第7話目次第9話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「ほむら、いくよ!」
「まかせとけ!会長キーーーック!」

 
ズドン!


ぴぴーっ!


 
「やったね!ほむら!」
「にゃはは!こんなの簡単よ!」
 
ほむらが女子サッカー部に入って1カ月。
非常に小柄だが俊敏で跳躍力がありパワーがあるほむらはめきめきと頭角を表してきた。
特に光とのコンビネーションは抜群で、練習試合で二人が組むと必ずほむらが得点を決めてしまう。
 
ちなみに光の背番号は「14」ベンチ入りの番号に昇格していた。
これは幼馴染みのコーチのひいきではないことは部員がよくわかっている。
 
ほむらの背番号は「11」もちろん会長特権で奪いとった番号である。
こちらは最初は光を除く全部員が不満だったが、今では文句をいう人は誰もいない。
 
光の長所は光速のドリブルと意表を突くパスである。
ドリブルの技術・速さは光の天性の才能であり、
パスの技術は公二の指導による努力の賜物である。
 
ほむらの長所はなんといっても、小柄な体から繰り出す男勝りのパワーのシュートである。
光ほどではないが、スピードは一流のものを持っている。
ただ、彼女はプレーが荒れ気味なのと、弱い相手には「弱いものいじめは嫌いだ」といって手抜きするのが問題であるが。
 


というわけで、今日は練習試合の日だったのだ。
結果は光とほむらのコンビで完勝だった。
 
「お疲れさま、光」
「ありがとう公二君♪」

「あ〜あ、仲のいいところを見せつけてくれるじゃないの」
「ご、ごめん、会長。しかし、今日もすごかったな」
「にゃはは!あたしにまかせればうちのチームは無敵よ!」
「ほむらがいないと私なんてまったく役立たずよ」
「そうかな?褒めても何もでないぞ……ん?あれは誰だ?」
 
ほむらが指さした方向に、一人の少女がいた。
背が高く、美人でスタイルもよさそうな女性。
ただ、その表情は暗く寂しいものがあった。
 


「なんだ?あの女の子は?」
「そういえば、最近サッカー部の練習をよく見にきているの」
「そうだな、暗い顔して何を見ているんだろうな?」
「入部希望かな?」
「そんな感じはしないけど……」
 
公二と光は二人で思案にくれていたが、
突然、ほむらがいきなりボールを持って歩きだした。
 
「ほむら!どうするつもり?」
「まあ、見てな。たのむから、声をあげてくれよな」
「声?」



「会長キーーーック!」



「あぶない!」



「!!!」

 
突然、ほむらは少女に向かって高速シュートを繰り出したのだ。
運動が下手な人では確実にぶつかる距離で。
ところが……
 
ぼんっ!
 
「うそ……ほむらのシュートを跳ね返した……」
「すごい……」
「やっぱりな……」

「会長。どういうことだ!」
「気がつかないのか?彼女、バレーのレシーブの格好だぜ」
「本当だ!」
「会長。もしかして、それを知ってて……」
「いいや、ただ彼女が運動ができるかどうか試しただけ」
「そ、それだけなの?」
「あいつ、バレーはうまそうだな。でも、バレー部にはいないぞ。なんでここにいるんだ?」
「さあ?」
 
今度はほむらと光が思案にくれていた。
 


その沈黙を破ったのは公二だった。
 
「もしかして……」
「もしかして?」
「しないんじゃなくて、できないんじゃないのか?」
「どうして?」


「彼女の目……中学の時の俺の目にそっくりだから……」


「えっ、サッカーができなくなった時の公二君の目?」
「そんな気がする……」
「やりたくても、なにか理由があってできない。ただ練習を影から見ているだけ……ってことか?」
「そのとおりだ」

ちなみに、ほむらは公二の足のことは公二自身から聞いている。
もちろんそのことは誰にもいわない約束をしている。
 
「だからかな……なんとかしてやりたいな……」
「だったらサッカー部に入れちゃえば?」
「えっ?」
「さっきの見ただろ?運動神経は抜群そうだし。背が高いし。いい選手になると思うけどなぁ」
「でも、なにか部活に入らない理由があるんじゃないのか?」
「ああ、でも『バレーができない』理由だろ?サッカーはいいんじゃないのか?」
「それって、屁理屈のような……」
「善は急げだ!さっそく連れてくるぞ!」
「会長、待てよ!……って、聞いてないよ」
 
思いつくと自分勝手に行動をおこしてしまう。ほむらの魅力でもあり迷惑なところでもある。
 


そんなことになっているとはつゆ知らず、その少女はまだ練習風景を見ていた。
 
「おい、そこでなにやっているんだ?」
「あなたは?」
「あたしは、正義の生徒会長兼炎のストライカー、赤井ほむらだ。あんたは?」
「わたしは、八重……八重 花桜梨……」
「さっきはボールが跳んできたけど、大丈夫か?」
「ううん、大丈夫」
 
ほむらはボールを飛ばしたのは自分であることをすっかり無視している。
 
「なあ、さっき見たけど……バレーがうまそうだったけど、なぜ部活に入っていないんだ?」
「……聞かないで……」
「やっぱりな……」
「えっ?」
「あんたの表情見てそう感じた奴がいるんだよ……昔、なにかあっただろ?」
「お願い……聞かないで!……」


「ああ、なら聞かないよ」
「?」
「あたしは人の心の中なんか興味がないよ。でもそこで見ているだけじゃあ何も始まらないぜ」
「どういうこと?」
「まあ来い」
「ちょ……ちょっと!どこへ……」
 
ほむらは、花桜梨を無理矢理グラウンドに連れ込んだ。
 
「お〜い、主人!入部希望者だ!」
「えっ?」
 
公二も光も花桜梨も唖然としていた。
 


「ちょっと!わたしそのつもりはないわよ!」
「なら、そのまま見ているだけで高校生活を終わらせるつもりか?」
「えっ……」
「あんたが何があったか知らないけど、逃げているだけでは何もかわらないぜ」
「………」
「あたしと一緒にサッカーやってみないか?なにか変わるかもしれないぜ?」
「………」
 
あきらかに花桜梨は納得していない表情だった。
 
「そうか……なら、あたしと賭けしてみないか?」
「えっ?」
「あたしが勝ったらあんたはサッカー部に入部。あんたが勝てばこの話は無し……いいだろ?」
「……どういう勝負なの……」
「簡単だよ。あたしがペナルティエリアの外からシュートする。あんたが止める。30本打って、1本もゴールに入れなければあんたの勝ちだ」
「ちょっと!いきなりGKなんて無理よ!」
「あたしはそうは思わないな」
「えっ?」
「なんでも前に跳ね返せばいいんだ。バレーが得意そうだし……できるだろ?」
「……わかったわ、その勝負受ける……」
「そうこうなくっちゃ!」
 


公二と光の不安をよそに、勝負は始まった。
花桜梨は運動着に着替え、GK用グローブを借り、ゴール前に立っていた。
ペナルティエリアの外にはほむらが立っていた。
 
「じゃあ、いくか……えいっ!」
 
ほむらがど真ん中に軽くシュートを放つ。軽くと言ってもかなりの威力だ。
 
「………」
 
花桜梨は簡単にバレーのレシーブでボールを前に跳ね返す。
 
「もう少し強めにいくか……とおっ!!」
 
今度はゴールの横端を狙って打ってみる。
 
「………」
 
花桜梨は横に飛び簡単に片手レシーブで跳ね返す。
 


シュートを10本打った。依然ゴールは割れない。
ほむらは、かなり手加減をして打っていた。それでも素人が跳ね返せるものではないが。
 
「やっぱりな……あたしの思った通りだ……そろそろ本気をだすか……」
「………」
 
「ねぇ、ほむらは何を考えているの?」
「さあ?でもほむらは彼女に何かを伝えたがっているのは確かだ。ここは会長にまかせよう」
「そうだね……」
 


ほむらのねらいかどうかはわからないが、花桜梨の心境に変化がで始めた。
 
(はあ、はあ……こんなに汗かいたの久しぶり……気持ちいい……)
「13本目!」
 
ばんっ!
ばしっ!
 
(昔もこんな楽しかったときもあったな……あのころに戻りたい……)
「こんちくしょう……こんどはどうだ!」
 
ばんっ!
ばしっ!
 
(だめよ!部活に入ったらまた……今は違うけど……いつかは……)
「こんどこそ!」
 
ばんっ!
ばしっ!
 
花桜梨(なんであなたはここまでして私にかまうの?どうして?)
 


「はぁ、はぁ……まさか20本でも入らないなんて……ちくしょう」
 
まだゴールは割れていない。
ほむらは、かなり本気でシュートした。ゴールの隅もねらって打った。しかしすべて花桜梨に跳ね返された。
 
無言でボールを跳ね返していた花桜梨が初めて口をひらいた。
 
「やめて……」
「えっ?」
「これ以上私にかまわないで!」
「そういうわけにはいかないな……」
「えっ?」
 
「あんたは本当はみんなと一緒にいたいんだろ!」
「そんなことはない……私は迷惑な人間だから……」
 
ばんっ!
ばしっ!
 
「そんな奴がわざわざ練習を見に来るか?……希望も捨てた奴が来るか?」
(えっ!)
 
ばんっ!
ばしっ!
 
「あんたにはまだ希望を捨ててない!……あんたの目はそう言ってる!」
(希望を捨ててない?……私が?)
 
ばんっ!
ばしっ!
 
「それにシュートを跳ね返すごとにあんたの目が輝いているぜ!!!」
(本当なの?私まだ輝くことができるの?)
 
ばんっ!
ばしっ!
 
「できるかどうかわかる前にあきらめていたら何もできないぜ!」
「!!!」
 
ばんっ!
ばしっ!
 
「ねぇ!彼女表情が変わった!」
「ああ、なにか悟ったかのようだったぞ!」
 


「はぁ、はぁ……」
「はぁ、はぁ……」
 
「ちくしょう……これが最後か……いくぞ!」
「さあ、来なさい!」
 
「!!!彼女、本気になった!」
「!!!なんか、生まれ変わったようだ!」
 
「会長キーーーーック!」
 
ばしっ!
 
「なにっ……」
「シュートをキャッチした……」
「信じられない……」
 
花桜梨はほむらのシュートを余裕の横っ飛びでキャッチしたのだ。
今まで、チーム内で会長キックのシュートをキャッチした人は誰もいなかったのだ。
 


全てのシュートを跳ね返されたほむらはショックで呆然自失だった。
花桜梨はボールをキャッチした状態で倒れたのままだった。
 
「負けた……あたしの負けだ……あんたは自由だ、好きにしな」
「ううん……わたしの負け……」
「えっ……だって、全部シュートを跳ね返したじゃないか?」
「そんなことない……ほら……」
 
「!!!」
「!!!」
「!!!」
 
花桜梨はキャッチしたボールを後ろに投げてしまったのだ。
ボールはゴールの中に入って止まる。
 
「これで私の負け……ちゃんと約束は守るわ……」
「おまえ……」
「あなたの情熱に負けたの……私、決心がついた。もう一回やりなおしてみる……」
「それって……」
「女子サッカー部……入れてくれるよね?」
「ああ、もちろんだ!」
「ちょ、ちょっと待てよ!一応コーチの俺が適正を見て……」
「そんなの必要ないだろ?あれだけ見ていれば。花桜梨の実力はあたしの保証付きだ!」
「……まあ、いいか」
 


「ねえ、赤井さん……」
「なんだ?」
「今はまだ言えないけど……いつか本当のこと……聞いてくれますよね?」
「昔のことか……」
「ええ……」
「わかったよ……気持ちに区切りがついたらでいいよ」
「ありがとう……」
 
このとき、思わぬところで花桜梨の過去の話がでることになろうとは誰も思わなかったのであった。
 


ところが、この日の練習後……
 
「ねぇ、ほむら」
「なんだ?」
「なんで、あんな勝負をしようと思ったの?」
 
「ああ、青春サッカー漫画でああいう場面があって、あたし一回ああいうのやってみたかったんだぁ〜」
「………」
「………」
 
「まあ、いいだろ!いい戦力が入ったことだし。結果オーライで!あははは!」
「………」
「………」
 
公二と光は空いた口がふさがらなかった。


その次の日曜日
公二は望とのデートだった。
デートといってもこの日はきらめき中央公園で話をしていた。
話は当然、ほむらと花桜梨の話になったが……
 
「はぁ〜……」
「あははは!」
「笑い事じゃないよ……まったく……あれで下手したらどうなっていたか……」
「まあ結果オーライだろ?彼女いいGKになりそうなんだろ?」
「まあな、彼女をGKにしようかなって思っているけど……」
「けど?」
「望にもそれ以上は言えないな。企業秘密って奴だ」
「なぁんだ、つまらないの……」
 
「ところで光さん。昔の公二君みたいに怒られ役やらせているんだって?」
「ああ、彼女のおかげでチームも引き締まっているし、なにより光の成長が早くなったよ」
「そう、あのころの公二くんみたいに?」
 
「そう……でもあのとき監督に猛抗議したの望だろ?『公二君ばかり怒るなんて許せない!』って」
「そ、そうだけど……ば、馬鹿……恥ずかしいじゃないか」
 
「でも、あのおかげで怒られ役の本当の意味がわかったし……今だから言えるけど……ありがとうな」
「う、うれしい……」
 
学校では男っぽさで有名な彼女も公二の前では恋する可愛い乙女だった。
 


なにはともあれ、女子サッカー部に八重 花桜梨が入部した。
新戦力が続々加入し、女子サッカー部も輝きを増してきた。
そして、また一人女の子が……
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
新メンバー第2弾、八重 花桜梨登場の回でした。
彼女は頭脳明晰スポーツ万能のイメージがありますが、ここではGKにしてみました。
(こう書くと某ヘアバンドのヒロインみたいだな)
 
しかし、すごいぞほむら!えらいぞほむら!
たった1話。話の中の時間にしてたった数十分で花桜梨を目覚めさせたのですから(笑)
 
彼女を口説くのに話数は書けたくなかったのでこんな感じになりました。
ちなみに、ほむらが最後にいった、青春サッカー漫画。当然モデルなんかありません。架空の漫画です。