目次第2話
ここに小学2年生の少年少女がいる
主人 公二と陽ノ下 光
どこにでもいる普通の男の子と女の子
これから語られるのはそんな二人が振り広げる、普通じゃない物語である

太陽の恵み、光の恵

第0部 プロローグ その1

Written by B
主人 公二と陽ノ下 光は家が隣の小学2年生。記憶がある前から一緒にいた幼馴染みである。
昔から一緒によく遊んだ。よくケンカもした。
例えばある日のこと。


「なにしてあそぶの?」

「じゃあ、すなあそびしよう!」


公園で仲良く砂遊びをする二人。今日は大きな砂山を作ろうとしているらしい。二人仲良く砂山を作っているが……


「あっ、光ちゃん!だめだよ!そんなところに穴あけちゃ!」

「こっちからのほうが近道なんだよぉ!」


今日もまた何か口論になっている。どうやらトンネルを開ける場所でもめているらしい。


「それじゃくずれちゃうよ!やめろってば!」

「だいじょうぶだってば!」


光は意地っ張りなところがある。しかし、意地を張ってよかったためしがない。このときもまたそうだった。


ザザーッ


「あっ!……やっちゃった」


結局砂山はトンネルを開けられずに崩れてしまう。こうなると始まるのが責任のなすりつけあい。


「だからいったんだよー!どうするんだよぉ!」

「ちがうよぉ!そっちがしっかりしてないからだよぉ!」

「むりやり穴あけたからだよ!光ちゃんのバカ〜!」

「バカじゃないよぉ!バカって言うほうがバカだよぉ!うわ〜ん!」


結局、ケンカになって最後には光が泣いてしまう。光はとっても泣き虫だっだ。
しかし、このままで終わる二人ではない。

「あ……ご、ごめん」

「………」


光が泣いたのを見て慌ててしまう公二。何とかしようと考えた結果、ある提案をする。


「そうだ!もう一回つくろう!」

「えっ?」

「もっと大きいやつ!大きくて、くずれないようなやつ!ねっ!」

「ぐすん……う、うん!」


最後は公二がなぐさめて一件落着となる。この日の光も泣きやんだ後は笑顔だった。






公二は活発で優しい男の子である。特に光に対しては優しかった。
例えばこれまたある日のこと。


「あれ?光ちゃん?どこへいったんだろう?」


一緒に遊びに出かけたとき、いつの間にか光がいなくなっていたときがあった。


「公二ちゃん……うっ……うっ」


公二が探すと、公園で泣いていた光の姿があった。


「あっ、光ちゃ〜ん!」

「うわ〜ん!公二ちゃ〜ん!」


公二の姿を見つけると光は公二に向かって走り出し抱きついた。


「だめだよ。ちゃんとついてこなきゃ!」

「ぐすっ、だって先いっちゃうんだもん!」

「ほら、もう泣かないで。そうだ!はぐれたりしないように手をつなご!」


公二は光の手をしっかりと握った。


「う、うん!……ぐすっ……えへっ!」


光も一瞬驚いたがすぐに泣きやんで笑顔になった。
その日は公二と光はずっと手をつないでいた。公二はちょっと恥ずかしかったのだが、光の笑顔を見ているとそんな気持ちはどこかへ行ってしまった。






とにかく、公二と光はいつも一緒、どこにでも一緒だった。
二人で迷子になってしまったこともあった。ある日、二人で裏山を探検していたときのこと。


「ねぇ、くらくなっちゃったよ。もう帰ろうよお!」

「うん、でも、ここどこだろう?」


帰り道がわからなくなっていた二人は裏山を歩き回り、とうとう夜になってしまったときがあった。


「ねぇ、もしかして迷子になっちゃったの?帰れないの、おうちに?」

「こっちでいいと思うんだけど。でも、みちがほそいし……」

「ぜったいだいじょうぶっていったじゃない。うそつき〜!かえりたいよぉ〜!」

「そんなこといっても……」


泣き出す光。なぐさめようとするが、自分でも不安だし、どうしていいかわからなかった。






「公二く〜ん!光ちゃ〜ん!」


そんなとき、一人の女性の声が二人の耳に聞こえてきた。


「あ、かすみおねーちゃん!」


二人を探しにきたのは、麻生 華澄。公二達より5歳年上の近所のお姉さんである。二人ともとても仲良しでよく一緒に遊んでもらっていた。


「よかった、遅いから心配したのよ。ほら、光ちゃん、もう大丈夫よ」

「ぐすっ、だって、だって……」


光はすぐに華澄の元に駆け寄り泣き出してしまった。華澄はそんな光を抱きしめながら公二に注意する。


「男の子なんだから、光ちゃんを守ってあげなきゃだめじゃない」

「うん……」


「光ちゃんをまもってあげなきゃ」、公二の胸にこの言葉が深く刻まれた。


「もう光ちゃんを泣かせちゃダメだからね。約束できる?」

「うん、約束する」

「よし、じゃ、早く帰りましょ!」

「うん……」

(ごめんね、光ちゃん……)


華澄の背中でぐっすり寝ている光を見て、公二の胸はチクリと痛んだ。






光は公二が大好きだった。確かにケンカもした。泣かされもした。いじめられもした。でも公二はいつも、光の側にいて守ってくれた。
ある日、公園で公二と華澄が話をしているときのこと。


「公二くんは大きくなったら何になりたいの?」

「う〜ん……」


公二の夢はいろいろあった。まあ子供なら夢など星の数ほどあるのだが。
そのなかから何を言おうか迷っていたとき、後ろから声が響いた。


「わたしは公二ちゃんのおよめさん!」

「えっ!」


驚いた公二が後ろを向くと、そこには公二の後ろでこっそり話を聞いていた光がいた。光の顔はほのかに赤かったのは公二は気づいていただろうか。その光の言葉に華澄は納得したような顔を見せる。


「ふ〜ん、そうなんだ……で、公二くんは?」

「ぼくは……光ちゃんのおむこさん」


公二も照れながら自分の夢の一つを告白する。公二の言葉に光は瞳を輝かせ、満面の笑顔を見せる。


「ほんと?光をおよめさんにしてくれるの?」

「うん……」


公二の言葉にさらに満面の笑顔を見せる光。そして今度は公二が顔を紅くしてしまう。


「うふふ、仲がいいのね!」


華澄はそんな二人をほほえましく見つめていた。






「ねぇ、かすみおねーちゃんは?」

「えっ?」


突然光から逆に質問されて驚く華澄。


「うん、かすみおねーちゃんは何になりたいの?」

「そうねぇ……先生なんてどうかなぁ?」


華澄の言葉を聞いた公二と光は教壇に立って自分たちに授業をしてくれる華澄お姉ちゃんの姿をイメージしてみた。


「かすみせんせーか……」

「かっこいいー!」


公二も光も率直な感想を言う。


「じゃ、三人とも夢がかなうようにがんばろうね!」

「うん!」
「うん!」


光は小さいときから、将来は公二のお嫁さんになりたいと思っていた。ただ、それは子供のよくある単なるあこがれなのだろう






光ほどはっきりとは言わないが公二も光が大好きだった。確かに泣き虫だし、ガンコだし、わがままである。でも、光の笑顔がとても大好きだった。
公二も光のことを幼いながらに想っていた。それは、お祭りに一緒に出かけたときのこと。


「にぎやかだね。どこからいこっか?……あれ、光ちゃん?」

「ねぇねぇ!ほら、きれいなのがいっぱい!」


見ると、光は小物売りの屋台にいた。


「なにみてるの?」

「ね、これ、かわいい〜!」


光が手にしているのは、赤いガラス玉がついた小さな指輪だった。指輪を見る光の瞳はとても輝いていた。
それを見た公二は思わず動いていた。


「ほんとだ……よしっ!ぼくが買ってあげる!」

「えっ!でも……」

「だいじょうぶだよ。ちゃんとおこづかいもってきたから」


そういって、公二は光に指輪を買ってあげた。しかし、その値段は小学2年生のお小遣いではかなりの額であるのは光もわかっていた。光はうれしいながらも、少し戸惑っていた。


「……ごめんね」

「ううん、あやまんなくていいよ。だってほしかったんだろ?」

「うん!ずっと大切にするね。ありがとう!」

(おこづかい、のこりちょっとになっちゃった……でもいいや!)


確かに、その後数日間、公二は金策に苦労した。しかし、あのときの光の笑顔があればそんな苦労も吹き飛んでしまっていた。






公二と光はそれはそれは近所でも評判の仲のよさだった。お互いの両親も冗談で、


「いずれ、結婚するかもね」
「意外と早い時期だったりして」


なんて話していたほどだった。






そして、小学2年生の春休み。
華澄が公二と光を遊園地に誘った。二人の両親からお願いされたそうだ。なんで両親がお願いしたのかはよくわからなかったが、公二と光はとにかくはしゃいでいた。


「次はメリーゴーランド〜!」

「うん!行こう!公二ちゃん!」

「はいはい、二人ともちょっと待って!」


行きたい場所を探してどんどんと乗り出す公二と光。それに一緒についていく華澄。公二も光も楽しそうだ。


「今度はかんらんしゃ!」

「うん!行こう!公二ちゃん!」


どうやら今度は観覧車に乗りたいようだ。


「高いけどだいじょうぶ?光ちゃん、公二くん?」

「大丈夫だよ!」

「平気平気!」

「じゃあ、乗りましょ!」


観覧車のゴンドラが高くなる。するとゴンドラからはひびきのの町並みが見えてくる。子供にとっては壮大な景色だ。


「うわ〜!きれ〜!」

「あっ、光ちゃんのおうちだ!」

「公二ちゃんのおうちも!」


外の景色を見てはしゃぐ公二と光。それを見ている華澄の表情はなぜか寂しかった。






楽しい時間はあっというまに過ぎるもので、公二と光がはしゃいでいるうちに、ゴンドラは下に戻ってきた。


「あっ、もうおしまい……」

「ほんとだ……」


さすがに二人は残念そうだ。


「また、いっしょに乗ろうね!」

「うん、いっしょに乗ろう!」


公二と光は二人でまた来る約束をしていたのだが、


(ごめんね、公二くん、光ちゃん……それはもう無理……)


その会話を聞いた華澄はとても寂しい表情をしていたのは二人は気づかない。






「じゃあ、そろそろかえりましょうか」

「え〜、もう帰るの?もっと遊びたい〜!」

「ぼくもあそびたい〜!」


どうやらもう帰る時間のようだが、小さい子供にとってはまだまだ遊び足りない様子。


「あんまり遅くなると、おばさんたちが心配するわよ」

「う〜ん」


どうも納得してない公二と光。そこで華澄がある提案をする。


「そうだ、最後に3人で写真を撮りましょ?」

「しゃしん?」

「ええ」

「うん、一緒にとろう!」


そして、3人は一緒に写真を撮った。思いついたような華澄の言葉だったのだが、実は来るときから考えていたことだ。


(もう二度と会えないかもしれないから……記念になるものを……)


そう考えて思いついたのが写真だったのだ。






華澄がそこまで考える事情。
それは、その日の夕食のときに、二人が知ることになる。


「え……おひっこし?なんで?」


実は明日、公二の家族は北海道に引っ越すことになっていたのだ。


「えー!なんで!なんで!なんで!」

「いやだ!そんなのいやだよ!光ちゃんとお別れなんでぜったいにいやだ!」


公二がいくら叫んでも、大人の事情にはとうてい勝てない。その晩、公二は布団の中で泣いていた。それは、光も同じだった。
実は、その事情はもうひとつあるのだが、それを知るのはそのすこし先になる。






そして、次の日。公二の引っ越す時間になった。公二も光も元気がない。それは当然だろう。今までずっと側にいた友達が突然いなくなるのだから。しかもそれを知ったのが昨日。ショックも人一倍だったのだろう。


「それじゃ、元気でね」

「うん……」


華澄の挨拶も耳に入っていない。


「……ほら、光ちゅん。ちゃんとお別れしなきゃ……ねっ」

「………」


光は涙を流したまま何も話さなかった。いや、話せなかったのだろう。


「……光ちゃん……バイバイ……」

「………」


公二は力のない挨拶をぽつりとつぶやく。光はそれにも応えられない。






そして、公二の乗った車が走り出した。


ブロロロロ……


「……公二ちゃ〜ん!」


突然、光が走り去る車へ向かって走り出した。しかし、どんなに走ってもとうてい追いつけない。車との距離はどんどん開いていく。しかし、光は走り続けた。


「!!!……光ちゃ〜ん!」


公二は車の中で、光が走っていることに気がついた。窓から体を出し、声をかけるが二人の距離はどんどん開き声もとどかない。それでも公二は叫び続けた。


「こうじちゃぁぁぁぁん!」

「ひかりちゃぁぁぁぁん!」


こうして、公二は北海道に引っ越してしまった。






小さい頃の引越し、子供にとっては衝撃的な事件。大きくなっても思い出として残る大きな事件。幼いながらもお互いを想っていた二人にとってその衝撃は大きいものだったろう。
しかし、二人は知らない。
この事件も、物語のほんの最初の1ページに過ぎないということを。それは、公二と光による淡くせつなくも激しい恋物語の幕開けでもあった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第0部はプロローグです。
公二と光が高校に入学する直前までの恋物語です。

実は、第0部はプロローグとして1話で書いていたものを6話構成に長くしたものです。
つまり、このHPでの公開にあたって書き下ろしたものです。
なぜ、そんなことをした理由は第0部の4話のあとがきで書きます。

第1話は公二が引っ越すまでのお話です。
ほとんど、本編イベントの台詞ばっかりなので、考えるところが少なく意外と早くかけました。

第2話は公二の引越しの後のお話です。
目次へ
< ページ先頭に戻る  > 第2話へ進む