第1話目次第3話
小2年の春、公二は北海道に引っ越してしまった。
公二も光も突然の別れで1週間は泣いてばかりだった。

それは、単なる仲良しとの別れの悲しみだけではなかった。
公二も光も何か胸を締め付けられるようなものを感じた。
それがお互いへの淡い恋心からくるものだと気がつくには2人はまだ幼かった。

太陽の恵み、光の恵

第0部 プロローグ その2

Written by B
二人は別々の学校で小学校3年に進学した。
普通ならこのまま二人は、ずっと別々のままで暮らし、2度と会うことはない。いつしかお互いはセピア色の思い出の中の子になっていき、そして忘れてしまう。
ところが、運命は二人をそうはさせなかった。






あのとき二人を遊園地に誘ったもうひとつの事情。
それは……


「え……おひっこし?なんで?」


実は光の家族が5月の連休中に神戸に引っ越すことになっていたのだ。


「えー!なんで!なんで!なんで!」

「いやだ!そんなのいやだよ!みんなとお別れなんでぜったいにいやだ!」


なぜ5月か?それは会社の都合以外の何者でもない。他の仕事の都合、仕事の引継ぎ、さまざまな事情が混じった結果である。






このことで光は精神的にかなりのダメージを受けてしまった。
つい先月、一番の仲良しの公二と別れてしまったばかり。その心の傷が癒えぬうちに、他のみんなとも別れてしまうことになったのだ。
公二はショックが1度だけだからまだよかった。しかし、光は2度もショックが襲ってきた。精神的衝撃の波状攻撃に耐えられるほど光は大人ではなかった。






公二はそのことを偶然知ることになる。それは、二人の親同士がまだ連絡しあっていたことが幸いした。
5月中旬、公二は両親の会話を部屋のドア越しに偶然聞いたのだ。それはなにやら両親が光のことを心配しているようだった。


「そうか……光ちゃんが……」

「そうなの、まだクラスに馴染めていなくて、友達もいないらしいの」

「そうだろうな……光ちゃんにしてみれば突然だったからな……」

「かわいそうに……」


「光」の言葉を聴いた公二は思わず部屋に入っていた。


「ねぇ!光ちゃんがどうしたの!」

「公二」

「おしえて!光ちゃんに何があったの!」

「それは……」

「おねがい!教えて!おとうさん、おかあさん!」


公二の両親は前から光の家族達の引越しは知っていた。しかし、公二に話すつもりはまったくなかった。話してもどうしようもないし、それにもう会えるとは思ってなかったから。






しかし、あまりに公二が問いただしたので、話すことにした。


「そうなんだ、光ちゃんもひっこししたんだ……」

「ごめんね……公二に教えなくて……」

「いいよ、もう……それより、光ちゃんがしんぱいだよ」

「えっ?」

「ぼくだって、友達つくるのたいへんだったんだよ?光ちゃんならもっと……」

「………」


公二も新しい学校に慣れるのは大変だった。
関東とはまた違った、言葉・習慣・風習。子供にとっては最初は外国に行ったような感じになるだろう。それに慣れてから、さらに友達の輪の中に入るなんてことは、普通自分一人の力ではとても困難である。公二も例外ではなかった。最後はクラスメイトから誘われるという形で友達ができたからだ。


「ねぇ?ぼくにできることないかな?」

「公二……」

「ぼく、光ちゃんをともだちたくさんにしてあげたい!」

「………」

「ねぇ、なにかない?」


公二は親に必死にお願いした。公二の光への思いやりは、まったく衰えていなかった。






公二のお願いぶりに親として無視するわけにはいかない。そこで公二の母親はある提案をした。


「おてがみを書いたら?」

「おてがみ?」

「そう、公二がお手紙を書いてはげましたら、光ちゃん喜ぶと思うよ」

「そっか!おてがみか!うん、おてがみ書く!」


そうして、公二は下手な字ながらも必死の思いで手紙を書いた。






その手紙はしばらくして、光の下に届いた。


「光、お手紙がきたわよ!」

「………」

「ほら、早く来なさい」

「………」


光の精神的ダメージは確かに大きかった。
ただでさえ、引越しでのダメージが大きかったのに加え、光にはいまだに友達がいなかった。
5月というあまりに中途半端な時期に転校したために、年度単位の周期で作られるクラス全体の波にうまく乗れなかったのだ。何も知らない土地での生活。友達も出来ずひとりぼっちの学校生活。そのため、光は家でも無口になっていた。
しかし、今日は違っていた。


「公二くんからの手紙よ!」

「えっ……公二ちゃんから!!!」


ドタドタドタ!


「公二」の名前を聞いたとたん、光は猛ダッシュで手紙を奪い取り、開封して読みだした。
手紙にはこう書いてあった。



「ひかりちゃんげんき?
 ともだちはできた?
 ぼくもさいしょはできなかったけど、
 おもいきってこえをかけたら、
 ともだちができるようになったんだ。
 がんばってこえをかけたら?
 へんじちょうだい。
           ぬしひと こうじ」



ひらがなばっかりの下手くそな字。しかしこれでも公二の思いは十二分に伝わった


「公二ちゃん……うわ〜ん!」


手紙を読んだ光は感動して思わず泣き出してしまった。


「光、どうしたの?」

「ぐすっ……公二ちゃん、ありがとう……ぐすっ」

「光……」

「光、がんばるよ!がんばってこえかけるよ……ありがとう、公二ちゃん」


公二の励ましをもらった光は百人力になったような気持ちになっていた。






そして次の日。
光は思い切ってクラスの子に声をかけてみた。声を掛けたのは物静かでおとなしそうな女の子。


「あのぅ……」

「え、どうしたん?」


いきなり声を掛けるのはやっぱり恥ずかしかった。しかし公二の励ましをもらっている光には怖いなしだった。


「いっしょに……あそばない?」

「うん、ええよ」

「ほんとう?!」


思いがけない返事に喜びの声を挙げる光。


「ええ、ほんまや。だってクラスメートやさかいに」

「うん!ありがとう!」


運がいいことに最初に声を掛けた子と光は非常に気があった。なんと、その日のうちに友達になってしまった。






そして夕方。
上機嫌で帰ってきた光を見て、光の母親はびっくりする。


「光!どうしたの?」

「あのね、ともだちができたの!」


そういう光の顔はひびきのにいたときにいつも見せていた満面の笑顔だった。


「そう……よかったわね」

「うん!公二ちゃんのおかげだよ!」

「そうね、じゃあ、返事のお手紙を書こうね?」

「うん!」


その夜のうちに光は返事を書いた。



「こうじちゃんげんき?
 わたしもともだちができたよ。
 こうじちゃんのおかげだよ。
 ありがとう。
 またおてがみちょうだいね。
        ひのもと ひかり」



やはりひらがなばかりの幼稚な手紙。もちろん、その手紙をみて公二が感動したのはいうまでもない。






この出来事から、二人は幼い決心する。


「もっとつよくなって、光ちゃんをなかせないようにしよう」
「なきむしをやめよう、公二ちゃんにしんぱいされないようにしよう」


幼いながらも堅い決心だった。
そして、もうひとつ。


「もっと、おてがみかきたい。光ちゃんにおてがみだしたい」
「もっと、おてがみかいたい。公二ちゃんにおてがみかきたい」


遠くてもこんなに身近に感じる手紙に感激した二人。もっと書きたくなったのだ。
こうして公二と光の文通が始まった。






とはいっても、何を書いていいのかわからない二人。とりあえず、学校のことやまわりのことでも書くことにした。


「あのね、こっちの学校でも教科書はおなじだったよ、びっくりしたよ。でも、べんきょうはどこでもいやだな」
(もう、公二ちゃんったら、勉強しないといけないんだぞ!)


「えんそくで、たかいおやまにのぼったよ。まちやうみが見えてとってもきれいだったよ」
(そうなんだ、そっちでもうみがみえるんだ、こっちもそうだよ)


「ほっかいどうは、なつはすずしいよ。びっくりしちゃった。あれ?そういえば、つゆってあったっけ?」
(いいなぁ、雨ふらないんだぁ。でもなつはやっぱりあついほうがすきだな)


「今日は花火たいかいがあったよ。花火がとってもきれいだったよ。公二ちゃんにみせたかったなぁ」
(ぼくも今日は花火たいかい、こっちの花火はきれいだよ。みせたかったなぁ)


「ほっかいどうはもうゆきがふったよ。たくさんふってびっくり!それにとってもさむい。さむいよ〜」
(さむいのかぁ、かぜひかないでほしいなぁ……)


「こうべってがいじんがおおいよ。今日がっこうにきたがいじんってかみの毛がきんいろなんだよ」
(へぇ〜、ここはいなかだから、がいじんはいないんだよなぁ)


他人から見れば他愛のないこと。でも、二人にとってそれでも満足だった。手紙を読むことでお互いが側にいるような感覚だったから。






二人が小学校4年生になると、少し変化が見られた。手紙の中にお互いの姿を探そうとしていた。


「あのね、友達にカレーが嫌いな子がいるんだ。なぜだろうね?あんなにおいしいのに?だから、いつも私が食べちゃうの」
(食べすぎはよくないよ、光ちゃん。でも友達おもいなんだね)


「クラスのうさぎちゃん、死んじゃった。昨日まであんなに元気だったのに、どうして?なんかくやしい。なにがいけなかったのだろう?」
(公二ちゃん、飼育委員だったよね。やさしいんだね。でも、公二ちゃんのせきにんじゃないよ)


「うんどう会、リレーの選手になったんだ!でも、まけちゃった。あんなにがんばったのに。でもこんどは負けないよ!」
(あれ?この手紙にじんでる?あ、涙だ……泣くほどくやしかっただね……。光ちゃん……泣き虫のままなのかなぁ)


「クラス会の準備や、おんがく会の準備でがんばってるよ。クラスのみんなと一緒にやるのはとってもたのしいよ」
(あれ?なんか消してある。あ、「たいへんだ」って……もう、むりしちゃってぇ!公二ちゃん……やさしいままなんだね、やさしすぎるんだよ)


「あのね、川で子犬がおぼれていたから助けたの、でもおぼれちゃった。かぜひいちゃうし、おかあさんからおこられて大変だったの」
(えっ?冬なのに?光ちゃん、むりしちゃだめだよ!光ちゃん、おもいこむとすぐにとびこむんだよなぁ……変わってないなぁ)


「いじめる子がいたから、おこってケンカしちゃった。まけちゃったけど。うでがいたくて、病院へいったらこっせつだって」
(公二ちゃん、だいじょうぶ!そんな、むちゃだよ……。公二ちゃん、いつも私を守ってくれた……変わってないんだね)


手紙の中からお互いの姿をみつけて喜ぶ。そして、昔の姿と変わってないのを確認して喜ぶ。そのことで、いつも側にいることを確認しあう。そんなことだったのかもしれない。






二人は小学校5年生になった。
このころから、子供は思春期に入る。性について知り、興味を持ち出す。それは恋愛についても興味を持ち出すことである。男子と女子が会話をするだけで恋人と決め付けてしまう。そんな風潮が生まれてくる。しかし、それは悪いことだけではないはず。恋愛に興味を持つことへの裏返しなのだろう。
公二も光もそんな風潮を敏感に感じ取っていた。男子と女子が一緒にいることへの恥ずかしさ。それは異性として意識してしまうことからだろう。それは、親に対してもそうだった。


「光、最近お手紙はどうしたの?」

「手紙来なくなっちゃった。どうしたのかなぁ?」



「公二、お手紙はどうしたの?」

「全然。僕もだしてない」


嘘も嘘、大嘘である。本当は、毎週のように手紙をやり取りしていた。郵便配達の人が届ける時間を調べて、手紙が届くや否や、すぐに気づかないように手紙をとりに行っていた。手紙の代金もお菓子を我慢して、自分のお小遣いから出していた。
いまでも手紙をやりとりしているのが、ちょっと恥ずかしくなったのだ。でも、手紙はやめられない。だから、二人とも嘘をついた。二人の両親は、子供たちの話を聞いて本当に手紙が途切れたと思い込んでしまった。
確かに異性の子と手紙をやりとりするのは恥ずかしかった。でも、自分が送っている相手は別。そう思っていた。異性を意識するまえから側にいたからそうだったのかもしれない。






公二も光も思っていた。
こんな手紙のやり取りがずっとつづくものと。
しかし、次第にそんな期待は裏切られる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
第2話は二人が転校した後、小学校3年と4年のときの話です。
この話では、光も転校します。理由は、あとの話で説明します。

以前公開していた話では最初の手紙しか内容は書いていませんでした。二人の手紙の内容を詳しく書きました。この二人だったら、どんな手紙を書いて、どんな感想をもったのだろう?そんなのを想像して書きました。

光の神戸の最初の友達や、手紙の中で友達の話が出てきます。
お気づきかと思いますが、そうです、実は彼女です。
本編では中学からの友達でしたが、こっちでは小学校からの友達です。

次回は思春期に突入した二人の話です。
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