「よぉし。午後の練習はこれまで、各自体を休めるように」
公二のこの一言で2日目の午後の練習が終わった。
今日の練習はとても収穫が多かった。
自分が考えた戦術がチームに本当にあっていることが確認できた。
チームが戦術に従って動けることがわかった。
そして、攻撃力、守備力が確実に増したこと。
部員達の表情も輝いている。
練習をしていて手応えを感じたからかもしれない。
「さぁて、さっそくシャワーでも浴びっかなぁ!」
ほむらがそう言って、シャワールームに走っていく。
「おねぇさま♪」
「な、なにかしら………」
「一緒にシャワー浴びよ♪」
「2人一緒に入れないのはわかってるでしょ?」
「愛があれば大丈夫だよぉ〜」
「そ、それはない………」
花桜梨は美幸に捕まえられて逃げようにも逃げられない。
このままシャワールームに連れられてしまいそうだ。
花桜梨の顔が少し引きつっている。
彼女たちに連れられるように他の部員達も次々に合宿所のシャワールームへと足を運ぶ。
「さて、ボクはもう少し練習するかな」
「茜ちゃん、練習熱心だね」
「ううん、今シャワールームって満員でしょ?それだったら後の方がいいかなって」
「そうだね、後がいないとゆっくりできるからね」
「じゃあ、PKの練習でもしない?」
「いいよ!」
茜と光はもう少し練習するつもりだ。
確かに今シャワールームに行っても混雑でゆっくりできない。
同じ事を考えている人が何人かいるらしく、彼女たちはそれぞれに自主練習を始めていた。
光がボールを慎重にセットする。
動かないように慎重に慎重に。
ボールが光の手を離れる。
ボールは動かない。
光はゆっくりと顔を上げる。
光の視線の先には茜がいた。
グローブを付けた両手でパンパンと手を打ちながら、眼光は光へと鋭く向けられている。
光はゆっくりと後ずさりする。
1歩、2歩、3歩、4歩。
視線はボールにロックオンしている。
9歩、10歩、11歩、12歩。
13歩下がったところで光は止まった。
そして視線をボールからゴールへと向ける。
ゴールには茜が腰を少し下げ、体勢を整える。
光は深呼吸をする。
すぅ。はぁ。すぅ。はぁ。
そして、一瞬のひらめきが光の頭の中を駆けめぐる。
光の頭の中には、ボールの軌道が描かれる。
ガシュ!
光は地面を蹴って走り出す。
茜は光の動きをじっと見つめる。
光が足を軽く振り上げる。
茜はそれを見てジャンプをすべく、腰を下ろし、地面を蹴る体勢に入る。
バシュ!
ボールが光の足から飛び出す。
それと同時に茜が横に飛ぶ。
バシッ!
「ああ〜〜〜〜!」
ボールは茜の両手の中に収まっていた。
「くやしぃ〜〜!」
「えへへ、勘がバッチリ当たったね」
「動きもよかったのにぃ」
「なんか、わかったんだ。光さんが右に蹴るって」
「………」
「じゃあ、あとでジュースよろしくね♪」
「ぶぅ〜」
どうやらジュースを賭けてたらしい。
そうして練習をしているうちに、結構時間が経った。
茜はグラウンドにある時計を見る。
「そろそろ、シャワールームも空く頃だからボクは帰るね」
「あっ、私も行く!」
茜と光はようやくシャワールームに行った。
シュワーーーーーーッ!
「う〜ん、気持ちいい!」
「ボクもそうだね」
シャワールーム。
10個のシャワーが併設しているが、今は茜と光の2人だけ。
待っている人がいないので、ゆっくりとシャワーを浴びられる。
「シャワーって気持ちいいね」
「うん。でもボクはお風呂の方が好きだな」
「あっ、それは私も!」
「やっぱりいいよね〜。大きな湯船にゆ〜ったりと浸かるのが最高だね」
「それ同感。そう言う意味でここのお風呂は結構気に入ってるんだ」
「お風呂の方が疲れも取れるんだよね」
合宿所のお風呂は午後から入れるようにはなっているが、今はそんな時間は当然ない。
お風呂に入るのは大抵夜、御飯を食べ終わった頃が一番混んでいる。
「じゃあ、ボクはこのぐらいにして、後でお風呂にゆっくり入ることにするよ」
「私はもうちょっといるね」
「じゃあおさき〜」
茜は先にシャワールームから出て行った。
「………おっきい………」
その茜の後ろ姿をじっと見た光がぽつりとつぶやいたのは茜には聞こえていなかった。
「あ〜、すっきりした!」
光はようやくシャワールームから出てきた。
汗を流すだけでなく、体や頭も丁寧に綺麗にしたので、時間がかかった。
「茜さんはもう出て行ったんだ」
茜の服が棚にないから、もう着替えて部屋に戻ったのだろう。
「だれもいないよね………」
今の光の格好は大きなバスタオル一枚を体に巻いた状態。
ちなみにシャワールームはもちろん男女別なので、見られる心配も覗かれる心配もない。
光は誰もいないのにキョロキョロと見回す。
「よし!」
光はダッシュして向かった先には体重計が。
「今なら誰にも見られないぞ!」
バスタオルが落ちないように胸のところを両手で押さえながら、体重計の上に乗る。
体重を示す回転板が右へ左へと動く。
古い体重計なのでなかなか止まらない。
「うぅ〜、心配だなぁ〜」
心配そうに見つめる光。
そうしているうちに回転板が止まる。
「………増えてる………」
光の表情が一瞬曇る。
そして自分の体を包んでいるバスタオルを見つめる。
そして考える。
「………邪魔だね………」
光はバスタオルを取り、体重計の横に落とす。
そして再び、体重計を見直す。
「………うん、こんなものか………」
バスタオル分の体重が減ったら、光がちょうどいい体重になったようだ。
「最近太ったような気がしてたんだけどよかったぁ〜、今日も御飯がたくさん食べられる♪」
「ん?」
光はふと顔を上げる。
体重計ばかりに気を取られていたが、目の前には全身が映る大きな鏡があった。
「………」
そこには自分の一糸まとわぬ姿が映っていた。
「………茜さんの大きかったなぁ………」
ふと、さっきの茜の体を思い出す光。
「公二は大きいのが好きなのかなぁ………そういえば花桜梨さんも大きかったような………」
光は自分の全身を見つめ直す。
「サッカーを始めてから、腕やももに筋肉がついちゃったんだよね………」
右手をあげ、力こぶを作るような格好をする。
力こぶが実際にできないのだが、光の頭の中では自分の右腕に力こぶができあがっている。
「男の人って、ふっくらした方が好みだって聞いたけど………公二もかなぁ?」
元々光は中学で陸上をしていたこともあり、体は引き締まっている。
クラスの女の子からみればすこし痩せているほうかもしれない。
「私は今のぐらいがちょうどいいと思うんだけどな………でもなぁ」
しかし、光は痩せすぎと言うわけではない。
スタイル的にはバランスもよく、体重も標準の範囲で収まっている。
しかし、自分ではどう思っても、公二がどう思っているかはよくわからない。
「でも、太ってると走れないし………う〜ん」
「公二って、どういうのが好みなんだろう?」
「気になるけど、聞けないし………」
光は体重計の上で、何も身につけない格好でもじもじしている。
もじもじするたびに体重計の回転板がガチャガチャ回転している。
しばらく光の独り言が続く。
「『私みたいな体が好き?』なんて、恥ずかしくて聞けないよ〜」
「ねぇ〜、公二ったら〜。私のスタイルっていいのなのかなぁ〜、教えてよぉ〜」
「呼んだか?」
「えっ………」
突然聞こえてきた公二の声。
慌てて回りを見る。
すると入り口のガラス越しに人影が。
「きゃあ!」
思わず胸を両腕で隠してしゃがみ込んでしまう光。
ちなみに光がいる場所は入り口から離れており、さらに磨りガラスなので見られる心配はまずない。
「光、大丈夫か?シャワールームからちっとも出てこないって話を聞いたんだけど………」
扉の向こう側から公二の心配そうな声が聞こえてきた。
「だ、だいじょうぶだよ………」
「そうか、倒れてないかちょっとだけ心配だったんだよ」
「そ、それなら、公二が来ることないじゃない!」
「い、いや、たまたま前を通りかかっただけだよ。これから会長に頼もうかと思ってたんだよ」
「そうなんだ………」
「もうすぐ、夕方のミーティングだぞ?早くしろよ」
「うん………」
扉越しの会話。
光はしゃがんだままで話をしている。
下では相変わらず体重計がガチャガチャしている。
「ねぇ、公二」
「なんだ?」
「覗いてないよね?」
「覗けるか!………まあ、正直言うと覗きたいのもあるけど」
「エッチ!」
「男はだれでもエッチだよ!」
「ふ〜ん」
「そんなことはどうでもいいだろ。じゃあ、俺は行くからな。光も早くしろよ」
「は〜い」
光はようやく立ち上がり、自分の服が置いてある棚に戻る。
「あと、光。これだけは言っておく」
「なに?」
「光は太りすぎず痩せすぎず、ちょうどいいと思うよ」
「えっ?」
「あと、俺は掌にすっぽり収まるぐらいが好みだからな」
「え゛っ?」
「と、とにかく早くしろよ!」
バタバタバタ………
公二は最後は言い放つようにして足早に去っていった。
部屋の中には光が一人きり呆然と立っていた。
「もしかして………全部聞かれてた………」
「………」
「公二のエッチ〜〜〜〜〜〜!」
大声で叫んだところで、誰にも聞こえるわけではなかった。
そんなこんなで、これから2日目の室内でのミーティングの時間に突入することになる。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
いやはや、お待たせしました。
ひさびさになってしまいました。
なかなか書く気力がなかったもので、書く感覚を思い出しながら欠きました。
しかし何だこの煩な展開(汗
すこしリハビリが必要かもしれません(汗
今回は光をメインに作ってみました。
望同様に光も問題を抱えているのでそれが次第に出てくると思います。
次回は光メインでないですね。
どういう話かは見てのお楽しみに(こら