第5話目次第7話

Fieldの紅い伝説

Written by B
職員室にて。
 
「失礼します」

公二が入るとそこには女子サッカー部の監督が待っていた。

「君が主人 公二君だね」
「はい。」

「私が女子サッカー部の監督だ」
「はい、存じ上げております」

「君のことはよく知っているよ」
「えっ?」

「中学のとき、ここでも君の評判を聞いているからな。U-15日本代表候補だからな」
「………」

「君がなぜ、サッカーをやめたか聞くつもりはない。言えない理由があるんだろ?」
「すいません……」

「まあいい、今君を呼んだのは、君の過去を問いただすためではない」
「じゃあ、なぜ?」



 
「主人 公二君。君に女子サッカー部のコーチ就任をお願いしたい」



 
「そ、そんな、僕なんか……」
「公二君。1年の陽ノ下 光にサッカーを教えているんだろ?」
「えっ」
「夜、君が陽ノ下君と公園でサッカーをやっているのを上級生が何度も見ているんだ」
「そうだったのか」
「君の教え方に感心していたよ。尊敬すらしていたよ」
「そ、そんなに言われることはやっていませんよ」
 
「公二君。君に質問してもいいかな?」
「どういう質問でしょうか?」
「今日の試合を見て、君の考えるうちのチームの問題点を教えてくれないか?」
「いいんですか?僕が言っても」
「どうしてかな?」
「部外者の僕が言うと、レギュラー選手に対して失礼ですし。なにより監督を侮辱してしまうかもしれませんから」
「私はそんなに心が狭くないよ。言ってごらん」
「では言わせていただきます。」
「うむ」
 
「最大の問題はFWの決定力が無いことです。あと、サイドバックの上がりが少ないので攻撃の人数が少ないケースが場面も多いです」
 
「………」
 
「ディフェンス陣はなんの問題もないと思います。もう少し練習すれば全国でも通用します。ただ、もうすこし能力のあるGKが必要だと思います」
 
「………」
「すいません……好き勝手にいってしまって」
「いや……私も同意見だ……これなら安心して任せられるな」
「えっ」
「コーチを頼むと言ったが、実質的な監督をお願いしたいのだ」
「ちょ、ちょっと待ってください!こんな一生徒が監督でいいのですか?」
「ああ、私は名目は監督だが、実質総監督の役目で君の監督業を応援したい」
「そんな、責任が重すぎます」
「大丈夫、君ならできる。それに……」
「それに……」
「なんの気兼ねもなく、サッカーに関わることができるだろ?堂々とサッカーができるのじゃないかな?」
「……わかりました、引き受けさせていただきます」
「頼むよ。明日からその準備をするからよろしく」
「はい、では待っている人がいるので失礼します」
 
がらがらっ。ばたっ
 
「『フィールドの碧き流星』主人 公二か……もしかしたらひびきのに新しい星が生まれるかもしれないな……」
 
監督は中学時代、公二につけられた異名を呟いていた。
 


「……こういうわけなんだ……」
「じゃあ、もしかして……」
「明日から、ひびきの女子サッカー部のコーチになることになった、実際は監督だけど」
「そんな……」
「えっ」
「そんな……私、公二君と敵同士になってしまうの?そんなのいや!絶対にいや!」
「望さん……」
 
「だって、だって、私、公二君のことが好きだから!」
 
「望さん!」
 
望は屋上から走り去った。
 
「望……」
 


その夜。
公二の家。
 
トゥルルルル トゥルルルル
 
「はい、主人です」
「私……」
「望……」
「さっきはごめん……」
「いや、望は悪くないよ」
「ありがと、公二」
「……ごめん」
「なんで、公二が謝るのよ」
「俺……望の気持ちにまだ返事ができないんだ」
「えっ、それって……」
 
「望と光……両方好きなんだ」
 
「………」
「いつかどちらかはっきりさせなくてはいけないと思っている、でも今はこれしかいえない……ごめん」
 
「まだ……チャンスはあるんだね?公二君の恋人になれるチャンスが……」
 
「えっ」
「あなたがいなかったとき、光さんに言ったよ、『公二君は渡さない』って、彼女も言ったよ『負けない』って」
「そうだったのか……」
「だから私達に気にしなくいいよ、私達ライバルだから……恋もサッカーも」
「ライバルか……」
「私達もいつか決着をつける必要があるの。だから、いつか教えて……どちらを選んだか」
「ごめん……ありがとう」
「それで……今度の日曜なんだけど……」
「えっ……」
 


それからしばらくして。
光の家。
 
トゥルルルル トゥルルルル
 
「はい、陽ノ下です」
「あっ、光さん?清川ですけど」
「望さん!」
「さっきは……ごめん」
「いいよ……私が望さんの立場だったらたぶん同じことするから」
「でも、勢いで告白しちゃった……告白ぐらいちゃんとしたかったなぁ」
「私だって、勢いでしたようなものだったから……私だって言いたいよ、大きな声ではっきりと『好き』って」
 
「……私達って似たもの同士かもね」
「うん、そうかもね……肝心なところで勇気がなくて、勢いでしか告白できなくて」
 
「ところで……今度の日曜なんだけど……」
「日曜?」
「公二君……デートに誘っちゃった」
「え〜っ!」
「いいじゃない。光さんは毎日公二君と一緒なんだから、日曜ぐらい私に貸してくれてもいいでしょ?」
「うん……しょうがないね」
 
「私、負けないからね!公二君がコーチ引き受けたの後悔させてやるんだから!」
「私も!今はサッカーは負けるけど絶対に追いつくんだから!」
 
二人の会話は夕方に交わした緊張感のある会話ではなく、ごく普通の友達の会話だった。
 


またしばらくして。
光の家。
 
トゥルルルル トゥルルルル
 
「はい、陽ノ下です」
「光?公二だけど」
「公二君……」
「………」
「話は望さんから聞いたよ」
「えっ」
「さっき電話が来て、いろいろ話したの」
「そうだったのか……」
「だから気にしないで……私もたぶん望さんと同じ気持ちだから」
「ごめん……ありがとう」
「いいよ……でも、約束して」
「なにを?」
 
「私と望さん以外とデートしないで」
 
「えっ!どうして望とのことを!」
「望さんから聞いた。前に何度もデートしたのも聞いたの」
「ごめん……今まで黙っていて」
「私……望さんとだったら許してあげる。でも他の人だったら許さないから!」
「わかった……約束する」
「変なわがままかもしれないけど……」
「いいよ、気持ちわかるから……」
「ありがとう……じゃあ」
「あっ、ちょっ……切れちゃった……」
 
「今日いいたかったことがあったのに……明日の放課後じゃあちょっとまずいんだよな……」
「でも、さっきの会話から……掛けずらいよな……明日の朝話すか」
 
こうして、公二、光、望の3人の新しい生活が始まろうとしてる。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
公二はサッカー部のコーチになりました。
まあ、短編をみれば予想はつきますが。
 
清川さん、勢いで告白してしまいました。
こんな告白もありかな?ということで、勘弁して頂戴。
 
現役高校生が監督業をやるなんて聞いたことがありません。できるかもわかりません。(ライセンスがいるのかな?)
そこらへんは、お話ということで勘弁を。

次回から、ひびきの女子サッカー部に新戦力が加わります。