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太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
「先輩、おじゃまします」
「うん、遠慮なく入って。私の部屋で説明するから」


5月も終わりが近づき、いよいよインターハイ本番が近づいている。
そんな日曜日に恵は家に都子を招待した。
恋する都子のために恵が手助けをしようと思って部屋に呼んだのだが、名目はマネージャー業の個別指導となっている。

とはいっても、マネージャー業で別の部の人が指導できることもあまり多くない上に、要領のいい都子にこれ以上指導することもあまりないのだが、呼び出す理由としては未だに有効である。

そんな恵の思惑に気づいていない都子は恵の部屋の前で緊張気味。


「失礼します……」
「うふふ、そんなに緊張しなくたっていいのに」
「で、でもぉ……」


ガチャ


「ほらほら!さっさと入る!」
「うわぁ!」


恵はドアを開けるとなかなか入ろうとしない都子の背中に回って無理矢理押して入れさせる。


「はい、別に緊張する部屋でないでしょ?」
「は、はい……うわぁ、すごい本ですね……」


都子が驚いているのは壁一面の巨大な本棚。
写真立てとかぬいぐるみとか水晶玉などが置いてある棚もあるが半分以上は本。


「都子ちゃん、直立不動で見ていないで!後で見せてあげるから」
「は、はい……」
「じゃあ、そこに座って」


恵に言うがままに座る都子だが視線は本に釘付けだった。


「じゃあ、早速夏休みでのことを教えるからね」
「は……はい!」
「じゃあ、合宿の準備について説明するね。まずは合宿所の手配なんだけど……」


ようやく都子は我に返り、恵の指導を受けることになった。



「……じゃあ、布団はそのまま置いておけば後で片づけてくれるんですね」
「そうそう。あと、マネージャー用の部屋の鍵を最後に管理人さんに返すのを忘れないでね」
「はい」
「う〜ん、私が説明できるのはそんなところかな……あとは野球部の先輩に聞いて?」
「わかりました、どうもありがとうございました」
「いえいえ」


恵が指導している間は都子も集中して聞いている。
ポイントを的確に捉えて、自分が説明し忘れているところも聞いてくる。
こういう気配りの良さは自分とこのマネージャーも見習って欲しい、と恵も感心するぐらいだ。


「じゃあ、飲み物持ってくるからちょっと休んでて」
「はい」
「さっきまで本が気になってたでしょ?見ていいよ」
「いいんですか?」
「いいよ。じゃあ、ごゆっくり」


そう言って恵は部屋から出て行った。

そのとたん、都子はすぐに立ち上がって本棚の前に猛ダッシュしていた。




ガチャ


「おまたせ〜」
「………」


恵がお盆に麦茶を乗せて部屋にはいると案の定都子は本にくらいついていた。
本棚にくっつくぐらいに体を寄せ、立ったままじっと本を見ている。
お盆をテーブルに置くと、都子の真後ろに立つ。都子はまったく気づいていない。


「都子ちゃん」
「………」

「都子さ〜〜ん?」
「………」

「大倉さん!」
「は、はい!」


びっくりして後ろを振り向く都子。


「そんなに夢中になって、面白い本でもあったの?」
「い、いや、そんなことは……」
(うふふ、やっぱりね……)


都子がくいついていたのは「恋のおまじない」と書かれたピンクの本。
なんで都子がこの本を見ているのかは恵は十分承知。そしてこの本でなくても何かに夢中になっていることも予想ずみ。


「占いとかおまじないの本ばっかりなのに、何かあるのかな?」
「い、いえ、そ、そん、そんなことは……と、ところで、せ、せ、先輩はおまじないとかするんですか?」


かなり焦っているみたいで、いつものハキハキ感がなく恐る恐るの口調になっている都子。
そんな都子に思わず笑いそうになる恵だが、笑わずに何食わぬ顔で返事をする。


「うふふ、前はかなり凝っていたんだけど、今は占いだけ」
「えっ?なんでやめちゃったんですか?」
「う〜ん……おまじないする必要がなくなっちゃったから」
「えっ?」
「そういうこと……そうだ、せっかくだから好きなの何冊かあげるよ」
「ほんと!いいんですか!」
「いいよ。もう使わないから古本屋さんにでも売ろうと思ってたところだから」
「じゃ、じゃあ、もうちょっと見ていいですか?!」
「好きなだけどうぞ」
「ありがとうございます!」


オーバー気味に大げさに頭を下げる都子。
そしてすぐに背を向けてたくさんの本の背表紙を物色して読み始めた。


(うふふ……やっぱり気になってしょうがないじゃない……ん?)


予想通りの行動に本にかぶりついて見ている都子をみて思わず笑ってしまうぐらいだったが、ちょうど彼女の手にある本を見ていてふと思った。


(あれ?……あの本なんだったっけ?)


重厚そうな濃紅色の表紙の古い本。5センチほどの厚さで背表紙にはどこかの国の文字と思われるものが書かれているが、なんと読むのかよくわからない。
確かに古本屋で買ったような記憶があるが読んだ記憶がおぼろげ。


「都子ちゃん、ちょっとその本見せて」
「えっ?先輩この本がなにかあるんですか?」
「うん、この本なんだったかな?と思って」


そういいながら開いている本を見る恵。


(えっ?……読めないんだけど……なんでこんな本買っちゃったんだろう?)


中をみるとよくわからない文字で書かれており、読み方すらよく分からない。
図は豊富であるが、なにやら魔法陣とか薬の作り方らしきものが書かれているが、それもよくわからない。
とにかく恵にはまったく理解できない。


「どうですか先輩」
「う〜ん、よく分からない」
「えっ?」
「たぶん、気の迷いで買っちゃったと思う。使い物にならないから見なくていいよ」
「そうですか。わかりました」


そういうと都子はその本を足元に置くと別の本を読み始めた。
読む都子は真剣な表情で恵のことなど気になっていない様子だ。


(うふふふ、それにしても都子ちゃん、本当に真剣ね……こんなに真剣なら、奈津江ちゃんが心配しなくても普通に想いは伝わるんじゃないかなぁ?)


そんな都子を見て恵は今後のことを楽観的に見ていたが、実際はそんなに事は素直に運ぶわけがなかった。
To be continued
後書き 兼 言い訳
イベントでもなんでもない場面ですが、これを入れないと話が成り立たない。
まあ、種明かしのようなお話ですが、そういうことです。
次にはもう都子がヤミ化します。
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