第2話目次

太陽の恵み、光の恵 外伝

第4集 30万HIT記念リクエストSS

Written by B
夏真っ盛りの日曜日の午後。
きらめき市駅前の映画館はたくさんの観客でにぎわっている。
そこから出てきた一組のカップル。ショートカットの女の子がうっとりした顔つきで彼氏の腕に抱きつくように歩いている。


『おもしろかったね』
『そうだな。いい映画だったね』
『ああいうストーリーっていいよねぇ……なぁんか甘えたくなっちゃう♪』
『あははは』


最近話題の恋愛映画をみて、いい雰囲気の二人は近くのレストラン『Srelli Manna』に入っていった。




今の二人が出てきた映画館の隣の古びた映画館から別のカップルが出てきた。白いヘアバンドがとても似合うストレートロングの女の子が彼氏と腕を組んで満足そうな顔を見せている。


「おもしろかったわね」
「確かに、いい映画なんだけど……」
「でもちょっと刺激が足りなかったわね……もっとストレートにやればいいのに」
「別にそういう映画じゃないんだから……」


名画座でなぜかやっていた「エマ○エル夫人」を鑑賞し、いい雰囲気?の二人は先ほどの二人とおなじレストランに入った。




騒動はここから始まった。




後のカップルがレストランに入ると、評判の制服を着たウェイトレスがすぐにやってきた。


「いらっしゃいませ〜……あら詩織さんに高見君」
「あら、真帆さん。今日はここでバイト?」
「うん、普段は平日なんだけど、シフトの都合で……それでタバコは?」
「吸うわけないでしょ!」
「いや、詩織なら聞いてもおかしくない」
「公人!私はやめたんだから」
「禁煙席ですね……じゃあこっちです……」


二人の知人である真帆は禁煙席のテーブルに二人を案内した。ちょうど通路越しの隣のテーブルには、ここに入ったばかりと思われるカップルがいた。窓側のテーブルに座ったそのカップルは、お互い向かい合って、配られたばかりの水に口を付けているところだ。

詩織と公人は中側のテーブル。お互い向かい合って座ったところで、真帆がメニューと水を持ってやってきた。


「メニューはこちらです」
「いや、今は食べないから、じゃあコー「ビール2つ、ジョッキで。あとポテトフライも」」
「は、はい……」


公人が注文する前に詩織が強引に注文してしまう。真帆はそのまま注文を受けて下がってしまう。公人も諦めたようだ。


「まだ、日も暮れてないぞ?」
「いいの!」
「わかったよ……」




詩織はちらりと隣のテーブルを見てみる。そしてテーブル越しに公人のほうに身を乗り出す。公人は詩織を抑えながらすこし身を乗り出し、詩織に顔をちかづける。


「ねぇねぇ公人、隣のカップル見た?」
「えっ、隣?」
「ペアルックよ!いまどきペアルックなんて見たことないわよ!」
「う〜ん……別にいいんじゃない?」
「結婚しているならともかく、そうじゃなければただのバカップルよ!」


隣のカップルは確かにペアルックだ。上は、青と緑のチェックのTシャツ。下はジーンズとジーンズ柄のスカートという格好。


「それにあの女の方!すごくスカートがミニじゃない。あれじゃあ、パンツ見てって言ってるようなものじゃない」
「まあ、彼女の好みなんじゃないの?」
「もう、あんなエッチなのよく着られるわね!」


ちなみに詩織の衣装は上は白のブラウスに下はピンクのロングスカートという、いかにも清純そうなイメージを醸し出している。


「公人、私もあんなミニのスカート着て欲しい?」
「う〜ん……詩織じゃあ似合わないと思うけど……」
「失礼ね!じゃあ、似合うってことを証明してやる!」
「うわぁ!、そこでスカートを破こうとするな!」




公人が詩織を抑えたところで、注文の品がやってきた。自分たちのテーブルにはビールがジョッキで2個。そして中央に山盛りのポテトフライ。一方、問題のお隣のテーブルは男性はコーヒー。女性のほうは紅茶とショートケーキ。


「かんぱ〜い」
「かんぱ〜い」
「ごくごく……はぁ〜、やっぱりビールはおいしいねぇ……」
「俺たち未成年だぞ……ごくごく……」
「いいのよ。オトナなことは、毎晩してるから。となりのカップルもしてるはずよ」
「それはビールと関係ないけど……」


しばらくは二人とも大人しく?ビールを飲んで、ポテトフライを食べている。しかし、隣の様子に詩織が気付いてしまった。


「公人、ちょっと見てよ!」
「見なくてもいいのに」
「女の子が男の子に『あ〜ん♪』ってやってるわよ」
「別にいいじゃないか」
「悔しい!わたしもやる!」
「えっ?」


詩織は中央のポテトフライを3つばかりつまみ、公人の前に差し出す。


「はい、公人、あ〜ん♪」
「あ〜ん……もぐもぐ……」
「公人、おいしい?」
「ああ、おいしいよ」
「嬉しい♪」


すこし甘ったるい声で公人に食べるようにせかす。公人はぱくっといただく。それを見て詩織はにっこりとほほえむ。それをみて公人も笑顔で返す。詩織のことをなんだかんだいいながら、公人も詩織が喜ぶことをわかってやっている。

嬉しそうな詩織だが、ちらりと隣をみると今度は男性が女性にあ〜んとやっているのが見えた。


「公人、私も」
「えっ?」
「だから〜、わかってるでしょ?」


公人が隣をみて、事情を察知したようだ。指で自分の方向にくいくいと曲げてジェスチャーする詩織の希望に答えるべく、公人もポテトフライを4つばかりつまんで、詩織に差し出す。


「はい、詩織、あ〜ん」
「あ〜ん♪」
「おいしいかい?」
「うん、おいしい♪」
「よかったな」
「うん♪」


詩織は極上の笑顔を公人に見せている。




詩織はちらりと隣をみて、何かに気がついた。


「ちょっと!あのカップルいつの間にかくっついているわよ」
「ああ、たしかさっき女の子が動いてたな」
「なによ。あのいちゃいちゃぶり!」


隣のテーブルはいつの間にか女性が男性と同じほうのソファーに座っている。二人はくっついていちゃいちゃしている。見るとどうも女性のほうが積極的だ。


「悔しい!私もいちゃいちゃする!」
「お、おい!」
「したいったら、したいの!」
「だから、そこから入るなよ」
「夜ばいみたいでいいでしょ?」


詩織も公人の隣に移動すべく、テーブルの下に潜った。そして公人の下からはい上がり、公人の隣に座った。ちなみに隣のテーブルの女性は普通に通路から座る位置を変えている。


「これでOK。さっ、公人、いちゃいちゃしよ♪」
「いちゃいちゃって……まあ、とりあえず、飲むぞ」
「そうね。かんぱ〜い♪」
「かんぱ〜い……」


テンションが高くなっている詩織はぐいぐいとビールを飲んでいく。しかし、それほど強くないため、さらにテンションが上がっていく。




「公人、まだあっち『あ〜ん』ってやってるわよ!」
「そんなこと言ったって、ポテトフライ食べ終わってるぞ?何か頼むか?」


確かにテーブルにはポテトフライが入っていた空のお皿と、のこり1/5ぐらいのジョッキが2個しかない。しかし、それで諦める詩織ではない。


「うぅ〜ん……公人!手、貸して!」
「手?一体なにを……って、ええっ!」
「あ〜ん♪」


詩織は公人の右手首をつかみ、唖然としている公人を無視して、口の前に持ってくると、公人の人差し指をぱっくりとくわえ込んでしまった。


「あむっ……れろれろ……ぺろぺろ……おいしぃ♪」


そして、公人の人差し指をゆっくりと公人に見せるようにねっとりと舐める。そして舐め終わると公人に向かって満面の笑み。


「詩織……こんなところでなにやるんだよ……」
「でも、ちょっと嬉しいでしょ?」
「ま、まあ……」
「公人が喜んでくれるなら、私はなんでもしてあげられるの」


詩織自身もとても満足そうだ。しかし、それは隣のテーブルを見るまでのほんの短い間だけ。


「なんですってぇ……」




詩織は隣の公人にさらに密着した。驚く公人の顔の前5センチに顔を突き出す。


「公人」
「なんだよ」
「見てよ、隣!私に喧嘩売ってるわよ、絶対!」
「なんでだよ。隣のどこが……って、え゛っ」
「でしょ?」


よく見ると、隣のカップルの男性がケーキを一口ほおばると、横にみっちりくっついている女の子にキスを繰り返している。よく見ると、キスの時間がかなり長い。なにかもぞもぞ顔が動いている。


「口移ししてるわよ!こんな公衆の前でよ?馬鹿じゃないの?」
「……それで?」
「私もやりたい!公人、やって!」
「やれって……ビールで?泡も抜けて苦いだけだぞ?」
「いいの!」
「やれやれ……」


そういうと、公人はかなり泡の抜けたビールを一口含むと、詩織の唇に自分の唇をくっつける。そして唇の隙間からビールを注ぎ込む。


「んんっ……」


詩織の吐息が唇の隙間から漏れている。しばらくすると唇が離れる。
いつの間にか公人の眼光が鋭くなり、詩織の目がとろ〜んとしてしまっている。


「まったく、詩織はいやらしいなぁ」
「そうなの……詩織はいやらしいの……」
「やれやれ、とことんやってやらないと満足しないとは、世話が焼ける女だ」
「はい、詩織は出来の悪い女です……公人、お願いだからおしおきして……」
「ああ、とことんこの場でおしおき……」





「いい加減にしなさい!」





突然の大声に公人も詩織も目つきが元に戻り、はっとした表情になる。2人はテーブル横で仁王立ちしているウェイトレスをみる。


「あら、真帆さん……」
「白雪さん……」


真帆はかなりおかんむりの様子だ。


「あのねぇ。ここは高見くんの部屋じゃないの。レストラン!!」
「突然どうしたの?」
「どうしたもないでしょ!チーフがびっくりしてたわよ『目がいっちゃってる!』って!私はよくわからないけど『Sの目とMの目に変わってる!』って!」
「そうだった?」
「そこまでは私はわからないけど、レストランですごいことをしてたのは確か!私まで恥ずかしくなっちゃったじゃないの!」
「………」
「周り見なさいよ。みんな引いてるわよ!お願いだから部屋でいちゃいちゃするか、大人しく食べるかどっちかにしてよ!」
「「ご、ごめんなさい……」」


詩織がかわそうとしているが、真っ赤な顔の真帆にはまったく通用しない。さすがの詩織と公人も素直に謝るしかなかった。




よく見ると、隣のカップルもウェイトレスに怒られてる。


「あのねぇ。ここはそういう喫茶店じゃないんだから。そういう場所だったら、宅配のバイトで何件か知ってるから紹介してあげるわよ」
「い、いや……そこまでは……」
「あなたたち、若くて大胆なのはいいけど、周りから見えないようにやるのがマナーよん」
「マ、マナーって」
「とにかく!場所を変えて仕切りなおしたほうがいいわよ……知ってる?隣が影響受けまくってたのよ?」
「………」


隣のカップルは素直に店から出て行くようだ。会計で代金を払うと逃げるように出て行ってしまった。




隣のカップルがでていくのを見送ったあと、真帆がぎろっと二人をにらんで一言。


「それで?ご・ちゅ・う・も・ん・は?」


かなりの気迫に公人も詩織も反論できない。


「チーズケーキとコーヒーをそれぞれふたつずつ……」


結局公人と詩織は大人しくケーキとコーヒーをいただいてから店を出て行った。






ところで、先程逃げるように店から出て行ったカップルの話を聞いてみることにする。


「ところで光。俺もおかしかったけど、光はもっとおかしかったぞ。どうしたんだ?」

「だってさ……隣のカップルがラブラブだったんだもん。
 見た?彼女の首。あれチョーカーとかじゃなくて、絶対に首輪!
 それと彼氏の右の手首には、その首輪を繋げるような鎖が巻き付いてあったんだよ!
 あと、あそこからピンクのラブラブオーラがむんむんと伝わってきたの。
 悔しいじゃない!私たちだって、ラブラブなのは負けないんだから!だから意地張っちゃって……」

「………」


どうやらどっちもどっち、五十歩百歩のバカップルであったようだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
最後は30万のキリ番を踏まれたC.TOEさんリクエストの「詩織夫妻と光夫妻による、バカップルによる馬鹿っぷりを自慢するバトル 略してB4」に対するSSです。

この夫婦は未だに面識がないため、どうやってぶつけようかと考えた結果が、この有様です(苦笑)
自慢しているわけではないですが、隣のラブラブに負けたくないようで(笑)

砂糖100%を希望していたのですが、どうしても味○素とか片栗粉とか塩とか、違う粉がたくさん混じってしまいました(笑)

そういうわけで、リクエストSS3本が終わりました。ご満足いただけたでしょうか?
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