第38話目次第40話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「はぁ〜、疲れたなぁ〜」

ほむらは一人ベッドでごろんと寝転がっていた。

同室の光はまだどこかに出かけている。

「まだ練習してるのか………」

ほむらは部屋の窓からカクテル光線に照らし出されたグラウンドをみる。
まだ光は練習しているのだろうか。
ほむらの部屋からはそれが確認しきれなかった。

「どうも心配なんだよな………」

ほむらは天井を見つめひとり考える。



陽ノ下はどうしちゃったんだ?

昨日の晩も練習してたけど、なんで一人なんだろうな?
シュート練習っぽかったけど、それなら夕方やれば十分だと思うけどなぁ?

自分がやらなくても、あたしや八重がいるのに。

なんでだろう?



陽ノ下は楽しいのかなぁ?

あたしはこのサッカー漬けの毎日が楽しくてしょうがないぜ。

戦術とか難しいことはちょっと苦手だけど、試合形式の練習は楽しくてしょうがない。

おもいっきり動いて。
おもいっきり走って。
おもいっきり蹴る。

単純なことなんだけどそれが楽しくてしょうがない。



本当におもいきってサッカー部に入ってよかったよ。

和美ちゃんに入学式の日に無理矢理生徒会長にされてしまった。

確かに生徒会長の仕事は面倒で嫌だが、やりがいがある。
でもな〜んか物足りなかったんだよなぁ。


そんなときだなぁ、サッカー部の練習風景をみたのは。

本当に楽しそうだった。

なんか子供の頃を思い出した。
羨ましかった。

すぐにでも入りたかったけど生徒会の仕事がある。
生徒会長の仕事は嫌だけど、辞めることだけは絶対にしたくなかった。
えへへ、あたしも驚きなんだよね。


生徒会長。


こんなあたしでも、あたしの誇りなんだな。


だから「生徒会長を続けてもいい」と主人が言ってくれたときは本当に嬉しかった。
頼んだのはあたしだけど、OKしてくれると思わなかったから。
頼んだときは、実はドキドキだったんだよ。
いやぁ〜、あんなことは何度も体験するもんじゃないな。



入部したときから陽ノ下とは一緒だ。
FWとMFという関係だからというのもあるけど、なんか気があったんだよなぁ。

まあ、入部のきっかけは、あいつが主人に苛められてたことなんだけどな。
あたしは本気で怒っちまったけど、「チームを引き締めるため」ってあいつから聞いて驚いた。
自分も好きでやってるわけじゃないとは思うけど、よく引き受けたよな、苛められ役なんて。



あれ?………

………

そういえば………

………

もしかして………



陽ノ下って、あのころから………追いつめられていたのか?


確か陽ノ下が入部したきっかけは主人を国立に連れて行くため、って言ってたな。
まあ、誰が見ても主人のことが好きなのが見え見えだし、
主人も陽ノ下のことは、練習は辛く当たってるけど、裏では優しいことはわかってる。

それなのに………何を焦ってるんだ?



恋愛ごと、っていうのはあたしは興味がないが、気にはなる。

確かに、陽ノ下が主人に二股を掛けられていることも知ってる。
あっ、それは陽ノ下から直接教えてもらったんだよな、あははは。

「公二くんが他の子とデートしても怒らないでね」なんて言っててさ………



でも………もうちょっと………主張してもいいような気がするけどな………



確かに、二股の相手がきらめきのボランチだというのも知ってる。
サッカーの実力はすげぇのも雑誌を見て知ってる。



でもさぁ………なんで、そいつと友達になったのかねぇ?



友達でもあり、ライバルでもあり、恋敵。


恋敵ならとことん、敵視すれば楽なのになぁ。
そうすれば、苦しまなくてもいいのに。
積極的にアタックすることもできたのに。

あいつは人付き合いが不器用なのかもしれないな。



でも、それだって主人の近くにいるのはあいつだし、断然有利だと思うぜ。
サッカーの実力的にもそんなに差はないと思ってる。

なのに、そこまで夜練習しなくてはいけないほどの事があるのか?

う〜ん、陽ノ下………


サッカー………楽しんでるのかなぁ?


勝たなきゃ、って意識が強すぎるんじゃないのかなぁ?

特に最近はそんな感じがする。



主人に苛められていたときも、なんか悲壮感が漂ってた。

今はそうではないけど、練習ではえらく必死だ。
「真剣」ではない。あの表情は確かに「必死」だった。

これって違うんだよな。主人も言ってた。

「練習は試合並みに『真剣』にやることが大切だ。しかし『必死』になりすぎたら効果が半減する。要は試合でどれだけ普段と同じことができるのかが大切だから」

って。



そういえば………あいつ、最近、パスを思ったほど出さないよな。

たしかにドリブルはうまい。あたしよりもうまい。

そのドリブルをあいつは多用しすぎてる気がする。
前線にはあたしや八重がいるのだから、パスすればいいのに、積極的にシュートを狙う。


確かにパスは正確でシュートも打ちやすいけど………



なあ………本当にあたしを信頼してくれてるのか?



あたしはお前を信頼している。
だから、あたしを信頼してほしい。

それが、チームワークって奴だろ?

主人も言ってた。
「悪いとは思うけど、正直に言う。
 このチームは戦術は高度ではない。
 パワーは会長と一文字さん以外はあまりない。
 高さも八重さん以外はまったくない。
 ただ、テクニックは全員それなりに光るものがある。
 
 そんなチームが勝つためにはチームワークは絶対に必要なんだ。
 チームワークがあれば、少し高度な戦術よりも勝るはずだ。」
これはあたしも同感だ。

だから陽ノ下の最近の様子が気になってしょうがない。


明日主人に相談してみるかぁ。
たぶん主人もわかってると思うから、なにか策を考えているかもしれないけど。



さて、合宿が終われば、いよいよ秋の大会か。
楽しみだなぁ。

今回は予選の最初からフル出場してやる。

インターハイみたいなみっともない真似はもう御免だ。

あれほどあたしが情けなく思ったことはない。

みんなは今でも「ほむらのせいじゃないよ。チーム全体の責任だよ」って言ってくれるけど、
あたしは絶対にあのときの自分が許せない。
エースストライカーが1試合も出ずに終わったなんて、赤っ恥ものだよ。
たとえ生徒会長の仕事だとしても、やっぱり許せない。

入部したときに主人に無理矢理頼んでもらった「11」だけど、あたしは誇りにしている。
もうこの「11」に恥はかかせたくない。

そして、絶対に全国大会にでる!


………そして、絶対に!


………う〜ん、できれば。


………いや、運がよければ。


………国立でやってみたいなぁ。


テレビで見たけど、すげぇよな、あそこ。
あんなすげぇところでプレーするなんて夢のようだな。

そのためには幾つ勝てばいいんだ?

ひとつ、ふたつ、みっつ………う〜ん、わかんねぇや!
とにかくあたしがゴールを決めて勝てばいいんだ!

それが先輩達へのたった一つの罪滅ぼしになんだよな。



ふぁ〜あ。

なんか眠くなっちまったなぁ。

今何時だ?

えっ?まだ10時?

さすがのあたしも疲れたみたいだ。

1日中走り回るなんて、久しぶりだからなぁ。
明日も早いし、寝るかなぁ。

今日はぐっすり寝て、明日は夜遅くまで大騒ぎするぞ!

そういうわけで、おやすみ〜。

ぐが〜………




ガチャガチャ。

「ほむら〜、鍵かけたまま寝ないでよ〜」

予想外に早く寝てしまったほむらは部屋の鍵を掛けてしまっていたのをすっかり忘れていた。
鍵は部屋の中。
おかげで自主練習後、お風呂に入ってから戻ってきた光は中に入れない。

「管理人に頼んで開けてもらうなんて恥ずかしいからさぁ」

「ぐ〜………」

光が扉越しに頼んでも、ほむらは起きるわけがない。

「どうして〜?」

結局、合宿所の管理人に頼んで扉を開けてもらったのは言うまでもない。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
またまたお待たせしました。

今回はほむらの一人称でした。
ここのほむらは少し一般的なほむらと違っています。

そこをふまえて上でほむららしさがでていればいいかな?って思ってます。

次回はどっちにしようかな?
たぶんきらめきの2日目の練習風景だと思われます。