太陽の恵み、光の恵 外伝
第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜
その3 都子、お弁当を作る
Written by B
「恵、そういえば野球部の大倉さんには教育してるの?」
「そんなにしてないよ。彼女要領いいから少し教えただけですぐに理解してくるからラクなの」
「ふ〜ん、うちに欲しいぐらい?」
「それを言ったらウチの子達がかわいそうでしょ」
5月。
インターハイに向けて部活も佳境に入ってくる。
1年生部員の教育も終わり、完璧に大会に向けての練習が続いているところ。
女子バスケ部はただいま休憩中。
汗びっしょりの部長鞠川はタオルで顔の汗を拭いているところ。
「やっほ〜、奈津江ちゃんいる〜?」
そんな女子バスケ部の休憩中にいつのまにかやってきたお客さん。
「あれ、夕子?どうしたの?」
「ちょっとちょっと」
「なんだ?あ、恵、ちょっと行ってくるわ」
「あまり長くならないでね」
お客様こと朝日奈夕子が体育館の隅から奈津江を手招きで呼んでいる。
どうも内緒話のようなので奈津江のほうから夕子のところに行く。
そして、2人とも壁側に顔を向けて内緒話。
「夕子、いったいなんなの?こんな時間に」
「いや、夜でもいいけどさぁ。ほら、いいところを邪魔しちゃ悪いじゃない、奥さん♪」
「余計なお世話。ところで話は?」
「1年の大倉さんの話」
「なんであんたが?」
「好雄からお手伝いを頼まれちゃったからね」
「ふ〜ん……まあ、旦那様のお手伝いは当然よね♪」
「……今年の文化祭のベストカップル、絶対あんたたちにしてやるからね……覚悟しなさいよ……」
「まぁまぁ。早く教えてよ」
本題に入ろうとしたところでちょっと寄り道をしてしまっている。
からかわれた夕子は不満この上ないが用件を先に済ませることにする。
「いやね。今日のお昼に彼女とえ〜っとだれだっけ?」
「永井くん?」
「そうそう!その子と屋上で一緒にお弁当食べてたよ」
「へぇ〜」
「たまたま屋上にいて偶然みかけただけなんだけどね。でもどうも彼女が彼のためにお弁当作って来てたみたい」
「ほぉ〜、積極的じゃない!それで、お弁当の中身は?」
「う〜ん、遠くからこっそり見てたからよくわからなかったけど、かすかに聞こえてきた会話ではどうも彼の好みが盛りだくさんだったみたい。確か2人って幼馴染みだよね?」
「そうそう。ふ〜ん、でも2人ともいい雰囲気じゃない!」
「そうかなぁ?」
「えっ?何かよくないことでも?」
いい感じだと喜んでいた奈津江だがどうも夕子が同意してくれない。逆に不安そうな口調になっている。
理由を聞く奈津江の声がさらに小さくなる。夕子も小さな声で答える。
「いやね、彼の反応があまり嬉しそうな感じじゃなかったんだよね」
「そうなの?好みの弁当で?」
「う〜ん……なんか『オイシイ御飯にありつけた』ぐらいの反応でしかないように見えたんだよね」
「それを見てる大倉さんは?」
「彼女は彼女で彼がお弁当を食べるところをうっとり眺めているだけでなぁ〜んにも考えてないっぽい」
「あちゃぁ〜」
「ねぇ……あの2人大丈夫なの?どうも彼が彼女の本心になぁ〜〜んにも気づいてないみたいだし、彼女は彼女で彼の様子にまったく気づいてないみたいだし」
「夕子もそう思うでしょ?それが心配でこうして情報頼んでるのよ」
「なるほどねぇ」
結局2人がさらに不安になったところで休憩時間は終了となった。
その夜。
奈津江の住んでいるアパート。
「はぁ〜……」
「何だよ奈津江。最近どうもため息が多いぞ」
「そう?」
TV画面に映っているのはバラエティ番組なのに笑いもせずにため息ばかりの奈津江。パジャマ姿でちゃぶ台に両肘で頬杖をついている。
その横でいるのは芹沢勝馬。奈津江の幼馴染みであり同棲相手である。
高校生の同棲なので広いアパートに住めるわけがなく、1DKの狭いアパートに暮らしているのでTVも1台しかないものを一緒に見るしかない。
「なんか悩みでもあるのか?ん?もう今月の生活費が足りないのか?」
「それは大丈夫なんだけどさ……ねぇ、勝馬、中学の時にもしあたしが勝馬にお昼のお弁当作ってきた、としたらどう思ってた?」
「なんだいきなり?どうしたんだ?」
「いや、ちょっと気になってね、勝馬ならどう思うかって」
「高校じゃなくて中学のとき?」
「そう」
「う〜ん……そりゃ『昼飯代が助かった』ぐらいにしか思ってないな」
「うっ……」
勝馬の答えに奈津江の左の頬杖がはずれてずっこけそうになった。
「ん?どうした?なんか変だったか?」
「あ、あのさぁ。幼馴染みが端麗込めてつくったお弁当見てなんとも思わないの?」
「思うわけないだろ」
「思うわけない?」
「ああ、赤の他人が作ってきたのなら『こいつ、気があるのか?』ぐらい考えるかもしれねぇけど、奈津江だろ?『親切で作ってきてくれた』ぐらいに考えるのが普通だぞ?」
「なんで?」
「幼馴染みだからだよ。近いから逆に本心がわからないってやつ……俺たちがそうだっただろ?」
「うん……そうだったね……」
両腕の頬杖を外し、がっくりと頭を下げる奈津江。
(そうだよね、近いから気がつかないんだよね……確かにあたしも詩織もそうだったんだよね……はぁ……先が思いやられる……)
昔の2人の姿に心を痛めつつ、これからの2人のことを心配している奈津江だった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
ちょっと短いですけど、都子のお弁当のお話第一弾です。
三段階目はまだ考えてないけど、四段階目は書こうかと思っています。
で、問題の二段階目は都子自身に語っていただこうかと。
たぶん、最初にお弁当を食べた玲也くんの気持ちは「うまい弁当」ぐらいの認識しかなかったでしょうね。だから次のときにはあんないかにもときメモ主人公たる超鈍感発言になったんでしょうね。
いや、あの超鈍感発言はある意味お約束とはいえ、かなり問題発言ですけどね(笑)