第11話目次第13話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
しばらくしたある日の放課後。
都子はまた奈津江と詩織に生徒会室に呼ばれた。


「あ、あのぉ……」
「そんなにびびらなくても大丈夫だから」
「はぁ……」
「詩織、どうみても脅してるんだけど」
「何?聞こえないわよ」


特に用件も言わずに、今度は詩織から「とにかく来なさい」と伝言されて呼ばれた都子はまたおびえている。
パイプ椅子にちょこんと座っておびえている都子の前には詩織が仁王立ち。その隣で奈津江が会議卓の上に腰掛けている。







「さっそく話に入るけど、大倉さん、まだ愛の告白をしてないってどういうことかしら?」


詩織と奈津江が改めて呼んでまで聞きたかったのはこれ。


「早乙女くんに聞いてびっくりしたわよ」
「私も」
「………」

「あれだけの事件があって、あんなことやこんなことがあって、普通その勢いで告白するのが当然よ」
「詩織、それは言い過ぎ」
「………」

「お互い両想いなのはもうわかってるんでしょ?だったらもう告白してもおかしくないと思うんだけど」
「むしろ、告白しないのがおかしいと思うんだけど」
「………」

「大倉さん、なにか不安なことでもあるの?」
「あったって、前に進まなきゃ何もよくならないわよ」
「………」

「彼、女の子から評判がいいみたいね。早くしないと女の子からアプローチされるわよ」
「彼、なぁ〜んにも考えていないみたいだから、デートだと思わずについて行く可能性だってあるわよ。あなたなら察しがつくでしょ?」
「………」

「それに、あなたも結構上級生からアプローチされてるんでしょ?早乙女君から聞いてるわよ」
「早乙女が言うには『1年の3トップの一人は片桐以上にアレだし、もう一人は「やっぱ、日本男児は侍でなぐっちゃ」とか癖がありすぎるから、自然と大倉に集まる』って言ってたわね」
「………」

「デートの誘いを断るのも気まずいんじゃないの?堂々と『彼がいます』って言って断りたいんじゃないの?」
「そのほうが気が楽だと思うんだけどな」
「………」

「大倉さん、いつ告白するの?今でしょ!」
「詩織、一時期しか通用しないフレーズはやめろ」
「………」


詩織が言って奈津江は合いの手ときどきツッコミ、それに対して都子は黙っているだけ。
何か言いたそうだが、もじもじしていて言いにくくしている様子。


「どうしたの?何かあるの?」
「そうよ、何か言いたそうだけど」
「え〜と、いやぁ、そのぉ〜」


ようやく言葉らしきものが口から出てきた都子だが、明らかに返事になっていない。
相変わらず、もじもじチラチラもじもじチラチラとしている。







「あら、大倉さん、どこか見てるようだけど?」
「あ、いや、あの、その」
「ん?何かいるのか?」


都子がチラチラしていることに気づいた詩織と奈津江はその視線の先を見てみる。


「「はぁ〜」」


その先のものを見て二人は同時にため息。


「伝説の樹で告白したいの?」
「………」


顔を真っ赤にして大きくゆっくり頷く都子。


「卒業式まで待つつもりだったの?あと2年以上あるわよ?」
「はい……」

「まあ、伝説の樹での告白にあこがれるのはわからないでもないけど、もうそこまで待てないわよ。万が一とは言うものの、彼の気持ちが変わることだってあるし、もうあきらめて告白しなさい」
「はぁ……」

「伝説の樹は365日24時間営業なのよ。いつ告白しても伝説の樹は祝福してくれるわよ?」
「でも……」

「もう、覚悟決めないとだめ!2年間待つより、その2年間を一緒に暮らした方が何倍もいいよわ」
「………」

「彼と幸せになりたいんでしょ?」
「………」


都子は黙って小さくこくり。
奈津江と詩織は小さくため息をついたところで、優しい口調で都子にアドバイスする。


「まっ、ここで決めろって言われても無理だと思うから、今晩じっくり考えてみたら?今までの彼とのこととか、最近のいろんなこととか、将来どうなりたいのか。決めるのはあなた、あたしたちはあなたの人生に責任はとれないわよ」
「あなたが一歩踏み出さないと何も始まらないわ。もう彼の気持ちもわかってるんだから、怖いものはないはずよ」
「……考えさせてください」
「うん、それがいい。後悔しないようにね」
「がんばってね」
「はい……」


都子はなんかすっきりした表情をみせて立ち上がる。







「あっ、そうだ。大倉さんに大事なアドバイス」


都子が立ち去ろうとしたところで、詩織が都子を止める。


「はい、なんでしょう……?」



「告白して恋人になったら、さっさとセックスしなさい」



「……はい?」


都子の声が少し裏返る。


「セックス。エス、イー、エックス。男と女が裸でずっこんばっこんするアレ」

「……?……??……!!!……えええええっ!」


都子は目の前の女の言っている意味にようやく気づき、素っ頓狂な声をあげる。


「あ、あの、その、それは……」
「幼なじみが恋人になっただけじゃ、なんにも変わらないわよ。だいたい恋人みたいな期間はもうずぅ〜っと続いてたようなものよ。恋人になるんだったら、ちゃんと幼なじみでではなく恋人になるけじめをうけなきゃダメ」

「い、いや、それは、あの、その……」
「幼なじみの関係は一度崩して、男と女の関係にならないと。そうなれば、また幼なじみから一歩進んで本当に恋人になれるってものなの」

「でも、あの、その、いや、あれは……」


まともな答えが返せない都子は奈津江のほうを物乞いをするような目で見つめる。「おまわりさん、目の前の人が変なことを言ってます!助けてくれませんか?」と言いたげな視線。







しかし、都子の願いはあっさりと打ち破られる。


「そんな目で見られても……あたしも告白した晩にロストバージンしちゃったんだよね」


奈津江はお手上げ、というような表情で両手を挙げる。都子はがっくりという表情で頭を垂れる。


「詩織の言うことは大抵ろくでもないけど、これに関してはあたしも同感。まあ、告白した時点でもう普通の幼なじみでなくなっているのは確かだし」
「は、はぁ……」

「普通の恋人ならお互いを知って、それからそういう関係に進むっていうところなんだけど、幼なじみだともうお互いをわかってるからね、その上で恋人になるっていうんだから、もうその先まで見えちゃってるんだよね」
「はい……」

「まっ、そんなこと言われるまでもなくても、告白しちゃえばそれまでのことが頭の中を一気に駆け巡っちゃって、自然とそんな雰囲気になるわよ」
「はぁ……」

「そういうわけで、がんばってね。あっ、誘惑するのはあなたからでいいけど、その後は全部彼にやってもらいないさい。彼に押し倒してもらって、彼に脱がせてもらって、彼から挿れてもらいなさい」
「あっ、それ同感。彼の意思であなたを抱いてもらうのがいいわね」
「は、はい……」

「いいわね!」
「はい」


最後に詩織から念押しされたら都子はただ頷くしかなかった。






「これで問題はないでしょ、詩織」
「うん、これで万事解決」


顔中真っ赤にした状態で立ち去った都子を見送ったあとで、奈津江と詩織はご満悦。


「とにかくよかったよかった」
「いい話だったね」




「いいわけないでしょ!」


ピコッ!
ピコッ!


「痛っ!」
「ちょっと、優!いつの間にそこにいるのよ?!」
「最初からずっといました!」


突然背後から軽く殴られた二人。
振り向くと不機嫌な生徒会長がいわゆるピコピコハンマーを持ったまま腕組みして立っていた。


「まったく、大事な話をするからって、黙って聞いていれば最後のはなんなんですか!」
「優、そんなこと言っても恋愛とセックスは切り離せないものよ?」
「そんなこと何度もお姉ちゃんから聞いてます!」


ピコッ!
ピコッ!


「ちょっと、なんであたしまで殴られなきゃいけないのよ?!」
「先輩も先輩です!お姉ちゃんが調子に乗ると止まらないのわかってるでしょ?!」
「わかってるけど、これに関しては詩織の言う通りよ」
「場所と時間を考えてください!」


ピコッ!
ピコッ!


「授業終わったばかりで、まだ廊下にもたくさん人がいるのに、聞かれたら大倉さんの立場がないでしょ?」
「でも彼女も部活があるから時間がないのよ」
「それだったら電話でしてください!」
「「あっ……」」
「今気がついたんですか!」


ピコッ!
ピコッ!


「優、叩きすぎ!」
「何度も生徒会室貸してて、仕事が滞っているところで、最後があれじゃ叩きたくもなります!」
「そんなに神経質にならなくても」
「先輩たちは無神経すぎます!」


ピコッ!
ピコッ!


「朝日奈先輩からも聞きました!お姉ちゃんは言うまでもないけど、鞠川先輩も学校ではお姉ちゃんの次にエッチだから、話を合わせたら大変だって」
「朝日奈がそんなこと言ってたのか?まあ、否定はできないけど」
「夕子ちゃんの言うとおりね」
「わかってるなら少しは自制してください!」


ピコッ!
ピコッ!


「優、パワハラはよくないわ」
「体罰よ、体罰!」
「お姉ちゃんたちがやってるのはセクハラです!」


こうして、しばらくは生徒会長のお説教が続くこととなる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
これで無事解決なんですかね?
しかし、奈津江が止めなかったら詩織は野放し状態ですね(笑)

次回で終わりです。
特に事件もなくエピローグ的なものになります。
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