第11話目次第13話

Fieldの紅い伝説

Written by B
インターハイ初戦で負けてしまった公二と光。
今は二人でその悔しさをはらしていた。

光の胸で泣いていた公二。
それをじっと抱きしめていた光。

しばらくして公二が泣きやんだ。
そして、二人はいまどんな格好か、我に返る。

「きゃっ!」
「あっ!……ごめん……」
「ご、ごめん……」

「………」
「………」

公二は、幼馴染みとはいえ、同じ年の女の子の胸に顔を埋めていたことがすごく恥ずかしかった。
光も、幼馴染みとはいえ、同じ年の男の子の顔を胸で抱きしめていたことがすごく恥ずかしかった。

どちらも友達以上の感情があるにせよ、恥ずかしくて何も言えなかった。



そんな沈黙状況が続いていたのだが、ふと光がなにかに気づく。

「あれ?なにか声が聞こえない?」
「そういえば……」
「確か、グラウンドからかなぁ?」
「でも外は雨だぞ?どうして……」
「誰だろう?ちょっと様子を……!!!」
「どうした?」
「ちょっと行ってくる!」
「光、どこに行くんだ……って、行っちゃったよ……」

教室を飛び出す光を公二は追いかけられずはずもなく、
仕方がないので歩いてグラウンドに向かうことにした。



雨のなか、グラウンドにユニフォーム姿の少女が一心にボールを蹴っていた。

「ちくしょう……ちくしょう……」
「あたしがいれば……あたしがいれば……」

それはほむらだった。

ほむらは生徒会長としてあちこちの試合会場を回って応援していた。
そして、女子サッカー部の試合結果を知ったのはついさっきのことだった。
そしてそのときに3年生の引退も知った。

ほむらはショックだった。
まさかの初戦敗退だけではない。
それで3年生が引退したことが一番だった。

ほむらとしては、初戦の相手は確実に勝てる相手だった。
少なくとも自分がいなくても大丈夫、そういう自信があった。

しかし、結果は1−2の負け。
そして3年生は引退。
ほむらは自分がいなかったために負け、自分がいなかったために引退してしまった。
それだけ強い責任を感じてしまい、その責任感がほむらをグラウンドに走らせたのだ。



「ちくしょう……ちくしょう……」
「あたいのせいで、3年生が……」
「なんで……なんで……」

「ほむら!」
「あっ、陽ノ下……」

そこには制服姿でずぶぬれの光がいた。
傘も差さずに一直線にほむらの元に向かったのだ。

「どうして……」
「今日の試合……あたしのせいなんだ……」
「違うよ、私も含めてみんな悪かったんだよ……」
「違う!絶対に違う!」
「えっ……」

「話は聞いたよ……油断してたのも、退場者を出してあわてたのも」
「………」
「確かに問題はあったと思うよ……でもな……」
「でも?」
「サッカーは点が入れば勝ち、入らなければ負け、そうだろ?」
「うん……」
「こういうときこそ、FWが点をいれなくちゃいけないんだよ!」

「陽ノ下、ストライカーっていうのは点を入れなくては価値がないんだよ」
「………」
「あたしの背番号『11』……点を入れることが義務づけられている番号なんだよ……」
「………」
「でも、あのとき……あたいはグラウンドにすらいなかった……」
「………」
「背番号『11』はグラウンドにたてずに今年の夏がおわったんだよ……」
「………」

「陽ノ下見てくれよ……『11』が泣いているだろ……」

そういって、背中を見せるほむら。
背中に大きく「11」の数字がある、
ユニフォームは雨でぐっしょり濡れていた。
光から見て確かに「11」が泣いているように見えた。

「申し訳がないよ……先輩にもこの『11』にも……」
「ほむら……」
「この『11』、あたしがわがままいってもらった番号だ、でもその使命を果たせなかった……」
「………」
「あたしはどうしたらいいんだ……」



「しょうがないよ、ほむらはそれよりも大きなものを背負っているんだから……」
「陽ノ下……」
「ほむらは生徒会長でしょ?生徒会長として学校全体を応援したかったんでしょ?」
「ああ……」
「応援のおかげで他の部活は頑張ったんでしょ?」
「ま、まあな……」
「それなら、うちらは文句言えないよ。先輩もそう思っているよ」
「そうか?先輩はそう思ってるのか?あたしを怨んでないのか?」
「うん、誰も文句は言ってないよ」
「そうか……よかった……」



「ところでほむら、明日からほむらが主将だから」
「えっ、いいのか?試合放っておいて他の部活に向かうあたしでいいのか?」
「うん、それにキャプテンの指名だよ」
「先輩が……」
「キャプテン言ってたよ『一番責任感があって、一番チームをまとめられるのはあいつだ』って」
「そうか……」

「公二もまだ決めた訳じゃないけど……引き受けてくれるよね」
「ああ、もちろんだ!」
「秋の大会……絶対に全国大会に出ようね!」
「ああ、先輩のためにも絶対に負けない!あたしが新チームを引っ張る!」
「あしたから頑張ろうね!」
「よっしゃ!頑張るぞ!」



「光!会長!」
「公二!」
「あっ、主人!」
「まったく傘も差さずに、ほら、はやく入れよ」
「あ、ありがと……」
「風邪引くぞ……」

そういって、もう一つの傘を差し出す公二。

「今日の話は改めて明日するよ」
「いや、全部聞いたからいいよ」
「でも監督としてちゃんと話した方がいいし、それに別の話もある」
「キャプテンの話か?新チームのキャプテンはあたししかいないだろ!」
「えっ?」
「これも話は聞いたよ。もちろんOKだ!」
「それなら話が早い……じゃあよろしくな」
「まかせとき!」

こうして新体制が固まりつつあった。



そしてその夜。
いつものように光と望は電話で話していた。

「そっか……インターハイでは対戦できないのか……」
「ごめんね……」
「いいよ、でも秋の大会は大丈夫だよな?」
「もちろん!絶対に全国大会に出るからね!」
「その言葉信じているよ」
「大丈夫、大丈夫」

「そういえば、来月はじめに対抗試合があるんだよな」
「そうだね」
「いよいよ、光さんと試合をするのか」
「望さんと初めて試合ができるんだね」
「楽しみだな……」
「わたしも……」

「まあ、勝つのはあたしだけど」
「言ったなぁ〜、勝つのは私なんだよ〜」

それからしばらくの間楽しい会話が続いていた。



「それじゃあまた」
「うん、またね」

がちゃ
ツーツーツー

「……ふうっ……」

電話を切った後、望はため息をついていた。

「初戦敗退か……公二、ショックだったろうな……」
「あたしが側にいれば、慰めてあげたのに……」
「あ〜あ、何で公二と違う学校にしちゃったんだろ……」
「………」


「でも負けない……だって好きだから……」


望もあらたな決意をするのであった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
1ヶ月ぶりの第11話につづいて第12話です。
ご覧のとおり、ほむらの話です。

ほむらの性格があらわれているでしょうか?
ほむらなりの責任感、使命感を出したつもりですが、わかっていただけたでしょうか?

今日の出来事で公二と光の距離がすこし縮まりました。
そのことに望も少し気がついているようで。
そのまま光が一気に公二の心をつかむのか?まだまだこっちのほうはわかりません。

次回は光と望の初対決を予定してます。
執筆スピードは落ちてますが気長にお待ちください。