第8話目次第10話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「ほむら、いくよ!」
「まかせとけ!会長キーーーック!」
 
ズドン!
ばしっ!
 
「ちくしょう……また入らなかったか」
「うふふ、そう簡単には入れさせませんよ」
 


女子サッカー部に八重 花桜梨が入部してから1カ月。サッカー部の状況は大きく変化した。
 
花桜梨はGKをやることになった。
ほむらとの一騎打ちで勝ったから当然といえよう。
 
花桜梨は以前バレーボールをやっていたらしいのだが、それがGKに役立っている。
なんといっても高速のボールの扱いに慣れているのだ。ボールに対する恐怖心もない。
それにバレーで鍛えた跳躍力はかなりのものがある。
169cmの長身はまさしくGK向きと言えよう。
 
さらにチームに思わぬ「花桜梨効果」があったのだ。
どういうことか。
実は学校内で「女子サッカー部の新入りのGKはものすごく美人だ」という噂が広まったのだ。
もちろんこれは花桜梨のことを言っている。
それからは女子サッカーの練習を見る男子の数がかなり多くなった。中には他校の生徒もいたとかいないとか。
それだけ異性に注目されて燃えないわけがないのは男子も女子も同じ。
練習に熱が入り、それがライバル心となってお互いに刺激となる。
練習に熱が入れば上達も早い。チームも急に強くなっていった。
なんか「風が吹けば桶屋が儲かる」的で下世話な話ではあるが事実そうだったのだ。
 
だからといって、チームで花桜梨は恨まれているかと言えばこれが逆なのだ。
花桜梨は明るくて優しく、チームの輪にすぐに入ることができた。
それに彼女のGKとしての実力をチームメイトが認めている。
 


「しかし、花桜梨さん。短期間であんなにうまくなったなんて、今でも信じられないなぁ」
「本当。あたしもびっくりだよ」
花桜梨「ありがとう。キャッチングはまだまだだけど、他はバレーとそんなに変わらないから……」
 
「花桜梨さんがGKだと、安心して攻撃ができるよ」
「そうだな、あたしもそうおもう」
「そんな……うれしい……」
 
花桜梨は感激していた。頼りにされていることが嬉しかったのだ。
しかし、彼女がそう思っていることは、光やほむらは今は知る由もなかった。
 


一方、公二は監督と今後の方針について話し合っていた。
 
「うちも弱点が徐々に解消されているようだな」
「はい、思いがけず二人も強力な新人が入りましたから」
「ああ、特に生徒会長が入ったのはいろいろな意味で大きいぞ」
「いろいろな意味?」
「赤井が入ったおかげで、校長が女子サッカー部を滅茶苦茶期待しているんだ……」
「はあ……『あの』校長が……」
「そう、ある程度成績を残さないと後が怖いぞ……」
「覚悟しておきます……」
 
ほむらは校長とお友達になっていたのだ。
公二の頭の中には試合のときにスタンドで大きな学校旗を振り回す校長の姿が浮かんでいた。
想像するだけで頭が痛くなる公二だった。
 


「ところで……実は、話があるんだ」
「なんでしょうか?」
「実はテニス部の顧問からある子を面倒みて欲しいって頼まれたんだ」
「て、テニス部?なぜ?」
「どうやら部活を辞めたいって言ったそうだ。『これ以上迷惑はかけられない』って」
「それをどうしてうちが?」
「彼女はいい子で。そのまま帰宅部にさせたくない。うちで立ち直る機会を与えて欲しい。とのことだ」
「なるほど……」
「とにかく、一度会ってみないか?」
「わかりました……」
 


監督と公二はグラウンドにやってきた。
そしてその少女は待っていた。
 
「こんにちは……」
「君がテニス部の子かい?」
「うん……」
「名前は?」
「寿 美幸……」
 
美幸という女の子は、うつむいたままだった。
 
「ねぇいったい、どうしてテニス部辞めたいっていったの?」
「もう、みんなに迷惑かけたくないから……」
「テニスは下手なの?」
「そんなことはないけど……」
「じゃあ、なぜ……」
 
公二が次の言葉を言おうとした瞬間!
 
ぼかん!
 
美幸の頭にサッカーボールが直撃した。
 
「いてててて……」
「大丈夫か!」
 
そういっているうちにもう1個……
 
ぼかん!
 
「いてててて……」
「またか!寿さん、大丈夫か!」
「大丈夫。慣れてるから……」
「慣れてる?」
 


公二が不思議がっていると、2個のボールをぶつけた張本人が現れた。
 
「ごめんなさい!ついコースがずれてしまって……」
「こらっ!あぶないだろ!」
「すいません!大丈夫ですか……あれ?美幸ちゃん!」
「あっ、ひかりん……」
「えっ、光、寿さんを知っているのか?」
「うん。体育の授業で一緒だから……で、なんでサッカー部に美幸ちゃんが?」
「ああ、テニス部の顧問から面倒みてくれって」
「えっ、テニス部辞めるの!」
「うん……」
「どうして?あんなにテニスが好きだったんじゃないの?」
「そうだけど……」
 
ぼこっ!
 
「いてて……」
「またか!いったいどうなっているんだ!」
「大丈夫?」
「大丈夫だけど……ぐすっ」
「寿さん?」
 
「うわあああああああん!」
 
とつぜん、美幸が大声で泣き出した。
 


「どうしたんだ!」
「やっぱり……やっぱり、ここでも美幸のせいで迷惑かけるんだ……うわああああん!」
「寿さんのせいじゃないよ!」
「違う、全部美幸のせいなんだ……美幸が不幸なばっかりに……うわああああん!」
「不幸?」
 
「公二君。美幸ちゃんっていつも周りに不幸な事が起こるって有名なの」
「えっ?」
「毎日1回は車に跳ねられるし、空から色々な物体がぶつかるし、おみくじは大凶以外引いたこともないの」
「……信じられない」
 
「だからね……美幸、部活で迷惑かけっぱなしだったんだ……」
「えっ?」
「テニスの練習でも急にボールが破裂したり、試合でもイレギュラーバウンドばっかりだし……」
「………」
「だから、みんな美幸のせいなんだぁ〜。美幸は迷惑な人間なんだぁ〜……うわああああん!」
「そういうことだったのか……」
 


「美幸ちゃん、かわいそう……」
「なあ、光。そんなに彼女嫌われているのか?」
「ううん。美幸ちゃん。みんなに人気があるのよ」
「なんか、必要以上に自分を責めているな。あたしは迷惑だとは思ってないけど」
花桜梨「わたしもそう思う……」
「このまま、うちで面倒見ても変わらないと思う。彼女を説得してテニス部に戻したほうが……」
「私もそう思う……でも、誰が説得するの?」
「彼女を説得するのは難しいぞ……」


「わたし……やってみる」


「えっ?」
「大丈夫……私に任せて」

 
そういって、花桜梨は美幸のところに歩いていった。
 


「美幸ちゃん」
「あなたは?」
「わたしは八重花桜梨。最近サッカー部に入ったばっかりなの」
「そうなんだ……」
「美幸ちゃん。自分を責めるのはやめたら?」
「だって、美幸のせいで皆に迷惑をかけているから……」
 
「テニス部のみんなは、そのせいで美幸ちゃんのこと嫌いになった?」
「えっ?」
「部活のみんなは、不幸なところも含めて美幸ちゃんが好きなんじゃないの?」
 
「そうなの?」
「そうよ。ちょっと変わったことが起こるというだけで、迷惑なんて思っていないよ」

「そうなの?美幸迷惑かけてなかったの?」
「うん。自分は不幸だなんて思っちゃだめ。美幸ちゃんはみんなに幸せをあたえているのよ」
 
「なんでそう思うの?」
「だって、あなたの周りの人はいつも幸せそうな顔をしているから」
 
「……うわああああん!」
 
「み、美幸ちゃん!」
 
突然、美幸は花桜梨に抱きついて泣き出した。
 


「美幸、とっても嬉しい。美幸は幸せだって言われたの始めてなの……」
「だってそうでしょ。あなたのおかげでみんな幸せになれるのよ」
「ありがとう……美幸、気持ちが楽になったよ……」
「そう、よかった」
 
美幸はじっと花桜梨の顔を見つめる。花桜梨も美幸の顔を見つめ返す。
 
「なんか寿の顔が明るくなったぞ……意外とあっさりだったな」
「立ち直ったみたいね……よかった」
「寿さんはもうここにいる必要はないな、テニス部に返すことにするか」
「そうだね。そのほうが彼女にとってもいいかもね」
「うん。テニスがやりたいならテニス部に戻す。当たり前だ」
 
公二、光、ほむらは美幸と花桜梨のところに行った。
 


「寿さん。よかったね」
「美幸ちゃん。よかったね」
「うん、ありがとう……」
「うん。よかった、よかった」
「じゃあ、寿さん。サッカー部にいる必要はないね。テニス部に戻ったら?」
 

「ううん。女子サッカー部に正式に入る」

 
「はっ?」
「正気か?」
「どうして?」


 
「だって……花桜梨さんがサッカー部にいるから」
「えっ?えっ?えっ?」



「花桜梨おねぇさまぁ〜。いいでしょ〜。ねぇ〜」
「?!?!?!」


 
「お、お、おねえさま?」
「寿ってそんな趣味があったのか……」
「ちがう、今目覚めたみたいだぞ……」
「美幸、花桜梨お姐さまの側にいたいの……」
「いや、あの、その、え〜と……」
 
美幸の抱きつく手に力が入る
花桜梨は明らかに動揺している。
 


「ど、どうする?」
「断る理由もないし……」
「テニスができるっていうから、サッカーにも役立つかもしれんし……」
「う〜ん……」
「なんとかなるんじゃないの?」
「まあ、いいかな」
「そ、そんなのでいいの?」
「ボールが吸い込まれるように彼女にぶつかれば、それだけ有利じゃないの?」
「たしかに、インターセプトやパスカットが決まりそうだけど……」
 
「じゃあ、決まりだな!……お〜い、入部が決まったぞ!」
「本当!美幸、最高にラッキーだよ!」
「まだ何も言ってないが……まあ、いいか」
「しかたないね……」
「花桜梨お姐さま。これからもよろしくね♪」
「はははは……」
 


その夜。
光は望と電話で話をしていた。
話題はもちろん。美幸の話。ところが……
 
「そうなんだ……」
(なんか、望さん乗り気じゃないなぁ……あっ!もしかして!)



「のぞみおねぇさまぁ〜」
「ば、馬鹿!やめろ!もうたくさんだ!」


 
「うふふふ!やっぱりね」
「な、なんだよ!」
「望さん。女の子にモテモテなんだね」
「はぁ〜……そうだよ。女の子からラブレターももらったよ」
「はははは!」
「笑い事じゃないよ!はぁ〜、男の子からもらいたいのに……」
「へぇ〜、公二君ならなおさらかな?」
「えっ、あっ、その、は、恥ずかしい……」
「でも、駄目。公二君は私がもらうんだから!」
「駄目!公二君は私がもらうの!」
 
「あのね、今度公二君とハイキングにいくんだぁ〜」
「なにぃ〜!」
「そこで私の手作り愛情弁当で公二君のハートをつかむんだモン♪」
「わ、わたしだって、今度のデートは手作り弁当持っていくつもりなんだから♪」
「料理なんてあまりしたことないけど……公二君の為ならがんばるモン♪」
「わたしも料理は下手だけど……愛情なら負けないわよ♪」
 


結局、寿 美幸はテニス部に戻らず、女子サッカー部に居座ってしまった。
それからしばらくの間、美幸に追いかけられる花桜梨の姿があったのはいうまでもない。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
新メンバー第3弾、寿 美幸登場の回でした。
しかし、ゆっきーを禁断の世界に飛び込ませてしまった・・・
どうしよう・・・でも、まあなんとかなるかな(おい)
 
ここでは、いきなり落ち込んでいる美幸で登場させました。
そうでもしないと、彼女がサッカー部に来る理由が思いつかなかったから(^-^;)

新メンバーはここでひと段落です。
次回からは新しい展開に移ります。