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太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
「どう?彼女が言うには『ただの腐れ縁』だって言うけど」
「そんなの嘘、嘘。大嘘にきまってるわよ!」
「でしょ?」


放課後の屋上。
屋上からグラウンドの野球部マネージャーを眺めている2人の女の子。
奈津江と彼女の言う馬鹿女こと藤崎詩織である。

馬鹿女とは言ってはいるが詩織は奈津江の恋愛の相談相手になったことからの大親友だから言えること。
今朝、奈津江がそんな詩織に大倉さんを見て欲しいと頼んでいた。







余談だが朝の会話とはこんな調子である。

「ちょっと、馬鹿女とは失礼ね」
「馬鹿女は馬鹿女だ。ところで詩織に頼みがある」
「なに?」
「ちょっと気になる1年の女の子がいてさ……」
「えっ、奈津江ちゃん、芹沢君に飽きて女の子に手をだすの?」


ボカッ!


「いったぁ〜い!グーで殴った!上から殴った!」
「話は最後まで聞け!そいつがどうも幼馴染みのことが好きっぽくて、私としてはどうも気になるのよ。詩織も気になるでしょ?」
「幼馴染み?確かにそれは気になるわね」
「だから、放課後ちょっとつきあってよ」
「えっ、それってデートの……いはいいはい!ほっへつままないへ!」
「うるさい!そういうやつは、たぁ〜てたぁ〜て、よぉ〜こよぉ〜こ、まぁ〜〜〜〜〜るかぁいてちょん!」
「痛い!ほっぺ痛い!」
「とにかくだまってつき合えばいいの!」

ちなみに詩織は学校では優等生キャラを作っているのだが、奈津江相手だとどうしてもこういう素が出た会話になってしまうらしい。そもそも奈津江が詩織のことを優等生などとはまったく思っていないのだから仕方がない。
まあ、たくさんの生徒が注目しているのを気にせず堂々と詩織にドツキツッコミをする奈津江も奈津江なのだが。







野球部のマネージャーの様子を屋上から並んで観察しているそんな2人。
視線はグラウンドに向けつつ話は進む。

「ところで、彼女の視線みてどう思う?」
「もう彼しか見えません!って感じでとってもアブナイわね」
「っていうか、詩織もあんな感じだったけど」
「そう?私はあそこまで酷くないわよ?」
「いいや、酷かった!それはともかく、なんか彼女があのときの詩織に見えてどうしても不安になるんだよね」
「えっ?彼女なにか問題起こすの?学校の窓ガラスを割って歩くとか、盗んだバイクで走り出すとか?」
「そんなの詩織でもやってないでしょ!」
「きゃっ!」

すかさず横を向いて殴ろうとするポーズをする奈津江と受けようとするポーズを見せる詩織。
実際に奈津江が殴ることはなく、また元通りに視線をグラウンドにもどす。

「それにしても、肝心の彼は彼女のことに気づいていないみたいだから、かなりタチが悪そうね」
「そこよそこ!私も詩織も実はずっと前から両想いでした、でしょ?彼女の場合そうでなさそうなのよ、だから余計に心配で……ほら、私としてはやっぱり好きな幼馴染みと結ばれて欲しいじゃない?」
「そうね、そこは私もそう思う。」
「でも私の予感だと、詩織の言うとおり絶対に彼女は幼馴染みと何かトラブルを起こす。だから、そのときに私と一緒に彼女をサポートしてほしいのよ」

「十一夜さんは?」
「占いとかで協力してくれるみたいだけど、幼馴染みのことはわからないからそれ以上は無理だって」
「あれ?オカルトやめたんじゃ」
「占いだけは続けてるみたい。前みたいに占いの結果が絶対、ということはないみたいだけど。相変わらず占いは結構当たるみたい。まっ、詩織はそんなのぜ〜んぜん信じないから関係ないと思うけど」

「早乙女くんは?」
「あいつは言われなくても1年の情報なんて夕子と一緒に集めてるはずだから、必要なときに聞けばすぐ教えてくれるわよ。まっ、ちょっと頼んでみるけど」
「わかったわ。何ができるかよくわからないけど、幼馴染みとの恋は応援しなくちゃね」
「珍しく話がわかるじゃない」

こうして2人の話はついたのだが、この時点で2人が想像したトラブルよりも実際はもっとやっかいなものであることにまだ気づくわけがなかった。







それから1週間もたたないある夜のこと。
凶は公人は宿題に取り組むということで、詩織もおとなしく自分の部屋で机に座って宿題に取り組んでいる。


♪♪♪♪♪♪♪


「あれ?早乙女くんから?!」

詩織の携帯電話に早乙女好雄からの電話が掛かってきた。
詩織の携帯電話の番号を知っている公人以外の唯一の男子と言ってよい。
とはいえ、情報入手のために好雄に番号は教えたものの、好雄は詩織への用件でも公人を通じて伝えてくるため、直接掛かけてきたことはこれまでまったくない。
詩織はびっくりしながらも電話をとる。

「もしもし、早乙女くん?」
『そう、俺様がきらめき高校に愛と幸せと座布団を運ぶ愛のスーパー伝道師、早乙女好雄だ』
「……切っていいかしら?」
『じょ、冗談だって!そのぐらいわかってよ!』

焦った声が携帯から聞こえてくる。
それを聞いてくすくすと笑い出す詩織。

「うふふ、冗談よ。ところで用件はなに?」
『え〜っと、1年の大倉都子だっけ?鞠川からそいつの情報が入ったら詩織ちゃんのところに先に入れろって言われててね』
「芹沢でしょ?」
『ああ、そうだった。でもそれだと勝馬と紛らわしいから鞠川のほうが話がわかりやすいだろ?』
「それもそうね。ところでなんで奈津江ちゃんより先なの?」
『「夜は家事で忙しいから話は学校で聞く」だってさ』
「ふ〜ん、なるほどねぇ。それで、なにか情報が入ったの?」
『ああ、そいつがどうも1年の女の子の情報を集めまくっているらしいぜ』
「えっ?」
『夕子が偶然仕入れた情報なんだけどさ、そいつが1年のいろんな女の子に話しかけていろいろ聞いているようだ。しかも、1年の中で人気が出そうなかわいい子ばっかり。ちなみにその後で俺に電話が来た』
「そうなの?!」
『ああ、しかも男子の情報じゃなくて女子の情報を求めにだ、まあ俺は自分から理由を聞かない主義なのでなんでかは聞かなかったけど』
「ちなみに、その情報を男子に教えているところは?」
『その目撃談はないみたいだ。そこが不思議でしょうがないんだけどな』

詩織はすこし考えて話を続ける。

「じゃあ、1年の永井玲也くんって知っている?」
『ああ、当然だけど、そいつ大倉都子となにか関係があるのか?』
「腐れ縁だって」
『ふ〜ん、腐れ縁ねぇ、メモメモ……てぇっと……ということは……ふむふむ、そういうことか』
「何かわかったの?」
『いや、さっきの話だけどどうもそいつに関係があるかもしれないぜ』
「どういうこと?」

『いや、大倉さんって知ってると思うけど、1年の中でトップ3に入る美人だろ?だから学年問わず俺へ情報の問い合わせがたくさん来てるんだよ。でも肝心の大倉の関心はどうもその腐れ縁のそいつしかないらしい』
「……つまり、彼に関する情報集め?」
『その可能性は高い……でも、なんでだ?……わざわざライバルになりそうな奴の情報を集めてどうするつもりだ?詩織ちゃん、わかる?』
「私もわからないわ」

『大倉さんがそんなことしても無駄だと思うんだけどな』
「無駄?」
『ああ、永井って奴は1年で野球部のベンチ入りメンバーになりそうな注目株だ。勉強もそこそこできるみたいで、ちょっと気になってる女子は意外といて、俺も情報を教えてるけど、そいつの関心も大倉以外ないんだぜ』
「ちなみ、大倉さんのことはどう思ってるの?」
『今の情報だと……まあ友達ぐらいってとこかな』
「……はぁ、やっぱりね……」

『あっ、そうだ詩織ちゃん。ついでだけど、大倉が永井のことどう思ってるかわかるか?』
「奈津江ちゃんも同じこと言うと思うけど『もう好きで好きで彼がいなくなったら死んじゃう!』ってぐらい好きだと思うわ」

ちなみに奈津江はそこまで言ってない。

『おいおい、そこまで言うかよ。メモメモ……しっかしこいつら腐れ縁って言う割に態度が真逆じゃないか』
「でしょ?だから、奈津江ちゃんも私も気になるのよ」
『だから鞠川が言ってきたのか……よし、事情はわかったから、情報も集めやすい。これからも何かあったら情報入れるからな』
「わざわざありがとう」
『いえいえ、このぐらい当然だって。あっ、夕子にも話を入れとくけど、いいか?』
「いいわよ」







『じゃあ、相棒によろしくってことで、おやすみ〜』
「おやすみなさい」


ピッ!


スイッチを切ると携帯を布団にポイと投げつける。
そして、両足を机の上に乗せて椅子に寄りかかって思いっきり背伸びをする。

「はぁ〜……もう話がややこしくなってるじゃない!大倉さんの行動おかしいし!それに彼は恋愛感情まるでナシって!……もう奈津江ちゃんのお節介!」

詩織が愚痴ってももう遅い。
足を突っ込んだ以上逃げるわけにも行かず、今後の展開がやっかいなものにならなければいいなと思う詩織だった。

しかし現実は残念ながら予想どおり、いやその斜め上を行く展開になっていく。
To be continued
後書き 兼 言い訳
段落間の流儀をすっかり忘れている(汗

それはともかく、都子世代は1世代の2年下、という設定にしています。
そうなると、都子がいなくても学校随一の情報通はいまだ健在なわけで。

まあ、それだとしても玲也くんは情報は都子からしかもらわないでしょうけどね(笑)

あっ、都子の幼馴染み(つまり4主人公格)は「永井玲也」としました。漫画版の苗字にブログでポコ氏が推薦した名前を付けました(実はプレイヤーという言葉から玲也ってつけたSSを一つ知ってるんですけどね。そういう意味ではベタかも)
ちなみに彼は見られているだけでたぶんしゃべりません(笑)
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