第32話目次第34話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「ああ、腹減ったぁ!」
「私もおなかペコペコ」


午後の予定を終わらせたひびきの女子サッカー部は、それぞれ風呂に入って食堂に向かう。
時間は6時半。夕食の時間だ。


「さて、あたし達の席はここかな?………あれ?茜、どうしたんだ?」
「あれ?その格好は?」

ほむらが席を探していたら茜が先に待っていた。
しかも茜は割烹着姿だった。


「えへへ、今日の夕食はボクが作ったんだ」
「ええっ!」

「最初はマネージャーとして部活に入れてもらったのに、なにもしてないのはちょっと気にしてさ」
「なあ、そんなこと気にするなって、何度もいっただろ?」
「うん、それでも折角だから料理でもつくろうかなぁって」

「そういえば、食堂でバイトしてたんだよね?」
「そうそう。ボク、料理は自信があるんだ」

「なるほど、それで今日の自主トレは参加しなかったんだ」
「ボクも練習したいから、自分で作るのは今日だけだけどね」

テーブルの上にはいろいろな料理が並んでいた。

煮物、焼き魚、野菜サラダ、豆腐料理、レバニラ炒め、酢豚等々、そして御飯に豚汁。

合宿といって想像するようなメニューではないものが並んでる。
合宿所というよりも定食屋という感じだ。


「早く席に着いてよ。冷めちゃうからさ」
「そうだな!陽ノ下!急いで席に着け!」
「ほむらこそ早くしなよ!」



全員が席に着く。
キャプテンのほむらが挨拶をする。

「あ〜、主人は都合で総監督と別に食べるそうだ。だからあたしたちだけで食べるぞ」
「えっ?そうだったの?」
「なんだ?知らなかったのか?まあいいじゃねぇか」
「ま、まあ、そうだけど………」
「7時半からミーティングだから忘れるなよ!それではいただきま〜す!」


「「いただきま〜す!」」


全員のかけ声で晩御飯が始まる。
全員が茜の手料理に舌鼓を打つ。

「いやぁ、茜の料理はうめぇなぁ!」
「ホント、見習いたいなぁ………」
「ありがと、ボク嬉しいな」

美味しそうに食べる部員達を見て茜は嬉しそうだ。
茜はほむらの席の反対側に座っている。
光はほむらの隣だ。


「定食屋のお客さんっておじさんとかだから、同じ年の人に食べてもらう機会なんてなかったんだ」
「もぐもぐ………なるほどね………もぐもぐ………」
「みんな美味しそうに食べているのをみると、作って良かったなぁって本当に思うんだ」
「もぐもぐ………わかったから、茜も食え………明日から持たないぞ………もぐもぐ」
「うん、わかった………でも食べながら話さないでよ」

こうしてひびきの合宿所の最初の晩御飯は楽しい時間となった。



一方きらめきでは。

こちらも食堂で女子サッカー部の夕食が始まろうとしている。


「………すごい量」
「………ねぇ、沙希。これ沙希が全部作ったのか?」


食堂のテーブルには豪華な料理。
とにかく量が多い。
最初にやってきた詩織と京は想像以上の様子で驚いていた。

「違うよ。レシピを渡してここの人に作ってもらったの」
「合宿所の人に?」
「やっぱり専門の人は手際が良くていいよね♪」

こちらの皿は彩りが鮮やかだ。

野菜サラダ、パスタのサラダ、鳥の唐揚げ、肉じゃが等々、そして御飯に具がたくさんの味噌汁。

どこにでもある家庭料理が並んでいる。

量も運動部用にとかなり多くなっている。
それでいて油分を抑え気味にしているなど、栄養や健康の事を考えているように見える。

「1週間、寝る間を惜しんで練りに練ったメニューだからバッチリよ♪」
「………」
「………」

すごいことをウィンクしながら平然と言う沙希に対して、詩織も京もなにも言えない。

「まあいいか。とにかくアタシは腹が減ってんだ。じっくり沙希の料理を堪能するかな」
「私も。沙希ちゃんの料理って滅多に食べられないからね」
「ありがと、ささっ、早く席について!」

3人が話しているうちに他の部員も集まり、夕食が始まった。



女の子といえども、運動をしていればお腹が空く。
ハードな合宿ならばなおさら。

1年生のこの2人はとにかく食欲が旺盛だ。

「ねぇ優美。ちょっと食べ過ぎじゃない?」
「そうかなぁ?御飯がおいしいから食べられるんだよ」
「確かにそうだけど………」
「食べないと明日から持たないよ。それにみのりちゃんだって食べてるよ」
「やっぱり虹野先輩考案のメニューだもん。技を盗まないとね」

2人ともなんだかんだいいながらもりもりと食べている。
練習のせいでよほどお腹がすいていたのだろう。

「ねぇ、虹野先輩って、去年は男子の合宿について行ったんでしょ?」
「そうみたいね」
「男子の先輩は残念だろうな。こんな料理が食べられないから」
「それについては心配ないって虹野先輩が言ってたよ」
「えっ?」
「男子の合宿用のメニューも考えて、向こうの合宿所に送ってあるって」
「虹野先輩ってすごいね………」
「うん、『1週間、寝る間を惜しんで練りに練ったメニューだからね♪』だって」

2人はテーブルの隅で話している沙希をみて尊敬の目でみつめていた。



その沙希は今日から入部したパトリシアと対面で話していた。

「ニジノさんの料理はおいしいです!」
「ありがとう!気に入ってくれて嬉しいな」
「私、日本食ダイスキです。ヘルシーでおいしいです」
「う〜ん、日本食ってわけじゃないんだけど………まあいいか」
「こんど日本食おしえてください」
「時間があったら教えてあげるわ」

沙希はパットに褒められて上機嫌だ。

「ところで練習はどうだった?」
「練習たのしいです。でも試合はもっとたのしいです」
「やっぱり練習は楽しいよね?」
「Si!(はい)練習はハードだけど楽しいデース」
「明日からも頑張りましょうね!」
「がんばりま〜す!」

どうやら練習好きで意気投合しかけているみたいだ。



「ねぇ、そんなに不機嫌な顔してたらせっかくの御飯も美味しくないわよ」
「………」
「望の気持ちもわかるけど………引きずっていたらもっと悪くなるよ」
「………」

パットと沙希の正反対の席で、望は黙々と食べていた。
表情も暗い。
隣でたくさん食べている奈津江が心配するが、望の返事がない。

そんな望が不意に立ち上がる。

「………ごちそうさま」
「望!いったいどうしたの?」

食堂から出ようとする望を奈津江が慌てて止める。

「練習してくる………」
「ちょっと望!………わかったわよ!一緒につき合ってあげるわよ!」
「ありがと………」

奈津江も望につき合って、晩御飯を切り上げて食堂を出て行った。



2人が出て行くところをみた詩織が心配な表情で京に語りかける。

「ねぇ、京。望、どうするつもりなんだろう?」
「さあ?」
「京!望のことが心配じゃないの?」

詩織の心配を平然と流す京に詩織は怒り出す。

「全然。だって、こんなことでくたばる望じゃないよ」
「でも………」
「今日はあいつが急に現れてショックがまだ消えないだけだよ」
「そうかなぁ………」

望が出て行った食堂入り口に視線を合わせることなく、京は御飯を食べながら話を続ける。

「あいつはあいつ、望は望。それぞれ特徴があるんだ。でも、望は自分を見失ってるよ」
「自分?」
「わからないのか?まあ、後で教えて上げるよ」
「………」
「まあ、ここはナツに任せて、アタシ達は栄養補給だ」
「………そうするわ」

京の態度が少々不満ながらも詩織も目の前の食事に視線を向け直した。



「ぷはぁ〜、うまかったぁ〜」
「もう、ほむらったら食べ過ぎだよ」
「あはは、私もちょっと食べ過ぎちゃったかな?」

場所はもどってひびきの合宿所。

こちらは食事が終わっている。
ミーティングが始まる少しの間、それぞれがそれぞれの場所でくつろいでる。

ほむら、光、茜はロビーのソファーにどっかりと座って休んでいる。

「しかし、みんなで食べる御飯っておいしいね」
「そうそう、だから合宿って楽しいよね」
「不思議だよな。人数が増えただけなのにな」



「ところでほむら。生徒会も今週合宿があったんじゃないの?」
「ああ、そっちは他の連中に任せた」
「ええ?いいの?」
「なあに、合宿中は会長権限を与えてあるから大丈夫だ」
「それで大丈夫なの?」
「大丈夫じゃねぇか?」

実は全然大丈夫ではなかったりする。
ほむらが溜めに溜めた決裁文書の整理に生徒会は全員四苦八苦していたのだ。
もちろんここにいる連中はそんなことは知らない。



その隣のソファーでは花桜梨が座っていたのだが、困っている様子だ。

「あの………もうすぐミーティングの時間だけど………」
「えぇ〜〜〜!美幸、もうすこしこうしていたい!」
「私動けないんだけど………」
「いいじゃないですか。おねぇさまぁ〜」

それもそのはず、彼女の膝に美幸の頭が乗っているのだから。
美幸が花桜梨の膝を無理矢理膝枕にしていたのだ。

「今晩はおねぇさまの腕枕で寝たいなぁ」
「それは遠慮しとくわ………」
「ええっ〜、美幸とおねぇさまの仲じゃないですか〜」
「そんな仲になった覚えはないんですけど………」

結局、この会話がミーティングの時間ギリギリまで続くことになる。



おいしい晩御飯も終わり、いよいよ初日の夜を迎える。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
合宿の初日の夜、それぞれの夕食の様子です。

ひびきのには茜ちんがいます。
きらめきには沙希ちゃんがいます。

これは書かないわけにはいかないでしょう(笑)

そう言うわけで晩御飯だけ書いてみました。

2人の作るメニューはこんなものかなぁ?
あんまり自信がありませんので、メニューに細かいツッコミは入れないで(苦笑)

次回はひびきのサイド。
初日の夜のひびきのです。
久々に光メインになるのかなぁ?