第24話目次第26話

Fieldの紅い伝説

Written by B
どの運動部にもマネージャーというものがいる。いない部は下級生がその代わりをするものだろう。
マネージャー専門という人は大抵は高校になってから。
縁の下の力持ちのマネージャーという仕事にあこがれてマネージャー志望で入部するひともいる。

きらめき高校サッカー部マネージャー虹野 沙希もその一人。

沙希はマネージャーをやりたくて男子サッカー部に入部した。
しかし、男子の隣で頑張っている女子サッカー部の勇姿に感激して女子サッカー部のマネージャーも兼任するようになった。
男子専門、女子専門のマネージャーは当然何人かいるのだが、兼任をしているマネージャーは彼女ともう一人だけ。
しかし、献身的な仕事ぶりから、両方の部のマネージャーのリーダー格になっている。


体は小柄ながらとにかく動く。
部室の掃除、ユニフォームの洗濯・補修、部費の管理、備品の管理・購入、とにかくなんでもやる。
それを男子女子2つの部の分をやっているのだからその大変さはわかるだろう。



ふうっ、これでおしまいねっ!
男子と女子のユニフォームを洗濯するのって大変。
洗濯だけ当番制にしなかったら今頃倒れちゃいそう。
でも、みんなには綺麗なユニフォームで頑張って欲しいからねっ♪

部室の掃除も終わってるし、備品のチェックは明日だから今日はやることはないね。
さて、今日は女子の練習を見に行こう!
練習には後輩のマネージャがいるはずだから、今日の様子を聞かないとね。

私、女子サッカーなんて高校に入ってから初めて見た。
「女の子がサッカー?」って最初は驚いたけど、試合を見ていたら男子に負けないぐらい凄いの!
みんなボールに集中して頑張ってた。格好良かったなぁ〜。

ああいうの見ちゃうと応援したくなっちゃうんだよね。
すぐに女子サッカー部のマネージャーにもなっちゃった♪
仕事は大変だけど、それだけマネージャーの仕事にやりがいを感じちゃう♪




あれ?グラウンドで何かあったのかしら?
ああっ!誰か怪我してる!
急いで行かなくっちゃ!


「望ちゃん!どうしたの?」
「ああ、沙希ちゃん。実はうちのGKがハイボールの練習中にゴールポストにぶつかって腰を痛めたらしいんだ」
「ええっ!」
「マネージャーが応急処置をしているから、とりあえずは大丈夫だけど」

後輩のマネージャーから話を聞いたら、とりあえず病院に連れて行った方がいいということ。
さっそくマネージャーともう一人付き添いと一緒に病院に行ってもらった。



これで練習再開なんだけど、なんかみんな困ってる様子。
どうしたんだろ?


「ねぇ、京ちゃん。どうしたの?」
「いや、実は次の練習が紅白戦なんだけど、アイツが怪我してGKが1人しかいないんだ」
「ええっ!だって女子のGKは確かあと2人いるはずじゃないの?」
「一人は風邪でお休み、もう一人はいま病院についていった」

しまった!

勝手に付き添いを指名して病院に向かわせちゃったけど、
紅白戦だったならGKの人数を先に確認しておかないといけなかったよね……

今日は紅白戦だってわかってたのに……

沙希のバカ、バカ、バカ!




「しかし弱ったね、GKがいないんじゃぁ試合にならないな」
「誰かGKの代役を頼むにしても、ちょっと無理があるわね」
「しょうがない、中止にする?」
「仕方ないねぇ……」

ええっ!
GKの人数不足は私の責任。
この責任は絶対取らないと……
でもどうしたら……

そうだ!


「ねぇ、キャプテン」
「どうしたの?沙希ちゃん?」

「あのぅ……私に……私にGKをやらせてください!」

「ちょっと!沙希ちゃん本気なの!」
「だってGKの人数不足は私のミスだから、どうしても責任取りたいの、だから……」
「だからって、素人にはいきなりGKは無理よ!」
「大丈夫!練習とか試合で何度も見ているから真似事ぐらいはできると思うの」



「……どうする?」
「中盤で動き回るよりもプレー機会は遙かに少ないからできないことはないとは思うけど……」
「おもしろそうだな、やらせてみたら?」
「京!」
「素人GKならDF陣が必死になって守備しないと点取られるから、練習効果抜群!」
「そうね、DF陣も最近必死に守る練習がしてみたいなんていってたからねぇ」
「じゃあ決まりだ」


「沙希ちゃん、すまないけどGKの代役よろしくね」
「本当?本当にやらせてくれるの?」
「沙希ちゃんは動かなくていいから、お願いね」
「はい!」

よかったぁ。
これで、みんなに迷惑を掛けずにすんだね。




さっそく運動着に着替えて、GK用のグローブを借りる。

へぇ〜、GKのグローブって厚くて大きいんだね。
実際に付けてみるとそれがよくわかる。
これなら安心してボールがキャッチできそうね。

紅白戦が始まった。
私はキャプテンの配慮で控え組のゴールを守ってる。

私、プレーするのは初めてだから不安だな……




しかし、ベンチから試合を見るのとゴール前から試合を見るのとでは結構違うんだね。
なんか、どきどきする……

あっ、ボールが来た!
でも相手のロングキックが飛びすぎただけだから、これなら私でも余裕でキャッチできる。

よし、がっちりとキャッチ!


わぁ……


練習の時のボールを持ったときとなんか違うこの感触……

なんだろう、なんかこのわくわくする気持ち……




「沙希ちゃん!早くボールボール!」

あっそうだ!確か6秒以上だっけ?ずっとボール持っちゃいけないんだ!
早く投げないと!それぇ!


「沙希ちゃん、ナイススロー!」

えへへ、褒められちゃった!
私だってマネージャー業で腕は鍛えているんだからね!




紅白戦はまだまだ続いてる。
私はシュートを打たれてもすぐに反応できずにゴールを決められてばっかり。

そりゃあ私は素人よ。簡単にボールをキャッチ出来ないのはわかってる。

でも試合になるとそんなこと考えていられない。
「絶対にゴールを決めさせない!」
私でもこんな事考えていた。



こんな事初めてだなぁ……


後半になると私も必死。
下手くそは下手くそなりに必死に食らいついた。
だいぶ慣れてきたのか、結構ゴールは止められた。




「なあ、奈津江」
「どうしたの?望」
「沙希ちゃん、DF陣に指示出しているぞ」
「ええっ!」
「あたしは後ろだからよくわからないけど、あの身振り手振りは明らかに指示出してるぞ」
「そういえば、さっきからボールが取られる間隔が短いような……」


「沙希のやつ、裏で動いていたアタシにすぐ気づくからなかなか仕事が出来ないぞ」
「私もそうだけど、奈津江ちゃん達の動きに対して結構的確な指示を与えてるわ」
「さすがに跳躍力は無いけど、キャッチングはそれなりにだんだんうまくなってるぞ」
「それに後半から沙希ちゃんの眼が真剣よ」
「シオ、アタシとんでもない奴をGKにしたのかもしれない……」
「京、それは否定しないわ……」



やっと慣れてきたから前の動きにも眼がいくようになってきたわ。
ベンチで見るのとでは選手の動きが違うけど、一番後ろだから全体がよく見える。

マネージャーの仕事柄かなぁ?隅から隅まで見ていると、小さな事にも気づく。

DFのみんなも気づいているとは思うけど、どうしても声を出しちゃう。


「左に一人いるから、誰かマークにいって!」
「中央のスペースが空いてるよ!」
「サイドの動きが怪しいから気を付けて!」

ちょっと言い過ぎかなぁ?
でも声が出ちゃうんだよねぇ。




もうすぐ時間切れね。
さすがに点数は5点以上も負けてるけど、試合内容の方が重要だからね。
それに半分以上はGKが私だからっていうのがあるしね。

初めての試合だから結構疲れてる。
でも、最後まで気を抜かないようにしないと!

あっ、ロングボールのこぼれ球だ。
これは余裕だね♪
これは簡単にキャッチ……あっ!


……ト・ン・ネ・ル……


気が付いたらボールは手から股下を通ってゴールにコロコロと……
私はまったく動けなかった。
もちろん相手の得点。
試合はそれで終わっちゃった。




「………」
「先輩?」
「………」
「せ〜ん〜ぱ〜い!」
「あれ?みのりちゃん?」
「あれ?じゃないですよ。先輩こそどうしたんですか?なんか変ですよ?」

紅白戦が終わった私は、男子と女子のユニフォームを黙々と干していた。
あのあとみんなから色々褒められたけど、どうも素直に嬉しく思えない。

それどころかちっとも嬉しくない。
どうしてだろう?



やっぱりあの最後のトンネルよ!
確かに私は素人よ。でもあのボールは中学生でもとれるわ!
あれはどうしても納得できない!
悔しいの!悔しくてしょうがないの!
最後のプレーだけじゃない!
ゴールにどんどんとシュートを決められるたびに自分の無力が情けなくて……
とにかく悔しい!


「そんなに悔しいんですか?」
「えっ?えっ?なんで知ってるの?」
「全部大きな声でつぶやいてましたよ」
「あ?え?あははは……」


私と一緒に干してくれているのは後輩の秋穂みのりちゃん。
私以外でもう一人の男子女子兼任のマネージャー。
最初は私のことを変な目で見ていたみたいだけど、最近は姉のように慕ってくれている。
私もみのりちゃんのことを妹のようにかわいがっている。
えっ?私たちは望さんのファンが望んでいるみたいな妖しいカンケイじゃないから安心して♪




みのりちゃんは男子の練習に付き添っていたので今日のことはよく知らない。
でもみのりちゃんは私のことを心配してくれているみたい。


「なんだかよくわからないけど、悔しかったら再チャレンジしてみたら?」
「えっ?」
「先輩いつもいってるじゃないですか『簡単に諦めちゃだめ!』って」
「みのりちゃん……」
「根性ですよ!先輩!」
「そうだよね、みのりちゃん……」

なんか私元気づけられた気がする……
1回のミスでくじけちゃいけないよね。
みんなにそういっているのに、自分がそうしてないのはいけないよね。

私なんか吹っ切れた気がする。
ありがとう、みのりちゃん。




その翌日。
サッカー部はいつものように始まっていた。

虹野先輩今日はどうしてるんだろう?
昨日は何も知らずにあんなこといっちゃったけど大丈夫かなぁ?

しかしあとで昨日の事情を優美ちゃんから聞いてびっくりしちゃった。
まさか先輩が紅白戦、それもGKで頑張ってたなんて。
しかも結構素質があるって評判だったらしいのにはもっと驚いたけど。

しかし今日も先輩は男子の練習には来ていない。
また女子のところかなぁ?行ってみよう。

予定だと女子は今日も紅白戦か……まさかねぇ……



あれ?ペナルティエリアの付近で誰か倒れてる!
急いで応急処置をしないと!
でも既に処置は終わっているみたいだけど、いったい誰が……

一人は久遠寺先輩ね、もう一人はユニフォームからGKみたいだけど……

えっ?

虹野先輩じゃない!
虹野先輩のユニフォーム姿ってかっこいい……
って言ってる場合じゃないの!

とにかくキャプテンに事情を聞かないと。


「キャプテン!これはいったいどういうことですか?」
「いや沙希ちゃんが『昨日のリベンジがしたい!』って熱心に志願したのよ」
「えっ?」
「あまりに熱心だから認めたんだけど……開始早々ごらんの有様で……」

キャプテンもばつが悪そうな表情してる。
いったいどうしたんだろう?


「みのりちゃん、実は奈津江ちゃんが前線にハイボールを蹴ったのよ」
「それでどうなったんですか?」
「京が飛び込んで決めるという考えで、京が走り込んだのまではよかったの。」
「それからそれから?」
「予想外だったのは沙希ちゃんがそのハイボールを取ろうと飛び込んできたのよ」
「ええっ!先輩が?」
「当然ぶつかって……ご覧の通りで……」

まったく、先輩ったら無茶して……
素人なんだからそこまでしなくったって……


「みのりちゃん?どうやら一つだけ勘違いしてるみたいだね?」
「えっ?」
「ハイボールに先に触ったの……沙希ちゃんなの」
「えええええっ!」

信じられない、先輩がそこまでしてるなんて……



「まさか沙希が飛び出してしかも先に追いついたからみんなビックリして……」
「はぁ……」
「しかも沙希って意外にパワーあるんだよな、京の奴が吹っ飛んだからな」
「はぁ……」
「さらに倒れてるのに沙希ったら『今のキーパーチャージだよね?』だって、思わず笑っちゃたよ」
「はぁ……」
「しかし、さっきの沙希の気迫は凄かった、あんなの初めてだよ」

ここまでみんなが言うと「無茶だからやめて」なんて言えなくなっちゃった。
先輩がそこまでやるなら、止めない方がいいよね。
だって実際そのあとの紅白戦の先輩ってとっても輝いていた。

先輩って、一つ一つに一所懸命なんだよね。
洗濯も掃除も応援も料理もなんでも一所懸命。

マネージャーという仕事が大好きだから、応援するのが大好きだから。
だから頑張れるんだよ。

先輩いつもそう言ってたな。
きっと先輩ってサッカーをプレーするのも大好きなんだろうな。




それから2週間後。

沙希とみのりはいつものように部員達のユニフォームを干していた。
それは1週間前と同じ。
違っているのは二人の立場だった。

「せんぱ〜い。疲れたよ〜」
「何言ってるの、このぐらい頑張らないとみんなに追いつけないわよ」
「そうだけど……」
「私たちはなんにも運動してないんだから、これもトレーニング代わりよ」
「そうですね……」

すこし疲れ気味のみのりに対して、沙希は元気いっぱいの様子だ。

「先輩、なんでそんなに元気なんですかぁ?」
「そうだなぁ……いい場所が見つかったからかな?」
「いい場所ねぇ……」
「ただ応援するだけじゃない、自分も一緒に燃えられる場所がね♪」
「先輩らしいですね……」

実は沙希は女子サッカー部に選手として入部してしまったのだ。
あれから、何回か紅白戦に出ているうちにサッカーをプレーすることの虜になってしまっていた。

思いこんだら猪突猛進の彼女、さっそく女子サッカー部に選手として入部届けを提出。
これには部員全員(男子も女子も)がビックリ仰天した。

ある意味サッカー部全体を巻き込んだ大事件になってしまった。
沙希はマネージャーとして一流だから、選手転向に対して当然とも言える反応だろう。



ところが沙希の行動は部員全員をさらに驚かせた。

沙希はマネージャー業もこれまで通り続けると宣言したのだ。

「私なんかレギュラーは無理、でもレギュラーの近くで一緒になってプレーし応援したい」
「マネージャーは続けるわ、この仕事のおかげで今の私があるから。それに好きだからね♪」
「それにみんなから頼りにされている仕事を放り出すなんてことできないわよ」

これにより部員全員が一安心。
騒ぎはすぐに収まった。



「ところでみのりちゃん」
「何ですか先輩」
「どうしてみのりちゃんまで選手になったの?」

実はみのりも選手兼任になったのだ。
沙希が選手兼任になって、しばらくして後を追うように転向したのだ。
沙希の選手兼任のインパクトがあまりに強かったのでみのりの場合はそれほどの騒ぎではなかったが。

「どうしてって……私は先輩について行くことにしたんですから当然です!」
「そ、そこまでついて行く必要はないのよ」
「それに先輩を夢中にさせたものってどんなのか知りたくて……」
「それで今は?」
「はい!プレーするのがとっても楽しいです!」
「そうなんだ」
「ボールを奪い取るときがたまんないです!」
「うふふふ!それじゃあ私と変わらないじゃない♪」
「あははは!そうですね♪」

二人は微笑み会う。

選手兼任はかなりハードだと自分たちでも思う。
でも、マネージャーとして、選手として、どちらも全力投球。
だって両方好きだから。
だからどっちも悔いの残らないようにしたい。

お互いに話し合ってはいないが、二人の考えは同じだった。



「みのりちゃん」
「今度はなんですか?」
「私たちも『プレイングマネージャー』っていうのかしら?」
「さあ?」
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
え〜と、1ヶ月ぶりの第25話です。
今回は初登場沙希ちゃんのお話です。
やっぱり運動系のお話には彼女は欠かせないのですが……

なんだこりゃ(汗

なんと彼女、マネージャーでありながら選手兼任になってしまいました。
それに追随してみのり嬢までも(汗

本文にははっきり書いてませんが、ポジションは沙希はGK、みのりはDFです。

いや、サッカー企画やる前から考えてはいたのですが、
今となってはどうしてこういう展開を考えたのか思い出せません(笑)

沙希もみのりもレギュラーはかなり難しいと思いますが頑張って欲しいと思います(作者がいうな)

次回はひびきのサイドですが、またまた本編と関係ありません(汗
もしかしたら新キャラかな?

しかし、いったいいつになったら本編をすすめられるんだろう(汗