第10話目次第12話

Fieldの紅い伝説

Written by B
光達は2年に進級した。
女子サッカー部にも新入生が入ってきた。
部はそんなに有名ではないので、それほど人数はいないが、将来が楽しみな人材は多そうだった。

上級生になった光達の練習にも力が入る。
1年生に監督として紹介された公二もまた、1年生の練習の指導に気合いが入っていた。

そうしているうちに、インターハイがやってきた。

2年生では唯一ほむらがレギュラーだった。
光はいまだに控えのまま、花桜梨もまたしかり。
美幸は相手の状況や、他の選手に試合経験を積ませるためにとかで
ベンチ入りしたりしなかったりだった。



そんな状況での初戦。

相手は一つ格下の第三高校。
格下といっても去年のインターハイでは一つ格上の存在だった。
それだけ、実力がついてきた証拠である。

光はベンチでスタート、背番号は「14」で変わらず
花桜梨もベンチ、背番号は「12」と変わらず
美幸は今回はベンチからはずれた。

そして、ほむらだが……実はベンチ入りすらしていなかった。

サッカー部の初戦の日。他の部活でもインターハイ初戦が行われていた。
ほむらは生徒会長としての使命感から、全部活の試合会場を回って応援することにしたのだ。
もちろん、初戦は自分がいなくても勝てるだろうと思っていたのだが。



格下の相手。
今までの強い相手とは違って、全体が気分的に楽だった。
監督の公二も

「初戦は緊張せずに気楽にいこう!」

と声をかけた。

それが間違いの始まりだった。



試合開始。

いきなり第三高校が猛攻撃を仕掛けてきたのだ。
これにはひびきの側は予想外だった。
最初はセオリー通りに様子見の展開だと思っていたからだ。

特に守るDF陣はあわててしまった。
そして開始10分で事件が起こる。

ペナルティエリアに入ってきた第三高校のFWを
DFが足を引っかけて倒してしまったのだ。

もちろんDFは退場。
さらにPKで1点入れられてしまう。



これにはベンチもあわててしまった。
あと80分を10人で戦わなければならなくなったのだ。

選手交代等の策はあったが、監督の公二は動かなかった。
下手に動かして悪くしてはいけないという判断だった。
それに今FWを引っ込めたら、点が取れなくなってしまう、そういうこともあった。

ところが、これがまずかった。
DF陣は練習でしかしない慣れない3バックをしなくてはならなかった。
ただでさえ焦っているのに、慣れないことをすればよけいに焦る。

そのため、前半戦は攻められっぱなしだった。
そして、前半ロスタイム。
集中力が切れ始めたところに、またもやゴールを決められてしまった。

前半を0−2で折り返した。



人数が一人少ない状況でこの点数は致命的だ。
それでも、チームはあきらめなかった。
後半は3バックの守備も安定して、点を入れさせなかった。

そして後半15分あたりから、疲れがみえた攻撃陣を交代させ、攻勢にでる。
それでも一人少ない状況では厳しかった。

結局、後半40分に光のアシストで1点返したものの、それが限界だった。

試合結果は1−2、結局去年と変わらずの初戦敗退だった。
しかし、相手が格下だけにまさかの敗退だった。



そして試合後のミーティング。
本当は秋の大会に向かって頑張ろうというはずだったのだが……
そこで3年生が全員引退すると言ったのだ。

これには公二を始めとする下級生は驚いた。

「ちょっと待ってくださいよ。秋もあるじゃないですか」
「そうですよ、キャプテン。秋こそ全国に行きましょうよ」
「だめだよ、陽ノ下さん。うちらじゃ無理なんだよ」
「えっ……」

「今日の試合でわかったよ。私たちの実力はこんなもんだったんだよ」
「なにもそこまで……」
「確かに今日の相手は格下だった。でもそれは2年生からみればの話」
「それって?」
「3年生から見れば、やっぱり格上のままだったのよ」
「………」

「試合のあと3年全員で話し合ったんだ。秋は2年に任せようって」
「えっ……」
「弱い私たちがいるより、遙かに強い2年生に経験を積ませた方がいい、それが私たちの結論」
「………」

「陽ノ下さん。私たちが身を引くんだから、絶対に全国に出てくれるよね?」
「……はい!絶対に勝ちます!絶対に全国に行きます!」



「主人、あんたはいい監督だったよ」
「キャプテン……」
「弱い私たちにも全国大会の夢を見させてくれたんだからな……」
「そんな……今日は俺のせいで……」
「主人、あんたの責任だけじゃない……状況に対処できない私たちの実力不足もあるのよ」
「………」
「今日の事で負い目があるなら、秋は絶対に全国に行けよな」
「わかりました……約束します……」

「ところで明日からの主将なんですが……」
「そんなの決まってるだろ?」
「えっ?」
「あいつのことだ、放課後になればわかるよ」
「?」

こうして3年生は今日限りで引退することになった。



そして2年A組の教室。
そこには二人しかいなかった。
いすに座って頭を抱える公二と
それを心配そうに見つめる光だった。

「………」
「公二、元気出して」
「俺のせいだ……あの試合は、俺が……」
「そんなことないって」

「違う!退場を出したときに一旦DFを4人にして守備を安定させるべきだったんだ……」
「………」
「そして後半、DF3人で攻撃を増やして勝負すべきだったんだよ……」
「………」

確かに考えてみればそのとおりかもしれない。
光は公二の分析になにも言えなかった。

「光、俺は試合前からミスしていたんだよ……」
「えっ?」
「『気軽に行こう』じゃなくて『油断せずに練習どおりの事をしよう』と言うべきだったんだよ」
「………」
「みんな油断していた。それを引き締めることができなかった……」
「………」
「すべて俺の責任なんだ……」

確かに光も格下と思って油断していた。
今考えてみれば、チーム全体がそうだった。



「公二、人間だれだってミスはあるよ」
「でも……」
「最初は仕方ないよ、次をしなければいいんだよ」
「それでも……」
「公二はできるだけの事はした、だから先輩達は怒っていないよ」
「………」
「だから元気出して、明日からがんばろっ!」
「光……」
「秋の大会で頑張れば先輩も喜んでくれるよ、だから、ねっ」
「………」

光を見つめる公二の目には涙がたまっていた。

「ねぇ公二、覚えてる?私のデビュー戦のこと」
「えっ……」
「私がボール1回しか触れなかったあの試合」
「ああ……」
「くやしくて悲しかったときに公二がこういってくれたね……」

 
『泣きな。思う存分泣いていいよ。でも、その悔しさを次にぶつけような』


「だから、公二も泣いていいんだよ……だから元気出して……」
「光……うぉぉぉぉぉぉ!」

公二は光に抱きついて泣きだした。



立ち膝状態になり頭を光の胸に埋めておもいっきり泣く公二。
そんな公二をやさしく抱きしめる光。

「ううっ……ううっ……」
「公二……」
「ううっ……悔しい……悔しいよ……」
「私も悔しいよ……」
「光……絶対に全国に行こうな……」
「うん……」
「国立競技場……絶対に行こうな……」
「うん……」
「ごめん……もう少し泣かせてくれないか……」
「いいよ、好きなだけ泣いていいよ……」

「うぉぉぉぉぉ……」
「公二……」

悔しい想いを光の胸の中ではき出す公二。
それをただじっと抱きしめながら見つめる光。

悔しい想いと新たなる目標に向かって誓う二人だった。

外はいつのまにか雨、それは二人の思いを表しているようだった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
どうも、1ヶ月ぶりの第11話です。
ここからいきなり2年生、しかも3年生が引退していよいよチームの主力に……

試合の様子は簡単に書きましたが、展開はわかって頂けたでしょうか?
試合展開を書くって難しいですね、まったく。

試合早々退場者を出した場合の公二の采配。そして後で考えた公二なりの正解。
どっちが良かったのかはよくわかりません。あくまで私なりの解釈です。
だから、自分の考えと違っていても怒らないでね。
でも、こっちの作戦が良かったと思う人がいれば、教えてね♪

次回は今回の続きです。
なんとなくわかると思いますが、あの人の話です。