第40話目次第42話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「ナツ!いい加減にしろ!」
「京!これだけは言わないと収まらない!」

お昼休み。

京の部屋(詩織と同室)の部屋は騒然となっていた。

「監督に一言言ってやる!」と意気込む奈津江を京が無理矢理部屋に連れ込みやめさせようとして、大げんかになっているのだ。



「何よ!望がどうなってもいいっていうの!」
「アタシはそんなこと言ってないだろ!」

「じゃあ、望のあれが普通だって言うの!」
「だ〜か〜ら!言ってないだろ!」

午前の紅白戦の直後。
合宿所に引き上げてきた望は異常だった。
なにか魂が抜けてしまった様子に全員が驚いた。

詳しい事情を知っている人が半分ぐらいほどいた。
そのほとんどが「あの清川さんが、あんなにショックを受けるなんて………」と絶句していた。
それだけ望の豹変ぶりがすごかったのだ。


それを間近で見た奈津江は監督に文句を言おうとしたがそれを京が止めたのだ。



「そんなに怒るほどか?」

という一言を添えて。



それを聞いた奈津江はさらにヒートアップしたので京があわてて部屋に連れ込んだ次第である。



熱くなった奈津江はいつの間にか京に思いをぶちまけていた。


「普通、ああいう言い方ってある?もっと言い方はあると思うわよ!」

「それを一言で冷たくない?さらに替える理由を言わないのよ!」

「望はずっと前めのボランチだったのに、今頃のポジション替えって納得いくわけないでしょ?」

「今の望はシュートが打てなくて悩んでるの知ってるでしょ?そんな望に追い打ちをかけなくてもいいじゃない!」

「はぁ………はぁ………はぁ………」

奈津江は一気にまくし立てたので、息をぜいぜい吐いている。



それをみて京が一言つぶやいた。




「それだけ?」




「なんですって………」



奈津江は京をにらみつける。



京はそれを見てみるふりして平然と続ける。


「ポジション替えなんて普通の事だろ?構想が変われば変わること何てよくあることじゃないの?」

「………」



「替える理由なんてあんな場で言う必要ないだろ?必要なら望が聞けばいいだけの話だ」

「………」



「ポジション替えに納得してないのは奈津江だろ?望の問題じゃないのか」

「………」



「それにシュートが打てないMFなんて………意味あるの?」


「バカッ!」


ぼかっ!


奈津江が京の右頬を思いっきり殴りつけた。
殴られた京は思いっきりベッドに吹き飛ばされた。



「この薄情者!京がそんな人だなんて思わなかった!」

奈津江は倒れている京を見下ろしながら、右の握り拳を震えさせながら、顔を真っ赤にして叫んだ。

一方の殴られた京も肩が震えていた。


「………殴ったな………」


「?」


「てめぇ!殴ったな!」



ぼかっ!




京は起きあがるやいなや、奈津江の右頬を殴りつけた。
今度は奈津江が吹き飛ばさせる。

「このぉ!」
「てめぇ!」

奈津江が京に向かって殴りかかった。
本当の喧嘩が始まった。


ぼかっ!

どかっ!

ばきっ!

ぼこっ!


片方が上にのってマウントポジションで殴りかかる。
しばらくすると、上下が入れ替わって殴りつける。
顔をひっかき、腹を殴り、腕をひねり、足を踏みつける。

「薄情者!」
「暴力女!」

奈津江と京はお互いを罵倒しあっていた。



最初の口論が始まってから約20分後


バタン!

「京!奈津江!もう、やめて!」



「シオ………」
「詩織………」


部屋に詩織が入ってきた。
顔は少々青ざめている。

「みんな気づいたわよ!京と奈津江が喧嘩してるの!」
「えっ………」
「あんなにドタバタしたら、廊下からでも聞こえるわよ」
「………」



「それにわかってるの?望も気づいちゃったわよ!喧嘩の原因が自分だってこと!」



「!!!」
「!!!」

顔から血の気がさっと引いていくのを二人とも感じていた。



「望は部屋にこもって出てこなくなって………あれっ?………望!」

後ろに人の気配を感じた詩織が振り向くと、そこには望がいた。



「ごめん………心配かけて………でも大丈夫だから………」

望はにっこりとほほえんだ。

「望………」
「ノゾミ………」

組み合ったまま固まってる京と奈津江は呆然と望をみている。

「だから、喧嘩なんかやめてさ………ねっ?」

望はほほえんだまま、しかし何か違う。
無理して作っているように見えた。

「ねぇ、望?大丈夫なの?」
「大丈夫だよ、詩織」
「本当?無理してない?」
「大丈夫だって!じゃあ、あたしはちょっと早いけどグラウンドに行ってるから」
「………」
「………」
「………」

そういうと望は部屋を後にした。



部屋に残されたのは3人。
そのうち、詩織が両手を腰に当てて、二人に訪ねる。


「ねぇ、京、奈津江。これからどうするの?」
「………」
「………」


「二人まで喧嘩しちゃうと、チームはボロボロよ?それでもいいの?」
「………」
「………」


「見たくなかった………喧嘩するところ………」
「………」
「………」


「ごめん………私も先に行くね………」
「シオ………」
「詩織………」


詩織も寂しい表情を見せながら部屋を後にした。



そして残されたのは京と奈津江。

「………」
「………」

先ほどの勢いはすっかりそがれてしまっていた。

「ごめん………」
「ごめん………」

もはや謝る意外方法はなかった。
二人は気まずそうな顔をしながら、起きあがる。
そしてベッドの上の壁にうつかり横に並んで座った。

「ごめん………勝馬と喧嘩するときは思いっきり殴っちゃうから………」
「アタシも………美奈との喧嘩もたまにするし、それについカッとなって………」

「おもいっきり殴っちゃったね………」
「アタシも………」

「しかし、お互いにひどい顔だね………どう言い訳しようか?」
「猫に引っかかれたことにするか?」

「あははは………」
「あははは………」

お互いに引きつった顔で笑う。
今まで自分たちのやったことに少しあきれてもいた。



「ねぇ、京。望のことなんだけど………」
「ああ、アタシは監督の考えは納得だな」
「えっ?」
「ナツ、冷静になって考えてみろ。このチームにとって一番いい形がなんなのか」
「………」
「じゃあ、説明してやるよ………」

奈津江は自分の考えを奈津江に話し始めた。
奈津江はその話をじっと聞いていた。





「………こういうわけだ。わかるだろ?」
「うん、わかるよ。わかるんだけど………」

京の話に半分納得、半分不安の表情の奈津江。
そんな奈津江を見て京は話を続ける。


「でもこのぐらい、自分で立ち直れないなら、今から助けても、助けるだけ無駄だよ」
「………」

「それに自分自身がわかってないようだったら、チームプレーもできやしないよ」
「………」

「まあ、シュートが打てなければ、守備に専念したほうが、精神的に悩まなくてもいいんじゃないのか?」
「京………」

「大丈夫。ノゾミは絶対に立ち直る。だからアタシはなにもしない………わかった?」
「わかった………京を、望を信頼する………」

ようやく奈津江は納得したようだ。



京と奈津江は部屋から出て、グラウンドに向かっている。
顔には絆創膏が幾つも貼られている。

「ナツ、ナツはチームをまとめてくれないか?このままだとまずいから」
「わかった、京は?」
「アタシは、望の様子を見てみる。おかしくなりそうだったら、今度はアタシが言うから」
「OK」
「ナツ、頼むから望だけ心配するのはやめてくれないか?ナツはキャプテンなんだから」
「わかった………そうする………」

京と奈津江は午後、一歩間違えると崩壊しかねないチームをまとめる方法を打ち合わせするのだった。
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後書き 兼 言い訳
なにやら望の周りもおかしくなってきた様子。
それでもチーム崩壊ということにはならなさそうですが、
チームに望という爆弾を抱えてしまっている状態になっていることは確か。

さてどうなってしまうのでしょうか?
そういうわけで次回もきらめきです。