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太陽の恵み、光の恵 外伝

第5集 もし高校野球の女子マネージャーがドッカの国の「マドウショ」を読んだら
〜大倉都子の周りの愉快な先輩達〜

Written by B
化け物騒動の翌週のある日の放課後。
騒動に巻き込まれて何もわからずじまいだった奈津江と詩織は生徒会室に都子を呼び出した。

その日は生徒会長が生徒会室で仕事をしたそうだったが、奈津江がお願いして別の場所で仕事をしてもらうようにもらった。
ちなみに、本来すべき詩織がお願いしなかったのは、詩織が頼んだところで「お姉ちゃん、またろくでもないこと考えてるでしょ!」と言われて断られることがわかっているからである。


「あ、あのぉ……」
「いや、そんなにびびらなくても大丈夫だから」
「はぁ」
「奈津江ちゃん、どうみても脅してるんだけど」
「うるさい」


特に用件も言わずに、「とにかく来い」と伝言されて呼ばれた都子は明らかにおびえている。
まあ、奈津江どころか詩織も都子に圧迫感を与えているのだから仕方ない。
二人とも「真実を教えろ」とばかりに意気込んでいるのだからそうなってしまう。

手を膝に置き、きちんと座っている都子の前で奈津江が仁王立ち、その横で詩織は会議テーブルの上に腰掛けて見ている。







さっそく奈津江が事情聴取に入る。


「そういえば、彼は大丈夫?」
「え、ええ……おかげさまでなんともないようで」
「それはよかった」
「ええ、玲也は『デットボールくらったようなもんだ』と言って平気でした」
「そ、それはよかったね、あははは……」
「あははは……」


都子の脳天気な彼の言葉に奈津江も詩織も苦笑い。
しかし、奈津江はすぐに表情を強める。


「ところで、さっそく本題に入るわ。大倉さん、彼となにがあったの?」
「えっ?」
「私が見るに、あなた、勝手に元気がなくなって、勝手に元気になってるようなんだけど」
「………」
「で、あなたの家に行ってみたらあの騒動」
「………」
「たぶん彼と何かあったんでしょ?」
「………」
「端から見ていたこっちとしてはモヤモヤしていてどうしようもないんだけど」
「………」
「………」


都子はうつむいて黙ってしまった。
それに対して、奈津江も詩織も黙ったまま。「早く言え」と言わんばかりにじっと彼女を見ている。







「……言わないと……だめですか?」
「ダメ」


都子がぽつりとつぶやく。それに奈津江は即答。
それに対して都子はうつむいたまま、先ほどよりは強めにつぶやく。
両手は強く握られ、少し震えている。


「言ったところで……わかってくれるんですか?……私が、これまでどれだけ悩んで、どれだか苦しんだか……わかってくれるんですか!」



「「わかりすぎるから言ってるの!!!」」



「えっ……」


都子の叫びに、奈津江と詩織が即同時に叫び返す。それに驚いた都子は思わず顔を上げる。
目の前には両手を腰に当ててため息をつく奈津江。


「はぁ……あなた、女の子の情報かなり集めているって聞いてるけど、肝心の私たちの情報がないってどういうことよ?」
「それはどういう……」
「本当に知らないの?あたしも詩織も幼なじみとつきあってるのよ。あなたと同じ!」
「えっ」


さらに驚く都子。
奈津江の横には詩織がいつの間にか立っている。


「大倉さんは奈津江のこと鞠川先輩、鞠川先輩って言ってるけど、奈津江の本当の名字は芹沢よ」
「えっ!」
「詩織、それ関係ないし。それに、大倉さんも聞いてなかったの?」

「奈津江は幼なじみの彼ともう入籍してるのよ」
「ええええっ!!」
「だから、私のことは言うな!恥ずかしい!」

「私も似たようなものよ。とにかく幼なじみとそこまで進んでるの。ただ、そこまで奈津江も私もいろいろあったのよね。だから、あなたのことが気になってしょうがなかったのよ」
「はぁ……」







なんか力が抜けたようになっている都子。
ここで奈津江がようやく冷静さを取り戻して話に戻る。


「だから、あなたがどう思っているかなんて、あたしも詩織もよくわかるの。代わりに言ってあげようか?」
「?」

「大倉さん、初めてあったときに彼のこと腐れ縁なんて言ってたけど、実はずっと昔から彼が好きだったんでしょ?」
「………」

「彼が好きな理由なんて言えないじゃないの?だって理由は『彼だから』しかないから。理屈なんてないでしょ?」
「………」

「それに中学までずっと居心地のいい雰囲気だったんでしょ?」
「………」

「告白したかったけど、告白したらどうなるか怖くてできなかったんじゃないの?」
「………」

「結局、今の関係が壊れるのが怖くて何も告白できなかったんでしょ?!」
「………」

「それでも彼と近くなりたくてマネージャーになったりお弁当を作ってたんじゃないの?」
「………」


奈津江の指摘に都子は顔を真っ赤にしてうつむいてしまった。そして最後の指摘にゆっくりと大きく頷く。
それを見て奈津江は大きくため息をつく。


「ほらごらん。あたしの言うとおりじゃない。あたしたちも同じだったんだから、このぐらい想像がつくわよ。大倉さんの苦しみや悩みはあたしたちも同じ。何度も苦しんで悩んで、何度も彼とぶつかって泣いてるから、あなたを見ていてこっちもつらかったわよ」
「………」
「最初にあなたと会ったときに、彼が好きなことも、言いたくても言えないことも、この先トラブルが起こるんだろうなってこともすぐに想像ついたわよ。それを放っておけなかったよ」
「そうだったんですか……」


堅かった都子の表情がようやく普通に戻ってきた。
ここで詩織が都子の左に移動して横から話しかける。


「私たちは別に興味本位で聞いてるわけじゃないの。彼との恋愛で何かあったら相談してくれるのを待ってたのよ。私も大倉さんが彼が好きなのはすぐにわかったし、それを応援したいと思ってたの。それは奈津江も同じ。私も奈津江も今は幼なじみの彼と一緒になれてすごく幸せ。だから、大倉さんにも同じように幸せになってほしいと思ってただけ」
「………」
「だから教えてほしいの。彼と何があったかを」
「……わかりました。聞いてくれますか」
「ええ、もちろん」


都子はようやく納得した表情になった。
詩織はにっこりとほほえむ。
奈津江はそれをみて(






都子はいつもの都子の表情に戻って話し始めた。


「実は、彼にお弁当を何度か作ってあげてたんです」
「そうらしいわね」
「彼が好きなものはわかってるから、いつもおいしそうに食べてくれてたのですが……」
「何かあったの?」


「あるとき……『都子と結婚する人は幸せもんだなぁ』って……」
「「うわぁ……」」


「『結婚式には呼んでくれ』って……」
「「あちゃぁ……」」


奈津江も詩織も頭をがっくり垂れ、大きなため息をつく。


「もうショックでショックで……」
「それはさすがにショックよね」
「私は、私は……」
「言わなくていいわよ。すごくわかるわ、でも彼があなたの想いに全く気づいていないのは仕方ないわよ」
「どうして?」
「幼なじみだからよ。どうせ昔から料理を作ってあげてたんでしょ?彼はその調子で『いつものこと』としか思ってなかったんじゃないの?」
「………」
「近すぎるってそういうところでつらいのよね。そういう関係に慣れちゃってるからね。そのぐらいじゃ、あなたの想いは伝わらないわよ」
「はぁ……」


奈津江の説明に都子もため息。







「で、それからどうなったの?」
「それから……よく覚えてないんです」
「え?」
「なんか、頭の中が空っぽになって、もう何が何だかわからなくなって……よくわからないまま過ごしてました」
「そうとうショックだったのね……」


そう言いつつ奈津江は横にいる詩織に視線を向ける。


(やっぱりあの専門家さんの言う通りね)
(ほんとうに操られてたみたいね)


「でも、そのわからない状態から元に戻ったんでしょ?何があったの?」
「えっ?」


奈津江が聞いたとたんに都子の顔が真っ赤になってうつむいてしまった。


「ん?どうしたの?そんなになることがあったの?」
「え、ええ……」
「具体的には?」


「それは……ウサギさんが……探してて……それを玲也が……もううれしくて……」


顔を真っ赤にしながらぽつりぽつりと恥ずかしそうに都子が話しているのをみて、奈津江と詩織が顔を合わせる。


(詩織、わかる?)
(わかるわけないじゃない!)


穏やかの表情の奈津江。
(まっ、あの顔見れば悪いことじゃないみたいしね)

不満そうな詩織。
(奈津江ちゃん、それで済ませちゃうの?)

詩織をキリっとにらむ奈津江
(これ以上聞いてもたいした話でないわよ!)


2人は黙っているが、顔の表情だけでこのぐらいの意味の会話をしてしまう。







「とにかく、彼に想いが通じたんでしょ?」
「たぶん」
「たぶん?」
「『なんか傷つけちゃったみたいで、ごめん』って言ってくれたけど、なんで傷つけたか未だにわかってないみたいなんです」
「はぁ?!」
「でもいいんです……『都子の気持ちはわかったから』って……それでいいんです……」


未だにうつむいている都子の前で不満そうな表情の奈津江。その横でもっと不満そうな詩織。
(なによこの子、それで済ませちゃうの?!)
(奈津江ちゃん、さっきはそれで済ませるって)
(うるさい!)


「と、とにかく、それで一件落着ってことでいいの?」
「ええ、お弁当を作っても『都子のお弁当が食べられて幸せだなぁ』って言ってくれたりしてるから」
「………」
「この前も一緒にお買い物行ったりして……もう幸せで」
「………」
「それから……」
「わかった、わかった!もういいから!」


これ以上惚気話を聞いても埒が明かないと思った奈津江が話を終わらせてしまった。



これで十分話を聞いたつもりの奈津江と詩織だったが実は最後の肝心の所を聞いていなかった。

おかげで都子はまた二人に呼び出させることになる。
To be continued
後書き 兼 言い訳
都子に事情を話してもらいました。
肝心な所はさっぱり意味がわかりません(苦笑)
まあ、都子があの場面をぺらぺらしゃべるとはとても思えませんからね。

この3人の会話は次回も続きます。
あと2回かな?
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