目次第2話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第4集 30万HIT記念リクエストSS

Written by B
「はぁ……」


ひびきのから遙か離れたここは京都。
大学のキャンパスでひとりため息をつく女性。彼女の名は麻生華澄という。
季節は真夏までもうすぐ、キャンパスも緑に包まれているときに彼女だけが冬のように暗い。


「ふぅ……」


ベンチに1人ため息をついている。視線も定まっておらず、目もうつろ。5月でもないのに、どことなく無気力に見えている。周りへも近寄りがたい雰囲気を広げている。
しかし、1人の作業服姿の女性がずかずかと彼女の前に立つ。


「かすみ〜、な〜に暗くなってるのよ」

「えっ……ま、舞佳!」


華澄の一番の親友の舞佳がなぜか目の前に現れ、驚きの声がキャンパスに響いた。






二人は場所を変え、キャンパスの近くにある喫茶店に入る。二人はすぐにコーヒーを頼むと、話し始める。


「ビックリしたわよ。いきなり大声だすんだから」

「驚くに決まってるわよ。ひびきのにいるんじゃないの?」

「1ヶ月ばかりこっちに出稼ぎバイトしてるのよ」

「こっちに来るなら連絡くれてもいいじゃない」

「だって、会う機会なんて無いと思ったからさぁ」

「確かに……どうせ舞佳のことだから24時間ほぼ全部がバイトでしょ?」

「当たり」

「はぁ……」


華澄は思わずため息をつく。そんな華澄に舞佳は首をかしげる。


「ところで華澄。さっきから暗いけどなにか悩みでもあるの?」

「う〜ん……そうなのよ……」

「せっかくだから、あたしが聞いてあげるわよ」

「そうねぇ……じゃあ、聞いてくれる?」


そういうと華澄は自分の悩みを話し始めた。






華澄の話をじっくりと聞いていた舞佳は、いつのまにか来たコーヒーを飲みながらさらに尋ねる。


「ええ?まだ、進路悩んでるの?だって、あと半年で卒業でしょ?」

「そうよ。このままでいいのかなぁ……って、最近ずっと悩んでる」

「だって、教師になりたかったから、ここに来てるんでしょ?」

「そうだけど……やっぱり不安なのよ。だから毎日考えているんだけど、なんにも解決する方法が見えてこなくてさらに悩んじゃうのよ」

「考えすぎなんじゃないの?」

「でも、嫌でも考えちゃうのよ。周りの友達は就職活動で忙しいのをみると、自分は卒業したらどうなるんだろう、って考えちゃう……」

「う〜ん……」


この間もなんどもため息をついていた華澄をみて、舞佳はしばらく黙って考え込む。しかし、何かを思いついたのか、舞佳が突然にんまりと笑い出す。


「ねぇ、華澄。気分転換に1日アルバイトしてみない?アルバイトぐらい経験あるでしょ?」

「アルバイト?ファーストフードとか家庭教師とかあるけど……何で?」

「それしか考えていないからいけないのよ。一度悩みから解放されてみたら?何か見えるかもよ」

「そんなアルバイトあるの?」

「ええ、非日常の世界ってやつね」

「う〜ん……せっかくの舞佳のおすすめだし……やってみようかな……」

「そうこなくっちゃ」


そういうわけで、華澄は突然のアルバイトを受けることになった。
期日は来週の日曜日。場所は鈴鹿とのこと。






そしてその翌週の日曜日がやってきた。アルバイトの現地に到着した華澄はどことなく不満そう。


「舞佳」

「なに?」

「こういうことだったの?」

「いや、ちょうど1人が舞台の最終オーディションとかで急に来れなくなったみたいでねぇ〜」

「舞佳がやらないの?」

「あたしは、まかないのバイトがあるから」

「………」


今の華澄の格好はというと……オレンジと白を基調にした衣装。ベースはオレンジで白とオレンジの縁取りがされているシンプルなデザイン。上はタンクトップのようなデザイン。ただし、下は胸の下ぎりぎりで切られており、おへそはもちろん丸見えだが、下胸も見えるか見えないかぎりぎりのところ。そして下はミニのタイトスカート風。

華澄は知らぬ間にレースクィーンのアルバイトを受けてしまっていたのだ。

先週の時点で何をやるのかまったく聞いていなかった華澄も悪いのだが。最初から説明しようとしなかった舞佳もまた問題であった。


「舞佳、私、こんな経験ないんだけど!」

「大丈夫。ただ立ってにこっと笑っていればいいのよ」

「それで私の悩みは解決されるの」

「それでも見えてくるのはあるのよ」

「えっ?」

「まあ、今日は普段の自分は忘れて楽しんだら?」

「う〜ん……」

「あっ、そうそう。もう1人バイトの子がくるから仲良くしてあげて……あっ、来た来た!お〜い、こっちこっち!」


舞佳が手を振っている方向は、チームの更衣室があるところ。そこから、華澄と同じ格好をした女の子がやってきた。途中、近くを歩いているスタッフに丁寧に挨拶しながら近づいてくる。


「舞佳さん。おはようございます」

「よく、1人で来れたわね」

「いや、友達のバイクに乗せてもらったから……あははは」

「ふ〜ん、それで今日一緒の人は別の人だから。あの人は舞台の最終オーディションなんだって」

「へぇ〜、すごいなぁ……それで今日の人は?」

「この人よ、あたしの一番の親友で華澄って言うの。華澄、こっちは白雪真帆っていって、前にもここの経験があるの。仲良くしてあげて?」

「経験って、私も2回目なんですけど……まあいいや。華澄さん、よろしくお願いします!」

「こちらこそ、お願いね」

(ハキハキしていて可愛らしい子……それに、何、その大きさ……舞佳よりも大きくない?)


華澄は舞佳の知り合いらしい、真帆という女の子と一緒に仕事をすることになった。






さっそく、レース前のガレージの前に出る。自分のチームのバイクを前に、パラソルをかざし、二人並んでポーズを決め、周りの男達の視線を集める。
華澄は自分の体をじろじろ見られる視線を恥ずかしく感じながらも、にっこりと笑ってみせる。一方の真帆は少しは慣れたもので、手を振りながらカメラ小僧のシャッターを浴び続けている。
華澄は真帆にこっそりと聞いてみる。


「ところで、私たちってこうしている意味あるの?」

「あるみたいですよ。私たちがいるおかげで、レーサーにファンが集まらないでしょ?私たち、チームのアシスタントなんですから」

「あっ……本当だ……そういうことだったんだ」

「私もこのまえ初めて知ったんですけどね……レースクィーンって男向けのただのお飾りじゃないって。まあ、半分宣伝含みのお飾りの面もあるんだけどね」

(ふ〜ん、それならもう少し気楽にしてみようかな)


すこし肩をすくめて笑っている真帆。それをみた華澄は少しだけ無駄な力が抜けたような感覚を受けた。そこからは華澄も周りのファンに手を振ったりしながら、レースクィーンを楽しむことにした。


「でも、たくさんの視線を浴びるって、ちょっと気持ちいいわね」

「舞佳さんったら『見られると体が締まっていいのよん』ですって」

「舞佳、そんなこと言ってたの?」

「ええ、舞佳さん。何度かやったことがあるみたいですよ」

「そうなの?知らなかった……今度絶対に引っ張り出してやるわ……」

「あははは!華澄さんと舞佳さんならもうファンがごったがえしますよ!」

「うふふふ、ありがとう」


すっかりエンジョイしている華澄、真帆と楽しく話をできようになっていた。そんな会話の時の笑顔もまた綺麗で、笑っているときも、シャッターがバチバチ光っていた。
いつの間にか「このチームのレースクィーンは毎回上玉揃い」との評判を得ていた、このチームのガレージの前はトップクラスの人だかりであった。






レースが始まれば、しばらくはすることがない。控え室で腹ごしらえをすることにする。
「いくつかのチームで掛け持ちでやっててねぇ」というまかないのアルバイトをしている舞佳が、忙しい合間を縫って作った特性の焼きそばを作っておいてあった。小さなTV画面でレースの状況を見ながら、お昼にする。
そして、自然と話はお互いの話になる。


「ええっ?真帆さん、ひびきの?私もひびきのなの」

「そうなんですか!あっ、舞佳さんと友達だっていうからそうか……」

「16歳でしょ?高校はどこ?……ええっ!きらめき!すごいじゃない!」

「い、いや、たいしたことじゃないですけど……」

「そんなことないわよ!あそこは私でも入るのは無理だって言われたんだから」

「い、いやぁ、たまたま受かっただけですよ……本当にそうなんですから……」


華澄は真帆がひびきのの住民ということで、テンションが徐々に上がり始める。真帆もテンションが上がっている華澄を抑えながら話を会わせている。


「ところで、昔の舞佳さんはどうだったんですか?」

「今も昔もあんな感じ。もう自由気ままで仕事大好きで、とってもポジティブで……」

「ふ〜ん、そうなんだ……」

「中学の頃からのつきあいよ、舞佳の相手して本当に苦労したこともあるわよ。でも私にとっては一番の友達、これは一生変わらないと思う」

「いいですね。そんな友達がいるって」

「えっ?真帆さんは?」

「友達はたくさんいます。でも一生ものの一番の友達がいるかっていうと……それに近い人はいますけど、華澄さんと舞佳さんみたいな、強い絆ってものを感じたことがまだないんです。だから、うらやましいなって思います」

(そうなんだ……そういうものなのかしら……友達って)


華澄は自分を羨ましがる真帆をみて、舞佳の存在の大きさを少し感じていた。






そしてレースは中盤に入る。華澄や真帆も選手はスタッフにドリンクを配ったり、交代した選手の体を冷やすべく、団扇で仰いだり、時には別の場所に行ったスタッフを呼びに走ったり。以外とやることはたくさんあって忙しい。


(あら?真帆さんはどこに行ったのかしら?)


そんななかで、華澄は真帆がいつの間にかいなくなっていることに気付いた。さっきから、ガレージにいないし、戻ってきてもいない。

しばらくしたら、真帆が誰かを連れてきて戻ってきた。その誰かをみて華澄はびっくり。


「舞佳!」


ニコニコ顔の真帆が連れてきた人は、自分と同じレースクィーン姿の舞佳だった。舞佳は珍しく恥ずかしそうにしながらも、ばっちりと衣装を着こなしていた。まったく予想外の舞佳の姿に驚いてしまう。


「どうして舞佳が!」

「いやぁ、真帆ちゃんに何度も頼まれちゃって……華澄と一緒にやったらって」

「バイトはどうしたの?」

「まかないがすんだら、今日のあたしの仕事は終わりなのよ……そこを真帆ちゃんに見つかっちゃって」

「だって、久しぶりに会ったんでしょ?せっかくの機会だからって、私が舞佳さんに何度も頼んだんです」

「あたしもせっかく華澄と久しぶりだからさ……いいかな?って思っちゃって……予備の服を着ちゃったの」

「そういうことで、3人で頑張ってやりましょ!」


真帆の計らいで、華澄は舞佳と一緒とレースクィーンをすることになった。とは行っても、これからの仕事はレースクィーンというよりもアシスタントの仕事がメインなのだが。あと、舞佳は突然入り込んできたわけだが、このチームとはつきあいが長いので、喜んで迎え入れられた。ただし無給である。


「そういえば、華澄と一緒に仕事なんて初めてかも」

「そうね。舞佳と一緒に仕事するなんて夢にも思わなかったわよ」

「そういえば、昔はいつも一緒だったわよねぇ……ほんと華澄と一緒なんて久しぶりね」

「格好は全然違うけどね」


舞佳が入ってからは、華澄と舞佳はずっと一緒にいた。似たような身長で、スタイルもいい二人が並ぶとそれだけでガレージ内が華やぐ。一方、こんな状況をセッティングした真帆は、二人に気を遣ってか少し離れたところでスタッフと話をしていた。






そして、レースは終盤。自分たちのチームは久々に入賞圏内に入っているようだ。華澄は舞佳、真帆と一緒にレースを映し出すTV画面に食い入るように見つめている。


「舞佳、結構いい走りしてるんじゃない?」

「そうね、もしかしたら表彰台もあるわよ。上位はまだ混戦模様だから」

「華澄さん!いまたくさん抜きましたよ!」

「ちょっと!今3位じゃない!」

「これはすごいものが見られるかもしれないわよ!」


残り周回数も少ない。必要なピットインの回数も終わっている。だからチームでやることは無線で情報と指示を与えるだけ。あとはレーサーにまかせるしかない。スタッフも固唾をのんでレース展開を見守る。


「あと1週だわ!」

「おらぁ!行け行け!」

「がんばって!もうすこしもうすこし!」

「やったぁ!ゴールだ!」

「すごい……こんなの初めて……」


そしてバイクは3位でフィニッシュ。そのとたんガレージ内は大騒ぎ。初めての表彰台なのだ。大騒ぎは当然だ。ガレージの外では、歓喜の表情を取材しようとマスコミも集まっている。そんななかでも、大はしゃぎしている華澄、舞佳、真帆の3人の姿はカメラの視線を集めていた。

そして、その後のバイク雑誌ではレーサーの両頬に同時に祝福のキスしてる華澄と舞佳の写真が載ることになる。






そして、夜。舞佳のミニで高速を走っている。実は祝勝会にも誘われたのたが、真帆が明日学校があるので、今日中にひびきのに帰さなくてはいけないため、残念がりながらも断った。これから華澄を自宅に送った後、舞佳と真帆はそのままひびきのに帰る予定だ。


「舞佳、今日はありがとう。楽しかった」

「どういたしまして。私も楽しかった……真帆ちゃんのおかげだけどね」


その真帆は後部座席でぐっすりと眠っている。華澄は助手席に座っている。


「しかし、彼女ってとてもいい子ね。こんな子最近いないわよ」

「そうなのよ。だから、いろいろバイトを紹介したくなるのよ」

「そうなんだ。でも舞佳がそうしたくなるのもわかるわよ」






「それで……少しは悩み晴れたの?」

「う〜ん、少しだけだけどね……でも」

「でも?」

「実は秋に教育実習に行かなきゃだけど……決めた……ひびきのに帰る」

「えっ、本当?」

「大学の近くの高校でもよかったんだけど……ひびきの高校にする」

「大学に行ってから夏休みや正月でも戻らなかった華澄がどうして?」

「今日舞佳と一緒にいて……高校のときの私と舞佳を思い出したの……だから、あそこに行ったら昔の自分に戻れるかなって。あのころの自分が、今の私の悩みを解決してくれるかもしれない。そう思ったから」

「そうね……華澄って、なんか意地になって里帰りしてなかったからね。いいかも」

「うん。なんか今日一日過ごして気持ちがすっきりしたみたい」

「じゃあ、また秋に会えるってことね」

「そういうこと。日程とか決まったら連絡するから、今度はひびきので遊びましょ」

「わかったわ。楽しみにしてるわよ」


ため息ばかりついていた華澄はそこにはいない。もうすでに悩みがなくなったかのような顔をしている。舞佳もそれをみてとても嬉しいのか鼻歌まじりに運転している。


華澄にとって、とても重要な日だったと振り返ることになる1日はこうして幕を閉じた。


そして久しぶりに帰ったひびきので思いがけない再会を果たすことになるのだが、それはまた別の話。
To be continued
後書き 兼 言い訳
まずは薫さんリクエストの「華澄さんのお話。まだ大学生なのでバイトの話でも書いて頂ければ」に対するSSです。

予想以上に長くなってしまいました。どれもこれもみんな凡な展開を盛り込みすぎたからです(汗
まあ、さーびす!さーびすぅ!ということで思い切って入れてしまいました。まあ、イメージをふくらまして楽しんでいただければと(笑)
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