Fieldの紅い伝説
81st Game「ついに抜かれた悪魔の剣〜交流戦2〜後半6〜」
Written by B
ひびきののフリーキック。
ほむらがセンターサークル付近からボールを蹴った。
力強く蹴られたボールはゴール前へと高く高く上がってくる。
それをみた光はなぜかゴールとは反対の方向、自陣に向かってに走り始めた。
「馬鹿!なんでゴールまでで勝負しない!……あっ……」
キッカーのほむらはそこから光の行動に起こったが同時に冷静にその動きを見ていた。
光はボールを拾おうとする集団から15mほど離れ、その動きを見つめていた。
光の構えはすぐに走り出せるように低く構えている。いわばクラウチングスタートに近い。
「あいつ、こぼれ球を……ああっ!」
ほむらは光の意図が頭にひらめいた。それはほむらの顔から血の気が引いていく。
「まずい!あいつは絶対にやるつもりだ!」
ほむらは猛ダッシュでゴール前に向かう。
「おまえらぁ!ボールを陽ノ下の前に落とすなぁ!」
声は届くが、距離はかなり遠い、混戦に入ることは無理そうだ。
このほむらの警告だが、騒がしさに最後のところまで伝わらなかった。
単に前線の選手が光がフリーで後ろで待っていることに気付せてしまっただけなのだ。
((チャンス!!!))
ほむらの警告はまったく耳に入らず、逆に光の前に落とそうと狙いを変える。
ジャンプして狙いをゴールと反対方向に定める。
落ちてきたボールは、1年生のFWがなんとか頭に当てた。
相手と同じ方向にボールを運ぶことを狙っているため、簡単にボールは光の前に落ちる。
ボールは転々と光の前へと転がっていく。
それと同時に光は一気にフルスピードで走り始める。そして真正面から忌々しいセンターバックが向かってくる。その彼女は光をみてニヤリと笑いながら一言。
「はぁ〜い♪」
ブチッ
光の頭でさらに鈍い音がした。
「あんたなんか……あんたなんか……」
ボールは光の足下に転がる。
光はすでに足を限界以上に後ろにそらしている。
「絶対に許さない!」
シューー……………………………………………………ーーーッン!
グラウンドに流星が生まれた。
「うごぉぉぉ……」
その流星は目の前のセンターバックの腹に直撃し、彼女をはじき飛ばしてしまう。しかし、ボールの勢いは止まらず、そのままゴールめがけて一直線。
他の選手達はまったく動けない。そしてボールはゴール中央に突き刺さる。
グラウンド一体に沈黙が走る。選手もいっさい動かない。時間が止まったかのように完全にすべてが止まってしまっていた。
ピピーッ!
ついに2−2の同点になった。
そのことを告げる笛の音が響き渡っても選手達はまだ呆然としている。
「あっ……」
そんな停止状態からまっさきに開放されたのは望だった。
「あれは……」
望のまぶたの裏に、さっきの光のシュートがはっきりと焼き付いている。
「うそだろ……」
自分の体が震えだした。自分でもわかっているが止められそうにもないのがわかってる。そしてこの震えがなぜおこっているのかも。
「あのやろう……」
震える体を押さえながらもゆっくりと、その震えの原因に向かって歩き出していた。
「すごい……」
思考停止状態のグラウンド。その原因である光も動けなかった。
「すごすぎる……こんなにすごいなんて……」
練習では何度も打っているシュートだが実戦では初めて。それだけに試合で使う衝撃も強かった。
「どうしよう……このゾクゾク感……たまらない……」
そのショックに光は心地よささえ感じてしまっている。
それは、目の前に顔を真っ赤にした望がいることにまったく気づいていないほど。
バギッ!
グラウンドの思考停止が解除される音。それは望が光の頬をおもいきり殴りつけた音だった。
望は倒れた光を無理矢理立ち上がらせるとユニフォームの胸ぐらを掴んで振りだす。
「てめぇ、なんであのシュートを打った!?あれは公二がどうしても、どうしても点が欲しかったときに使ってたんだ!それをこんな試合に使いやがって!それにあれは人を傷つけるもんじゃない!公二が右足をボロボロにしてまで作ったあれを……あれを……なんで打ったんだ!」
「ちょ、ちょっと……」
「どうもこうもじゃない!」
望の顔は真っ赤で怒っていた。怒りにまかせて望を鋭く睨み付けている。
「の、望!落ち着いて!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
望はもう止められない。光はそう感じた。
「おい、望!やめろ!」
「そうよ!まだ試合中よ!」
「陽ノ下もいい加減に離れたらどうだ?そうしないと止められねぇぞ」
すぐに他の選手達が集まってきた。完全に自分を失っている望と怯えてしまいまったく動けない光を離す。
しかし望はなおも暴れようし、光はまったく動けない。
次第にグラウンドの半分以上の選手が望と光のところに集まってしまっていた。
審判も収拾つけようとするが、なかなか落ち着きを取り戻さない。
そんな中で、ひびきののキャプテンのほむらと、きらめきのキャプテンの鞠川が話し合ってた。
「ねぇ、うちの望がなんであんなことになったかわかる?」
「決まってるだろ?さっきのシュートだよ」
「そんなことわかってるわよ。あれに望が異常な反応を起こすかってこと」
「うすうす気づいているだろ?うちの監督と関係がありそうだって」
「なんとなくね」
「簡単だよ。あのシュートは元々うちの監督のだ」
「えっ?そうなの?」
「ああ、大サービスで教えてやる。だから、あいつがああなるのもわかるだろ?それ以上はあたしもよくわからない」
「ありがとう、よくわかった」
ようやく望も光も落ち着いたようだが、今度は他の選手達がなんか騒がしい。あまりに騒がしくしたために自分たちでもどう収拾つけようかわからなくなっているようだ。
「で、試合どうする?」
「残り時間どのぐらいだ?」
「あと10分あるけど……」
「やめちまうか?」
「えっ?」
ほむらの提案に鞠川は口をあんぐり。
「今から再開しても試合になんねぇよ。どうせあいつは退場だろ?それに陽ノ下もあんな状態でベストパフォーマンスは無理だ。それにこんな騒動の後でいいサッカーなんてできるわけねぇよ」
「う〜ん……」
「そんなの意味ねぇ。こんな状態で勝ってもうれしくねぇし。ちょうど引き分けだし。おもいきってみるのもいいと思うぜ」
「……ちょっと監督と相談してみる」
「ああ、おれも主人に話してみるよ」
両キャプテンはベンチにいるそれぞれの監督のところに走っていく。そして、それぞれに先程の2人の話し合いの結果を報告する。
2人とも仕方がない、という顔つきをして話を聞いている。そして結論をそれぞれ告げる。
両キャプテンはまたグラウンドに戻る。
「どうだった?」
「『こんな状態ではな……』だって。仕方ないって感じ。そっちは?」
「『あとで謝らないと……』だってさ。まあ後でうちからそっちの監督に謝りに行くらしい」
「えっ?なんで?殴ったのはこっちだよ」
「だから、さっき言ったろ?元をただせばうちの監督だ。だからだよ」
「複雑ね」
「ああ、しょうがねぇ。3人の話は複雑だ……しかしお互いに大変だな」
「そうね。これからもお互い大変そうね」
「まあな。あははは」
お互い苦笑い。
こうして残り時間があるにもかかわらず、試合終了が決まった。スコアは2−2のドロー。得点シーンや両チームの攻防は見所があり、見ている方はおもしろかったはずだが、最後が不可解な終わり方をしてしまったのが残念な試合だった。
しかし、この試合は後々に尾を引きそうな出来事が多すぎた。
選手達にとっては気まずさと中途半端さだけが強く残ってしまった、あまりいい試合ではなかったことは確かだ。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
なんとびっくり1年ぶりです。
もうここまでくると、放り投げても誰も怒らないだろう、と思ってしまうのですが、せっかく書いたし頻繁でなくても少しずつ書いていこうという気になりました。
もう自分でも内容を忘れそうなのですが(苦笑)
まあ、ようやく試合が終わって次の段階にすすむ準備ができそうです。