第7話目次第9話

太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
「ちょっと、あの子なんなのよ!」
「奈津江ちゃん。怒らなくてもいいと思うけど」
「そんなこというけど、こっちはどうすればいいのか詩織とずっと悩んでいたのよ!ったくもう……」
「いいじゃない、元に戻ったんだから」


部活が終わり家への帰り道。
奈津江と恵は一緒に帰っているところなのだが、奈津江の機嫌が悪い。

先ほど帰る途中で都子の様子を見ようとグラウンドに立ち寄ったら、都子を覆っていた不気味な黒オーラがまったくなくなっていたのだ。
喜ぶべきところだが、奈津江としてはよく分からないまま問題に直面し、よくわからないまま解決したことが非常に気にくわない。

両手で鞄を持ち背中で背負うように歩く不機嫌な奈津江の横で、恵は両手で鞄を前に持って歩いている。


「それに元に戻ってないわよ。彼女の様子見たでしょ」
「うん、髪型が今度はポニーテイルになってた」
「そうそう、とっても似合っててびっくり……ってことじゃなくて!」
「えっ?違うの?」
「彼への視線!最初に会ったときよりももっとひどくなってるの!」
「そういうことなの?う〜ん、確かに彼ばっかり見ていたような……」
「あの馬鹿女と負けず劣らずのあっつぅ〜い視線。あれはもう病気よ病気!」
「奈津江ちゃんの勝馬くんへ視線は熱くないの?」
「何言ってるの?!私の愛の視線はあの二人なんかに絶対に負け……こら!」
「うふふふふ」
「………」


恵の誘導質問?にまんまと乗せられた奈津江は顔を真っ赤にして反論すらできなくなってしまった。
恵は夏江の顔真っ赤の姿を見てそれで満足した。



とにかく納得できない奈津江は翌日詩織を誘ってグラウンドの外から彼女を観察。
野球部は全員で素振りの時間。都子は歩いて全員に声援を送りながらも様子を確認している。


「詩織、あれどう思う?」
「終わってるわね」
「やっぱり?」
「ええ、『彼がいなくなったら死んじゃう!』ってぐらいに彼しか見えてない。もう手遅れ」
「それ詩織も同じじゃない」
「奈津江ちゃんこそ」
「うっ……」


確かに都子はチラチラと彼の様子を見ている。素振りに熱心な部員達は気づいていないみたいだが、彼女を深く見ればそのチラチラぶりは丸わかりなぐらい。


「しかし、彼女、なんでああなっちゃったの?詩織、わかる?」
「そんなの決まってるじゃない。彼が彼女になにかしたんでしょ?」
「そんなに私にだってわかるわよ。だから具体的に何があったか、ということ!」
「そんなの知らないわよ。でも、もしかしたらもうかぎつけている人が……と思ったらいいところに」
「ん?どうしたの?」


2人の顔の間にひょこっと顔を出したのは朝日奈夕子。放課後だからすでに街に繰り出しているかと思ったら、まだ学校にいたようだ。


「おっ、朝日奈、こんな時間に珍しいな」
「あら?夕子ちゃんどうしたの?」
「あんたたちを探してたからね」
「なんで?」
「あの子のこと」


そういって夕子が指をちょんちょん、と指した先にいるのは2人の悩みの種の彼女


「大倉さんの豹変の理由を教えに来てくれたの?」
「それはあたしが知りたいぐらい、ねぇ、あの子いつからつき合ってるの?」
「つき合ってる?そんな様子みてないわよ、奈津江ちゃん見てる?」
「見てたらこんなところまで来るわけないでしょ。朝日奈、つき合ってるってどういうことよ」
「うん、今日の昼に屋上に行ったら彼女がラブラブお弁当を食べさせてたからさ」
「「ラブラブお弁当?」」

「そっ、あんたたちが作りそ〜なお弁当。ピンクのハートマークがご飯の上にドーンと入っているあれ」
「あの子、そんなもん作ってたの?」
「おまけに、彼に向かって『あーん♪』ってやってた」
「「はぁ?」」
「あたしだって恥ずかしくて好雄にしたことないのに、あの子ふつーに自然にやってたわよ。もうびっくりしちゃった」
「「………」」


詩織は頭をうつむき加減にし、額に右手を当てて悩んでそうな表情をみせ、奈津江は天を仰いで目をつぶっている。
2人ともモノが言えない様子。




「詩織、もうこうなったら直接彼女に聞かないとだめね」


夕子の話を聞いて、あの場にいることも馬鹿馬鹿しくなった詩織と奈津江は自宅へと向かうところ。


「このままだと私たちだけがモヤモヤしているだけで、今まで心配してたのが馬鹿みたいじゃない、そう思わない?」
「それは私もおなじ」
「詩織、生徒会室空いてない?3人で話し合いたいんだけど」
「う〜ん、しばらくは無理」
「なんで?」
「1年生の響野里澄って知ってる?」
「響野?ああ、プロの作曲家で、彩ほどじゃないけど変わってるって子でしょ?」
「そう、優がその子に学校の曲を書いてもらおうとしてて、その打ち合わせで使うみたいなの」
「ふ〜ん、詩織はいなくていいの?」
「うん、『お姉ちゃんが一緒にいると、ろくなことがない』だって」
「納得……とにかく使えないわけか……じゃあ、彼女の家に直接行く?」
「家?」
「そっ、もしかしたら彼女の部屋に手がかりになるものがあるかもしれないし、彼女もリラックスできると思うしね」
「奈津江ちゃん、ただ彼女の部屋を見たいってだけじゃないの?」
「そんなことあるわけないでしょ!まあ、少しはそういうのもあるんだけどね」




翌日の放課後。
そういうわけで、さっそく彼女と交渉すべく野球部のグラウンドに行こうとした二人。
野球部の練習を始めようとしているグラウンドに奈津江がやってきた。
もちろん、お目当てはボールの入った籠を引きずって歩いているマネージャーさん。


「大倉さん、元気にやってる?」
「あっ、先輩。おかげさまで」
「相変わらず大変そうね」
「そんなことないですよ。もう慣れました」
「ふ〜ん、あっ、さっそく話に入るけど、今度のお休みって空いてる?」
「今度?え〜っと、部活もないですし、大丈夫ですけど?」
「いや、一度あなたとゆっくりお話ししたいと思ってね。あんたんち行っていいかしら?」
「私の家ですか?!う〜ん、いいですけど」
「あっ、詩織も一緒でいい?」
「藤崎先輩ですか?ええ、いいですけど」
「じゃあ、10時ごろ寄らせてもらうね」



あっさりと交渉成立した二人。
こうやって、何気なく約束した時間に予想外の事件が起こるのだから、世の中わからないものだ。
To be continued
後書き 兼 言い訳
あっさりと、デレデレ状態になりました。
どうしてこうなったかは、後で本人からかなり簡単に話すことになると思います。

さて、次からこれまでの出来事の真相に入っていくことになります。

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