!』



セリフと共に無数の攻撃を相手に与えると、両手で相手を突き飛ばした。
赤井ほむらのキャラは2・3歩ほどよろめいた。
メイのキャラは左手で相手を指すと、咲之進のようなキャラが画面外から飛び出してきた。


『そして…服従するのだ!!』


「うおっ!」


『フフフ…』


咲之進の声が聞こえると、画面に「精神的大ダメージ」と表示されると相手の体力ゲージが一気になくなった。
これはすごいのだ。

「のぉああああああああーっ!!」

赤井ほむらのダミ声が聞こえるのだ。
やっぱり、猿なのだ。



『K.O.』



スピーカーから女の声が聞こえた。
よし、メイが先制したのだ!!
グッと拳を握ると、背後にいた咲之進が手を叩いた。
よし、この調子で勝ちを手に入れるのだ。



―ほむらサイドー

「くそぉ…セコイ技を使いやがって……」

あたしは奴の猛攻を喰らって、あっさり負けた。
このままやられるわけにはいかないぞ。
だが、どうやってあいつに勝てるのだろうか?
そんなときだった。
隆が頬づえをかきながら退屈そうな表情をしていた。

「おい!
 何ボーッとしているんだよ!!
 子分は大将に助言しろよ」

すると、隆の口から意外な言葉が返ってきた。

「言うほどじゃないだろう?
 相手の隙を見ればいいんだから……」

相手の隙…。
そう言えば、伊集院は先程から強攻撃しか出していない。
そいつをガードしちまえば、勝てる見込みはある…。

「ありがとよ。
 いいアドバイスだぜ!!」

隆に礼を言うと、第2ラウンドが始まった。



『ドラゴンキーック!!』



先端を当てるように出すと、案の定あいつはガード後に強攻撃を出した。
それが空ぶると、あたしは間合いを詰めて弱攻撃から技を含めたコンビネーションで伊集院に攻撃を仕掛けた。

「な?な?」

ひひ…。
ビビッてやがる、
大振りは命取りなんだぜ。

「いくぜぇ!」

あたしは声を出すと、同じコマンドを入力した。



『こいつで決めるぜ…』



掛け声と共に反転すると、画面が暗転した。

「今なのだ!」

伊集院があたしのキャラに向かって襲い掛かってきた。
引っかかったな!!



『ゴッドドリル!!』



ドリルのような拳を出しながら反転すると、伊集院のキャラは真っ赤になりながら吹っ飛んだ。

「やられたのだぁ……」

伊集院の泣きそうな声が聞こえると同時に、画面には「K.O.」と表示されていた。



俺はマニュアルを見ながら、自分の名前が書かれたキャラクターを見ていた。
へぇ…よく観察しているなぁ。
技表を見ながら俺は一人で感心していた。
特殊技で刀の出し入れ、変身などがかかれていた。

「おいおい…。
 変身するところまで、再現したのかよ……」

呆れながら表を見ていると、対戦台から歓声が上がった。
どうやら、勝負は決したようだな。
顔を上げると、満足げなほむらに対し、メイちゃんは泣きそうな顔をしていた。
どうやら、どちらが勝者かわかった。

「…聞くまでもないが、どっちが勝った?」

俺が尋ねると、メイちゃんはしゃくりあげながら俺の胸に飛び込んできた。

「…悔しいのだぁ〜〜〜」
「よしよし…」

頭を撫でながら、俺はメイちゃんを慰めた。

「約束だぞ。
 隆はあたしとゲーセンに行くんだからな」
「…わかったのだ。
 …悔しいが仕方がないのだ」

本当に悔しそうだな……。
そうだ!



「なあ、二人だけで楽しんでいたけど、俺は遊んでいないぞ」



『え?』



「ほむら、俺と対戦しろ」
「え?お、おい…」

俺はメイちゃんに鞄を預けた。

「先輩?」

メイちゃんは涙を浮かべながら、俺の顔を見ていた。
俺はほむらに見つからないようにメイちゃんに耳打ちした。

『仇は取ってやるからな』

そう言うと、メイちゃんはパッと顔を輝かせた。
ジョイパッドを手に取ると、俺は自分を選んだ。
さあ、ゲームスタート!
森をバックにジーパンに皮ジャン姿の自分を見て、ヒュウと口笛を鳴らした。



『やるしか…ないよな……』



俺の姿をしたキャラクターは、セリフと共に拳を握った。
戦闘前にこんな事を言ったかな?
すると、ほむらは俺を指で指しながらこう言った。



『本気でこいよ!』



…じゃ、全力でいくか。



『ラウンドワン、ファイト!』



掛け声と共にほむらはジャンプをした。
俺は後ろにレバーを2回引くと、バックステップを行った。
そして、おなじみの対空技コマンドを入力する。



『光龍波ぁ!!』



技名と共に、青白い光に包まれながら跳んだ。
ほむらは技にまともに当たり、派手に吹っ飛んだ。
だが、ほむらは地面に当たる寸前に起き上がった。
ダウン回避か。
俺は着地すると、レバーを上に上げた。
すると、ほむらの攻撃が当たる前に空中に跳んだ。
だが、今度はほむらが対空技を放った。



『あまい!』
『ぐはぁ!!』



ほむらの技に当たった俺は地面に倒れた。

「先輩!」

俺の背後からメイちゃんの声が聞こえた。
画面下のパワーストックは二つ。
あと一回だけ、超必が使える。

「あたしの勝ちだ!」

勝利宣言と共にほむらは、メイちゃんを倒した技を使った。
起き上がりと共に当てるつもりだ。
コマンドを入力すると、俺のキャラが起きた。
そして、ほむらが技を放った。



『ゴッドドリル!!』



≪パキーンッ!!≫(効果音)



『これが…』



画面が反転すると、ほむらの攻撃が無効になった。
そして、ほむらに向かって走り出すと乱舞を発動させた。



『俺の力だ!!』



止めの攻撃を加えると同時に俺は追加コマンドを入力した。
すると、俺のキャラが変身しだすと刀を抜いた。



『こいつは…おまけっ!!』



青白く光った刀を一刀両断のごとく振った。
起死回生の一発と言ったところだろう。
ほむら側の体力ゲージを5分の4ほどなくなった。




「ふう…楽しかったぁ」
「卑怯だぜ。
 あんな技を隠し持っているなんて」
「へへ…。
 悔しかったら、俺の技を盗むんだね」

あれから、次のラウンドも俺の圧勝だった。
メイちゃんは満足げな表情をすると同時に、複雑そうな表情をしていた。

「メイちゃん、俺のキャラだけど。
 変身前と変身後で分けた方がいいと思うよ」
「そうか?」
「でないと、ゲームバランスが崩れちゃうよ」
「う、うむ…。
 帰ったらそうするように言っておくのだ」

俺は自販機に寄ると、ジュースを3つ買った。


「ほい、二人とも」
『え?』


二人は驚いた表情をすると、俺が投げた缶ジュースを受け取った。

「俺のおごりだ」
「さ、サンキュー」
「ありがとうなのだ…」
「礼なんていいって。
 すごく楽しかったからな」
「ああ…。
 あんな面白いゲーム、初めてだったぜ」
「そうであろう。
 満足できて、メイも嬉しいのだ」

メイちゃんとほむらが、笑いながらジュースを飲んだ。

「じゃあ、メイちゃんが作ったゲームの真の完成を願って…乾杯!」



『かんぱーい!』


≪カン≫



俺が缶ジュースをさしだすと、二人は俺の缶ジュースに自分の缶ジュースをくっつけた。



―3日後―


「勝負なのだ」
「よぉし、いっちょやるか!」


メイちゃんが俺の教室に来ると、ほむらは腕をまくった。
やれやれ、結構仲がいいじゃないか。
そう思いながら、俺は荷物をまとめた。
ところが…。

「先輩何をしているのだ!」
「え?」
「そうだぞ!
 お前が来なきゃ、話にならないだろ!」
「…なんで俺が?」

二人に尋ねると、メイちゃんとほむらは顔を合わせてニヤリと笑った。

「メイたちの決着をつける前にやる事が出来たのだ」
「は?やる事って?」
「決まっているだろう?」



「打倒、先輩なのだ!!」



メイちゃんは、ビシッと俺を指しながら言った。
やれやれ…。



この後、俺はメイちゃんとほむらと例のゲームで対戦した。
バランスが調整されており、俺のキャラクターが変身前と変身後で分かれていた。
…で、結果は以下のようになる。


















西川隆(変身前使用):10連勝
伊集院メイ&赤井ほむら:10連敗

まだまだ、特訓の価値がある二人だった。


(END)


あとがき

ども、飛燕です。
他方で自分のSSを読んでくれている方はここまで勢力圏を広げるのかと思いかもしれません。
でも、これは一応ご挨拶なんで…。
さて、今回は一部(というより全部)がネタバレのような気がします。
メイちゃんの技のセリフは、赤毛で蒼い炎を出す方のセリフを変えただけです。
…で、ほむらっちは万年留年野郎の技をそのまま使用しました。
そして、彼は変身する主人公です。
言わなくてもわかりますよね?
わからなかったら、「○○の剣士」を遊んでみましょう。
では…

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