第15話目次第17話

Fieldの紅い伝説

Written by B

ひびきの2−2きらめき

試合は終わった。
結果は引き分け。
しかしどちらも満足していない。むしろどちらも負け試合だととらえていた。

ひびきのは確かに強豪であるきらめきに引き分けた。
これは大きな収穫である。
しかし、それは公二の奇策があってこそのもの。
奇策が成功しなければ何点とられていたかわからない。
まだまだ実力の差は大きい。

きらめきも試合の組み立ては問題なかった。
前半は完璧だった。
しかし、後半は相手の奇策に引っかかってしまった。
予期せぬ行動に完全に混乱してしまった。
これでは全国レベルではどうしようもない。
まだまだ修行が足りないということだろう。



そのこともあって、試合後のミーティングはどちらも長かった。
ただ長いのはそれだけではない。
結果以上に深刻な表情をしている人がいたからだ。


ひびきの控え室。

「………」
「陽ノ下、どうしたんだよ」
「光さん、頑張ったわよ。なにもそんなに暗くならなくたって……」
「そうだよ〜、きらめきと引き分けたんだよ〜!」

「勝てなかった……」
「えっ?」
「望さんに……勝てなかった……」
「あの強いボランチか?」
「うん、私の目標でありライバルなんだ……」
「そういえば、あいつに向かって走ってばっかりだったな」
「どうしても勝ちたかった。どうしても抜きたかった……でもだめだった」
「確か、全部止められたんだよな」

「確かに望さんは全国レベルだよ……でも……くやしいよ……」

「光」
「公二……」
「あれが全国レベルなんだ。あれに対抗できないと全国では無理だぞ」
「公二、私どうしたらいいの?望さんに勝つためにはどうしたらいいの?」
「望は中学から頑張って練習してきたんだ。光もそれだけ練習しないといけないぞ」
「わかった、一生懸命練習する!」
「ようし、その心意気だ!」



「あ〜あ、また主人と陽ノ下のラブコメかよ。はやく終わらせようぜ〜」

二人の世界をまたほむらがぶち壊す。
最近の定番のパターンになってしまっている。

「ごめんごめん、まあとにかく策次第では引き分けるところまで実力がついたのは確かだ」
「でも前半が本当の実力だよね……」
「前半を見れば、うちのチームの課題が見えるだろう。明日からそこを直していこう」
「練習きつそうだなぁ〜」
「そんなこと言わないの」
「は〜い!」
「まあ、いつもの練習をしていれば、間違いなく追いつける。それは自信ある」
「おお!それはすごいなぁ!」
「これでもトレーニングの勉強はしてるからな」

「じゃあ今日は明日に備えて練習はなし!さあ解散だぁ!」
「お、おい!なにも言ってないけど……まあいいか」

ということで本当に解散になってしまった。



一方きらめき控え室。
ひびきのの和気あいあいの雰囲気と違って真面目な雰囲気でのミーティング。
しっかりと反省点を確認し、意識の統一を図っていた。
やはり全国レベルの高校のやることは違っていた。

それでもミーティングが終われば和気あいあいなのだが今日だけは違っていた。
一人だけ暗い表情の人がいたのだ。
望である。

いつもとは違った望にみんなが心配する。
原因はわかっていた。
終了直前のあの不自然なシュートミスの事である。
FW藤崎、久遠寺、MF鞠川が話しかける。

「望ちゃん、いったいどうしたの?」
「………」
「あのプレーは望らしくないよ。ねえ何があったんだ?」
「………」
「もしかして……怪我した?」
「それはない……」
「じゃあ……」

不意に望が立ち上がる。

「お願いだから……一人にしてくれないか……」
「望!」

突然望が控え室から出て行ってしまった。

「ねえ、京ちゃん。放っておいていいの?」
「望だって言えない事はあるよ」
「でも、シュートが打てないんじゃあ……」
「なに言ってるの、シオ。望が打たなくてもあたしらが打てばいいのよ」
「そうよね。私と京ちゃんが打てばいいだけだよね」
「望は中盤で頑張ってるんだ。望だけに無理は言えないよ」
「でも、心配だな……」
「そうなんだよね……」



「ひっく……ひっく……ひっく……」

そして望は体育館の裏にいた。
そして一人泣いていた。
悔しくて泣いていた。
あの場面でシュートが打てなかった自分が悔しかったのだ。

「だめだった……やっぱりだめだった……」
「公二は立ち直ったのに……サッカーやってるのに……」
「ダメ……頭から離れられない……」
「いったい、どうしたらいいの……」

「望!」
「公二……」

望の後ろには悲しい表情の公二がいた。

「どうして……」
「うちのミーティングが終わって職員室に行こうとしたら、望を見たから……」
「そうか……」
「泣きながら走っている女の子をみれば誰だって心配するよ……」
「………」



「望、まさか、まだ……」
「………」
「俺のせいで……俺のせいで望を苦しめるなんて……」
「ちがうの!」
「望……」
「公二は悪くない……私が弱いだけだから、私が過去を振りきれないだけだから……」
「………」


「公二」
「なんだい」
「お願い……泣かせて」
「ああ……」


「……うわぁぁっぁぁぁぁ!」


望は公二の胸の中に飛び込んで泣いた。
普段は人前では決して泣かない望。
望にとって公二は泣くことができる数少ない人なのだ。

「私、絶対に克服してみせる!シュートを打ってみせる!」
「………」
「だから見届けて!私が悪夢から立ち直るのを!」
「ああ……見届けるよ」
「ありがとう……うわぁぁぁぁぁ」

望はしばらく公二の胸で泣いていた。
公二もまた、そんな望を黙って見つめていた。



その夜。
公二の家に電話がかかる。
光からだった。

「光。どうした?」
「ねえ公二。試合終了直前の望さん……」
「やっぱりわかったか……」
「望さん……どうしたの?」
公二(望も光には話していい、って言ったから……)

「光、これから言うことは誰にもいうなよ」
「えっ?……いいけど……」



「望は……シュート恐怖症なんだ……」



「ええっ?」
「望はシュートを打とうとすると金縛り状態になるんだ」
「そんな……それにどうして公二が……」
「望がそうなったのは……俺のせいだから……」
「ええっ!」
「訳は望から話してくれるだろう、でも俺からは……」
「わかった……何も聞かない……」
「すまない……」



「光、ミーティングで光が言ったこと、明日からやるって本当か?」
「うん、明日からやるよ」
「意気込みはわかるけど……」
「だって、早くやらないと追いつけないから……」
「でも変な目で見られないか?」
「確かに恥ずかしい……でも、もう負けたくないから……」
「わかった……光、頑張れよ」
「うん!」



次の日、光はサッカーボールを持って学校にやってきた。
もちろんドリブルやリフティングをしながらである。

授業中でも机の下にはサッカーボールを置き、教室の移動もドリブルをしながら。
まさにボールと一心同体の生活を始めたのだ。

当然周りからは変な目で見られた。
しかし光の「もっとうまくなりたい。もっとボールを自由に動かしたい」という
真面目で真剣な姿にしばらくすると誰も普通の目で見るようになった。

光は大真面目だった。

「たとえ馬鹿にされようと、望さんに勝つまでは絶対にやめない」

ボールとの共同生活は当分続くことになる。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
試合は終わりましたが、お互いに苦い結果になったようです。

今回のメインは望のほうです。
望が試合終了直前でシュートが打てなかった訳。

実は望はシュートができないのです。
その原因には公二が深く関わっているようです。
これに関しては次回はっきりします。

一方の光。
このままでは、絶対に望に勝てない。
そこで考えたのが「ボールとの一体化」
「ボールは友達」という某サッカー選手の名言がこれに当てはまります。

見方によってはサッカー馬鹿への道をすすみかねないのですが、光は望に勝てればそれでもかまわないみたいです。

次回は、光が望の部屋に行きます。
そこで光がみた衝撃のものとは……

今後の展開に重要な回になる可能性が大です。
W杯期間中はこっちをメインにやりたいと思います、早めに次回を書きたいなぁ。