第4話目次第6話

Fieldの紅い伝説

Written by B
ついにその日はやってきた。
 
ひびきの高校ときらめき高校の交流戦の日である。
 
きらめき高校はひびきの市の隣町のきらめき市にある。
隣町といっても、境界は県境にもなっている。
きらめき高校は大財閥の伊集院家直営の高校であり、ひびきの高校とは姉妹校のようなものである。
県が違うので大会では全国大会に出場しない限り直接対戦することはない。
そういうわけで、定期的に両校の部活が交流試合をすることになっているのだ。
 
で、今日は女子サッカー部の交流戦の日である。
土曜日なので午前中は授業で午後から交流戦である。
 
きらめき高校女子サッカー部は関東で名門と呼ばれている部である。
全国大会でも常連である。
それに今年は超大型新人が加入していて強さがパワーアップしたそうである。
 


というわけで、交流戦はレギュラーが出場するため、光はベンチにすら入ることができなかった。
 
「………」
「光?」

「………」
「光!」

「あっ、ごめんなさい公二君」
「どうしたんだ?ぼ〜っとしていて。今日は変だぞ?」
「いやなんでもないよ……」
 
光が心ここにあらずの状態には理由がある
先日、公二のデートをこっそりつけたときに相手の女性に言った言葉である。

 
「なあ、今度ひびきの高校に来るんだろ?紹介してやるよ」

 
今日、その女性を公二から紹介されるということが光を不安にさせている。

 
(いきなり『俺の彼女だ』なんて言われたらどうしよう……)
(そうなったら、ショックで倒れちゃうかも……)
(どうしよう……どんな顔をして会えばいいのかなぁ〜)
 


そんなこんなで、お昼休み直前。
きらめき高校の女子サッカー部が到着する頃だ。
しかし、様子がおかしい。
授業中なのに校門でひびきのの女子が集まっているのだ。
 
光はこっそり隣の席の坂城 匠に聞いてみることにした。
 
「ねぇ、坂城くん」
「なんだい、光ちゃん?」

「なんで、女子が校門に集まっているの?」
「えっ?知らないのか?きらめきの1年に凄い選手がいるってこと」
「えっ?」

「なんでも、日本の女子サッカーの期待の星だってさ」
「そ、そんな人がいたんだ……」
「名前は……おや?さっそくきたようだな。俺も見にいこうっと!」
 
そういって、匠はこっそり教室から出ていってしまった。
 


次の瞬間、女子生徒の黄色い歓声が聞こえてきた。
 
「きゃ〜!すてき〜!」
「かっこいい……」
「おねぇさまぁ……」


(な、なんなのあれ……)
 
半分アブナイ声も混じっていた。
 


午後。交流戦が始まった。
光は他の部員と一緒にベンチ裏で観戦していた。
 
(このまえのあの女性はどこに……それにしても日本の期待の星って……)
 
最初、光は試合とはまったく関係ないことを考えていた。
しかし、試合が始まるとそんな考えはまったくなくなっていた。
 
試合だが、きらめきが5−0で勝った。
はっきり言って力の差が歴然だった。
正確に言うときらめきの1人の女子選手の力があまりに凄かったからだ。
 


その選手の名は清川 望。
1年生にして早くもレギュラー、いやチームの中心選手になっている。
 
彼女のポジションは守備的MF。それもただのボランチではない。
中盤の後ろからから前線にキラーパスを送ったり、力強いドリブルを披露したり、フリーキックも蹴る。
彼女一人で中盤を支配してしまっているのだ。
 
プレースタイルは力強くて華麗。均等の取れたスタイル。中性的なルックス。男女問わず人気は高く、
いつしか彼女は「きらめきのジャンヌダルク」の異名を持つようになったそうである。
 
匠が言っていた日本女子サッカー期待の星とは彼女のことである。
ちなみに、校門で黄色い声援を浴びていたのも彼女である。
 


光は試合中ずっと、彼女のプレーに見とれてしまっていた。
 
「すごい……すごすぎる、彼女が輝いて見える」
「私も……あんなプレーができるのかな?」
 
夢中で彼女を追い、気がついたら試合が終わっていた。そんな感じだった。
公二のデートの相手のことなど、すっかり記憶の片隅に追いやられていた。
 


交流戦の会場の片づけを終えたとき、光に声が掛けられた。
 
「光」
「何?公二君」
「屋上で待っててくれないか……紹介したい人がいるから……」
「うん、いいよ……」

(つ、ついに!)
 
光は緊張しながら屋上に向かった。
 

屋上で光は一人待っていた。
 
「光!」
「公二君……紹介したい人って?」
「ああ、いつか紹介しなければいけないと思っていたから」
「えっ!」
「お〜い!入っておいでよ!」
 
屋上の扉から一人の女性が現れる。
 
「こんにちは」
「う、うそ……」

 
その女性は清川 望であった。
 

「光、紹介するよ。俺の中学の同級生の清川 望だ」
「こ、こんにちは……」


「望。彼女が前に話した俺の幼馴染みの陽ノ下 光だ」
「は、初めまして……」

 
(彼女が公二君の中学の同級生……)
(彼女が公二君の幼馴染み……)

 
二人とも何も話すことができない。いや、できなかった。
何を話せばいいのかわからなかった。
そんな雰囲気のなか、校内放送が流れてきた。


 
「主人 公二君。主人 公二君。職員室にきてください」



 
「なんだろう?あっ、光。望。ここで待っててくれないか?」
 
そういって公二は屋上から出ていってしまった。
 



夕焼けがまぶしい屋上。
そこには、光と望がいた。
 
「望さん……公二君と中学で同級生だったんだ……」
「そう、部活も一緒だったの……」
「えっ?」


「私、中学もサッカー部だったの。うちには女子サッカー部があったの……」
「どうしてサッカー部だったの?」


「………」
「望さん?」


「あなたにははっきり言わなくてはいけないね……」
「えっ?」



 
「私、公二君が好き。昔も今もずっと……」



 
光は驚かなかった。むしろ、その言葉が出るのを覚悟していた。

 
「………」
「中学で初めて出会ったときに、一瞬で好きになってしまったの。そう、一目惚れ」
「一目惚れ……」
「彼に近づきたいと思ってサッカー部に入ったの、意外とミーハーな動機でしょ?」
「そんなことない……」
「私、小学校では水泳で全国大会に出場したこともあるの。だから運動には自信があった」
「そうだったの……」
「頑張れば彼に注目してくれる、そう思ってガムシャラに練習した結果が今の私……」

 
「ねえ……公二君に告白したの?」
「ううん。公二君と親しくはなったけど、結局告白できなかった。そんな勇気はなかった」
「怪我のこともあって?」
「そう……公二君がサッカーができない体になってしまって、あたしどう慰めたらいいか悩んでいた」
「その気持ちわかる……」
「なけなしの勇気を振り絞ってデートに誘ったりもした……でも公二君の心が開かないまま卒業式に……」
「………」

 
「ねえ、なんで私がきらめき高校に入ったかわかる?」
「女子サッカーが強いから……だけじゃないんでしょ?」
「そう、冬に公二君がひびきのに引っ越すことを知って、無理矢理に志望校を変更したの」
「公二君に近づくため?」
「まあ、そうね、ひびきのに一番近い女子サッカーの名門校だったから……」



「ねえ、ひとつ聞いていい?」
「ああいいよ」
「いつから公二君とデートをしていたの?」
 
「ど、どうしてそれを?」
「最近、日曜日に公二君どこかにでかけるから。もしかしてと思ってつけてみたら……」
「あたしがいたわけね……」
「うん……」
「……1月前から私が誘ったの」
「えっ?」
「まだ、公二君から誘われたことがないのが悔しいけどね……」
「どうして今頃?」
「ずっと電話するのをためらっていたの、もし心を閉じた公二君のままだったらって……」
「そしておもいきって掛けた」
「そう、私が『逢いたい』っていったら逢ってくれた、あまり話はしてないけど、公二君の表情を見てほっとした……」
「元の公二君に戻ったから?」
「そう、でもまさかあなたが公二君の心を開いていたなんて……」
「………」
 
光は安心した、公二と望が恋人関係ではなかったことに。
それと同時に望の公二への想いの強さを知った。
 


「光さん。あなたは公二君に告白したの?」
「ううん。遠回しにしか……」
「ふ〜ん。じゃあ、あたしにもチャンスはあるわけね」
「どういうこと?」


 
「光さん。あたし負けないよ。絶対に公二君のハートを掴んで見せるから……」

「えっ……」

「幼馴染みでもない。学校も違う。女らしくない。でもこの想いは絶対に負けない……」

「……望さん。私も負けないよ。恋もサッカーも……」


 
二人はお互いの目をじっと見ていた。真剣で情熱的なまなざしで。
どちらも視線を外そうとはしなかった。
無言だがお互いをライバルと認めあった瞬間でもあった。
緊張感がただよう。
 


その緊張感を破ったのは公二だった。
 
「お〜い!」
「あっ、公二君!どうしたの?」
「光に報告したいことがあるんだ……」
「あっ、どうやら私は用がないみたいね、それじゃあ……」
「望も聞いてくれ、望にも関係があることだから」
「えっ?」
「どういうこと?」
 
そのあと、公二から語られる言葉は光と望に大きな影響を及ぼすことになる。
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後書き 兼 言い訳
前回の謎の女の正体は清川さんでした。詩織ではありませんでした。
まあ、今回は彼女の紹介だけになってしまってますな。
 
清川さんのポジション。
具体名を挙げると、元ブラジル主将のドゥンガやフランスW杯の名波(磐田)のポジションを想定しています。
要は「攻撃に積極的に絡む守備的MF」です。
文章だとわかりにくかったかな?
 
きらめき高校とひびきの高校は隣町ですが、県が違うという設定にしています。
理由はおわかりですが、この両校を全国大会でぶつけたかったからです。
まあ、兄弟校を同一県におく私立ってあまりききませんけど。