第29話目次第31話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ひびきの高校に合宿があるようにきらめき高校にも合宿がある。
こちらも1週間の夏合宿が用意されている。
実際は日曜の午後に校内の合宿所に行って、土曜の午前に帰るので実際は5日間とも言える。
練習はつらいが楽しい合宿でもある。

そのための準備もまた楽しいものになっている。

たとえばこの家では……

「よし、これで完璧ね!」

マネージャー兼GKの虹野沙希は一冊のノートをみてガッツポーズをしていた。

「これで1週間の献立はOK!う〜ん、気合いが入るなぁ」

どうやら合宿でのメニューの最終チェックをしていたようだ。
大体のメニューは事前に決めていて合宿所にも連絡してあるのだが、細かいところは直前まで思案していたのだ。

「私の料理でみんなが頑張る!マネージャーとして最高よね♪」

目をつぶってうっとりとする沙希。
どうやらみんなが喜んでいる姿を想像したらしい。

「そうそう、自分も頑張らないとね♪」

去年はマネージャーだけだったのだが、今は選手でもある。
生まれて初めて経験する選手としての合宿。
沙希はワクワクしていた。

「ああっ!メニューを考えてて明日からの準備してない!」

ただ彼女の場合はワクワクしすぎかもしれない。



ここの家では……

ピロリロピロリロリロピロリン!

「もしもし、秋穂ですけど」
「みのりちゃん?私だけど」
「あっ、優美!いったいどうしたの?」
「いや、準備が終わったかな?って」
「いやぁ、マネージャー用と選手用の荷物があって結構大変よ」

電話の二人は同じ1年生。
MFの早乙女優美とマネージャー兼DFの秋穂みのりである。

「合宿って初めてだからワクワクするよね」
「練習が厳しいって聞いてたけど、それでも楽しみなんだよね」
「明日から頑張ろう!」
「もちろん!」

どちらも初めての合宿ということで楽しみにしているようだ。

「ところで、みのりちゃんって虹野先輩と同部屋なんだって?」
「うん、マネージャーってことで配慮してくれたみたい」

合宿所の部屋は全て2人部屋。
普通は同じ学年なのだが、マネージャーの二人は違う学年だけど相部屋になった。
もちろん、2年と1年の人数が奇数人数しかいなかったこともあるのだが。

「でもみのりちゃんとだと虹野先輩が心配だなぁ」
「ちょっと!それどういう意味よ!」
「そのまんまだよ。虹野先輩、みのりちゃんに襲われないかなぁって」
「な、なんでそんなこと私がするのよ!」
「いやあ、みのりちゃんだったらやりかねないかなぁって」
「そ、そんなこと……」
「みのりちゃん、襲いたくても我慢するんだよ」
「こらぁ!」

こんなどうでもいいような楽しい会話はしばらく続いている。
本当に合宿が楽しみなのだろう。



一方この家では……

ピロピロピロ!

「もしもし」
「あっ公人?私だけど」
「あっ詩織か……どうしたんだ?」
「いや……なんとなくね……」

きらめきのFW藤崎詩織が電話している相手は隣の家。
しかもいまいる自分の部屋のすぐ窓向かいの部屋にいる幼馴染みの高見公人だ。
彼も男子サッカー部のFWでエースストライカーである。
女子と同じ場所ではないが男子も同じ期間に合宿を行う。

ちなみにお互いに携帯電話での会話だ。

「どう?合宿の準備はできた?」
「ええ、準備万端よ」
「1週間かぁ……長いけど頑張ろうな」
「うん。でも1週間かぁ……寂しいなぁ……」
「えっ?」
「ねぇ、今からそっちに行っていい?」
「俺はいいけど、だってこんな遅くに大丈夫か?」
「大丈夫よ。今から行くから」
「えっ?」

詩織はおもむろに部屋の窓を開ける。
そして手を伸ばして隣の家の窓も開けてしまう。


「とおっ!」
「うわぁ!」


詩織は70cmぐらいはある家の隣の部屋に飛び込んだ。
慣れてはいるものの、いきなりだったので公人がおどろくのも無理はない。

「鍵が開いていてよかった♪」
「あのなぁ、危ないからやめろって何度言ったらわかるんだ?」
「だって寂しいんだもん♪」
「……」

ニコニコ顔の詩織に対して、半ばあきれ顔の公人
結局それから二人はそのまま明日からの合宿の話で盛り上がったそうだ。
ちなみに、詩織がいつ自分の部屋に帰ったかは不明である。



またある場所では……

きらめきのキャプテンのMFの鞠川奈津江はとある部屋で明日の準備をしていた。

「よし、これでOKっと!」
「あのなぁ、奈津江。なんで俺の部屋で準備するんだ?」
「いいじゃない!ここが自分とこより学校に近いからさ。明日の朝は早いのよ」
「だからって……」
「それにアンタの食事1週間分も用意してたから、これから家に帰ったら間に合わないわよ!」
「う〜む……確かにもう11時か……」

奈津江のいる場所は幼馴染みである芹沢勝馬の住んでいるアパートである。
勝馬は両親を幼い頃に亡くしている。それもあって一人暮らし。
それ以来、奈津江は毎日朝は勝馬の家に起こしに行き、夜は晩御飯を作りにまた家に行く。

学校では「通い妻」とささやかれているが、奈津江はまったく気にしていない。

「おい、ちょっと待て『自分とこより学校に近い』って、どういうことだ?」
「勝馬?」
「はい?」


「泊めてくれるよね?」


「おっ、おい!奈津江、本気かよ!」
「本気よ。勝馬が嫌って言っても泊まるからね!」

奈津江の大胆な言葉に普段はクールな勝馬もあわてふためく。
そんな勝馬を見つめる奈津江の目は真剣だ。

「奈津江、俺だって男だぞ」
「わかってるわよ。わかってていってるのよ」
「なぁ、それって……」
「女の子に言わせないでよ。それ以上聞いたら蹴るわよ」
「わかったよ……」

こうして、奈津江は勝馬の部屋に泊まることになった。
どうやら奈津江は合宿準備と称してこうなることを狙ってたらしい。



そしてはたまたこの家では……

「一、二、三、四……」

FWの久遠寺京はもう既に合宿の準備を終えて、毎日の習慣である剣道の竹刀の素振りをしていた。
剣道は小学校のときにしか本格的にやってないが、腕力と集中力を鍛えるために毎日している。
さすがに自分の部屋の中では竹刀は振れないので、自分の家の前の道路で素振りをしている。

「明日からも気合い入れて頑張らないとな……」

京は合宿といえども普段通りのことをするだけと思ってる。
それだけ普段の練習も真剣でやっていることを意味している。

ちなみにチームで一番練習に真剣なのは京である。
おなじFW詩織が天才肌なのに対して、京は努力家なのである。

「おねぇちゃ〜ん、お風呂開いたよ〜!」
「ああ、今行くよ!」

家の中から妹の美奈から呼び声が聞こえてきた
京は部屋に戻り、タオルなど必要なものを持ち再び部屋をでる。

扉を開けるとと美奈がパジャマ姿で立っていた。

「お姉ちゃん。また竹刀振ってたの?」
「まあ、毎日の習慣だからな」
「お姉ちゃんも竹刀振ってばっかじゃなくて、彼氏でも作ったら?」
「なっ、なにを言うんだ!」
「お姉ちゃん、昔から男っ気ないからねぇ」
「余計なお世話だ」
「お姉ちゃんもいい年なんだから。どうなの?いい男は部活にいないの?」
「うるさい!」

この姉妹喧嘩?はしばらく続くことになる。



そしてここでは……

トゥルルルトゥルルル

「もしもし」
「あっ公二?清川だけど」
「ああ、望か。明日から合宿なんだよな」
「うん、でもそっちもだろ?」
「まあな、俺、なんかワクワクして眠くならないんだよ」
「小学校の遠足じゃないんだからさぁ」
「そこまでいうか……まあ、俺もそう思うけど」
「あははは!自分で言っちゃえば早いな」

相変わらずのフランクな会話。
こんな公二と望の長電話の回数はもう数え切れないぐらいだ。

「合宿中にチームをいい具合にまとめたいよな
「へぇ、公二だったら大丈夫だよ」
「合宿中は集中して仕上げるつもりだよ」
「頑張ってね、公二」
「ありがとう、望も頑張って」
「ありがとう、公二」
「それじゃあ、また来週な」
「うん、また来週……」



公二の電話が切れたのを確認すると望は電話を切った。
夜も遅いので布団に潜る。

「ふぅ……」

望はおおきくため息をつく。

「はぁ……いつからこんなになっちゃったんだろう」

最近、公二の電話を切った後、なんかちょっと悲しくなってしまう。

公二の電話は楽しくてしょうがない。
でも切った後、なんとも言えない寂しさが望の心の中を支配していた。

「公二……会いたいよぅ……」

「来週のデートが待てないよぉ……」

「公二……」

いつの間にか望の枕は涙で濡れていた。
そしていつの間にか望は眠ってしまった。


それぞれが、それぞれの思いを抱えて、次の日に学校内の合宿所に集合するのであった。
いよいよ、合宿が始まる。
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後書き 兼 言い訳
ようやく夏合宿までたどり着きそうです(汗

今回は夏合宿前のきら高の女の子のそれぞれの立場みたいなのをまとめた感じですね。

いつの間にか、詩織と奈津江の恋愛が結構進んじゃってますが、
まあそこは夏に色々あったということで(笑

次回はようやく夏合宿。
もちろんひびきのサイドです。