第25話目次第27話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「ふうっ……これでOKだね」
「まったく……疲れるぜ」
「仕方ないよ、自分たちでやらないと」
「でもなぁ、結構大変だぜ、洗濯って」
「そうなんだよね……」

ひびきの高校女子サッカー部にはマネージャーはいない。

それはそうかもしれない。
つい最近まで弱小だった部にマネージャーがつく余裕など無い。
選手層が薄いのでマネージャーよりも選手が欲しいのだから。

最近はサッカー部も強くなって、選手層も厚くなったのだが、やっぱりマネージャーはとらなかった。
マネージャーがいないことに慣れていたから。わざわざとることを考えていなかった。
マネージャー業は部員全員が順番でやることにしていた。
家で家事をほとんどしたことがない、ほむらでさえもやっている。

しかし、大変なものは大変だ。
掃除、洗濯、備品管理。
やり方をならってすぐに出来るものではない。

部が小さければそれでも問題はなかったが、
人数も備品も増えた今はさすがに大変だ。



「なあ、マネージャーつくらないか?」
「そうだね。そうなるとありがたいね」
「でも下級生に『マネージャーやれ』っていうのもかわいそうだしなぁ」
「今の部員はプレーがしたくて入ったからね」
「コーチにたのんでなんとかしてもらうか?」
「そうしようね」

そういうことで、ほむらと光が公二に「マネージャーを雇ってくれ」と頼むことにした。



「確かにこれからはマネージャーは必要かもな」
「そうだろ?みんなもそう思ってるはずだぜ」

放課後の教室。
部活前の公二を光とほむらが捕まえて話をしているところだ。

「俺が手伝えることはしてもいいけど、さすがに洗濯は……」
「いくら公二にでも私達のユニフォームの洗濯は嫌だな」
「それはあたしでもそう思う」

公二も二人の話に納得しているようだ。

「でも新学年の時期じゃないから、どうしようかなぁ?」

一番の問題点はここである。
今は6月。大抵の新入生は部活に入ってしまっている。
そう簡単に人材が確保できる状況ではない。



「公募したら?」
「公募?」
「うん、『マネージャー募集』って張り紙したら誰かくるかも」
「それはいいな。5月ぐらいに部活を辞めた奴も結構いるみたいだからな」

結局素直に募集するしか方法が無いという結論に落ち着いた。
変な事をするよりも手間はかからないし確実なのは確かだ。

「じゃあ、さっそく募集してみるか。光、宣伝のポスターよろしく」
「えっ〜?私?」
「こういうのは同性の女の子が作った方が共感を呼ぶんだよ」
「うんうん、それは一理ある」

「光だけでなくても、部員全員でつくってみたら?」
「わかった。じゃあ、つくってみるね」

「お願い。俺は先生にポスター貼りの許可をもらってくるから」
「その必要はない」
「えっ?」
「あたしが許可すれば一発だ」
「でも、あれって生徒会じゃなくて学校の……」
「大丈夫、大丈夫、心配するなって」
「そうか……」

結局、ポスター貼りの許可の件はほむらに任せることにした。
ほむらが何をやったのかは公二も光もわからずじまいになるのだが、問題は何も発生しなかった。



「マネージャー募集!
 経験問わず。初心者大歓迎!
 情熱のある人を待つ!
 
 ※詳しくは部員まで。
         女子サッカー部」

部員募集なのかアルバイト募集なのかよくわからないポスターだが、
こんなのが教室の廊下に張り出されるようになったのはそれからのこと。

女子サッカー部はこのところ注目度が急上昇しているだけに、どの教室でも結構話題になった。

しかし、大抵他の部に入っているため、なかなか問い合わせがない。



募集を初めて1週間後。

練習前の部室。
光がそわそわしている。
ほむらがマネージャー希望者を連れてきたと言ったからだ。
いつの間にか採用担当にされている光に今日会いに来るということらしい。

「本当なの?無理矢理連れてきたんじゃないの?」
「あたしはそんなことはしないぞ」
「自分からやりたいって言ったの?」
「ああ、結構迷ってたみたいだけど、とりあえずやってみたいって」

「大丈夫なの?続けられるの?」
「さあ?それはわからん」
「そんなのでいいの?」
「短い間でも仕事が楽になるのには確かだからな」
「まあそうだけどね……」

ほむらの言葉に不安を隠せない光。
一方ほむらは自信満々の表情。



「とりあえず、連れてくるからな」

そう言って、ほむらは部室の外から自分よりはるかに背の高い女の子を連れてきた。

「こんにちは……」

光はその女の子に見覚えがあった。

「あれ?たしか練習試合のときにほむらのお弁当を持ってきた……」
「ああそうだな。とにかく紹介するよ、あたしの友達の一文字 茜だ」
「こんにちは……」

ほむらに紹介された茜はすこし緊張気味だ。



面接と言うわけではないが光が茜に質問する。

「部活とか入ってないの?」
「うん、ボク放課後はいつもバイトだから」
「毎日?」
「うん、生活費を稼がなくちゃだからね」

「いいの?マネージャーなんかして?」
「うん、仕事をするぐらいの時間ならあるから?」
「マネージャーも大変だよ。バイトに響かない?」
「マネージャーもバイトに比べれば楽だと思うから……」

話によると茜は兄との二人暮らし。
両親は旅生活で仕送りもままならないらしい。
従って生活費を自分で稼がなくてはいかなくて、バイト生活になったということらしい。

光は茜の事を一通り聞いた後、本題に入る。

「ねぇ、どうしてマネージャーなんかやろうと思ったの?」
「あのね。ほむらが勧めてくれたの……」
「えっ?」
「『バイトばかりじゃつまんないぞ。今しか出来ないことをやることも大切だぞ』って」
「………」

光はジロッとほむらをにらみつける。
「やっぱり無理矢理じゃないの?」と言いたげな視線を送る。

それを感じたほむらはその視線をそらし、頬を書きながら答える。

「いやさぁ、あたしがそうだったからさぁ……」
「えっ?」
「思う存分体を動かしたくて、思い切ってサッカー部に入ってよかったからさ」
「………」
「もし我慢してたら、後できっと後悔してたな。って今は思ってる」
「ほむら……」
「だから、茜にも後で後悔して欲しくないって思ってさ……」
「それで……」

光はほむらの真意がわかったようだ。



それでも茜は心配そうな顔をしている。
ここに来てまだ迷っているらしい。

「最初はボクも断ったんだよ『バイトが大変だから』って。今でも……」
「そう言うだろうと思って、あれから兄貴を説得したよ」
「ええっ?お兄ちゃんを!」
「ああ、家に帰ったら聞いてみな。『3時間ぐらいバイトしなくても生活費は足りてる』って言うから」
「うそ!だって、お兄ちゃんずっと遊んでばっかりだし……」

「今から家に帰って兄貴と話し合ってみな。大丈夫だから」
「うん、じゃあ聞いてみるね……」

ほむらの言葉を聞いて、茜はさっそく部室から出て行ってしまった。



「……ねぇ、どういうこと?」
「ああ、実はな……」


ほむらの話によるとこういうこと。

茜の兄の薫は実はこっそりとバイトをやっていたのだ。
「自分の遊び代ぐらい自分で稼がないと」という、真面目だか不真面目なんだかそういう理由らしい。
ところが最近バイト代がかなりあがって、生活費に回せる余裕もでてきたらしい。

せっかく余裕がでてきたから、今まで苦労ばかりかけている妹の茜を楽させたい。
そう思っていたところにほむらの話が来たと言うことらしい。


「部活に入るかは茜に任せる。でも生活費ぐらい俺がなんとかするから。せっかくの機会だ、好きなだけやってみろ」


「今頃薫は茜にそう言って、茜が驚いているんじゃないのか?」
「なるほどねぇ……」

「茜は最初から諦めていたらしくて、兄貴に相談しなかったらしい」
「家庭がそういう状況だからねぇ……」

「まあ茜のことだから、準備と片づけ含めて2時間半いたあとはバイトに行くと思うけど、いいよな?」
「そこまでして、来てくれるんだもん。大歓迎だよ!」

「きっと明日は大喜びで部室に来るから、説明よろしくな」
「うん。了解、了解!」



案の定、次の日笑顔の茜が部室にやってきた。

「いつまで出来るかわからないけど、ボク頑張るよ!」

茜は大喜びだ。
絶対に縁のないと思っていた部活動ができるのだから当然だろう。

夜はバイトに行くので正規の練習時間しかいられないが、それでも部員にとっては十分に助かる。

それにマネージャーがついたことで、部活にも箔がつく。
それだけでも部員の気分も良くなって、練習にも力が入る。



練習に集中できる環境が徐々に整っていく女子サッカー部。
しかし、まだ戦力はまだ整っていないと公二は頭を悩ましている。

いまだに背番号「9」が空席なのだ。

この背番号を託せる選手を作るべく日々練習にとりくむ公二だった。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
最近、1ヶ月ごとのUPになっています。
慌ててもろくな事がないので、落ち着いて書いてます。

今回は茜登場の回です。

それだけですな(汗

しかし、ひびきのよりもきらめきのほうが登場人物が多いのはなぜだろう?(笑)
こっちも茜が登場して話に幅が広がるかな?
いや、これ以上広げると本題が進まない(汗

さて、次回はどうしよう?
このまま茜の話を続けるか?
それともきらめきにもどって何か書くか?

1ヶ月しないうちに書ければと思ってます。

あぁ、いい加減に夏合宿を書きたい(汗