第19話目次第21話

Fieldの紅い伝説

Written by B
夜。
ひびきの中央公園。
ここで、ほぼ毎晩光と公二が二人だけで練習している。

いつもは楽しくドリブルやパスの練習をしているのだが、
今日はいつもと雰囲気が違う。


公二の顔がいつになく真剣だ。
それにつられて光も真剣になる。

「光、俺が光に教えること……わかってるな?」
「うん……」
「じゃあ、見てろ……」
「えっ?」

そう言うと、公二はボールをおいた。
そして間髪入れずにシュート体勢に入る。

それは光がついこの前見たシュート体勢。
忘れたくても頭から消えないあのシュート。

公二はシュートを放つ。
ボールは一直線にゴミ箱に向かう。
そしてボールはゴミ箱を破壊して止まった。

「……すごい……」
「俺の必殺のシュートだ。そして俺をつぶしたシュートだ」
「………」



「あのシュートは失敗作だ」
「えっ!」
「あのシュートは足に負担を掛けすぎた。だから足に負担を掛けないシュートを考えた」
「公二くん……」
「今からそれを教える」
「………」
「マスターしたいんだろ」
「うん!マスターしたい!頑張ってゴールを決めたい!」
「よし、わかった!」

こうして公二は光に必殺シュートを伝授することになった。



公二のシュートの原理は意外にシンプルだった。
「いかに足の反発力を利用するか」
これだけだった。

基本は足を曲げ、その反発力をボールに直接伝えるものだ。
それを最大限のパワーを引き出したのが公二のシュートだ。

しかし単純が故に限度がない。
しかし足には限度がある。
公人のシュートはその足の限度を越えてしまったのだ。
だから、その足の限度の少し直前までの力なら回数は増える。

そう公二は光に言い聞かせた。
光は納得していた。

開発した本人の指導だから上達が早い。
光は簡単にマスターした。



教え始めてから5時間後

「じゃあ、光、実際に打ってみるか?」
「うん!」

光は自分の前にボールを置く。

表情が真剣になる。

右足を振り上げる。そして強くしならせる。

そして右足を振り落とす。

ボールの直前に足を落とし、足の反動をボールに伝える。

その瞬間に右足に力を込める。



バンッ!



ボールはそう音を立てると、流星のように一直線に低い弾道で突き進んでいく。

そしてボールは公園にある看板を破壊して止まった。

「すごい……」
「成功だな……」

公二から光へ、必殺のシュートが伝承された。

「これで……私にも武器が……」
「ああ、さすがに連発は厳しいが、いざというときは効果があるだろう」



「公二、ありがとう……それに、ごめんね」
「謝ることはないよ」
「でも、このシュートが……公二からサッカーを……」
「もういいんだ……過去は忘れたよ……それに今はこうしてまたサッカーやってるんだし」
「うん、そうだよね……」
「過去ばかり見ても、何も解決しない。そんな事を気づかせてくれたのが光なんだよ」
「そんな……私は何も……」
「入学直後かな、温かい目でみてくれた光が後ろ向きだった俺を前向きにしてくれたんだよ」
「公二……」
「だから、もう過去の事を言われても大丈夫。気にするな」
「そう……」



「じゃあ、今日はこの辺にして帰ろうか?」
「うん!」
「家まで送っていくよ」
「ありがとう」

公二は光を家まで送った。
これは毎日の習慣である。
さすがに年頃の女の子を深夜一人で帰らせるわけにはいかなかった。



「じゃあ、また明日の朝な」
「うん、またランニングだね」
「それじゃあ、おやすみ」
「うん、おやすみ」


バタン!


「ふうっ……」

扉が閉まった直後、公二は大きなため息を吐いた。

「これで……いいのかな……」
「もう教えるしかなかったんだけど……」
「光は気づかなければいいが……」

公二は光に嘘をついた。
確かに、自分が開発したシュートは足を壊す点では失敗作だ。
しかし、それ以外は完璧だった。

一方光に教えたシュートは多発しなければ足には負担がかからない。
しかし、それだけ威力は格段に落ちる。

それでも威力は多少は大きいのだが、止められる危険性は高い。
シュートだけを見れば、今日教えたほうが失敗作なのだ。



「光が自分のシュートに物足りなさを感じてしまったら……」

光のシュートは公二のシュートの応用型だ。、
もしかしたら、光自身で公二のシュートを開発してしまう恐れもある。

「そうなったら……光の事だ……」

光は頑固だ。それに公二のために勝とうという気持ちが強すぎる場合がある。
試合中に公二のシュートを多発する危険性は十分になる。

もしそうなったら……公二の二の舞である。



「しかし、これしかなかったんだ……」

光は公二のシュートを知ってしまった。
なにも教えなければ自分で開発してしまうかもしれない。
それだったら、いっそのこと……

公二にとっては苦渋の決断だった。

「望……あのときの望の気持ち……わかる気がするよ……」

帰り道。
公二は一人夜空に向かって語っていた。
そして思い出すのは中学3年の県大会の決勝の日の朝。



『公二、足の調子が悪いんだって!』
『大丈夫だよ、これぐらい……』
『だめだよ、無理しちゃ……』
『でも今日の試合……絶対に勝たないと……』
『そんな!実力差がありすぎるよ、無理だって!』

『でも、俺のこのシュートがあれば……』
『だめだよ!今度使えば、それこそ足が……』
『なぁに、大丈夫だって!』
『だめ、あのシュートだけに頼らないで!』
『そんなことないよ』
『ううん、公二は今あのシュートの虜になってる』
『………』



『あのシュートは……悪魔よ……公二を虜にする……』



『望……』
『だからお願い!無理はしないで……』

『大丈夫、無理はしないよ』
『………』
『今日の試合、絶対に勝つからな、俺のため、それに望のためにもな』
『公二……』



「結局無理をしちまったんだよな……」
「『あのシュートは悪魔』か……やっとわかったよ、望……」


とにかく、自分に取り憑いた「悪魔」が光に乗り移らないでほしい。
公二はそう願わずにはいられなかった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
今回は光が公二のシュートをマスターする話です。

ええ、単純にマスターしただけの話です。
試練を乗り越えてマスターさせてもいいのですが、そんなのに話数は掛けたくないので、
1話であっさりマスターさせました。

「あんなすごいシュートを5時間でマスターできるか?」という話もありますが、
ゼロから思いつくのは難しくて、それを真似するのは簡単だということにしてくださいな。

光はとうとう諸刃の武器を手にしました。
光はこの武器をどう使いこなすのか?
それは今後のお楽しみです。

次回は望のシュート恐怖症をなくすための練習の話です。
こっちは簡単に解決しないのでご安心を(こら