第6話目次第8話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
例の1年生マネージャーがヘンテコな状態になってから1週間後の土曜日の夜。
きらめき市内の外れの住宅街のとある一角。


「イヒヒヒヒ……い〜けないんだぁ〜」


高さ50センチほどのウサギのような不気味なものが、鉄パイプを持って電信柱の影からなにやら見ている。


「イヒヒヒヒ」


視線の遙か先にはあのマネージャーの幼馴染みが帰宅しているところ。
この男は目の前にそんな物体が待ち伏せしているとは全く気づいていない。
辺りにはだれもいないようだ。


「浮気はいけないんだぁ〜」


このウサギのようなものはこんな事を言っているが、実際は浮気などしていない。
この男は、部活からの帰り道にたまたまクラスメイトの女の子とその親友にバッタリ出くわしたところに、これまた偶然にわか雨が降ってきて、雨宿りついでに親友の実家でもある喫茶店に寄って世間話をしていただけだ。
本人は浮気のうの字も頭にないし、相手の女の子も恋愛のれの字も頭にない。


「ワルイ子はおしおきなんだぁ〜」


どこでそんな情報を知ったかわからないが、このウサギのようなものはそれを浮気と思っているようだ。




ちょんちょん


「ん?」


そんなウサギみたいなものの肩を後ろからつつくものが。


「なんだ〜?」


振り向くウサギみたいなの。


「今晩は、化け物さん」
「?」


目の前には黒いライダースーツの背の固い女性が屈んで見ている。


「見るからにどうも悪い化け物さんのようね」
「?」
「私、ちょっと心得があるの」
「!?」


ウサギみたいなのは少し硬直している。
目の前の女性は立ち上がると精神を集中するように息を整えている。


「!!!」


ウサギみたいなのは彼女がそれまで全く見せなかった殺気を一気に増幅させているのを感じた。
そしてその殺気が自分に向かっていることも。


「ヒィィ〜〜〜〜〜〜!!!」


身の危険を感じたウサギさんは瞬時にその場からいなくなってしまった。
取り残されたのは女性だけ。


「う〜ん、化け物退治は無理なのかな……あとで芹華さんに連絡しよう……」


そういって女性は近くにあったバイクに乗って立ち去っていった。

そして、その直後に例の幼馴染みは何事もなくその場所を通り過ぎていった。




次の日の日曜日の夜。


「イヒヒヒヒ」


またもやウサギのようなものは同じ場所にいた。


「浮気はいけないんだぁ〜」


手にはスパナのようなものを持って電柱の影から待っているのはまたもあの男。


「さびしいょぉ〜」


今日の彼だが、野球の道具を買いにスポーツショップに出かけたら、同学年の女子サッカー部の女の子とバッタリ出くわし、「最近、都子が元気ないんだけど、何か知ってるか?」という相談を受けたので、近くのファミレスに移動して話を聞いているうちに、スポーツ談義で盛り上がっていただけのことである。
もちろん彼の頭の中には浮気もへったくれもない。


「こんどこそお仕置きなんだぁ〜」


昨日のこともあるので近くにバイクがないことは確認しているウサギみたいなもの。
顔はまったく変化しないが、今日こそは、という感じの雰囲気だけは漂わせていた。





「出たな化け物!」


そんなときに後ろから聞こえる威勢のいい声。
振り向くと、青の横縞のTシャツにデニムのショートパンツ姿というラフな格好の女の子が仁王立ちで立っている。


「あなたみたいな悪はこの和泉恭子が許さないわ!」
「………?」


びっしっとウサギさんを指さす女の子。
なんだこいつ?という感じで首をかしげるウサギみたいなもの。
どうやら怖さはなにも感じていないようだ。


「………?」
「どうしたの!おじけついたの!?」


そんなウサギさんが何かに気づいて視線を女の子からそらした。
視線の先は女の子のすぐ後ろ。


ビリビリビリビリビリビリ!


「ウギャ!」


バタン!


突然電気がショートする音が聞こえたかと思うと、目の前の女の子は悲鳴を上げて倒れてしまった。
どうやら電撃を喰らって気絶したようだ。


「先輩、いいんですか?かなり電圧が高いようでしたけど」
「いいのよ、こんな奴、これでも死なないから」
「放置しても大丈夫なんですか?夏風邪もありますし」
「気にしなくていいわよ。何とかは風邪ひかないし」


代わりにウサギのようなものの目の前に現れたのは白衣姿の女性2人。
背中にはランドセルのような機械を背負い、そこから伸びているホースのようなものを持っていた。


「それよりも早く片づけるわよ」
「そうですね」
「!」


そういうと2人は持っているホースのようなものをウサギのようなものに向けてきた。
ウサギのようなものは、初めて狙いが気絶した女の子ではなく自分だということに気づいた。


「高エネルギー反応があったから、実験材料になってもらうわよ」
「そうよ、お姉さん達が優しくしてあげるから、大丈夫よ」
「!!!」


ウサギさんもようやく目の前の2人のヤバイ雰囲気を感じたようだ。


「ヒィィィィ!セニョォ〜〜〜〜〜ル!」


ウサギのようなものは猛ダッシュでその場から走り去ってしまった。


「あら、逃げられてしまいましたわ、先輩」
「まったく……こいつが邪魔をしなければ捕まえられたのに」
「仕方ありませんわね。夜も遅いですし帰ります?」
「そうね、ここにいるだけ無駄ね」
「夜更かしはお肌の大敵ですわ」


取り残されたのは白衣姿の2人と未だに気絶している女の子。
白衣姿の2人はすぐに立ち去ってしまった。


「はぁはぁ、遅くなっちゃったよ。早く帰らないとテレビが……」


その後で例の男がその場を走り抜けていく。
気絶している女の子にはまったく気づかなかったようだ。





「こ、こんどこそ……」


次の月曜日の夜。
今日は祝日で学校は休み。
それでもこのウサギのようなものは、性懲りもなく同じ場所にいた。


「う、浮気は……セニョ〜ル」


辺りをキョロキョロしながら様子を見ている。
昨日までの怖さよりもどことなく不安な様子が見られる。
バイクも、白衣姿の2人組も、結局何をしにきたのか分からなかった女の子もいない。


「い、いけないんだぁ〜……」


とにかく周りを見て落ち着かないウサギのようなものが待っているのは同じ男。
今日の彼はデパートでウロウロしていたら、和菓子フェアに来ていた同学年の女の子2人組に遭遇、せっかくなので、ということでまたも同じファミレスに寄ったのだが、そこで「和菓子は日本の文化だっちゃ!」とばかりに一人が和菓子について熱く語り始めたのを、巨大パフェに夢中のもう一人の女の子と一緒に黙って聞いていたら遅くなっただけ。毎度の如く彼にとってはただの友達づきあいで、相手も同様。


「セ、セニョ〜ル」


とはいうものの、いまのウサギのようなものにとっては、とにかく安全第一彼第二。
周りを何度も何度もキョロキョロキョロキョロ見渡して、危険人物がいないことを確認する。


「おい、何やってんだ?」
「!!!」


しかしやってきた危険人物。しかもそいつに見つかった。
きらめき高校の女の子らしいが、服装は乱れていてあまりいい生徒ではないらしい。
しかしウサギのようなものは、その女の子からものすごい殺気を感じていた。


「人が聞いてるんだろ、なんか言ったらどうなんだ?」
「………」


ウサギのようなものに少しずつ近づいてきた危険人物。
殺気があまりに怖くて答えることもできない。


「なんだ?酷い目に遭いたいのかぁ?!」



キュピーン!



「ヒィィィィィ!セニョ〜〜〜〜〜ル!」



彼女の目力に完全にびびったウサギのようなものは、一目散に退散。


「あっ、逃げちまった……なんなんだあれは?……ん?」
「あれ?龍光寺さん、どうしたの?」
「ん?永井か。いやなんでもないんだ」
「ふ〜ん、そうなんだ、じゃあね」
「じゃあな」


そして幼馴染みはまたもや何事もなく通り過ぎていった。




その次の週。
きらめき高校のとある教室の朝の会話。


「おい、玲也。最近、化け物が街に現れてるって噂聞いたけど見たことあるか?」
「いや、まったくないよ。正志は?」
「俺はまったくない」
「学も見てないんだよな?」
「見てたら聞いてないよ!でも、どんな化け物なんだろうな。俺は可愛い美少女系がいいなぁ、で、会った瞬間に『あなたが私が求めていたご主人様です!』なんて言われちゃった日にはもうたまんないなぁ!それで、その仲間もまた美少女系でそれも俺に……」
「正志、こいつどうすればいい?」
「いつものことだ。適当に流しとけ」


結局、ウサギさんのたくらみは大失敗に終わり、お目当ての男にはまったく伝わらなかったとさ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
やっとでてきたウサギさん。でも、まったく効果がありませんでした、という話。

「あれ?都子を更正させるのにウサギさん何回登場させればいいんだっけ?」というところがわかなくなり、
攻略本があるのだからそれで調べればいいものを面倒でしらべずに、「まっ、いいか」というところでこんな調子になっています。

さて、次はもう都子がデレ状態になってます。
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