第26話目次第28話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「よしっ!これで洗濯は終わりだね!」

ひびきの高校女子サッカー部にマネージャーとして一文字 茜が入った。
おかげで部員は練習だけに集中できるので、練習効果も高い。
なにより、雑用で余計な体力を使わなくてすむので、疲労も怪我も少なくてすむ。

「こういうのも結構楽しいね♪」

茜はというと、マネージャーとはいえ、部活動をやっていることの喜びがあった。
一つ一つが新鮮だからだ。
洗濯とか会計とか家でもやっているのだが、やはり気分が違う。
3時間しかできないが、茜は毎日が楽しいようだ。



茜は洗濯物を部室内に取り込んでいる途中だった。
いっぱいの干し物を入れたかごを持って、部室に入ろうとしているところだった。

コロコロコロ……

「あれ?なんでこんなところに……」

茜の足下に1個のサッカーボールが転がってきた。

「ごめ〜ん、強く蹴りすぎちゃったの!」
「お〜い、茜!そのボール投げてくれないか〜?」

声の方をみると近くに光とほむらが来ていた。
茜は籠を置いてボールを持った

「じゃあ、いくよ〜!」

茜はボールをおもいっきりほむらと光に向かって投げた。



ところがボールは光の上を通り過ぎた。

「あっ?あっ?キャッチしそこねちゃった〜!」

光はそう言って後に向かってボールを追いかけだした。

「茜、力入れすぎじゃないのか?」
「ごめんごめん、つい力が入って」

実は光がミスしたのではなく、茜の力の入れすぎだったのだ。

「しかし、えらい長い距離投げるんだなぁ」
「そ、そうなの?」

茜のほむらの間の距離を投げるのは、普通の女の子では難しいぐらいの距離に二人は離れていた。
距離にして7mぐらいだろうか。

「茜は昔から腕力はあるからなぁ」
「ほむら!」
「ごめんごめん。それ気にしてたんだよな」
「そうだよ。ボクだって女の子なんだからね!」

部室前では二人はこんな会話をしていた。
もちろん他の人は聞こえないぐらいの声で。



しかし、こういう話というのはすぐに広まるというもの。
その日の部活の終わりには部員全員に広まっていた。

「………」
「だから、気にするなって」

練習後の部室内で茜はほむらをじっとにらみつけていた。
あれから部員のみんなに言われたのを茜は非常に気にしていた。

「どうせ、ボクなんか腕力だけの女の子だよ……」
「いじけるなって」
「ボクなんかボクなんか……」
「だから!誰も馬鹿にしてないって!むしろ尊敬してるぞ」
「えっ?」

驚きの表情の茜

「八重なんか『私よりも投げるなんて……』って、羨ましがってたぞ」
「そうなの?それ本当なの?」
「ああ、八重はGKだけど腕力がないのが弱点なんだよな」
「へぇ〜」


「光なんか『GKでやれるんじゃないの?』なんて言ってたけどな」
「ええっ!ぼ、ボクが、せ、せんしゅ?」


ほむらの言葉にさらに驚く茜

「今日はまだ暇だろ?」
「うん、今日はバイトはお休みなんだ」
「試しにやってみるか?」
「……うん……ちょっとだけ」

茜もまんざらではなさそうだ。



グラウンドにほむらが茜を連れてきた。
茜はGKの格好をしている。
ユニフォームは花桜梨のを借りている。
若干サイズは違うがそれほど支障はなさそうだ。

茜はゴールの前に立つ。
ほむらはペナルティエリアの中央に立つ。

「まあ軽く蹴ってみるから、受けてみろよ」
「うん……」
「じゃあいくぞ」

バシッ!

ほむらがボールを茜の真正面から軽く蹴った。
実はほむらは軽くどころか若干強めに蹴ったのだ。

ところが。

ガシッ!

茜は何事もないようにキャッチした。
それも胸で抱えるような受け方ではなく、ボールを挟んで掴むような受け方で。

「ふ〜ん、軽めだからボクでも簡単に受けられるよ」

茜は本当に軽めだと思っているらしい。

「そ、そうだね……」

さすがのほむらも驚きのようだ。



「ねぇねぇ、今の素人じゃあ無理なような……」
「確かにそうね。私だって最初は真正面からのボールは怖かったから……」
「すごいすご〜い!」

部室の中から3人がこっそりと2人の様子を見ていた。

「もう少し様子を見ようよ」
「うんうん!」
「そうね、私も興味があるし……」

3人はもう少し2人を見ることにした。



「じゃあ、もう少し強めに蹴ってみるぞ」
「うん、お願いね」
「よ〜し、いくぞ!」

ボンッ!

今度は少しどころかかなり強めに蹴ってみた。

ボコッ!

今度は茜は両手を合わせてボールにぶつけて前にはじき飛ばしてしまった。
バレーボールで素人がやる俗に言う「拝み打ち」と言われているものだ。

「な、なんだそれは?」
「いや、ボクこういうボールの受け方よくわからなくて……」
「ほうほう」
「ちょっと、あの勢いだと両手で掴むのは難しそうだし……」
「えっ?両手で受けるつもりだったのか?」
「そうだけど?」

どうして?といいたげな茜
一方ほむらは、あの強さのボールを掴もうとするとは思ってもいなかったので驚いていた。

よくよく考えれば、両手と胸で抱えるように受けるキャッチングは日常生活ではしないので無理もない。



「そうか、じゃあ仕方ないな。茜、ちょっと待ってろよ」
「うん」

「お〜い、八重!ちょっと来てくれないか〜!」

大声で部室に向かって叫ぶほむら

一方突然の御指名に驚く部室内の花桜梨。

「えっ?えっ?私?」
「えっ、どういうこと?」
「キャッチングを教えろ、ってことじゃないの?」
「そ、そのようね」
「教えてあげたら?」
「そうね」

そういうわけで、花桜梨は部室から出た。
自主トレのために運動着姿だったですぐに部室から出ることが出来た。



「真正面のボールは胸でキャッチするようにするの」
「そ、そうなの?」
「そう、それにそう持つと落とす心配がないからなの」

ほむらに指導を頼まれた花桜梨は丁寧に茜に教える。
別に専門的に教えるわけではなく、素人に教えるので要点だけを教える。

「こんな感じで胸と両手で抱えるように受けるの」
「痛くないの?」
「すこしだけ後に下がるようにすれば衝撃は吸収されるし、意外に大丈夫よ」
「本当?」
「怖いかもしれないけど、思ったよりはるかに大丈夫」
「そうなんだ、よかった〜」

花桜梨が要点をわかりやすく指導したあと、
茜は再びゴールの前に立つ。

「ほむら〜。ちょっと強めに蹴ってよ」
「もういいのか?じゃあいくぞ!」

ドカッ!

ほむらはちょっとどころか強力なシュートを放った。

ガシッ!

茜はそれを真正面で受け止める。
花桜梨に教えられたように胸で受け止めるようにキャッチする。

「大丈夫?」
「うん、思ったよりも大丈夫だったよ」

ちょっとビックリの様子の花桜梨。



「す、すごいね……」
「どうして?」
「私の最初の頃は怖くてキャッチもうまくできなかったのに……」
「そうなの?」
「そうよ。ねぇ、私よりもGKに向いてるんじゃない?」
「そ、そんなことないよ、ボクなんかとてもとても……」



「いや、意外に八重さんよりも素質があるかもよ」



「えっ?」
「その声はコーチ……」

声のする方向をむくと、そこには公二が立っていた。
少し大きめのバックをもった公二はゆっくりと向かってくる。

「主人、いつの間にそこにいたんだ?」
「俺?俺は最初から見ていたよ」
「へっ?」
「誰も気づいてもらえないって言うのも、ちょっとショックだったけどね」

公二は自分の言葉に思わず苦笑してしまう。



公二は花桜梨、ほむら、茜のいるゴール前にやってきた。

「見た感じ、八重さんよりは跳躍力はないみたいだけど、それ以外はGK向きだと思うよ」
「本当か?」
「ああ、特にシュートを恐れない度胸はピカイチだと思ったけど」
「悔しいけど……私も同じ考え……」

周りから次々に褒められる茜。

「そんな、ボクなんか腕力だけなのに……」
「茜さん、自分の事をそんな風にいって欲しくないな」
「えっ?」
「もっと自分に自信をもっていいのよ。腕力なんて恥ずかしい事じゃないの」
「そうなの?本当なの?」
「それに茜さんのマネージャーぶりをみて、だれも腕力だけなんて思っていないわ」
「………」
「茜さんは素敵な女性よ。自信持っていいのよ……あれ?茜さん?」



「ボク、ボク……本当に嬉しいよ……」

茜は泣いていた。

「そ、それほどの事は……」
「ボク、素敵だって言われたの初めてなんだ……」
「そうだったの……」
「嬉しいよ、本当に嬉しいよ……」

茜はじっと動かずに泣いていた。



その側でほむらが公二にそっとささやく。

「実は茜って腕力があるのを昔から気にしていたんだ……」
「そうなんだ……」
「あたしが何度言っても、『ボクって女の子らしくないから……』って言って、困っていたんだ」
「だから一文字さんはあんなに泣いてたんだ……」
「あたしもこれを考えてマネージャーに誘ったわけじゃないんだけどな……」
「………」
「こんな結果になるとは思ってなかったなぁ……」

ほむらも思わぬ展開に戸惑っているようだ。



「さてと、本題に行くかな……」

そう言って公二は茜に声を掛ける。



「一文字さん。選手としてやってみない?」



「ええっ!」
「選手だって!」
「ええっ!ぼ、ボクが!」

「そう、GKでやってみない?」
「でも、ボクはバイトが……」
「練習時間は今までの3時間だけでいいよ。一文字さんなら大丈夫だよ」
「でも試合のときは……」
「そこはお願いして休んでもらうしかないのかな?」
「う〜ん……」

茜は考え込む。
そして決断した。

「ボク……やってみるよ!」
「本当か!」
「うん!できるだけやってみるよ!」

「一文字さんのお兄さんにも俺から頼んでおくから」
「いいよ。ボクから言っておくよ」
「本当にいいのかい?」

「うん!ボク、GKで頑張って自信を取り戻してみたいんだ!」
「そうか、それはよかった……」
「女の子らしさに腕力は関係ないんだよね!」
「そうか、よかったよかった……」

公二はほむらの目が潤んでいるのに気づいていたが、見なかったことにした。



そのころ部室内では。

「どうしよう、出るタイミングを逃しちゃったよ〜」
 美幸「え〜ん、花桜梨お姉さまが茜ちゃんにとられちゃうよ〜」

ずっと覗きながら、出るタイミングを探ってはいたものの、そんなタイミングがなく。
出るに出られない光と美幸がいた。


グラウンドではちょっとした感動のシーンが展開されていた。

しかしその側で一人、怒りの表情の人がいた。

花桜梨である。



「コーチ……私はどうなるんでしょうか?」
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
またもや1ヶ月ぶりUPです。
連載ものって「書かなきゃ書かなきゃ」と思うと焦ってなかなか書けない。
でも「1ヶ月に1本でいいや」って開き直ると、あまり苦痛にならない。
1ヶ月考える期間があるので精神的のも余裕がある。
でも先がなが〜いのでやっぱり焦るんですけどね。

今回で茜までも選手になってしまいますが……
なにやら不穏な雰囲気

でもなんとなく展開がわかるでしょ(笑)?

次回は今年中にUPします。
っていうかもう出来てる(汗