第9話目次第11話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「ほむら、いくよ!」
「まかせとけ!会長キーーーック!」

ズドン!
ボコッ!

「だ、大丈夫?」
「はにゃ〜、だいじょうび、だいじょうび〜」


寿 美幸が女子サッカー部に加入した。
ポジションはどうしようか監督と公二で議論になった。
ウィングかDFか議論になったのだが、結局DFになった。
 
決め手になったのは、彼女の不幸さであった。
美幸がグラウンドにいると、なぜかボールが美幸の顔面に直撃するのだ。
こんなに、楽?にボールが取れればありがたいというものである。
ちなみに、相手のFKではいつも壁役をやることになるのは言うまでもない。
 
さらにいうと、意外に彼女は当たりに強いのだ。
多少の頑丈なFWに対しても当たり負けしないのだ。
よく考えると彼女はいつも、自動車にぶつかっているのだから、
多少の人間ぐらい平気なのかもしれない。



それに、公二たちを驚かせた美幸の意外な武器があったのだ。
それは、ドリブルである。

「じゃあ、美幸ちゃん、ドリブルであそこの棒をジグザグに走ってよ」
「うん、やってみる〜」

軽い気持ちで、美幸にジグザグドリブルをやらせたところ、

「おい……なんだ、あのドリブルは?」
「たしかに、早くはないけどな……」
「綺麗なドリブル……」
「踊っているみたい……」

美幸のドリブルは早くはない、キープもそんなにうまくない。
しかし、綺麗なドリブルだったのだ。
棒の間を華麗なステップですり抜ける。そんな感じだった。

美幸に事情を聞いたところ。

「あのね〜、美幸、子供の頃アイドルになりたくてダンス教室に通ってたの〜」

ということである。



その結果、美幸のポジションは左サイドバックに決まった。
サイドバックは戦術的に動くことが特に要求される。
MF陣を助けるサイド攻撃は守備のこともあり、非常に難しい。

それだけ戦術理解が大切なのだが、美幸は理解が早かった。
美幸は非常に素直なのだ。
どれだけ素直かというと……


「えっ〜、サイドバック?やだ〜」
「なぜ?」
「だって、花桜梨おねぇさまから離れてるから〜」
「でも、首を横に向けるだけで、八重さんの顔が見られるよ」
「うん!美幸、サイドがいい〜!」
「………」


「え〜、サイド攻撃なんてやだ〜」
「なぜ?」
「だって、花桜梨おねぇさまから離れちゃうよ〜」
「でも、それで点がとれれば八重さんが楽になれるよ」
「うん!美幸、頑張ってあがる〜!」
「………」


本当に素直である……
一方、花桜梨は万が一、美幸がハットトリックを達成したものならば、
ご褒美に人身提供されるのではないかという、あらぬ心配までしているのだが……



そして、今日は第三高校との練習試合。
レギュラー同士だけでなく、補欠同士の試合も組まれた。
1年生4人衆は、補欠の試合に組まされた。

「なんで、あたいが補欠のほうにでなければいけないんだ!」
「しかたないでしょ!公二も相性の問題だからっていってたから」
「相手との相性なんて関係ない!」
「相手じゃなくて、わ・た・し!」
「へ?」
「公二はほむらと相性のいい私と組ませたの!」
「そういうことか……じゃあいいや!」」

ほむらは光とのコンビネーションはいい。
しかし、ほかのMFとの相性は光ほど良くはない。
それを良く知っている公二はあえて、ほむらを補欠戦に回したのだ。



一方、美幸にとっては始めての試合。緊張するのも無理はない。
それを優しい花桜梨は緊張をほぐそうとしていた。

「花桜梨おねぇさま〜、美幸、心配なの〜」
「な、なんで?」
「だって、初試合だから〜、美幸、みんなに迷惑かけないかなって……」
「大丈夫、そんなこと心配しなくていいのよ」
「えっ?」
「サッカーは団体競技、みんなで助け合っていくのは当然よ……」
「おねぇさま、素敵!」
「な、なんでそうなるの……」

結局、美幸がさらに惚れてしまう結果になったのである。

ちなみに、花桜梨の背番号は『12』、サブゴールキーパーの地位まで成長していた。
美幸は『17』。いきなりこの背番号は大抜擢に等しい。



そして、いよいよ補欠戦が始まろうとしている。

ひびきの高校のシステムは伝統的に4−4−2である。
DFは横に並ぶラインディフェンスが創部からの伝統で強力である。
MFはダイヤモンドにならぶ陣形、両横のウィングが攻守に重要である。
FWが二人が横に並ぶ。左右どちらからでも仕掛けれらる布陣である。



花桜梨がGK。試合に出ると感じる観衆からの視線にはもう慣れたそうだ。
美幸が左サイドDF。補欠戦ながら初試合でいきなり先発で張り切っている。
光が攻撃的MF。もちろん司令塔のポジション、トップ下に陣取っている。
ほむらがFW。攻撃の最前線で待つエースストラーカーである。

キャプテンマークはほむらが着けている。
自分勝手で迷惑を掛けているが、やっぱり強いリーダーシップを持っているのは彼女だけである。



そして試合が始まった。

序盤は、敵の攻め方を探る意味もあり、あまり変わったことはしない。
オーソドックスにパスをつないで攻めるスタイルをとっていた。

そして、試合のテンポがつかめたところで、監督の公二が動いた

(さて……そろそろ、あれを試すか)

公二がなりげなく近くにいる光にサインを送る。

(光、そろそろ、あれやってみろ)
(公二君、わかった!)

そして光も味方に指示を送る。

「ほむら!あれをやるよ!」
「おっ!いよいよあれか!うひょ〜!楽しみだ!」

公二には、このメンバーで考えていた攻撃スタイルがあった。
いまから、それを試してみるのだ。



ボールは今、花桜梨が持っている。

「いくわよ!」

最近、花桜梨のロングキックがかなり威力・正確さを増してきた。
花桜梨のキックでいきなり前線へ、という攻め方もできるようになった。

普通なら、一気に中盤まで持っていくのだが……

ボンッ!

花桜梨はすぐ、目の前のDFにボールを渡したのだ。

ミスキックと思った相手はFWがボールを奪いに来る。
しかし、これはこちらの思う壺なのだ。

DFはすぐさまパスを送る。
そのパスの先には……なんと、光である。

前線にいるべき光がDFラインまで下がってきたのだ。



相手は驚いたが、とにかく、ボールを奪いに来る。
ここからが、新戦法が始まる。

「いっくよ〜!」

ここから、光がドリブル突破が炸裂する。
天性のスピードと技術で、相手のFW・MF陣をすり抜けていく、


相手A「まずい!2人がかりで止めるわよ!」
相手B「おお!」

光の前にはすでに二人のボランチが待っていたが、

「えへへ、2人も来ていいのかな?」
相手A「えっ!」
「えいっ!」
相手B「あれ?……なに!」

一瞬の隙を見て、光が横にパスを送っていたのだ。
あまりに早かったので、相手はどこにボールがあるのかわからなくなってしまった。



そのボールはというと……

「よ〜し、美幸もがんばる〜!」

後ろからオーバーラップしていた美幸だった。

気がついたDFが美幸に追いつく、

相手C「こんなの止めてやるわよ!」
「へっへ〜んだ!」
相手C「えっ!……えっ?えっ?」
「じゃあね〜!」

美幸のステップに惑わされた相手はボールの行く末を見失い、
その間に美幸にドリブル突破をされてしまった。



そして、美幸は一番前までやってきた。

「それ〜!あとはよろしく〜!」
「OK!まかせとき!」

そういって、パスを受け取ったほむらが、またもやドリブル突破を図る。

「どけどけ〜!ほむら様のお通りだ〜!」

ほむらは強引にDFの隙間を抜いていく、
そして……

「いくぜ、会長キィーーーーーック!」

ズドン!
ガシュッ!

ピピー!

「ほら、一丁あがり!」
「やったね!」
「大成功だね!」
「にゃはは!やっぱり、あたいがいれば天下無敵よ!」

開始10分。あっさりと先制点が決まった。



公二の考えていた作戦。
それは、「高速ドリブル突破」である。

光のスピードのあるドリブル
ほむらのパワーあるドリブル
美幸の華麗なステップのドリブル

異なる3種類のドリブルを使っての速攻を考えていたのだ。

もちろん、いつも使えるとは考えていない。
しかし、ドリブル突破が強力であることを相手に知らしめれば、
相手も警戒して、思い切った作戦ができなくなる。
実は、公二の作戦はそこまで考えてのことである。



今日の試合は、徹底的にドリブル突破だけで攻めていった。
相手もわかっているものの、誰も止めることはできない。

結局試合は、7−0の激勝であった。
この大差に相手が動揺したのか、その後の、レギュラー戦も3−0の完勝だった。


「今日の試合は気持ちよかった〜!」
「ほんとだ、最後はゴールするたびに悪い気がしたよ」
「ほむららしいね」

「おねぇさま〜!美幸頑張ったよ〜!」
「そ、そうね、頑張ったと思う……」
「美幸、おねぇさまに褒められてカンゲキ〜!」
「はははは……」

この試合により、光たち1年生の実力が証明された。
さらにいうと、2年生より強力なのではないかという評判までたっていた。
それだけ、あの練習試合が噂になっていたのだ。



その後も、光たちの猛練習は続く、
練習試合もたくさん行い、チームの実力は確実についている。
光は、チームの司令塔としての実力と自信を深めていった。

いっぽう、公二もまた修行の日々だった。
コーチとしての実力はもちろん、監督としての技能も身についていた。
練習試合で試合の采配の勉強。練習で体調管理の勉強。その他数え上げるときりがない。
本当は、選手以上に頑張っているのでないかと言われているほどだ。



もうじき光たちは2年生に進級する。
そんなある日曜日。

公二はピクニックに出かけた。
一緒にいるのは望と光。
これからお弁当というところなのだが……

「………」
「公二君、大丈夫だって!」
「………」
「そう、安心して!」
「大丈夫か?……前もその言葉聞いたような気がするが……」

「だ、大丈夫!今度は塩入れすぎないから!」
「だ、大丈夫よ!今度は砂糖の量を調整したから!」

「そうか……じゃあいただくか……」
「うん、はやく食べてね!」
「私のもね♪」

「では……モグモグ……ん!」
「どお?」
「おいしい?」

「う〜ん……ま、真心がこもってるね……」
「……まずかったんだね……」
「……失敗か……」

「ごめん……でも全部食べるから!……モグモグモグ」
「ごめんね……こんどはちゃんと作るから……」
「ごめん……もっと練習するから……」

公二と光と望、この三角関係もまた続く。
ずっと続いて欲しいような、早く決着を付けて欲しいような、複雑な気持ちのまま……
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
久しぶりの更新です。
2,3ヶ月ぶりかなぁ?
考えていたストーリーを少し忘れていた(汗

しかし、少し細かい試合の様子を書いたのですが、む、難しい……
スピード感がないし、迫力もない、
たぶん最後までこんな感じかな?すいませんm(_ _)m

次回から、光たちは2年生になります。
ストーリーも一気に佳境へと向かっていきます。