陽ノ下 光は幼馴染みの主人 公二の夢を叶えるため、女子サッカー部に入部した。 公二は部活には入らずに、光を育てることに高校生活を掛ける決心をした。
ひびきの高校女子サッカー部は創部されてまもない部活である。 最近になって徐々に実力をつけてきたが、まだ全国大会には出たことがない。 どうしても越えられない壁があるのだ。
チームが全国大会に出るには足りないものがあった。 実力のある指令塔がいないのだ。
公二の中学でのポジションは攻撃的MF。そう、チームの指令塔。 そんなこともあり、公二は光を攻撃的MFとして育てることにした。
とはいうものの、サッカーを全くしたことがない光には、基本的な技術から勉強が必要だった。
部活で教えてはくれるが、その教え方は公二にとってはもの足りなかった。
そこで、二人は夜、中央公園で自主トレをすることにした。
「いちにぃ、いちにぃ……」
「そうだ、いいぞ!」
公二は光に基本的な動作の反復により体で動きを覚えさせようとした。
それに加え、それぞれの動きがどういう意味を持つのかをあらかじめ教えてから練習に入る。
そのため効果は抜群だった。
それに公二の教え方がとても上手かったのだ。
だてに元U-15日本代表候補になっていない。
公二自身は基本的動作を重視していたからこそ、そこまで上り詰めたという自負がある。
光も公二の指導をどんどん吸収していく。
光も中学のときに陸上で都の大会で表彰台に登った実力者。
スタートや走り方等、基本的な動作の重要性はよくわかっている。
幸運なことに、二人の練習方針が一致していたのだ。
そのおかげで、光の技術は急成長を遂げることになる。
「光、お疲れさま」
「は〜。疲れちゃった!」
「しかし、光は凄いな。俺でも半年かかった技術を1カ月でマスターするんだから」
「それは公二くんの教え方が上手いからよ」
「そういってくれると嬉しいな」
「しかし、もう9時か!ごめんな。両親も心配しているだろ?」
「ううん。公二くんなら安心だって」
「そうなんだ」
「二人がよければ朝帰りでもOKだって……」
「な、な、なにを……」
「わ、私だってそんなこといわれて恥ずかしいよ!」
「ま、まあ、それだけ光の両親に信頼されているというか……」
二人は幼馴染みなので、両親もお互いのことは知っている。
だから安心できるのだろう。
ただ、後半のセリフは単なる親のからかいでしかない。
「じゃあ、今日は体を休めて。また明日早朝ランニングな」
「うん……」
「がんばれよ、少しずつ鍛えればいいから……」
「うん……」
技術力では急成長を遂げている光だが、重大な弱点があるのだ。
光には持久力がないのだ。
陸上をやってはいるが、彼女は短距離専門だったのだ。
そのため、一瞬のスピードは一流のものを持っている。
しかし、サッカーは前後半計90分走り続けるだけの持久力が必要である。
光はそんなに長い時間走ったことがないのだ。
従って、毎日早朝ランニングで持久力をつけることにしたのだ。
でもいきなり長時間走ってもバテるだけなので、
時間を少しずつ長くしていくことにした。
最初は10分でバテたが、今では25分まで持つようになった。
しかし試合で動くにはまだまだである。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
「ほら!しっかり!呼吸を整えて……」
「はぁ、はぁ……もうダメ……」
「そうか……じゃあ、今日はこれで終わりだな……」
「はぁ……」
「30分か……まあこんなものか……」
「公二君……まだ走る……」
「駄目だ……今日は終わり!学校もあるから授業に影響したら大変だろ」
「でも、このままじゃ、いつまでたっても力がつかない……」
「光……」
「無理でもいい……倒れてもいい、90分走らせて!」
「………」
「私、早く試合に出たい!勝ちたい!公二君の夢を叶えてあげたい!」
「駄目だ!休め!」
「なんで!」
「俺の夢のためなら……なおさら休んでくれ」
「公二君……」
「光には無茶はして欲しくない……焦って欲しくない」
「………」
「光にはただ勝つためだけにサッカーをして欲しくない」
「えっ?」
「やるからには、サッカーを好きになって欲しい。楽しんで欲しい。遊んで欲しい」
「好きになる。楽しむ。遊ぶ……」
「勝つためだけのサッカーならやらないほうがいい。いや、やって欲しくない」
「………」
「光に俺の二の舞いは踏ませたくないから……」
「えっ?」
「俺はあのとき、勝つことしか考えてなかった。自分の事など考えていなかった……」
「公二君……」
「その結果……この通りさ。だから、光には無茶はして欲しくない」
「………」
「勝つことも大切だが、自分の体も大切にして欲しい」
「ごめん……私、なにか間違っていたかもしれない」
「光……」
「私、焦っていたかもしれない。公二君への気持ちが空回りしていたかも」
「うん」
「そうだよね、サッカーを楽しまなきゃいけないよね」
「そうだ、サッカーを楽しもうよ、サッカーで遊ぼうよ」
「うん……」
「じゃあ、帰るか……」
「じゃあ、また学校でね!」
「ああ!」
それ以来、光の練習の表情に焦りは無くなった。
少しずつ確実に身につけていくようにしたのだ。
焦りがなくなったせいか、かえって光の上達のスピードが早くなっていった。
まだ、持久力はまだないが短期間であれだけつけばいいほうだろう。
しかし、公二には光に対して不安があった。それは……
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
光ちゃんはサッカーは素人です。だから誰かの上手な指導が必要です。
今回はそんなシーンを書いてみました。
だからたいした内容ではありません。ごめんなさいm(_ _)m
ところで、高校女子って試合時間何分でしょう?
本当はよくわかりませんが、この話では80分にしてあります。
次回は光の初試合です。