第5話目次第7話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
6月になりインターハイもピークを過ぎたのある日の放課後の教室。
奈津江が恵が座っている机に腰掛けてなにやら表情を青ざめながらどなっている。
教室には何人かまだ残っているが、奈津江が騒いでいるのはよくあることだから周りはそれほど気にしていない。


「奈津江ちゃん、だから本当に変にみえないんだけど」
「どこが?!あれのどこが普通なの?!絶対なんか取り憑かれてるって!」
「本当なの?」
「だって、彼女の周りにどす黒いオーラが見えるって!」
「きゃっ!」
「ほら、あそこ!わかるでしょ!?」


奈津江は恵の腕をつかんで立ち上がると、教室の窓に向かう。
そして窓からグラウンドに向かって指さす。
指さした先には野球部の練習につき合っている都子がいる。


「う〜ん、確かに後ろに縛っていた髪を降ろしたりとか、ちょっと元気ないかな?という気はするけど……」
「それだけ?!だって見えない?あの黒いオーラが?!」
「そんなこと言っても見えないんだけど……」
「なんで!?」


少し顔を真っ赤にして話す奈津江の言葉が恵にはさっぱり理解できていない。恵には奈津江のいうものが本当に見えていないのだからそれしか言いようがない。





とにかく困ってしまった恵は困ってしまう。


「そんなに言われても見えないものは見えないんだけど……う〜ん……ん?」
「どうしたの恵?」
「奈津江ちゃん。あのペンダントってしてる?」
「聞くまでもないでしょ?それが?」
「ちょっとだけでいいから外してくれない?」


「……はぁ?」


恵の最後の言葉に奈津江の顔が一気に真っ赤になった。
あきらかに怒っている。


「ちょっと、恵……私に喧嘩売ってる?」
「い、いや、そういうわけじゃなくて……」
「わかってるでしょ!このペンダントは勝馬とおそろいの愛のペンダントで命の次に大切なものなのよ!よほどがない限り二十四時間肌身離さず付けているのを外せって……あのねぇ……」
「そんなことは何度も何度も聞いてわかってるって!」
「じゃあなによ!」
「奈津江ちゃん!話を最後まで聞いてよ!」


半分キレて今にも殴りかからんとしている奈津江に対して、滅多に出さないぐらい声を張り上げて抑える恵。
ひとまず少しだけ落ち着いた奈津江にすぐに恵が説明する。


「そのペンダントは水晶でしょ!」
「そうよ」
「水晶って力があって、もしかしたらその力で大倉さんの姿が見えているんじゃないかと思ったの!それを外したら私が言っていることがわかるんじゃないかと思ったの!」
「そうなの?」
「そうに決まってるでしょ!私には淳君がいるのに、なんで奈津江ちゃんと勝馬君の間を裂く必要があるの?そこまで私信用されてないの?!」
「……ごめん」
「奈津江ちゃんったら、自分のことに夢中になるのはいいけど、こっちの言い分もちゃんと聞いてよ!」
「……ごめん」
「聞いてるの?!」
「聞いてるって!今すぐ外すって!」
「早くしなさいよ!」


いつの間にか恵が顔を真っ赤にして、半分逆ギレの状態になっており、さっきまでキレかかっていた奈津江が必死で抑えている状態に。
奈津江は大あわてで首元から鎖をたぐり寄せ、制服の胸元から水晶のペンダントを取り出し、外す。
外したペンダントは近くにある机の上に置く。


「はぁ、本当に変わるのかねぇ……ぇ、え?」


ペンダントから手を離し、2メートルほど少し場所を離れてグラウンドを見る。
奈津江の顔が一瞬固まる。


「見えない……ちょ、ちょっと」


慌てて机に戻りペンダントを握りしめ、再び視線をグラウンドに。


「確かに見える……見えてる」


またペンダントを机に置いて、またそこから離れてグラウンドを見る。


「見えない!見えてない!」


奈津江の顔から汗が何滴かしたたり落ちている。
顔色も少し青い。
一人であっちこっち飛び回って顔が引きつっている奈津江に冷静さを取り戻した恵が呼び止める。


「奈津江ちゃん、いったい……」
「恵!ちょっとペンダント持ってみて!」
「えっ?」
「いいから持ちなさいよ!」
「だってこれ、勝馬君との愛の……」
「今日だけ許す!今だけ許すから持ちなさいよ!」
「でも……」
「恵の言うとおりだった!持ってみたら私が言っていることが分かるから」
「わかったけど……じゃあ、一緒に持ってくれない?」
「そんなに嫌なの?」
「嫌じゃないけど、一人で持つのはちょっと気が引けるから」
「わかったわよ」


戻ってきた奈津江はペンダントを握りしめると恵の前にその拳を突きつける。
恵はその拳に両手で包み込むように触ってグラウンドを見る。
その瞬間恵の顔が引きつり、顔が少しだけ青くなった。


「う、うそ……見えた……」
「見えたでしょ?」
「うん、確かに黒いオーラが」
「普通じゃないでしょ?」
「うん、あれ普通じゃない……絶対取り憑かれてる」





状況の共通認識を得た二人は奈津江の席に戻る。
ペンダントを首から身につけ直した奈津江は自分の席に寄りかかるように座り込む。


「ねぇ、恵。まさか彼女に変な事教えてないよね?」
「教えてはないけど……」
「けど、ってなによ」
「うん、実は……」


奈津江の前の席に横座りをした恵はこの前、都子が自分の家に来たときの事を話した。


「大倉さん、そのとき何冊かおまじないの本を持ち帰ったんだけど……」
「まさかそれが原因で……」
「そんなことないよ。だって私黒魔術とかそんな危ないおまじないの本なんて持ってないよ」
「そうなの?」
「本当だって。ちょっと似たものもあるけど、少なくとも自分があんなになるものはないって……あれ?」


「ちょっと、恵、あれって……」
「一冊だけ……よく分からない本があった……」


恵の顔がさらに青くなった。
その様子に奈津江はただならぬ気配を感じた。


「ねぇ、恵、もしかして……」
「いや、そんなことはないと思うんだけど……だって、その本わからない文字で書かれてあって、そもそも読み方がわからないし、図だけ見ても意味がわからないし……」
「でも、持ち帰ったんでしょ?」
「うん。でも少なくとも大倉さんじゃ理解できないと思う」
「う〜ん、確かに変な文字が読める人じゃなさそうだし」
「それに、そういう呪いとか魔術とか、素人が簡単にできるものじゃないよ。少なくとも本人があそこまで取り憑かれているほどのレベルならなおさら」





「……という恵の話なんだけど」
「う〜ん、結局よくわからない、ってことでしょ?」
「そういうこと」


翌日の放課後。
恵と話してもなにも解決できなかったので詩織に頼んで彼女の様子を見てもらった。
ただいま、学校の屋上から野球部のグラウンドにいる都子を観察中。


「あの黒オーラは尋常じゃないでしょ?」
「うん、なんかホラー映画みているみたいね」
「でしょ?私も初めて見たとき何度も見ちゃったわよ」
「私も……ところで、大倉さんがああなっちゃった原因ってわかってるの?」
「全然。なんかきっかけがあったかと思って早乙女に聞いてみたんだけど、そういう情報はないって」
「じゃあ、人が見ていないところで何かあったわけね」
「たぶんね」



「奈津江、ところで大倉さんどうするの?」
「それなんだよね……そこが問題なのよ」
「十一夜さんはなんとかできないの?」
「それなんだけどさ……つい先週おまじない関係の本ほとんど売っちゃったんだってさ」
「うわぁ、最悪のタイミングじゃない」
「まあ、恵から言わせれば、そもそもああいうのを解く方法が書かれた本は持ってなかったって」

「そっか、じゃあ様子見ということでしかないわけね」
「そういうこと……はぁ……彼女、いったいどうしちゃったんだろう?」
「気になるなら直接聞いてみたら?」
「詩織……まともな回答が貰えると思う?私たちがあの立場だったらどうなるか」
「あ……」
「いくら聞かれても『なんでもない』って返事して終わりでしょ?」
「そうね、確かに無理ね……はぁ……」
「まったく、あの男はこういうときになんとかしようと思わないのかねぇ……」


「「はぁ……」」


二人で話をしたところで、対策すら立てずにため息をつくだけで終わってしまった。


「ところで詩織。確かに私は『魔よけとかあれば持ってきて』と言ったけど……まさかアレ持ってきたの?」
「決まってるじゃない。私が持ってる一番の魔よけはアレよ。見たい?」
「そんなぶっそうなモン見たくないわよ!」
「大丈夫よ、ちゃんと古式さんのところで銃刀法の登録してもらってるから」
「そういう問題じゃない!」
「本当は未成年の私が持っちゃいけないし、そもそも持ち歩いちゃいけないんだけど、見つからなきゃ大丈夫」
「大丈夫なわけないでしょ!」
To be continued
後書き 兼 言い訳
さて、ようやく都子がヤミ化しました。
急なところがありますが、その間の事情は後で本人から語ってもらいます。

さて、ここから都子を更正させるわけですが、ゲーム本編では大きく分けて2通りあります。
簡単に言えば「とにかく評価を上げる」か「うさぎさん殴りまくり」の2通り。
ここの話では後者を選択します。

次はそこらへんの話。
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