第18話目次第20話

Fieldの紅い伝説

Written by B
きらめき高校。
望もまた普通の一日が始まる。

望は普通に学校にやってくる。
学校で有名な望だって普通の女子高生。
高校生らしい生活はしたいもの。
だから普通の時間に普通に登校する。

しかしそれも下駄箱まで。

「今日もかなぁ……」

そう言って下駄箱をあけると現実が待っている。
この瞬間が望の嫌な時間である。

ドサドサドサ!

「またか……」

下駄箱からはラブレターがたくさん。
しかも全部女の子から。
そう、望は女の子に人気があったのだ。
望の中性的な魅力にとりつかれたのだ。

「少ないな……ま、いいけどさ」

たしかに、最近その数も減っている。
やっと私にその気はないことがわかったかと安心した望だったのだが……



放課後。
部活開始前、望は部室でチームメイトと話をしていた。

入部以来仲がいいMF鞠川である。

「ねぇ、望。最近あなたの噂が広まってるの知ってる?」
「いや、知らないよ」
「えっ、知らないの?てっきり知ってると……」
「どういう噂なんだ?」


「望に彼氏ができたって噂よ」
「な、な、な、か、か、かれしぃ〜!」


「なにあわててるの?」
「いや、あの、その……」
「ふ〜ん、噂は本当なんだ……」
「だから違うって!」

「そうかしら?証拠はつかんでるわ」
「な、なんだそれ?」
「京が1年生から聞いたわ、対抗試合の後、望が相手のコーチと抱き合っていたって」
「だ、だ、だ、抱き合ってたなんて……」
「事実なの?」
「うん、まあ……」

「じゃあ、間違いないわね。学校を越えた恋なんて、望もやるわねぇ」
「ち、違うよ!中学の同級生で、友達なんだよ!」
「ふ〜ん。そう意地を張るところがますます怪しい……」
「………」



「まっ、望がそういうのはいいんだけどさ」
「なんだよいきなり」
「で、噂なんだけど、ちょっと良くない噂もあるんだよね」
「なんなんだ?」


「望の彼が二股かけてるって噂」
「ふ、ふたまたぁ!」


「いちいち声が大きい!」
「だ、だってぇ〜〜〜」
「なんか、望の彼が同じ学校の女子と夜公園に一緒にいたって噂よ」
(なぁ〜んだ、光さんのことか……まったく驚かせやがって)

公二が二股かけていると言われて驚いたが、相手が光だとわかって安心した望だった。



「あら?望、なにその安心したような顔」
「いやあ、その相手ってたぶん私が知ってる人、みんなも知ってるよ」
「誰?」
「対抗試合であたしと張り合ってた人だよ。友達でライバルなんだよ」
「へぇ〜!まさか、恋のライバルってわけ」
「ま、まあ、そうなんだけどさ……」

「彼と同じ学校の子が相手か……不利な状況ね……」
「うん……」
「コーチとエース。恋の相手にはお似合いよね……」
「そうだね……」



「望、まさか勝てないと思ってるんじゃないだろうね?」
「えっ……」



「学校の差なんてなによ。積極的にアタックしなきゃ!」
「奈津江……」
「大丈夫よ、望は十分女の子らしいわ。あたしが保証する」
「………」
「だから自信持ってアタックよ。恋もサッカーも同じ。攻めなきゃ勝てないわよ!」
「ありがとう、奈津江」



「ところで、対抗試合のシュートのことなんだけど……」
「………」
「なぜシュートを打たなかったか、理由は知らない。でも無理しなくていいよ」
「えっ!」
「ボランチの望が無理に打たなくていいの。打てないなら私たちにパスすればいいの」
「奈津江……」
「あれから京と詩織と相談したんだけど、シュートは私たちに任せればいいのよ」
「………」

「だから望は守備に専念……望?」
「ううっ……ううっ……」
「望、どうしたの?」
「奈津江……ありがとう……ううっ……」
「ねぇ、いったい何があったの?」
「あのね……」

望は嬉しかった。
自分はシュートができない欠陥選手だ。
でもそんな自分を理由も聞かずに受け入れてくる友達が嬉しかった。
自然に涙があふれてくる。



そして、望は自分の秘密を語り出した。
光ほど詳しくはなかったが、自分の心の中を全て話した。

「そうだったんだ……辛いんだね」
「………」
「望、私たちにできることはない?」
「えっ?」
「彼のことはなにもできないけど、シュートの恐怖感を消す手伝いはできると思うの」
「………」
「すこしずつ練習しない?シュートが怖くなくなるように」
「ありがとう……」



「さあ、じゃあ今日も練習頑張りますか!」
「よ〜し、頑張るぞ!」
「うふふふ!」
「なんだよ、奈津江」
「いや、望のそんな明るい顔見るの久しぶりだなって」
「そうかな?気のせいだろ?」
「そうかもしれないね」

いや、たぶん奈津江の言うとおりかもしれない。
最近自分のシュート恐怖症の事で頭がいっぱいだったからだ。
でも、なにか吹っ切れた気がする。
恐怖症もただ怖がってはいけない。
前を向いて歩いていかないと絶対に治らない。
今日からは前を向いて歩こう。
望はそう思った。



「じゃあ、今晩、練習はじめよっか?」
「うん、お願い……」
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
今回は望サイドのお話です。

望は学校でも有名人です、恋の噂もあればひろがるもの。
対抗試合で公二に泣いて抱きつけば誰だってそう思うでしょう。
そんなことで書いてみました。

望の話相手ですが、奈津江にしました。
詩織は人の恋の話に突っ込む余裕なんてたぶんないし、
京の場合は下手に書くとオリジナルからかけ離れる危険性があったもので。
姉御肌の奈津江なら適役だろうということで採用しました。
奈津江だって人の恋にかまう暇があるか、というツッコミはとりあえずなしにしてね(汗

最初は望サイドはそんなに書く予定もなかったのですが、
折角だからちょっと書いてみたくなりました。
今後も望サイドの話が増える可能性もあります。

いやあ、試合がない回は本当に書きやすいなぁ(汗

次回は光がいよいよあのシュートを……というお話です。