第39話目次第41話

Fieldの紅い伝説

Written by B
2日目の午前。

またもや紅白戦を行う。
今度は紅白のメンバーを少しだけ入れ替えて試合を行う。
昨日は控え組だったパットが今日はレギュラー組に回ってきた。


「今日はヨロシク!」
「あ、ああ………」


笑顔で声を掛けるパット。
少し緊張している望。

レギュラー組はパットと望のダブルボランチ。
右が望で左がパット。
前列の中央には奈津江。
右サイドはパットと同様に今日はレギュラー組に回った2年の神戸留美。
左サイドは1年で唯一レギュラー組の早乙女優美。
今日の中盤はこういう構成で挑む。



開始直前、パットと望は軽く体を動かしていた。

(あれ?)

パットを横目でちらちらと見ていた望はあることに気が付いた。
パットが右足よりも左足で蹴っているように見えたからだ。


「な、なぁ」
「What?」
「もしかしてレフティー?」
「レフティー?」
「左ききのことだけど………」
「ヒダリ?ハイ!ヒダリで蹴るのは得意です」


そう言うとパットは左足を振り上げて、蹴る格好を見せる。

(やっぱり………あたし左で蹴るのって得意じゃないんだよな………)

望は早くも精神的に負けていた。



そして紅白戦が始まる。

今日のレギュラー組にはサイド攻撃の指示が与えられている。
高速の両サイドを使い、サイドから駆け上がる。
途中大きなサイドチェンジも交えて両方から攻めあがる。

攻撃の基本は今まで教えてある。
あとは状況に応じて臨機応変に対応させる。
しかし今日はサイドを使うことを基本に行う。



そしてさっそく望にボールが回ってきた。
DFからのパスボール。
望はいったん足下で止めて周りを見回す。

(さて………どこに………あれ?)

見るとパットが前に走りながらこちらに手を振っている。

(じゃあ、お手並み拝見といきますか………)

望は軽くパットにパスを送る。




バシッ!



(えっ!)




望は驚いた。
パットはボールを止めることなくダイレクトで右前に蹴ったのだ。



(ちょっと!どこに蹴ってるのって………えっ………)


「パット、ナイスパス!」


パスの先にはMF神戸がちょうど走り込んできた。
タイミングぴったりにボールに追いつく。



(チャンス!ここで自慢のスピードを見せてあげるわよ!)


神戸はスピードを上げてサイドを駆け上がる。
トップスピードをキープしたままボールを受け取っているので、サブ組の選手が追いつけない。

そしてゴールラインぎりぎりでセンタリングを上げるが、これはDFがカットしてしまう。

(惜しい!次こそは………)

久々にレギュラー組に入った彼女はレギュラー定着のチャンスとばかりに張り切ってプレーしている。
その張り切りぶりが好プレーを生むし、チームの活性化につながる。



(すごい………そこまで読んでいたなんて………)

見事なパスに望は呆然としていた。


(ふぅ………力を入りすぎたけどラッキーでした………)

一方のパットはミスキックがミスにならなくてほっとしていた。


紅白線はまた続く。

今度は中盤の左での攻防。

(うわぁ、囲まれちゃいそうだよ〜。どこかにパスしないと………)

MF早乙女 優美がパスを受けたものの、周りにはすでに相手が3人向かってきている。
このままいれば確実に囲まれる。
ドリブル突破は諦めて、パスを選択した。

瞬時に周りを見る。
後ろには望、横にはパット。


(こっちだ!)

バシュ!

優美はパットに右足のインサイドでパスを送った。
後でパスを待っていた望は、それをみてすぐにパットの後ろにポジションを移動して後ろへのパスコースを用意する。


(パットはここでどうするか………なにぃ!)

またもや望は驚いた。

パットはドリブル突破を図ろうとしていた。
パットの前には相手選手が二人。


(あそこを抜ける気?嘘でしょ?)

しかしパットは二人の間を強引に抜けようとしていた。


(だから無理だって………えっ?)

パットは二人の間を強引に抜いてしまった。
もちろん相手の選手が奪おうとしたが、パットに突き飛ばされてしまう。


(すごい………あんな力強いドリブルできない)

望はまた呆然としていた。


(う〜ん、イエローぎりぎりデスね………)

一方のパットは強引なプレーを少し反省していた。



その後もレギュラー組の攻撃は何度もあった。

望は地味だけど確実な選択肢を選び、パスやドリブルも確実にこなしていく。
一方のパットは時々ギャンブル同然な選択肢を選ぶが、それがものの見事に成功していく。

(すごいな………あたしにはとても無理………)

(う〜ん、今日はうまくいきすぎて怖いデス………)

望は気落ちし、パットは苦笑するばかりだった。



攻撃があれば当然守備もある。

今度は相手が攻めてきた。

中盤で丁寧なパス回しをしながら、攻め込んでくる。
相手のサブ組にも攻撃のテーマはあるが、それが何かはレギュラー組はなにも知らされていない。
要は普通に守っていくのみだ。

ボールはセンターラインを超え、ボールを持った選手の前にはパットと望が向かっている。

(早く追いついて、奪い取らなくちゃ………って、えっ!)

突然パットが走る方向を変えて、別の方向に走り出した。
それを見て望が驚くのもつかの間。



バンッ!

(えっ………)



パットが方向を変えたすぐ後に、相手がパスを出した。
そのパスコースのラインにはパットが割り込んでいた。
ボールを奪い取ったパットはすぐに前に蹴ってクリアする。

(パスコースを読んで………すごい………)

望はパットの瞬時の判断力に驚いていた。



そして場面はまた変わる。

(う〜ん、しつこいデス………)

パットは相手の選手二人に囲まれてしまっていた。
強引に抜けようにも、さすがに今回はちょっと無理そうだ。
仕方なしにパスコースを探そうとしていたが。

(あっ………)

パットはボールを奪われてしまう。

相手はそのままドリブルで前線に進もうとしたが、


「ちょっと待ちな」


目の前には望が立ちふさがっていた。


「そんなんじゃ、すぐに取られちゃうよ」


そういうと望は簡単にボールを奪ってしまう。
そしてそのボールを守備をしに下がってきた奈津江にパスする。

「ナイスディフェンスよ、望!」

一方、取られた相手選手はあっけにとられてしまっている。

(1対1は誰にも負けない!パットにだって負けないからな!)

久々にいいところを見せられていい気分の望だった。



守備でも望とパットの動きが違っていた。
パットは相手のパスコースを何度も読んでインターセプトを成功させていた。
一方の望は1対1では無敵だったが、それ以外ではあまり目立っていなかった。

望の少し前のポジションでパットがボールを奪ってしまうので、望の守備機会が少なかったのもある。

(結局、守備でも勝てなかったのかなぁ………)

(ボランチがもう一人いると安心してプレーできマスね)

パットと望。二人の感想はやはり違っていた。



こうして様々なことを感じた紅白戦は終了した。
結果は当然ながらレギュラー組の圧勝。
両サイドの攻撃が理想的な攻撃だったのが最大の原因。
その陰で守備がしっかりして、最終ラインまでボールが回らせなかったというのもある。



「これで決まりかな………」

そんなレギュラー組に監督も満足そうな顔をしていた。
監督はグラウンドから引き上げてきた望を呼び止める。


「清川」

「はい、監督」




「これからは中盤の底でプレーしてもらうから」

「えっ………」

監督の普通の口調で語られた言葉。
望は固まった。




「望の少し前目のポジションにはマクグラスに入ってもらうから」

「………」

望は監督の言うことを黙って聞いている。




「やることは今までと同じだから。大丈夫だな?」

「はい………」

望の言葉に力はない。




「じゃあ、次の紅白戦は明日だから明日から頼むぞ」

「はい、監督………」

「じゃあ、もう昼食だからゆっくり休んでおけよ」

監督はゆっくりと宿舎に戻っていく。




「………」

望は呆然と立ちすくんでいた。


「望?どうしたの?」

そんな望に奈津江が気がついた。



「ポジションを………奪われた………」

「えっ?」

望の顔はすこし青ざめている。
奈津江もいつもとは全く違う望に驚く。



「中盤の底………守備専門の場所………攻撃を奪われた………」

「ちょっと!望!しっかりして!」

夢遊病者のようにフラフラとしている望の体を奈津江が振って意識を取り戻そうとする。



「あははは………あははは………」

「望!望!望ったら!」


望の緊張の糸がぷっつりと切れてしまった。


そんな望を必死に元に戻そうとする奈津江。
しかし、望は戻ってこない。

きらめきの2日目のお昼は望の豹変に大騒ぎとなる。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
こちらも久々になってしまいました。

きらめきの2日目ですが、なにやら怪しい展開に(笑)
いや、望がもうヤバイ(苦笑)

この先どうなるんでしょうか?(おまえが考えるんだろ)

さて、次もきらめきになりそうです。