深夜の町の中。
塾の帰りだろうか、男の子が暗闇の中を家路に向かっていた。
その男の子は背後に何者かがついてきていることに気がつかない。
男の子の後ろをつけていた者は、いきなり背後から男の子を捕まえる。
そしてなにか呪文を唱える。
するとその男の子は気を失ってしまう。
その者は口から牙を出して……
カプッ!
男の子の首に噛み付いた
チュー、チュー、チュー……
そして数秒間血を吸い続けていた。
しばらくして、その者はまたもや呪文を唱えるとどこかに消えてしまった。
男の子はしばらくして意識がもどったようだ。
血を吸われたことはいっさい覚えていないようだ。
そして何事もなかったかのように家路に向かっていった。
その者は実は空を舞っていた。
どうやら家に帰るようだ。
「は〜あ、何で同性の血なんて吸わなきゃいけないんだろう……まあ仕方ないか……」
その者の名は渡瀬公一17歳
そう、彼は『吸血鬼』なのだ
The first story
Written by B
渡瀬公一はひびきの市にすんでいる。
そして、ごく普通のひびきの高校生として過ごしている。
しかし彼は人間ではない。
人の生き血を吸う魔物バンパイアの一族なのである。
バンパイアは空を舞う事ができる。
しかし羽が生えるとかそう言うことはない。
いわゆる「空中浮遊」という言い方が一番合っているだろう。
そして、あらゆる呪術を使うことができる。
さきほど彼が唱えたのはこれの一種だろう。
その代わりに、彼らは血を吸わなければ生きていけないのだ。
しかし、毎日人間の血を吸うわけにはいかない。
1週間に一度、同族の血を吸えば問題がないのだが、
1ヶ月に一度は、人間の血を吸わなければ死に至る危険がある。
ただ、闇雲に人間の血を吸ってはいけない。
それは、バンパイアが異性の人間の血を吸うと、吸われた人間はバンパイアになってしまうからだ。
バンパイアが増えすぎて、必要な人間の血が少なくなってはいけないのだ。
つまり、バンパイアは人間との共存が不可欠な一族なのだ。
ただ、バンパイアになると言っても、吸われた瞬間になるわけではない。
約10年ぐらいの時間をかけて、バンパイアの体へと変化させていく。
これは生まれたバンパイアも約10年ぐらいで一人前のバンパイアへと体が変化する。
それまでは普通の人間と変化がない。
昔は戦争に雇われたり、他の妖怪一族と人間の仲介役として活躍してきた。
しかし、今は人間同様の生活をしている。
渡瀬公一は8歳までひびきのに住んでいた。
しかし、親の仕事の都合で引っ越してしまった。
しかし、高校入学のとき、再び戻ってきた。
その理由は公一の婚約者と顔合わせをするためである。
次の日のお昼。
ひびきの高校の屋上。
公一はある人と待ち合わせをしていた。
「あら、今日も元気みたいね?」
「ああ、昨晩人間の血を吸ったからね」
「で、今日は何の用かしら?」
「わかるだろ……」
「はいはい、しかたないわね……お好きにどうぞ」
「いつも、ごめんな……では……」
カプッ!
「んっ!」
チュー、チュー、チュー……
「ん、んっ……」
「はぁ〜、おいしかった!やっぱり女性の血はおいしいな」
「まったく……昨日人間の血を吸ったばっかりだというのに」
「だって、男の血だぞ……気分的にいやなんだよ……」
「私だっと同じよ……同姓の血を吸うのって、まだ生理的に慣れないのね……」
「まったく、8年も吸い続けているのにな……」
「公一君……」
「なんだい?」
「私も……いいかしら?」
「わかりました……好きなだけどうぞ……」
「なんだかんだいって、ごめんね……では……」
カプッ!
「んっ!」
チュー、チュー、チュー……
「ん、んっ……」
「ふぅ……あなたの血っておいしいのよ……」
公一と血を吸い合っている女性の名は水無月琴子
彼女もバンパイアである。
そして……公一の婚約者である。
婚約者というが、すこし事情が人間と違う。
雄のバンパイアは、18の誕生日に結婚相手を決めて、結婚しなくてはならない。
その相手は自分で指名することができる。
しかし、指名する人がいない場合もある。
そのときは、あらかじめ一族のトップが決めた婚約者と強制的に結婚させられるのだ。
この掟はだれにも破ることは許されない。
破った者は……「死」あるのみである。
水無月琴子はその決められた公一の婚約者なのである。
高校入学したとき、二人の相性は最悪だったが、
高校3年になった今ではとても仲の良い親友である。
これは、二人の性格がうまくあったからであろう。
でも、公一には好きな女性がいた。
その女性が屋上に現れた。
「あっ、公一くんに琴子!こんなところで何してるの?」
「あら、光。いまちょっとお昼ご飯を食べてたところなの」
「ずるい〜!何で私を誘わなかったの?」
「しかたないだろ?光は今日のお昼は部室に用事があるっていうから」
「あっ、そうだったよね……ごめん」
「まあいいよ、じゃあ明日一緒に食べような?」
「うん!」
彼女の名は陽ノ下 光、18歳。
公一とは幼馴染みである。
公一が引っ越す前一番仲の良かった子であり、
今は友達以上恋人未満、いや他人から見れば恋人同然である。
彼女は琴子の中学からの大親友だ。
そして……彼女は人間だった。
普通、バンパイアは人間と深いつきあいはしない。
下手に騒動を起こしては一族の存亡にかかわるからである。
しかし、渡瀬家と陽ノ下家は家族ぐるみのつきあいがあった。
光の父親は大学で歴史上の西洋の妖怪について研究している。
そのせいか、バンパイアについては知識と理解があった。
昔あることをきっかけに光の父と公一の父が親しくなったのを縁でのつきあいだ。
従って、光の両親は公一達がバンパイアであることを知っている。
しかし、光にはそのことは知らされていない。
放課後、光は琴子のいる茶道部室にやってきた。
「琴子。おじゃましていい?」
「あら、光。いいわよ。今日は部活が休みだから遠慮なくどうぞ」
「じゃあ、おじゃまするね」
光は琴子とお茶を飲みながらおしゃべりをしていた。
しかし、しばらくすると光が真剣な顔で話し始めた。
「琴子、ひとつきいていい?」
「ええ、いいわよ」
「琴子……もしかして、公一君のこと好き?」
「えっ?」
「最近の琴子……変だよ」
「どうして?」
「初めて琴子が公一君と会ったときは、あまり興味がないみたいだったけど……」
「ええ、最初はぱっとしない男だと思っていたわ」
「でも、最近公一君と琴子……仲がいいね」
「だって、光が一緒に誘ってくれるから……」
「それだけ?」
「どういうこと?」
「先週の日曜日……見ちゃったんだ……公一君と琴子がデートしてるの」
「!!!」
「琴子、本当に楽しそうだった……あんな顔みたことなかった」
「……」
「どういうことなの……教えて!」
「わかってる……光が公一君のこと好きだって」
「うん……」
「でも……ごめんなさい……今はなにも言えないの……」
「……」
「もうすぐ、話さなくてはいけないから……待って欲しいの」
「わかった……琴子の言うとおりにする」
「ごめんね」
「琴子……私、信じてるから……」
光はそう言い残して部室から去っていった。
「ごめん、光……私、光を裏切ることになるかもしれない……」
中学の頃、友達になった光から、引っ越した幼馴染みの話を何度も聞かされた。
琴子は、ほんとうにその子が好きなんだなと思った。
その幼馴染みは高校入学の日に運命の再会を遂げる。
初めて紹介されたとき、確かにぱっとしない男だった。
まさか、その男が……自分の婚約者だったとは。
琴子だって、好きでもない男とは結婚したくない。
しかし、光に誘われて公一につきあっていくうちに、公一に惹かれていった。
公一は優秀なバンパイアだ。
バンパイアの能力に目覚める年齢に、普通10歳なのが、公一は9歳頃に開花したらしい。
そして、飛行能力、呪術能力もかなり高い。
でもそんなことは琴子にとってはどうでもいいこと。
琴子は公一の人間性というものに惹かれていった。
優しさ、正義感、勇気……いざというときの彼は本当に格好良かった。
普段は間抜けなところもあるけれど、それも彼の魅力だと思うようになった。
そして気がつけば……琴子は公一に恋していた。
公一と光が相思相愛なのはわかってる。
でも、光は人間だ。公一とは結婚できない。
そして、公一が誰も指名しなければ……公一と私が結婚する。
それは、いかなる理由でも光にとって裏切りでも何者でもない。
ましてや、自分たちが人間でないと知ってしまったら……
光が私の友達じゃなかったら……そんなことは考えたくない。
それは光は、琴子にとって最高の友達だから。
「私、どうすればいいの……」
しかし、時間は刻々と過ぎていく。
公一の18歳の誕生日まであと1ヶ月しかなかった。
To be continued.
後書き 兼 言い訳
連載3本、放ったらかして連載を始めてしまいました。
私にとって始めての「中編」です。
4話完結です。
ふと「公一がバンパイア」という設定がおもいつき、次に最後が思いついてしまい、
それに某所でみたSSで「バンパイア琴子」という設定がおもしろいという印象が残っていて、
あれよあれよという間に、よくわからない中編のあらすじができてしまいました
結構最後に自信があったのか、書かないと頭から離れないので、連載に踏み切りました。
そんなに、内容は濃くなく、あっさりと終わります。
異常に長い単発作品の気持ちで読んでください。