目次第2話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
きらめき高校の放課後の体育館。
今日も女子バスケ部が日々の練習に明け暮れている。

今は4月。入学式では満開の桜が散り終わろうとしている。
学校では新入生の勧誘が一段落し、新しい部員が加わり、新人教育とインターハイへ向けての猛練習が始まろうとしている。


「恵、遅かったじゃない」


そんななか、女子バスケ部は今休憩中。
体育館の隅で部長の奈津江がちょうどやってきたマネージャーを見つけた。
そのマネージャーは大きめのバインダーを一つ胸に両腕で抱えながら、スポーツドリンクをがぶ飲みしている奈津江のところにやってくる。


「ごめん、さっきまで女子マネ会議があったから」
「女子マネ会議?ああ、例の親睦会?」
「うん、今日は新しい女子マネも入ったから顔合わせと言うことで」


大きい水色のリボンで髪をポニーテイルにまとめているこの女の子は十一夜恵。
奈津江の中学からの友人で同じクラスでもある。


「ところで、新しいマネージャーはウチにも来たけど他にも入ったの?」
「うん、サッカー部とかも入ったし、久々に野球部にも入ったの」
「へぇ〜!」
「それでね……その野球部の子の教育係を私がやることになって……」
「へぇ〜……ん?」


ところで、話は本題に入ったようで、恵が困った表情を見せる。
感心したように相づちを打った奈津江も、ふとなにかに気づいたようで視線を上げちょっと考え込んだ。


「あれ?そういうのは虹野が適任じゃないの?」
「うん……私もそう思ったし、沙希ちゃんもやる気だったんだけど、みのりちゃんが猛反対で……」
「みのりちゃん?」
「サッカー部の沙希ちゃんの後輩の……」
「ああ!あのバッテンの!」
「『虹野先輩に任せたら死んじゃいます!』だって」
「あははは!大げさだなぁ、いくら虹野が根性好きだからって死ぬことまでは」
「それが『トレーニングだからって、私に鉄下駄履かせたんですよ!他にもマネージャー養成ギブスとか……』だって」
「あ……は、はははは……虹野、やりすぎだって……」
「『「強さは体の大きさじゃないの、心の強さなの!」って言われても無理です!』だって」
「あのな……」
「それで私が担当に……」
「はぁ、それはしょうがないな。まあ、こっちのマネージャーの教育もあるけど頑張って」


がっくりと頭を垂れる恵の右肩を奈津江はポンと叩く。
その奈津江はすこし顔を青くしながらも苦笑い。よほどのことを想像していたのだろう。


「それで、今日の練習後に彼女の様子を見に行くの。ほら、野球部はウチの練習後もやってるから」
「ふ〜ん……恵、私も行っていい?」
「いいけど?」
「野球部に入る物好きの顔をちょっと見てみたいからね」


そう言う物好きのこの発言が今回の騒動を大げさにし、結果的に騒動が解決した原因となるわけだが、今はそんなことに当然理解しているわけもない。



「あの子がそう?」
「うん、あれが1年生の大倉さん」
「へぇ〜、背も高いし細身で美人じゃん!まっ、私にはかなわないけど」
「そんなことはいいから、行こ?」


夕暮れのグラウンド。
先ほどでてきた某根性マネージャーの声援が響くサッカー部の近くで、野球部の選手のかけ声も大きく響く。
運動系の部活も練習を終えて片づけをしているところがあるなかで、野球部はまだ終わる気配がない。

そんなグラウンドの片隅で、新人マネージャーがじっとグラウンドの様子を見ている。
そこにやってきた制服姿の二人。恵と奈津江である。


「大倉さん」
「あっ、先輩こんにちは。これからよろしくお願いします」
「ううん、こちらこそよろしくね」


二人に気づいて頭を深々と下げるロングの髪の女の子。
恵の後ろにいた奈津江が恵の前にまわってその女の子の前に立つ。


「あんたが野球部のマネージャーさん?」
「はい……あのぉ……」
「あっ、私は女子バスケ部の部長の鞠川奈津江」
「あれ?奈津江ちゃん、もう芹沢でしょ?」
「ちょ……ちょっと間違えただけよ!」


後ろからの恵の冷静なツッコミに顔を真っ赤する。


「と、とにかく恵と古いつきあいだからよろしくね。ところであなたの名前は?」
「はい、大倉都子と言います」
「ふ〜ん、いい名前じゃない。まっ、マネージャーって縁の下の力持ちでやりがいがある仕事だって恵もいってるから、頑張ってやればいいことがあるからくじけずに続けなさいよ!」
「はい!頑張ります!」


満面の笑顔の都子。
やる気がみなぎっていることが伝わっているようで恵も奈津江もほっとした様子。



グラウンドでは白の練習着を真っ黒にして声を出し続けている部員達が大勢。


「大倉さん、ところで今は何してるの?」
「はい、今は1年生も交えてノックの真っ最中です」
「1年生も?」
「ええ、実力を見るためだそうです」


そういって都子は外野に視線を向ける。
外野には上級生に混じって、明らかに体の線が細く練習着も新しい、1年生と分かる部員がたくさんいる。
声を張り上げて左右に打ち上げられるフライを懸命に追いかけている。


(……あれ?)


その視線と表情に奈津江は何かを感じた。
すっと、都子の横に立ち小さな声で聞いてみる。


「大倉さん。外野に誰かいるの?」
「え、えっ?ど、どうしてですか?」
「いや、ずっと外野ばっかり見ていたからさ」
「い、い、いやぁ、ただの腐れ縁ですよ」


手を横に振り否定しつつも顔を真っ赤にする都子。
さらに奈津江の質問は続く。


「腐れ縁?私、誰も指さしてもいないんだけど、外野のどっかに幼馴染みがいるの?」
「あっ……」


赤い顔がさらに真っ赤になる都子。


「………」
「ふ〜ん、彼なんだ」


そして黙ったまま照れくさそうに視線をそらしながらも指さす先には一人の部員の姿。


「いや、ホントに玲也とは腐れ縁ですって!」
「ほんと?」
「本当です!」
(……これ以上聞いても無駄ね)


さらに否定する都子に対して奈津江は追求することをあきらめたようだ。
こうして都子との初顔合わせが終わった。



翌朝。


「う〜ん……」
「だから、どうしたの?朝からずっと考え込んで」


一緒に登校した恵と奈津江だが、横で恵が何を話しかけても奈津江は話もそこそこにずっと考え込んだ様子。
そんな状況で等々校舎までたどり着いてしまった。


「ねぇ、もしかして昨日のこと?」
「……恵、昨日の大倉さんを見てどう思う?」
「どう思うって、しっかりしてて返事もハキハキしてて、マネージャーとしては……」
「あっ、そういうことじゃなくて、腐れ縁って人のこと」
「奈津江ちゃん、よくわからないんだけど、もっとわかりやすく言ってくれないかな?」


腕組みしてじっと前を見て考え込む奈津江の質問に横の恵も答えられない。答えられるわけがない、質問があいまいすぎるのだから。
前からのぞき込むようにして答える恵に奈津江はようやく視線を合わせる。


「ごめんごめん、いや、その腐れ縁に対する大倉さんの視線がどうも気になってね……」
「視線?知っている人だから目につくだけじゃないの?」
「そう?あの視線は完璧に彼のことがが好きな視線よ。あのあっつぅ〜い視線は絶対そう!それに腐れ縁だって必死に否定していたのもそう」
「そうなの?」
「うん、間違いない」
「私は幼馴染みがいないから、そういうのは奈津江ちゃんじゃないとわからないと思うけど、それだけじゃないの?」
「そこなんだよ……なんかあの視線がなんかアブナイ感じでさ……誰かに似てるんだよ……」


そういって奈津江がふと横を見るとそこは3年A組の教室。
ガラスを挟んだ教室の中に一人の女の子を見つける。
そのとたん、奈津江の顔が思いっきり引きつる。そして右手で両目でふさぎながら天を仰ぐ。


「うわぁ、あいつだ。よりによってあの馬鹿女と同じとは……うわぁ、最悪だこりゃ、絶対あいつトラブル起こすぞ……あ〜あ、なんでこんなトラブルに巻き込まれるのかなぁ……」
「奈津江ちゃん?一人で何言ってるの?」
「はぁ〜、しょうがない、なんかむかつくからあいつも引き込んでやるか……」
「あの〜」
「あっ、恵ごめん、先行っててくれない?」
「どうしたの?」
「ちょっと、大倉さんのことであいつにも教えたほうがいいかと思ってね、じゃあ!」
「あっ……もう奈津江ったらしょうがないんだから」


人の話を全く聞いていないことに不満な恵だが、奈津江に悪気はないということもわかっているので仕方ない、という表情をしている。
それでも始業時間までまだ余裕なので恵は奈津江が戻ってくるまで廊下で待つことにした。


「お〜い!馬鹿女いるか〜!」


そんな奈津江の大声が2人の教室でもなんでもない3年A組の教室に響き渡ったのはその直後である。


(……やっぱり先に行こうかな……)
To be continued
後書き 兼 言い訳
さて、久々に書いたよ。
もうHPでの整形の仕方も忘れかけてたし、それでもせっかく書いたので上げることにします。

さて、テーマは4の都子です。
ブログのほうでもチラリと書いてますが、4の都子シナリオでどうしても解せない点が2点、
 ・普通の女子高生があの状態ですぐにオカルトに手が出せるわけないだろ!
 ・っていうか、周りが気づくだろ! 周りがなんとかしないのかよ!
そんな自分の疑問を「恵」の世界で強引に解決して自分を納得させようという自己満足の趣向です。
(4の世界だけでのこの答えは私はわかりません)

サブタイトルが「都子」ではなく「都子」になっているのは当の都子はろくに出番がないからです(苦笑)都子がそうなんですから、他の4キャラは出るわけがありません。
文字通り、都子の周りにたむろしている先輩達がメインです。
そういうわけで、これは4SSではなくれっきとした1SSです(終盤に2と3キャラも出ますけど)。
目次へ
 ページ先頭に戻る  > 第2話へ進む