第21話目次第23話

Fieldの紅い伝説

Written by B
光の必殺のシュートが伝授された次の日の夜。
光と公二はいつものように中央公園で練習しようとした。

ところが、なにか様子が変だ。

二人がふとあたりを見回すと、一枚の看板が立っていることに気が付いた。
その文章とは、

「昨晩、ゴミ箱と看板が破壊される事件が起きました。
 犯人を目撃した方は事務所までご連絡を。     」

完全に凍り付いた二人だった。

それもそうだ、
犯人は光と公二なのだから。

「ど、どうしよう……」
「ど、どうするか……」
「黙ってる?」
「そうするか……」

とりあえず、その日は無視を決め込んだ。



ところが、事態は悪くなっていく。
最近、深夜に若者の暴行事件や暴走事故などが発生していたのがその原因だ。

公園の器物破損事件もそれの一種と考えられているようだ。
最悪の場合公園を夜は閉鎖することも検討したらしい。

次の日。
そんな記事を新聞で読んだ公二と光は慌てた。
あの公園が閉鎖されたら十分に練習が出来る場所がないのだ。

「どうしよう、本当にやばいよぉ……」
「あそこが閉鎖されたら練習ができない……」
「そうなったら望さんに勝てない……」
「………」
「……自首……しようか……」
「そうだな……放課後俺が行くよ」
「私も行く!」
「ダメだよ、光にもしもの事があれば……」
「絶対に行くよ。私だって公二にもしものことがあれば……」
「ありがとう、光」
「じゃあ一緒にいこうね」

仕方なく、二人は放課後公園の事務所に自首することにした。



最初は信じてもらえなかった。
でも、公二が物を壊さない程度の力のシュートを放つことで信じてもらえた。

しかし、信じてもらってからがひどかった。
とにかくこっぴどくしかられた。
悪気はなかったことは理解してもらえたが、それでも2時間はしかられた。
公園とは、公共とは、物を大事にする心とは、とにかくしかられた。

そして、最後に決定的な一言が二人の胸を突き刺した。

「お前達、そんなことしてサッカーボールが喜んでると思うか?」

光と公二にとってこの一言は効いた。
もはやそれ以降何も言えなくなってしまった。



その日に事務所が学校に連絡を入れたようで、
次の日の朝、二人は職員室に呼ばれた。

そこで言い渡されたのが今日を含めて2日間の停学処分。
そして明日は中央公園でボランティアをしろと言い渡された。

そのまま学校から追い返される光と公二。
二人ともうつむいたまま言葉すくなだった。

「ごめんね、公二……」
「いや、俺が悪いんだ……俺があんなことしなければ」
「そんなことないよ……私がシュートをやめれば……」
「みんなに迷惑かけちゃったな……」
「………」
「しょうがない、停学が明けたら、みんなに謝ろう」
「そうだね……」



「部活……大丈夫かな……」
「何も言わなかったからなぁ……心配だなぁ……」

全く心配は無用だった。

その日の放課後。
女子サッカー部の部室。

美幸が花桜梨にぴったり寄り添っている。
花桜梨は迷惑なのだが、優しすぎるのか突き放すことができなかった。

「おねぇさま〜。今日はコーチが休みだって〜」
「ええ、そうみたいね」
「じゃあ、今日の部活は休みかなぁ〜?」
「どうなんでしょうね?」
「そうだったら、美幸はおねぇさまと愛を育みあいたいなぁ〜」
「そ、それは……」
「別に女の子同士でも美幸はいいんだよ……」
「私はそんなことは……」
「花桜梨おねぇさま〜!」
「み、美幸ちゃん……」

美幸が花桜梨に抱きついてきた。
花桜梨が困ってしまった時にふと扉の裏から声がした。



「こらぁ!なにやっとる!さっさと準備をしろぉ!」



花桜梨が扉を開けてみると、ほむらが竹刀を肩にかつぎ後輩に命令していた。

「あ、赤井さん……」
「ああ、八重か。さっさと練習の準備をしろ」
「部活の?」
「当然だろ?コーチがいないときにまとめるのがキャプテンの仕事だ!」
「じゃあ、その竹刀は?」


「ああこれ?あたし一度『鬼コーチ』というのをやってみたかったんだ〜」


「………」
「今日と明日はコーチは休みだ、だから徹底的にしごいてやるからな!」
「こわい……」
「今日は基礎練習を徹底的にやるぞぉ!」
「………」

というわけで、その日と次の日はほむらが部員を徹底的にしごいていた。
しごいてはいたが、内容は基礎的な動きの復習、ドリブルの練習、シュートの練習等濃い内容。
ほむらなりに精一杯考えたメニューだった。

ただしごかれると思っていた全部員はこれには驚きだった。
それでも鬼コーチの雰囲気には浸っていたらしいが。

もちろん光と公二がこのことを知るのは停学が明けた日の部活のときになる。



停学2日目。
光と公二はひびきの中央公園に来ていた。
器物破損の罰として公園のボランティアをすることになっていたのだが……

「草むしり?」
「そうらしい……」
「それも私たち二人だけで?」
「この公園全部だってさ」
「はぁ〜……」
「はぁ〜……」

二人が命令されたのは公園中の草むしりをたった二人でやるというもの。
普段は十数人のボランティアが1時間ですませるものだが、
そのボランティアは特別に休んでもらっていたのだ。

「いまさらぐたぐた言ってもしょうがない、やるか」
「そうだね……」

とにかく草むしりを始める二人だった。



たかが草むしり、されど草むしり。
草むしりとはこんなに重労働だったのか、と二人が感じたのは1時間経過してからだ。

草むしりは腰を屈めて座ってするものだ。
しかもそれで本当に小さい草を探してむしらなければならないので神経を使う。

しかも広い公園をたった二人っきりで行う。
はっきり言って夕方までかかってしまうだろう。

「公二、大変なことになったね……」
「本当だ……」
「あのシュートがこんなことになるなんて」
「まったくだ……」
「疲れた……」
「頑張れ、まだ先は長いぞ……」
「は〜い……」



とにかく黙々と草むしりを続けて、お昼になった。
腹が減っては仕事ができないのでお弁当にする。

もちろん光のお手製のお弁当を食べることになる。

「ねぇ、公二おいしい?」
「ああ、とってもおいしいよ」

これはお世辞ではない。
確かに光の料理の腕は少しずつ上手になっている。
さすがに一流とは言えないが、普通の人よりは上手になっている。
これは実は望も同じ事が言える。

「やったね♪今度はもっと練習するね」
「最初の頃は本当に死にそうだったからな……」
「公二!あのころの事はもう言わないでよ〜」
「どうやってあの味がだせるのか不思議だったよ……」
「ぶ〜……」

こんなたわいのない話ばかりでお昼休みが終わる。



そこからはまた草むしりにとりかかる。
私語はほとんどない。
集中して草を探してむしる。

二人の額に汗が光る。
真剣に目を光らせる。

さながら二人はマラソンをしているような心境だった。



そして午後5時。
やっと全ての草むしりが終わった。

「終わった〜!」
「はあ、疲れた……」
「ほんとだね……」
「思いがけずいい運動になったな」
「確かにずっと運動したような気がする……」
「まあ、持久力の運動と思えばいいのかな?」
「そうだね」

二人とも疲れて地面にどっかりと座り込んでいる。

「なあ、光。これは罰なんだよ」
「罰?」
「ああ、サッカーボールで物を壊した罰だよ」
「そうだよね。サッカーボールが怒ったんだよね……」
「もっとサッカーボールを大切にしような」
「そうだよね、ボールに嫌われちゃうもんね」

幾分疲れも取れたのか、二人が立ち上がる。

「今日は疲れたから、練習は止めような」
「うん、家に帰って寝たい気分……」
「帰ろうか?」
「うん」

こうして二人は事務所に戻って、再度謝罪したあと家に帰った。
二人はあまりの疲労にすぐに寝てしまった。



そして次の日。

「いててて……腰が痛い……」
「俺も……草むしりって腰に悪いな……」

二人は腰を痛めていた。
当然だ、ずっと腰を曲げていたのだから。
草むしりを終えた後に、クールダウン代わりに腰を動かせば良かったのだが、
昨日の二人はすぐに寝たためにそんな事はしなかったのだ。

そのツケが今日現れた。

「今日も部活は無理みたい……」
「光は見学しろ、俺も動かずに指導するよ……」

二人は手を腰に当てながら一緒に登校していた。

そんな二人をみた生徒が
「停学期間中に二人で腰を痛めるぐらいにいかがわしい行為をしていた」
という変な噂が広がるとは、そのときの二人はまったく想像してなかった。

これがサッカーボールからの本当の罰なのかもしれない。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
今回は光のトラブル発生のお話。。
必殺シュートで物を壊したためにひどい目にあうという、ただそれだけのお話です。

いや、感想で「器物破損はまずいのでは」というのを見て。
「それだったら、罰を与えなければ」という感じで思いつきました。

本当にそれだけの話です。でも書かないとまずそうだったので書きました。

最近、情景描写に気を遣うようになりました。
情景描写がうまくなって、試合のシーンをもっとうまく書けるようにしたいと思います。

次回は望サイドになるかなぁ?
とにかく恋愛で話題がつきないきらめき攻撃陣のお話なんかを予定してますがどうなるかはわかりません(汗