第240話目次第242話
「好雄、ほんっとにあたしが泊まってもいいの?」
「いいんだろ?俺の彼女も連れてこい、って夕子をご指名なんだから」
「ふ〜ん、やっぱり好雄の彼女になる物好きの顔がみたいのかな?」
「こら!」


花火大会の日のお昼すぎ。
こんなくだらない会話をしているのは好雄と夕子。今ははばたき市の住宅街を大きめのバックを持って歩いている。


きらめき市ははばたき市からそう遠くはないのだが、2人とも花火大会に行く予定は最初なかった。この2人が若者注目のイベントに興味がないのは意外と思われるかもしれないが、はばたき市ほどの規模ではないものの、きらめき市での花火大会を先週見ているなど既に何回も見ているため、少々飽きがきていたのだ。
しかし、はばたき市在住で、しばらく会っていなかった好雄の従兄弟の家から、彼女を連れて泊まりに来いと招待されたので2人でお呼ばれすることした。

ちなみに優美は2人がいないのをいいことに、親友のみのりと鈴音を家に呼んでお泊まり会をするようだ。


「ねぇ、まだなのぉ〜、もうつかれちゃったぁ〜」
「あのなぁ、駅からそんなに歩いてないだろ……さてと……おお!ここだここだ!久しぶりだなぁ、何年ぶりだろう」


2人は住宅街の中の1件の家にたどり着く。住宅街にとけ込んだ白を基調とした家の玄関には「真咲」と書かれている。


「好雄、着いたの?」
「ああ、ここだ。元春兄ちゃんの家は」

太陽の恵み、光の恵

第36部 花火大会編 その3

Written by B
「さぁてと、さっそく入る……おい、何だよ?」
「好雄、ちょっと早すぎ!それより聞きたいことがあるの!」


さっそく家に入ろうとした好雄の腕を夕子が引っ張り、家の前の柵の陰に隠れる。


「夕子、いまごろなんだよ」
「あのさ、私、好雄の親戚のお兄さんのことなぁ〜んにも聞いてないけど、大丈夫?」
「別に大丈夫だよ。俺と同じで気さくな人だから」
「好雄と同じっていうのが気になるけど……顔とか似てるの?」
「顔は似てないけど、声が俺に似てるってよく言われる」
「声?」
「ああ、電話だとまるで同じで区別つかないって他の親戚の人から言われる。今でも言われるよ」
「へぇ〜、他の情報は?例えば、彼女とかっているの?」
「彼女ねぇ、それは聞いてないなぁ、あっそうだ、花屋にバイトしてるって聞いた」
「ふ〜ん、じゃあそんなに変な人じゃないんだ、じゃあ行こ?」
「俺を見て変な人っていうのが気になるけど……まあいいか。いくぞ」


そういうと好雄は家の玄関の呼び鈴のボタンを押す。



ピンポーン



呼び鈴からから電子音が響くのが聞こえてすぐにインターホンから若い男性の声が聞こえてくる。

「どちら様ですか?」
「あっ、元春兄ちゃん?好雄だけど」
「おおっ、好雄か!今開けるぞ」



ガチャ



扉を開けて登場したのは背が高くがっちりとした体型の若い男性。さっきインターホンの声の主らしい。好雄の顔を見るや喜びの表情を見せる男性。好雄も嬉しそうだ。


「好雄、久しぶり!何年ぶりだ?」
「4年とか5年じゃないか?あれ元春兄ちゃんは今何年生だっけ?」
「俺は大学2年生だけど……そうそう、好雄、きらめき高校に入ったんだってな、すげぇなぁ」
「いやいや、偶然だよ。いまはただの劣等生……ん?」
「………」


好雄が横を見ると、自分の脇腹をつんつんと突っついている夕子が。「早く紹介しろ」と言いたげに少しふくれっ面。


「おお、ごめんごめん」
「好雄、久しぶりなのはわかるけど、あたしの事を忘れないでよ」
「ああ、紹介するよ。この人がさっき話した俺の従兄弟で真咲元春っていうんだ。で、元春兄ちゃん、こいつが……」
「初めまして、朝日奈夕子です」


夕子は荷物を地面に置くと両手を前に置き、丁寧に頭を下げる。夕子からすればかなり丁寧な挨拶だ。


「よろしく〜」


そんな姿にニコニコ顔の元春。


「あ、あの、あたし、好雄の……」
「ああ、お袋から聞いてる。好雄のフィアンセだよな。うん、噂どおりの可愛い子じゃないか」
「「な、なっ!」」
「あれ?違うの?」
「「………」」


2人とも顔を真っ赤にして黙っていれば、違っていないのは明らかである。
そんな2人は肘で激しく小突き合っている。


(ちょっと!なんでしゃべっちゃったの!)
(俺が言うわけないだろ!お袋がぺらぺらしゃべったからに決まってるだろ!)
(もう、どうしてくれるのよ!恥ずかしいじゃない!)
(俺だって恥ずかしいよ!柄じゃねぇや)
(あたしだって同じよ!それに可愛いってなによ!)
(いいじゃないか、褒めてるんだから)
(恥ずかしいの!)


2人ともしゃべってはいないが、こんな会話を目でしているのは明らか。
そんな2人の様子を元春はニコニコとしながらしばし見物していた。






ひとまず、荷物を部屋に置かせてもらい、さっそく出かけようとする2人。元春は玄関でお見送り。


「それじゃあ、夜はごちそう用意してくれてるみたいだから、すまないけど8時半ごろには帰ってきてな」
「元春兄ちゃんも一緒?」
「いや、オレは花屋の屋台で働かなきゃだから帰りが遅くなる」
「屋台?花屋だっけ?なんで?」
「ああ、夏祭りに朝顔の屋台を出したら結構好評だったんだよ。それで今日もまた出そうということになって。いや、俺一人で大変だよ」
「一人?店の人はいないの?」
「いや、今日はバイトが俺以外みんな休みなんだよ」
「祭りの忙しい時に?」
「ああ。まあ、夏祭りの時はオレだけ休みだったんだけどな、あはははは」
「なんだそりゃ」
「まあ、そういうことだ。じゃあ、楽しんでこいよ」
「じゃあ行ってきま〜す」


これからバイトという元春より先に家を出た2人はさっそく花火大会の会場に向かう。それほど距離はないので歩いて会場に向かう。


「あ〜あ、気さくな人で安心した!おじさんたちも似たような感じて。ちょっと安心」


しばらく歩いたところで、両手で伸びをしながらほっとした様子の夕子。ちなみに2人とも浴衣ではなくいつもの軽装である。


「おっ、夕子でも他人の家は緊張するのか」
「なによ、それ失礼ね。好雄の家だって最初はすごく緊張してたんだから」
「ああ、それは俺もわかってる。あまりに緊張してて驚いたの覚えてるよ」
「そうそう、夕子ちゃんはナイーブなのよ」
「それは嘘だろ……いてっ!」
「もう、少しは乗ってくれてもいいじゃない!」






軽くどつきながらも仲良く歩いている2人。そうこうしているうちに花火大会の会場にたどり着く。
開会まではまだまだ時間があるが、既に屋台はすでにフル回転の状態で賑わっている。


「へぇ〜。やっぱりお洒落な街だから屋台もお洒落だね!」
「確かにな。昔ながらの屋台も多いけど、出店みたいなのも多いな」
「結構有名な店も出してるって雑誌に載ってたからね。知ってる?」
「その雑誌は夕子から見せてもらったからわかってるよ」
「あっ、そうか。せっかくだからちょっと見てみようよ」
「ちなみに聞くが、金持ってるのか?」
「……おねが〜い♪」
「……わかったよ」


好雄の右腕にしがみついて甘える夕子に好雄も反論できなかったようだ。いや、やっても無駄だとわかっているのかもしれない。
すると、とある一件の出店だけものすごい人だかりであることに気づく。浴衣姿の若い女性を中心に人だかりだ。


「なんか、あそこだけ賑わっているけどなんだろう?」
「若い女の子でいっぱいだな。でもアイドルが来てるわけでもないだろ?」
「まあ、考えてるより行ってみた方が早いね」
「こら、夕子!走るなって!」


走ってあれよあれよというまに人混みの中に潜っていく夕子。好雄も慌てて追いかけて人混みの先頭までたどりつく。


「あれ……誰だっけこの人?」
「馬鹿、花椿吾郎だよ!」
「ええっ!」


目の前にはワインレッドのヘソ出しファッションにピンクの法被を着込むという奇抜なファッションの中年男性、世界的なデザイナーの花椿吾郎が店員と一緒に売り子をやっていたのだ。彼の地元でもあるため、人だかりができるのは当然と言えば当然だ。


「好雄、じゃあその隣のおじさんは?」
「さぁ?」


そしてその隣には茶系のスーツの上に同じくピンクの法被を着込んだ妙な姿の中年男性が、一緒に売り子をしていた。なんか嫌そうに手伝っているように見えたが真面目にやっているらしい。こちらも若い女の子から声を掛けられているみたいだ。しかし、会話の内容は2人にはよくわからなかったので、店の品を見ることにする。


「じゃあここはあの雑貨屋シモンの出店か、たしかによそと違っていいものばかりだな」
「うわぁ〜綺麗なものばっかり!しかも安い!」


どうやら、花椿がオーナーの雑貨屋が出した出店のようだ。夏らしいデザインのブローチやイヤリングなど様々な品が並んでおり、しかも値段も500円から1000円台と普通では買えない値段で売られていた。
夕子はさっそくいろんなものを品定めしており、好雄はその横でその様子をじっと見ている。


「ねぇ、買っていい?」
「なぁ、おれが嫌だと言えないのわかって言ってるだろ?」
「そうだよ♪」
「はいはい、好きにしろ」
「わ〜い♪そうだ、ついでに優美ちゃんのお土産も買っておこ」
「優美?いいよ。あいつのなんて」
「ダメ!かわいい妹の留守番のお礼ぐらいしなさい!」
「そうはいっても、あいつにこんなの似合う「それ後で本人に言っていい?」」
「……好きに選べ」
「うんうん♪さすがお兄さん♪」


結局、夕子は自分用にシルバーのブレスレット、優美へのお土産にチェリーのイヤリングを好雄のお金で購入。不満そうな好雄の横でとても満足な夕子は次のお店へと向かっていった。






さて、その人気のお店では先程の中年2人がこんな会話を交わしていた。


「はぁ……花椿、もういいんじゃないか?」
「ダメよ」
「だいたい花椿が自分で売ることもなかっただろうに」
「若い子のファッションを見るのもイメージを掴むのに大事なのよ。それよりも一鶴、いつも一鶴の学校を手伝ってるんだから、たまにはアタシの店も手伝いなさいよ!」
「そんなこといっても、さっきから理事長、理事長って声を掛けられて恥ずかしくてかなわないよ」
「そんなの気にしちゃダメよ。ささっ、アタシも次の仕事があって時間がないんだから、それまで手伝いなさい!」
「わかったわかった。まったく花椿は強引でかなわないよ……」


とても仲のいい中年2人はしばらくたくさんのお客を手伝っていた。






さて、あちこちのお店を覗いて回っていた夕子と好雄だったが、ここであまりに見知ったカップルを見つけてしまった。


「あら?夕子さんに早乙女くん」
「ああっ……詩織ちゃん!」
「詩織ちゃん?じゃあ、公人もいるってことか?」
「いるけど、悪いか?」
「別にぃ」


大親友である、高見公人と藤崎詩織のカップルである。こちらも浴衣ではなく普通のお出かけ着といった感じの服だ。二人は腕を組んでぴったりと寄り添って好雄達に向かっている。
軽く挨拶したあとで、公人が好雄に近づく。


「好雄、これから飲み物でも買おうと思うけど一緒に行かない?」
「おお、俺もちょうど喉が渇いてたんだ。花火もそろそろだから早めに買っておかないとな。じゃあ夕子、例の場所へ先に行っとけ」
「例の場所?」
「ああ、俺と夕子で見つけた穴場スポットだ。そこなら人混みもそこそこでいい景色がみられるぜ」
「ほう、じゃあ好雄の情報を珍しく信用してみるかな」
「おい、珍しくってなんだよ」
「好雄の情報って意外とガセってことがあるからなぁ」
「あのな、親友の情報を信用しろって。ほら、うだうだ話してないでいくぞ」


好雄と公人は言い合いながら屋台の中に消えていった。


「じゃあ、詩織ちゃん。一緒に行こ?」
「さっき行ってたお勧めスポット?」
「そう、ちょっと歩くんだ。先に行って場所取りしなくちゃ」


夕子と詩織も穴場スポットとやらへ向かうことにした。






夕子と詩織は穴場スポットに向かいながらおしゃべりが続いている。二人とも通りがかりでもらった団扇で涼みながらの会話だ。


「ところで、詩織ちゃんは夜遅くに大丈夫なの?」
「うん、大丈夫。今夜も花火大会の予定だから」
「今夜も?今じゃなくて?」
「違うわよ、夜の花火大会」
「夜の?」


意味がわからず不思議そうな顔をする夕子。それをみて詩織はにこっと笑みを見せる。


「公人の巨大花火が私のお腹の中でドカンドカンと炸裂するの」
「なによそれって……あっ……」
「うふふふ」


意味に気づいてしまった夕子は顔が一瞬のうちに真っ赤に。それを見て詩織は悪戯が成功したようなくすくす笑いを見せる。


「ちょ、ちょっと詩織ちゃん!」
「だってしょうがないじゃい。私って変態だもん。ところで夕子さんこそ大丈夫なの?夕子さんも夜の花火大会?」
「ち、違うわよ!今晩は好雄の親戚の家に泊まあっ……」


勢いで言ってしまった夕子。両手で口をふさいだがもう遅い。
ここまで言って、これがどういう意味が気づかない詩織ではない。さらに言うと、それを黙ってあげるほど性格のいい詩織ではない。


「へぇ〜、新郎の親戚へのご挨拶もやるんだ。私たちのことも親戚の人たちは知ってると思うけど、私たちから挨拶に行ったことなんてないわよ」
「………」
「でも意外だな、夕子さんったらそこまでもう考えてるなんて。同棲しているわけでもないし、家が隣でもないのにねぇ」
「………」
「早乙女くんの誕生日4月だから、もしかして、私たちよりも早く入籍しちゃっいそうね」
「………」
「もう、顔真っ赤にしちゃってぇ〜」


夕子の完敗である。それから男衆が戻ってくるまで、夕子は顔真っ赤にして詩織のからかいをただただ受け止めるしかできなくなってしまった。
そしてそのうっぷんは、戻ってきた好雄をすぐさま蹴り上げることで解決することになる。






「へぇ〜、夜に来るのは初めてだけど、夜もまたいい景色だな」
「こんな場所よく見つけられたわね」
「な〜に、雑誌でこの日だけ夜間オープンするっていう情報を雑誌で見つけたからね」
「会場からちょっと離れてるからそんなに話題になってないけど、上からの見晴らしもいいでしょ?」


4人がいるのは臨海公園から少しだけ離れた高層ビルの屋上にある空中庭園と呼ばれる場所。ビルの屋上ながら草花が植えられ、遊歩道も設置されており、まさに文字通りの空中庭園。ここから花火を見ようとカップル連れを中心に賑わっている。


「これはいい花火がみられそうだな」
「そうだろ?親友の言葉は信じてみるものだろ?」
「ああ、たまには信じてみるのもいいもんだ」
「こら!……まあいいや。じゃ、俺たちは用事があるからもう帰るからな」
「あら残念ね。じゃあ、また休み明けに」
「それじゃあ、詩織ちゃんも公人くんもごゆっくりぃ〜」


好雄と夕子はその場で公人達と別れた。家に戻る時間を考えるとここに長居をしては他がなにも見られなくなってしまうからだ。


「夕子ちゃん、がんばってねぇ〜」
「………」
「おい、夕子。なんでそこで黙る?」
「いいの!」


好雄がふと聞いてみるが夕子は顔を真っ赤にして答えなかった。






二人は再び屋台が並ぶ会場に戻ってきた。さっきは、全部を見る前にこの場から離れてしまっていたからまた全部の店を見回ることにする。
歩いてしばらくすると見知った顔が店番をしている店に出くわす。


「おっ、好雄達じゃないか」
「あっ、元春兄ちゃん。ここが例の店?」
「ああ、そうだが、どうした?」
「い、いや、どうしたって……」


好雄達が見つけたのは元春が店番をしている花屋の出店。綺麗な朝顔の花や蕾がいくつもある鉢が並んでいるのだが……


「なぁ、夕子。このレイアウトはどう思う?」
「うん、あたしが言うのもなんだけど、ちょっと理解できない」


とにかく鉢の配置が変。普通は綺麗に横に等間隔に並べられているものだが、そうなっているものはどこにもない。
鉢をピラミッドみたいに無理矢理積み上げてあったり、地面に横にして転がしてあったり、高い所に置いてあったり、ただ適当に置いているようにしかみえない。
さらに言うとこれが売り物とはとてもじゃないけど見えない。


「これどうしたんだい?」
「ん?うちの店員の友人という人が勝手にこうしたんだ。『朝顔の宮殿』のイメージだそうだ」
「なぁ……止めなかったの?」
「連れの女の子も止めなかったし、周りの人たちもそいつを止めなかったから問題ないかと思って」
「店の人に怒られないか?」
「大丈夫だろ……あっ、有沢が誰かの言うことだけは聞くな、って言ってたような気がするけど……まあ大丈夫、大丈夫」
「……夕子、どう思う?」
「うん、間違いなく好雄の親戚だと言うことはよくわかった」
「どういう意味だ?」
「こういう意味」
「あははは……」


夕子が指さすのは意味不明な朝顔の鉢の売り物とは思えない配置。さすがの好雄も反論したいようだが、何も文句が言えないようで苦笑いしている。


「ところで、楽しんでるのか?」
「ま、まぁ、変わった店が多くて面白いよ」
「おお、そうかそうか。もうすぐ花火が始まるけど、少し見たら家に戻ってくれな。お袋達が待ってるから」
「ああ、そうするよ」
「夕子ちゃんもよろしくな」
「はい、そうします」


そう言って好雄達は元春の店から出た。


「元春兄ちゃんは大丈夫なのかなぁ?」
「う〜ん……でも面白い人で安心したな」
「安心した?」
「うん。くそ真面目な人だったら息苦しくてたまんないよ」
「あははは、大丈夫だ。俺の親戚はみんな明るい人ばっかりだから。真面目な奴は俺だって息苦しいよ」
「そっか。好雄ならそうかもね」


花屋の屋台から出た直後に買ったかき氷一つを二人で食べながら歩く二人。事前に調べた鑑賞スポット、公人達に教えた場所とは別のスポットに向かうところだ。そんな二人の後ろで元春が浴衣姿の眼鏡の女性にこっぴどく怒られているのに気づくことはなかった。


「あっ、もうそろそろ花火の時間だからさっきチェックしたポイントに行かなきゃだな」
「そうだね、時間はないけど見られるだけ見たいもんね」






「夕子、花火はどうだった?」
「綺麗だった!花火なんて飽きたかと思ったけど、そうじゃなかったみたい」
「結構大量に上がってたな。屋台も面白かったし、来年も盛り上がりそうだな」
「うん、また来年こようね……」


二人は今元春の家への帰り道、暗い住宅街、二人の周りには誰もいない。花火大会はまだ終わっておらず、遠くから花火の音が聞こえてくる。


「さぁ〜て、おじさんおばさん達のご馳走かぁ、何年ぶりだろうな」
「………」
「たぶん酒もあるんだろうなぁ……俺は公人みたいに慣れてないから大丈夫かなぁ」
「………」
「ん?夕子、どうした?」


段々と近づく終着点。それにつれて夕子の口が重くなり、とうとう黙ってしまった。歩くスピードも遅くなり、表情もどことなく重い。
そして元春の家の玄関にたどり着く。そこで夕子の足が完全に止まる。先に入ろうとした好雄が振り向む。


「なんだ?さっきからどうした?」
「好雄……聞いていい?」
「なんだよ」


夕子の表情は真剣な表情になっていた。それをみて好雄も真剣な顔に変わっていく。


「さっき詩織ちゃんにからかわれてから考えてたんだけど……本当にあたしでいいの?」
「本当にって?」
「だって……ここで紹介されたらもうあたし達引けないよ……本当にあたしがフィアンセでいいの?」
「なんで?」
「だって、あたしバカだし……スタイルもそこそこだし……顔もほどほどだし……料理できないし……家事もできないし……金銭感覚ゼロだよ?」
「………」
「好雄、そんなあたしでいいの?」


好雄は夕子の言葉をじっと聞いたあとで、一つ溜息をつく。そして夕子の手を掴むとにやりと笑う。


「俺はそんな『うそつき』の夕子じゃないとだめなんだよ」


「好雄……」
「ほら、行くぞ」
「……うん!」


玄関に入っていく夕子の顔は満面の笑みであった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
お待たせしました。続きですが、好雄&夕子を中心に書いてみました。
もっと二人の恋人っぽいところが書ければよかったのですが、ちょっとまとまらなくなっていたので無理矢理に終わらせてしまいました。

さて、ここでGS2キャラが初登場、真咲です。ええ、好雄と繋がりを持たせてみました。
GS2キャラはどうやって書くかを思案中ですが、このラインを中心には書かないと思います。

さて、次は1・2キャラ話です。
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