第241話目次第243話
花火大会の会場の入場門。
少しずつだが人が集まりだしており、祭りはこれからと言う時間帯に、真帆と美幸が待ち合わせしていた。
元々、それぞれが友達を連れて海で遊ぼうという約束になっていたが、お互いの都合が合わず、海の代わりに花火大会になった。
それぞれの友達は別途現地集合となったため、先にいて待っており、ちょうど真帆の友達がやってきたところ。


「うわぁ……」
「すごい……」


ところがその友達を見た美幸も真帆も絶句。


「真帆ぴょん……いつの間にこんなパツキンの美人さんと知り合いになってたの?」
「いや……美人だと思ってたけど、こんなに美人だとは……」


目の前の美女はブロンドの髪をアップにまとめ、水色の浴衣を身にまとっていた。


「はじめまして……レイって呼んでください」


真帆が連れてきた友達とはレイのことである。

太陽の恵み、光の恵

第36部 花火大会編 その4

Written by B
真帆がバイトで偶然知り合った、女としてのレイ。せっかくの縁ということで、真帆が無理を承知で誘ったところ二つ返事でOKをもらったのだ。

美幸は赤のワンピース、真帆は青のブラウスに青のズボン。いたって普通の格好。
レイもいたって普通の浴衣姿なのだが、どことなく上品さ、気品さを感じさせた。純和風の浴衣姿なのにもかかわらず、どこかの貴族のような雰囲気を漂わせていた。
そんなレイの浴衣姿に見とれていた二人だが、少ししてようやく我に返る。


「ね、ねぇ……真帆ぴょん。は、早く美幸に紹介してよ……」
「そ、そうね。レイさん、こちらが私の小さい頃からの友達で寿美幸さん。美幸ちゃん、こちらが高校の友人でレイさん」
「は、はじめまして……よ、よろしく〜」
「こちらこそはじめまして。今日はよろしくおねがいしますね」


少しびびりながらも挨拶をする美幸に対して、レイは堂々としたもので、優しげな笑顔を浮かべて挨拶する。






「真帆さん。ところで美幸さんのお連れの方はまだですか?」
「そうね?美幸ちゃん、花桜梨さんはなんだって?」
「うん、こっちにはバイクで来るから、って言われてたんだけど……あっ、来た来た!お〜い、かおり〜ん!こっちこっち!」


美幸が手を振った方角からやってきたのは花桜梨。黒のライダースーツのズボンに薄い青のTシャツ姿というかなりラフな格好で来ていた。


「ごめんなさい。ヘルメットとか上着とかをコインロッカーにしまうのに時間が掛かっちゃって……」
「ううん、美幸もいま来たからだいじょ〜ぶ」
「そう?それだったらいいけど」
「とにかく間に合ってよかったね。レイさん、こちらが美幸ちゃんの連れで私の友達でもある八重花桜梨さん。花桜梨さん、こちらが高校の友達のレイさん」
「どうもはじめまして、八重花桜梨です」
「ど、どうもはじめまして……よ、よろしくお願いします……」


いつもの優しくもクールな笑顔の花桜梨に対して、こんどはレイがどことなくぎこちない、顔も少々引きつっているようだ。


「これで4人そろった事ですし。楽しくいきましょ!」


それでも真帆の音頭で4人での鑑賞ツアーが始まった。






「へぇ〜、レイさんって……く、くえ、くお……え〜っと、今なんだっけ」
「クォーターです。母がフランス人とのハーフです」
「そっか……それでそんなに金髪なんだ、いいなぁ……」
「そんなことないですよ。私だって美幸さんのような黒髪がいいな、って思うことがありますから」
「ふ〜ん、そういうもんなんだ……」


初対面のレイと美幸が並んで前を歩き、後ろを真帆と花桜梨がついて歩いている。大きめの声で話す前の二人は違い、こっちはこそこそ話。真帆の顔がかなり引きつっている。


「ちょ、ちょ、そ、そんなことあるわけないじゃない……」
「そんな言い方したら、『はい、そうです』って言っているのと同じなんだけど」
「だ、だって、伊集院レイが女だなんて……
「だって、きらめきであんな美人がいれば、こっちでも坂城くんあたりや部活の男子が噂にすると思うけど、一切聞いてない。それにレイって名前、そんなに聞く名前じゃないし……」
「うっ……」
「それに、真帆さん……彼女の名字言ってないよね?」
「………」


がっくりと頭を垂れる真帆。無言の降伏宣言である。


「あ、別に誰にも言わないから安心して……」
「……なにかあったらお願いできる?」
「それで私を呼んだの?」
「ううん。美幸ちゃんはそんなことまったく気にせずに呼んだと思う」
「そうね。じゃあ私も気兼ねなく楽しませてもらうね」
「ふぅ……」


一時真っ青になった真帆だが、安心して大きな溜息をついた。






しばらく屋台の中を歩いて祭りの雰囲気を感じていたところで、かき氷の屋台の前で美幸の足が止まった。


「ねぇねぇ、かき氷たべない?」
「いいですね。じゃあ皆さんで食べましょうか?」
「じゃあ何がいいか言って!私がまとめて買ってくるから」


真帆が他の3人のリクエストをもらうと素早く屋台の人混みの中に潜り込み、かき氷を買ってきて戻ってきた。
ちなみに美幸がメロン、真帆がイチゴ、花桜梨とレイがブルーハワイ。さっそく、かき氷の冷たさを味わうことにする。


「つめた〜い!」
「そうですね。とても冷たくて美味しいですね」
「あれ?レイさんって、かき氷食べたことないの?」
「いいえ。でも、祭りの時しか食べないですよ」
「う〜ん、私もそうなんだよね。普段は食べたいとは思わないけど、ど〜してなんだろうね?」
「お祭りだからじゃないですか?」
「う〜ん、そうなんだね!」


先程と同じように並んで食べる美幸とレイ。初対面とはとても思えないほど楽しそうだ。またそれを後ろから追いかけながら見ている花桜梨と真帆。二人ともかき氷をたべながらだ。


「美幸さん、もうあんなに仲良しになってる。うらやましいな……」
「そう?花桜梨さんだって、友達多いでしょ?」
「そんなことない。私、人付き合いって苦手だから……」
「そっか……でも、こういう場は嫌いじゃないでしょ?」
「うん、楽しい……」


優しい笑顔でかき氷を食べる花桜梨。それをみて真帆も楽しそうに食べる。


「私もみんなとこうしてわいわいやるのが大好きって……あっ、美幸ちゃんやった……」






「大丈夫ですか?」
「あ、あはは……う、うっ〜、美幸ってやっぱり……」


がっかりした表情の美幸の足下にはこぼれたかき氷。すれ違いの人の肘がかき氷を直撃し、落としてしまったのだ。服にこぼれてないだけラッキーだったと言うべきなのだろうか。
未練いっぱいに足下のかき氷を美幸の目の前にかき氷を差し出したのはレイ。


「美幸さん、この私のかき氷を半分個してたべませんか?」
「えっ、いいの?」
「どうぞ、どうぞ」
「えへ、ありがとう!あ、かき氷とけちゃうから早く食べよう?」
「そうですね」


仲良く二人でレイのかき氷を食べる二人。幸いスプーンは美幸が持ったまま落としてなかったので、一緒に食べることができる。


「おいし〜」
「おいしいですね」
「………」
「どうしたんですか?」


かき氷を食べながらも突然黙って考え込む美幸。それをみてレイが聞くが美幸はやっぱり考え込んでいる。


「う〜ん、そういえば、美幸、昔、学校の近くの駄菓子屋で同じ事があったような……」
「そんな思い出があるんですね」
「でも……なんか思い出しちゃいけないような気がするんだ……」
「そういう場合は無理して思い出さないほうがいいですよ」
「……そうだね!そうなんだよね!」
「ほら、溶けそうですから、早く食べましょう」
「うん!」


美幸は思い出すことを忘れてかき氷を口に入れ込んでいた。






それから、ラムネやら綿あめやら屋台を堪能したところで、また美幸が止まった。


「美幸、ちょっとトイレ行ってくるね」
「今から?」
「うん、去年、さあ花火ってときにトイレに行きたくなって、いいところ見られなかったから今から行っておこうと思って」
「うん、それがいいかもしれないね」
「でも、美幸、戻ってこられるかなぁ……見られなかったのも戻るときに迷子になったから……」
「じゃあ、私が一緒に行く」
「花桜梨さん、お願いできる?」
「まかせて」


花桜梨がくすっと微笑むと美幸と一緒に人混みの中に消えていった。


「ふぅ……」


大きな溜息をついたのはレイだった。


「どうしたの?」
「真帆さん。どうしたもこうしたもないでしょ!八重花桜梨ってあの八重花桜梨でしょ?」


さっきまで静かな口調だったのが、一変して張り上げるような声で真帆に問いつめる。


「あの八重花桜梨って?……あっ、そういうこと?」
「そういうこと」
「私は詳しいことは知らないけど、花桜梨さんは素敵な人だよ?優しいし頭いいし……」
「真帆さんがいうから間違いないと思うけど……真帆さん、これから言うこと花桜梨さんに絶対に言っちゃだめよ」
「そんな言っちゃだめなことってなに?」


レイが真剣な表情で真帆の耳元にささやく。


「花桜梨さん……うちの学校にあるブラックリストの筆頭なの」
「うそ……」
「あの事件があれば学校としては仕方ないことよ。でも理由はそれだけじゃないの。あの事件で伊集院家でも調べたら……あの人、凄い経歴があるの……今では伊集院家のブラックリストの末尾にも入ってるわ」
「そんな……」
「だから名前聞いたとき、自分でも血の気が引いたのがわかったわよ。でも真帆さんが言うからには危険じゃないことがわかったし、わたしも実際に彼女を見てほっとしてる」
「花桜梨さんは悪人じゃないよ!」


真帆の顔を真っ赤にしてレイに言い返す。真帆は明らかに怒っている。レイはそれでも表情を崩さずに話を続ける。


「私は真帆さんを信じるわ。でも学校やうちの人は事実でしか判断できないの。別にリストにあるから何かするわけじゃないから安心して」
「うん……お願いだよ」
「気を悪くすること言ったかもしれないけど……花桜梨さんをそう見ている人がいる、ってことを知ってほしかったの」


申し訳なさそうな顔をするレイ。真帆もすこし冷静さを取り戻したようで、顔の色も元に戻っている。


「でも、レイさんがそうなるのもわかる気がする……本当はレイさんに黙ってようと思ってたんだけど……」
「なに?」
「花桜梨さん、レイさんが伊集院くんだということ、会ってすぐに見破ってた」
「えっ……」
「いや、私のごまかし方がヘタだったというのもあるんだけど……前にも私と姉さんを感じるものが違うからって理由で見分けちゃったりするから。あの人がすごい人なのは前から知ってたんだ」
「………」
「でも花桜梨さんはとってもいい人なのは間違いから……あっ、戻って来ちゃったから終わりにするね」
「そうね。真帆さん、ごめんなさいね」
「ううん、気にしないで」


花桜梨が美幸を連れて戻ってきたところでこの話は終わり。この日はこの話については一切上がることはなかった。






「もうすぐだね〜」
「そうだね、ここの花火はすごいって聞いてるから楽しみなんだよ」
「やっぱり花火は日本の華ですね」
「うん、そう思う」


いよいよ花火の打ち上げの時間。4人は煉瓦道の人混みの中に固まって立っていた。


「レイさん、外国では花火を見ることあるんですか?」
「外国でお祭りを見る機会はそれほどないのですが、何度か見たことありますよ。とても派手で綺麗でしたけど、やっぱり日本の花火が一番好きですね」
「なんで〜?」
「う〜ん、やっぱり日本人だからじゃないですか?咲くところだけじゃなくて、散るところも楽しめるところが日本人らしいと思います」
「う〜ん、そうなんだ〜」


まだ花火は始まっていないが、みんな空を見つめ、これから咲く花火の姿を待っている。
すこしずつ周りがざわついてきた。開会時間も近づいてきている。


「花桜梨さんはどう思います?」
「えっ?……私?」
「ええ、花桜梨さんはどう思うのかしら」
「私も花桜梨さんの考えを聞きたいな」
「美幸も〜」


不意にレイから指されて驚く花桜梨。しかし、すぐにじっと空を見つめ直す。そして静かに語り出す。


「そうね……散るところも綺麗だけど……やっぱり綺麗に咲いているところが好き。綺麗に咲かないと散り際も綺麗じゃない。咲かなきゃ花じゃない、咲かない花なんて花の意味がない」

「綺麗に、懸命に、全てを出し切って咲いて、そして静かに散っていくから花火って素敵だと思う」

「私もそんな花火になってみたい……そう思うときがある……」


花桜梨の語りに他の誰も返す言葉がなかった。ただ花桜梨の言葉をじっと聞いていた。


「あっ、花火始まるみたいだよ〜」


そんな沈黙も開会のアナウンスと美幸の言葉で終わりを告げる。もうあとはみんなで花火を楽しむだけだ。






「真帆さん、今日は本当にありがとう」
「いえいえ、どういたしまして」


花火大会が終わり、大満足の4人。花桜梨はバイクで帰っていったが、真帆と美幸はレイの家の車で送ってもらえることになった。
これから国道に入ってひびきの市に向かおうとするところ。助手席では美幸が車に乗ってすぐだというのにぐっすりと眠っている。後部座席でレイと真帆が革製の心地いいシートに背中を預けてくつろいでいるところ。


「ところで、車の乗り心地は大丈夫ですか?」
「うん、とっても快適。私も美幸ちゃんみたいにすぐ眠くなりそう」
「そうですか。たまに居心地悪いって人がいるものですから」
「そうなんだ。でも高級車の後部座席でシートベルトって、なんかイメージないんだけど」
「仕方ないですよ、規則ですから。私も最初は違和感ありましたよ」
「レイさんでもそうなんだ」
「そうですよ」


車は渋滞に巻き込まれており、ゆっくりと動いている。車の窓には歩いて帰路につく人たちがたくさんいる。どの顔も満足そうな顔をしており。みんな花火大会を楽しんでいたことが伝わってくる。


「ところでレイさんは楽しかった?」
「やっぱり近くからみる花火はいいですね。家族とビルの部屋からとか眺めることが多かったですから」
「そうなんだ。近くでみる大きい花火はいいでしょ?」
「素敵ですね」


ようやく渋滞が抜けたようで車は国道を快調に走っている。


「ところで……夏休みは予定はあります?」
「え〜っと、バイトが結構あるけど、1日丸々空いている日もあるよ」
「また、一緒に出かけませんか?」
「いいけど、今度はどこ?」
「こんどは街のショッピング街……女の子のかわいい服の店とかファンシーショップとか」
「ええっ?」
「だってぇ〜、すっごく行きたいけど男の格好じゃいけないでしょ?だから……ねっ?」
「………」
「あれ?……寝ちゃったの?仕方ないですね……でも、また誘おうっと」


レイの甘えるような声に、この人の精神年齢が高いのか低いのかわからなくなりそうになりながら、いつしか真帆は高級車のシートの居心地の良さに眠りについてしまうのであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
独り者4人衆のお話でした。

しかし、話の軸がないですな(汗
こういうのをヤマナシ・オチナシ・イミナシって言うんですかね。
日常的なことを書くとこうなっちゃうんですよね。

さて、次は3キャラ話です。
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