陽ノ下 光は異変に気がついていた。
最近、公一と琴子が親密になっている。
最初はそれほどでもなかった琴子が今では公一と仲がいい。
そして先週の日曜日、とうとう見てしまった。
公一と琴子のデートの現場を。
琴子の表情は「ただ付き添っている」というのではない。
明らかに「恋する女性」の顔だった
公一とは月1回のペースでデートはしている。
それなのに、最近の公一の表情はどこか寂しそう……。
どうして?どうしてなの?
そしてなんで琴子と一緒にいるの?
公一は私の事……どう思っているのだろう?
The second story
Written by B
公一の18歳の誕生日まであと1ヶ月。
公一は悩んでいた。
俺は光が好きだ。
でも光は人間だ。どうやっても結婚できない。
このままでは、琴子と結婚させられてしまう。
しかし、これに対抗する手段はなにもない。
もはやあきらめるしかない。
確かに琴子は魅力的な女性だ。
初めはきつい性格だと思っていたが、それは友達想いだからだと気がついた。
表面上の振る舞いとは違って、内面の琴子はかわいらしい女性だ。
でも……俺は光への想いは捨てられない。
子供の頃はずっと一緒だった。
一緒に遊んだ、喧嘩もした、一緒に笑い、一緒に泣いた。
そして高校で再び出会ってからも、ずっと一緒だった。
部活は一緒ではなかったが、光の出る大会は全部応援に行った。
体育祭、修学旅行、文化祭……高校の思い出は光と一緒だった。
でも……この想いは絶対にかなわない夢
それでも、区切りがつけられない。
「俺は……どうしたらいいんだ……」
そして次の週。
学校中にとんでもない噂が広まってしまった。
「渡瀬と水無月が、渡瀬の誕生日に結婚するらしい」
光以外にも渡瀬と水無月がデートをしているのを見られてしまっていた。
そして、その見られた場所が悪かった。
その場所とは……結婚式場だった。
考えたくないが、あと3週間、結婚は近づいている。
行きたくはなかったが、行って雰囲気だけは知っておかなくてはいけない。
そんな複雑な思いで見に行った結婚式場で、たまたま別の結婚式に出席した人が見つけたのだ。
二人の複雑は表情は、結婚に向けての真剣な表情と見られてしまったのだ。
その他にも、「二人でアパートを探していた」とか「二人で生活用品を買っていた」とか
いろいろな噂は広まっていた。それも半分以上は正解である。
考えたくないが、来るべきときに向けて、二人が下見をしていたのを見られてしまっていたのだ。
これだけ見られてしまっていては、弁解する理由を探すのが大変である。
もはや、公一と琴子は沈黙するしかできなくなった。
その週の木曜日の放課後。
公一は光に中庭の鐘の下に呼び出された。
「公一君……」
「光……」
「あの噂……本当なの……」
「……」
「何も言わないのね……」
「……」
「どうして……どうしてなの?」
「……」
「また行っちゃうの?私をおいて琴子とどっか行っちゃうの?」
「えっ?」
「やだよ……行っちゃやだよ……」
「光……」
「ねぇ、この鐘の伝説……知ってる?」
「ああ、『卒業式に鐘の祝福を受けて生まれたカップルは永遠に幸せになれる』ってやつだろ?」
「私ね……この伝説を信じたかった」
「えっ?」
「鐘の祝福を受けて……公一君と永遠に幸せになりたかった……」
「光……」
「でも……あんな噂が広まって……もう我慢できない!」
「このまま、自分の気持ちを抑えていたら……公一君がどっかに行ってしまう!」
「嫌だ、また離ればなれになるなんて嫌だよ!」
「だって……私、公一くんの事がずっと好きだから!」
「!!!」
「どこにも行かないで……ずっと私の側にいて……お願い……」
「……」
「公一君……返事を聞かせて……」
「来週……話をする……それまで待って欲しい」
「わかった……それまで待つ……」
「公一君……私、ずっと待ってるからね……」
光は部活に向かって行った。
「ついに……来たか……」
公一が一番恐れていたこと、それは光から告白されること。
告白されたら、返事はしなくてはいけない。
返事をするからには、どうしても言わなければいけないことがある。
光とは結婚できないこと。
噂は本当だということ。
そして、自分たちがバンパイアであること。
自分たちの正体なんて隠してもよかった。
しかし……光に納得してもらうには正体を明かすしかなかった。
それでも納得してくれる保証はない。
でも公一としては、それが誠意だと思っていた。
その晩、公一は琴子を呼び出した。
「どうしたの?こんな夜中に?」
「……」
「どうしたの?」
「光に……告白された……」
「!!!」
「もう俺たちの関係……隠すわけにはいかないよ……」
「そうね……私もそう思ってた……」
「えっ?」
「先週、光から聞かれたわ『公一のこと好きなの?』って」
「そうだったのか……」
「でも、答えられなかったわ……」
「……」
「学校中あんな話が広まるとはな……」
「あの時は周囲まで気を回す余裕がなかったから……」
「そこでだ……来週、全てを話そうと思う……」
「……」
「琴子……一緒にその場にいてくれないか?」
「えっ?」
「光に琴子を紹介する……婚約者として……」
「……」
「もうそれしか……できないんだ……」
「わかったわ……辛いけど……」
「すまん……」
「ところで、琴子」
「今度は何?」
「最近、光の体調が悪いような気がするが、心当たりはあるか?」
「いいえ……たぶん、噂で精神的に疲労しているかも」
「そうか……もし、俺たちが白状したら……」
「……」
「じゃあ、来週の月曜日のお昼休み、屋上に光を呼び出すから……」
「わかったわ……」
公一と琴子は別れて家路に向かった。
公一と琴子はもはや諦めていた。
二人の頭の中は
「いかにして光に納得してもらうか、光に許してもらうか」
ということしかなかった。
公一の18歳の誕生日まであと2週間になろうとしていた。
To be continued.
後書き 兼 言い訳
第2話、起承転結の「承」の部分です。
ここではそんなに言うことはありません。
気楽に読んでいただけたと思います。
この作品。実は私にとって初めての「完全テキストベース」の作品です。
つまり、文章の装飾は改行だけの作品です。
従って、改行の使い方がうまくいってない部分もあると思います、すいません。
文字に飾りがない分、文章の内容だけで勝負するので結構たいへんです。
でもそれだけ勉強になると思ってます。
次回は事態が急変!……するだけだと思います(汗