第81話目次第83話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「すみません。うちの清川が……」

「いや、望の気持ちはわかります。悪いのは俺なんです。だから、望を怒らないでください。望には俺から話しますので」

「はぁ……わかりました。言わないでおきますよ」

「本当にすみません。試合を台無しにしちゃって……」

「いやいや、いい試合でしたよ。うちのチームとの差も縮まってきた感じで、こちらもうかうかできませんよ」

「そういって頂ければうれしいのですが……」

「まあ、気にしないで、お互い秋の選手権をがんばりましょう」

「はい……」


きらめき高校の職員室。
騒動の中で終わってしまった試合について公二がきらめきの監督に謝っていたところ。公二は予想外に暖かい周りの視線とは違い、一カ所から鋭い冷たい視線が自分の体に突き刺さっているのを感じた。
公二は職員室から出ると、その冷たい視線の主がユニフォーム姿のまま立っていた。


「………」

「望、聞きたいことはわかる。でも、今は時間がない。来週会って話す」

「………」

「わかったな」


望は黙って頷き、そのまま立ち去ってしまった。






公二が帰りのバスにのると部員は全員すでに乗り込んでいた。バスが走り出しながら、公二は簡単に今日の試合の総括を始めた。もちろん、バスの中なので詳しい話はできないが、今日はこのまま解散なので、今しないと行けない。


「え〜と、今日は攻めや守備が十分きらめき相手でも通用することがわかった。でも、まだまだ差があることは確かだ。個人的能力差はすぐに埋まるものじゃない。秋の大会も近い。やはり僕たちはチーム戦術の完成に……」


公二はそう話していながらも、頭の半分ではバスの全体を見回していた。


花桜梨はタオルを頭から被ってうずくまっている。何か震えているように見える。隣で美幸が心配そうに見ているが、あまりの様子で何もできないようだ。


(花桜梨は絶対に何かあったな……明日事情を聞いてみるか……)


そして光はあのシュートを打ってからずっと呆然としていた。視線が前を漠然と見ているようで、今の公二の話も聞いているのかよくわからない。


(光はどうしたんだ?そんなに衝撃的だったのか?……はぁ、こりゃ大変だ……)


この試合で一番変化した2人。この2人のケアがこれからの課題だと公二は直感していた。そしてそれが非常に大変なものになりそうなことも感じていた。






バスが高校の校門に到着。部員一同で部の荷物を部室に片づける。片づけ終わり、今日のところは解散となる。部員はみんな家に帰っている。さすがに自主連をする人もいない。
しかし、公二は一人残っていた。荷物の片づけ具合をマネージャーに確認したり、総監督と今後の話をしたり、監督としての仕事が残っていたからだ。


「はぁ……時間掛かったよ……こういう仕事はまだ慣れないよな、まったく……あれ?」


結局、自分の仕事が終わったのは夕方の6時過ぎ。空も暗くなってきており、急いで家に帰ろうとしたとき、部室に明かりが付いているのが見えた。


「あれ?まだ誰かいるのか?それとも消し忘れか?」


公二はグラウンド脇の部室に行き、扉の前に立つ、どうも人がいる気配がする。女子部室なので入るわけにもいかないので、ノックする。


コンコン!


「お〜い、誰かいるのか?もう帰れよ」

「あっ?……公二?」

「ん?その声は光か?他にいるのか?」

「いないよ」

「入っていいか?」

「うん……」


公二は扉を開ける。すると光が一人でベンチに座って青ざめている姿があった。ぼぉ〜っとしているのは消えているが、視線が合わない状態でなにか微妙に震えているようにも見えた。
公二は光の横に座る。


「ねぇ、公二……」

「なんだ?」

「望ちゃんが前に『あのシュートは魔物だ』って言ってたけど……どうしよう、取り憑かれちゃったかも……」

「えっ?」

「あのシュートを打ったとき……すごく気持ちよかった……なんか体全体がすぅ〜っとするような……」

「………」

「どうしよう……また、打ってみたくなっちゃった……こわい……」

「………」


公二は横から光の肩を抱き、自分のところに引き寄せる。


「大丈夫だ。俺はできなかったが、光なら克服できる。俺がいるから大丈夫だ」

「……ありがとう……」


公二の一言で光はようやく安心した表情を見せた。






「公二、お願いがあるんだけど……」


夜7時過ぎ、公二と光は家路についていた。家の方向はほとんど同じなので、一緒に歩いている。光は公二に肩を抱かれたまま。光が公二に頼んだからだ。そして、もう2つ3つ曲がり角を曲がれば公二の家、と言うところで光がそっとつぶやいた。


「なんだ?」

「今晩……公二の家に泊めて欲しい……」

「えっ」

「このまま一人になりたくないの、怖いの……だからお願い……何もするわけじゃないから……」

「………」


いきなりのお願いに驚いた公二だが、光を見ると何かに怯えているように見てた。
公二は光の肩から手を外し、光の前に立つ。


「わかったよ……家には電話しておけよ」

「うん!」

「あと……今日は両親いないからな」

「えっ?」

「母さんの実家に出かけて1週間ぐらいいないんだよ。それでもいいか?」

「……うん」


光は顔を真っ赤にして頷いた。






2人は今度は少し横に少しだけ間を置いて公二の家に向かっていた。


「でも公二の家に行くのは初めてだね。昔は隣だったのに」

「まあ、仕方ないだろ。それでも近い方だと思うよ」

「そうだよね……あれ?玄関に誰かいるよ?」


もう公二の家は目の前。そこに誰かがいた、壁に寄りかかってじっとなにか待っているように見えた。
2人が近寄ってみると、ジャージ姿の女の子が立っていた。


「望!」

「来ちゃった……来週なんて待てない……今晩話を聞かせて欲しい……」

「………」

「いいよね?」


望の力強い視線に公二は拒否することができなかった。


(はぁ……まあ、光と2人きりよりはマシか……あははは)


公二は焦っている反面、すこしほっとしている自分に少し呆れてしまっていた。
どうやら今晩は寝られそうもないようだ。
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後書き 兼 言い訳
またまた半年ぶりです。

さてさて、なんか話が広げすぎたようなそうでないような……でも、少しずつ書いていきたいと思います。
やれやれ今年は2話以上書けるだろうか(ぉぃぉぃ
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