第6話目次第8話

Fieldの紅い伝説

Written by B
公二が女子サッカー部のコーチを引き受けて1週間後。
朝、校門前。
 
「やばい!いそがないと遅刻だ!」
「まったく、朝の練習時間が長いからよ!」
「光が『もう少しやりたい♪』っていうからだよ」
「……ごめん」
「どうやら、間に合いそうだな……ん?」

二人そろって遅刻しそうになり、慌てて学校に走っていく二人。
時間ギリギリに間に合いそうだと思ったとき、校門から小さい影が現れた。


「ちょっと、待ったぁ〜!」


「誰だ!」
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ。悪を倒せと、俺を呼ぶ。生徒会長赤井ほむら、只今参上!」


よく見ると、生徒会長の赤井ほむらだった。
生徒会長とは言っても年齢は光達と同じ。
 
「は?」
「ほう、お前が女子サッカー部のコーチになった主人か」
「そうだけど」
「そんな奴が、遅刻とは許さん!成敗してくれる!」
「えっ?」

するといきなりほむらが蹴りかかってきた。
 
「ドラゴンキーーーーック!」

「ほれ!」

「あれ?」
 
公二はほむらの必殺技ドラゴンキックを体を動かしただけであっさりと避けてしまった。
それは、プレーから離れていてもボディバランスが抜群な公二だからなせる技である。
 
「あたしのキックを避けるとは……なかなかやるな……」


 
きーんこーんかーんこーん


 
「やばっ!遅刻だ!じゃあな!」
「おい!それだけか!」

ほむらがいなくなった校門には二人きり。
無情にも始業のチャイムは鳴っている。

「……私達、遅刻確定だね……」
「やられた……」
 
そのあと、二人は職員室で仲良く大目玉をくらったのはいうまでもない。
 


お昼休み。
公二と光は教室でお昼休みを食べていた。
 
「あ〜あ、朝はさんざんだったよ」
「ほんと、会長のおかげで……それにしても凄いキックだったね」
「ああ、女子であんなキックができるのは日本中でも数えるほどじゃないか?」
「そうだよね……あれ?」
 

どかどかどかどか

 
「勘弁してくれ〜」
「待ちなさい!仕事がたまっているのよ!」
 
どかどかどか……

 
ほむらが生徒会に追いかけられていたのだ。
ちなみに、これは日常茶飯事の出来事。
 


「いつも、いつも大変だね、会長も」
「会長って、あんなに走る仕事か?」
「さあ?サボリたいだけじゃないの?」
「でも、走り回っていたんじゃ、同じ事じゃないのか?」
「そうだね……」
「………」
「ねぇ……まさか、なにか企んでない?」
「ど、どうしてそれを……」
「だてに幼馴染みはやってないよ。たぶん、私と同じ考えだから」
「光もそんな事思っていたのか?」
「うん。あんな人がいればいいなぁって」


そう、ふたりが考えていたのは、
「ほむらを女子サッカー部に入れる」
ということだ。

 
「でも、生徒会長だぞ!校長もお気に入りだし、入部は難しいぞ」
「大丈夫よ。生徒会長だから、なんとかなるんじゃない?」
「なんとかなりそうだけど……無理じゃないか?」
 


そして放課後。
女子サッカー部の練習が始まった。
そこに一人の少女が見にやってきた。
 

「これが女子サッカー部か……楽しく練習しているみたいだな……
 あたしもああいうところでおもいっきり暴れ回りたいなぁ……子供のときのように……」

 
ほむらである。
前々からサッカーに興味があったのだが、生徒会の仕事(実際は逃げるだけ)で見にいけなかったのだ。
今日のお昼についに捕まり、無理矢理仕事をさせられたので、今日の放課後はめでたく?解放されたのだ。
 


「でも、練習って毎日あるし、いやだなぁ……あれ?あれは!」

ほむらの視線の先には指導者らしき人が、一人の選手だけをどなりつけていたのだ。

「こらっ!何ミスをやっている!」
「すいません!」
「この下手くそ!そこで一人で練習しろ!」
 
「なにそこでぼっ〜としている!」
「すいません!でもどうしたら……」
「360度見渡してフィールド全体を把握するんだ、馬鹿もん!」
「すいません、気をつけます……」
 
「そこで何へばっている!」
「すいません……」
「持久力が足りない!持久力をつけるために校庭2周だ!」
「はい……」

ほむらが見る限り下手ではない、上手いほうかもしれない。
なのに、彼女だけが怒られているのだ。
 
これには「正義の味方、炎の生徒会長」赤井ほむらが黙っているわけがない。
 
「あの野郎、一人だけいじめやがって……許さん!」
 
ほむらは校庭に走っていった。
 


「じゃあ、ちょっと休憩にしよう……ん?」
 
「罪のない選手をいじめるとは、正義の味方赤井ほむらが成敗してくれる!」
「は?」
「会長キーーーック!」
「ぐわっ!」
 
会長キックが見事にきまった。
 
「まったく、お前は……!!!……しゅ、主人じゃないか!」
「いてて、さすがに不意打ちは避け切れなかった……」
「会長!」
 
そう、いじめていたのは公二、いじめられていたのは光だったのだ。
 


「お前、いじめは許さないぞ!……って、なんだよ!」
「ちょっと、こっちへ来て!」
 
光はほむらを部室の中に連れていった。
 
「いったいなんだよ!お前もいじめる奴をかばうつもりか?」
「わたしは……公二君に頼まれていじめられているのよ!」
「へっ?どういうことだ?」
「実はね……」
 


公二が女子サッカー部のコーチに就任する日
二人だけの朝練習でのこと。
 
『光、昨日言いたかったんだけど、頼みがあるんだ』
『なに?』

 
『光……怒られ役になってくれないか?』

 
『えっ?怒られ役』
『ああ、少しのミスでも思いっきり怒られる役だ……非常に辛い役だ』
『………』
『もしかしたらおもいっきり罵倒するかもしれない。傷付けることをいうかもしれない……でも、これは光にしか頼めない』
『なぜ、私に?』
『怒られ役はチームを引き締める役割もある。だから実力のある選手にしかできない……光にはその実力がある』
『………』


『それに……こんな辛い役、他の人には頼めない……俺の気持ちがわかる光にしか頼めないんだ』

 
『公二君の……気持ち?』
『実は俺も……怒られ役だったんだ』
『そうだったんだ……』
『「なんで俺だけ」って監督を恨んだこともあるよ……でも監督から真意を聞いて納得するようになったんだ』
『それで、私に……』
『俺も怒られ役になったおかげでU-15の代表候補になれたと思っているから……』

 
『……わかった、いいよ。その役目引き受けてあげる』

 
『光……ありがとう』
『覚悟決めたから……大丈夫』
『すまない……もし、耐えられなくなったらいつでも言ってくれ』
『うん、わかった……』
 


「……と、いうわけなの」
「そうだったのか……」
「確かにチームは引き締まっているし。私も怒られる度に『なにくそ!』って頑張るようになれるから……」
「………」
「会長!どこへいくの!」
 
ほむらは突然部室から出ていってしまった。
 


ほむらが向かったのは公二のところ。
 
「………」
「会長……」
「主人……見直したよ」
「えっ」
「話は陽ノ下から聞いたよ。お前がそこまで考えていたなんてな……」
「………」
「他の部員にはいいたくないんだろ……黙ってやるよ」
「すまない……」
 


「ところで主人」
「なんだ?」
 


「あたしでよかったら……サッカー部に混ぜてくれないか?」


 
「えっ?」
「サッカー部の練習見ていたら……あたしもやりたくなったんだ」
 
公二は信じられなかった。
まさか、ほむらから入部希望があるとは思わなかったからだ。
 
「生徒会の仕事は大丈夫か?」
「両立なんて簡単さ……下っ端に任せればいいから」
「生徒会長は?」
「仕事は嫌だけど、生徒会長は辞めるわけにはいかない。引き受けたものは最後までやらないとな……」
 

公二もまたほむらを見直していた。
確かに、ほむらは地味な仕事は非常に嫌がる。いつも逃げ回っているのはそれが理由だ。
でも、最後の言葉に、ほむらには生徒会長としての強い自覚があることを感じた。
そしてその表情からは、ほむらの意思の強さを感じさせた。
 
だからこそ、彼女をサッカー部だけに拘束することはできない。彼女の提案は公二にとって最高だった。
 
「わかった。その条件でいいよ」
「本当か主人!いいのか?」
「ああ、会長なら大歓迎だよ!」
「それでなくっちゃな!」
 
他の部員からどよめきが起こっていた。
それもそうだ。ひびきので一番の暴れん坊ともいえるほむらの兼部入部をあっさりと認めたからだ。
 


「で、ポジションだが……」
「もちろんFW!これできまりだろ?」
「うん、いいよ」
「へっ?」
 
ほむらは驚いた。
実は本人はただ目立ちたいだけで、目立つポジションを言っただけなのだ。
 
「役員から逃げ回る俊足、不良も叩きのめすキック力。会長はFWにうってつけだよ」
 
「主人、それ……褒めてるのか」
「ああ、褒めてる」
「にゃはは、嬉しいな!それじゃあ、よろしくな!」
「ああ、よろしく!」
 
結局その日の部活は、公二と光が他の部員に、ほむらの入部を説得するだけに費やさせた。
公二と光の熱心な説得により、全員渋々なっとくした。
 


こうして、「炎のストライカー」赤井ほむらが誕生した。
 
ほむらは、週に1回か2回しか部活にでなかった。
表向きは、生徒会の仕事だが、実際はさぼってゲームセンターで遊んでいたりする。
それはコーチの公二も黙認している。
部員達もほむらの扱いに不満だったが、練習に来たときのほむらの身体能力の高さに納得してしまう。
 
一方光は、相変わらず怒られ役だが、そのおかげか急速に力をつけ始めていた。
めざすレギュラーももうすぐで手が届くところに来ていた。
 
季節はまだ秋。光の修業はまだまだ続く……
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
新メンバー第1弾、赤井 ほむら登場の回でした。
彼女は光以上のFW向きの人材でしょう!
 
ほむらを書くのはこれが初めてでした。
いまいち、キャラが掴めていませんでしがこんなもんでしょう。
まだほむらは活躍していないので、なんとも言えないのですが(笑