第42話目次第44話

Fieldの紅い伝説

Written by B
朝の食堂。

「おっはよぉ〜!」
「ほ、ほむらが早起きしてるぅぅ!」

一番に食堂に来て朝食を食べているほむらをみて茜が狼狽していた。
それをみて不機嫌になるほむら。

「茜!その言い方………もぐもぐ………はなんだよ!…………もぐもぐ………」
「だって、だって、ほむらが早起きしたのなんて、ボ、ボク、はじめて………」
「ひでぇなぁ………もぐもぐ………あたしだって………ごくごく………早起きぐらい………がつがつ………するよ」
「そんなことない、絶対なにかあったに決まってる………」
「なんでもないって!」

いや、あったのだ。

昨日珍しく疲れてしまったほむらがこれまた珍しく早寝したからだ。
そして珍しく早起きしてしまったほむらは仕方なしに食堂にやってきたのだ。

「まあ、そんなこと気にするなって!………もぐもぐ………茜もまあ食え」
「わかったけど、食べながら話すのってみっともないよ………」

茜もほむらの隣でご飯を食べ始める。



食べているうちに他の人も次々にやってくる。

「あっ、ほむりん、おはよぉ」
「おはよう」
「おおっ、寿に八重か、おはっよぉさ〜ん」
「おはよう!」

花桜梨は腕にしがみついて離れない美幸を引きずりながらやってきた。

「おねぇさま♪おねぇさまの分も持ってきてあげるね」
「うん、お願い」
「じゃあいってきま〜す!」

美幸は花桜梨の分もとりにカウンターに向かっていった。
花桜梨はほむらと茜のテーブルを挟んで反対側に座る。

「ねぇねぇ、花桜梨さん………大丈夫だったの?」
「?」
「美幸ちゃんと一緒に寝て………おそわれなかった?」

茜でなくても不安になる。
なぜなら花桜梨と美幸は同室なのだから。
美幸の花桜梨LOVEは部内で周知の事実だから、誰でも不安になるのは当たり前だ。

「大丈夫よ………縛っておくから」
「はぁ?」
「ベッドにぐるぐるに縛っておくの。私は隣のベッドで安心して寝るの」
「どうやって言い聞かせてるんだ?」
「『こうするといい夢が見られるわよ』って」
「………それだけ?」
「美幸ちゃん、素直だから完全に信じているわ」
「そうなのか?」
「ええ、おかげで助かってるわ」
「まあ、よかったじゃないか」
「うん、寝言で『おねぇさま、もっとはげしくぅ〜♪』って聞こえる以外はね」

そういうときに美幸が戻ってきたのでこの話は終わりになってしまった。



話ながら食べながらの楽しい朝食。
しかし、茜はほむらをしかっている。

「ほむらぁ、食べながら雑誌見るのは止めたら?」
「えっ?いいじゃないか、おもしれぇ記事が載ってるからさ」

今度はほむらは食べながら隣に雑誌を置いて読んでいるようだ。
その雑誌を花桜梨はちらりとみてあることに気づく。

「あら?それってサッカー雑誌?」
「ああ、今日発売のほやほやの奴だ」
「何が書いてあるの?」


「主人のインタビューだ」


そのほむらの一言で3人がその雑誌に視線が集まる。
公二の写真が白黒で写っているのが目にとまった。

「へぇ〜!すご〜い!」
「それって、本当なの?ほむら」
「ああ、高校サッカー特集ってやつで、1ページ分インタビューがのってるぜ」
「コーチってそんなに有名なの?」
「ああ、元U-15日本代表候補で今は現役高校生監督とくれば、インタビューぐらいくるのは当然だろうな」

ほむらの解説に3人がまたもや驚く。

「ええっ?代表候補だったんだぁ、すっご〜い!」
「私も初めて知った………」
「まあ、今はサッカーできないからな、昔の事は言いたくないのは当然だろ?」
「そうなんだ………」

主人がサッカーができない身体になったためコーチに転身したというのは、直接本人からは聞いてはいなかったが、それとなく噂で知っていた。
もちろん、どのような経緯でそうなったのかはほむらでさえもよく知らない。

「でも、インタビューを受ければそのことが話題に………」
「案の定聞かれてるよ。でも正直に答えてるよ」
「『サッカーができない身体になった』って?」
「ああ、実はあたしも驚いたよ。主人、ずっと過去を吹っ切りたかったとおもうんだ」
「そうだろうね」
「そうでなきゃ、インタビューなんて受けないぜ」
「へぇ〜」
「………私にはできない………」

何も考えずに感心する美幸。
主人の発言の意味を知って純粋に感心する茜。
そして、ぼそっとつぶやいていた花桜梨。

三者三様の反応を示していた。



「まあ、読めよ。主人がどんなこと考えているかわかるよ」
「じゃあ、読むねどれどれ………」
「なぁ、おまえら、ご飯食べてからにしたらどうだ?」
「あっ………」

記事を目で追おうとしたがほむらに逆にしかられた茜。
しょうがないので急いでご飯を食べて記事を読むことにした。



インタビュー記事は主人の紹介文の後に以下のようなことが書かれていた。


−−−中学の頃はすごかったんですね。
「今振り返ると自分でもびっくりですよ。だって候補合宿で一緒にいた人で今はJリーガーで活躍してる人がいるし、監督は今の代表コーチですからね」

−−−どうして、サッカーをやめたんですか?
「ケガをして、それで足をヤっちゃって、サッカーができなくなってしまったんです」

−−−嫌なことを聞いてごめんなさい
「いいんです。そのケガのおかげで今の僕がいますから」

−−−それではなぜコーチに?
「総監督に頼まれたんです。昔の僕のことを知ってたんだと思います」

−−−オファーを受けたとき、どう思いましたか?
「いろいろ迷いましたが、またサッカーに関われると思い引き受けました」

−−−女子のコーチってとまどいませんか?
「やはり、男子とは違いますね。パワーとかスピードとか。でも男子とはちがう力強さは感じます。それにここ一番の度胸は男子よりすごいですね」

−−−仲のよい女の子とかいませんか?
「あははは。みんな仲がいいですよ」

−−−もしかして部員のなかに彼女がいたりして?
「それは内緒です(笑)」

−−−それじゃあ、練習は和気藹々としてるのですか?
「それはないですね。楽しいけど厳しくやってますよ」

−−−それって、やりずらいことはありませんか?
「ええ、とてもやりずらいですね。でも監督としては当然のことだと思います」

−−−当然のこと?
「はい、監督は選手と違う存在でなくてはいけないと思ってます。
 監督と選手の間には決して超えられない線があるべきだと思ってます。

 うちの部員は性格がいい子がそろってるんですよ。
 みんな彼女にしたいぐらいにね。

 (一同、爆笑)

 でも、それでも試合では監督と選手。
 私情は絶対に入れてはいけないと思うんです。

 たとえ鬼と言われようと、たとえ非情だといわれようと。

 監督はチームの勝利のために最善手を打ち続けなければいけない役職だと思ってます。

 高校生で生意気な事を言ってると思われるかもしれませんけど、
 練習試合で勝ったり負けたり、いろいろ経験するうちにそういうのを実感したんです」

−−−誰か見本がいるんですか?
「中学の時の監督がそういう考えで、当時はなぜ?って思ってましたが、今は共感できます」

−−−部員から文句や悪口はいわれませんか?
「今は幸いなことに言われてないみたいです。
 でも言われるぐらいでないといけないと思います。
 そのぐらいしないと、チームは勝てませんから。

 負ければ責任はすべて監督の僕が負います。
 決して選手に責任は押しつけるべきではない。

 そのかわり勝ったときはその功績はすべて選手に与えるべきだと思います。
 決して僕が受けるべきではない。

 それに勝負は結果がすべての厳しい世界。
 こういうことはアマでも同じだなって思ってます。」



ここで現在のひびきの高校女子サッカー部の紹介文が入る。
ライン守備が特徴であることと、ほむら、花桜梨、光の3人が攻撃の中心になることが簡潔に書かれていた。

そして主人のインタビューが続く。


−−−チームの完成度は?
「まだまだ2割も完成してません。夏の合宿中に90%は仕上げる予定です」

−−−夏休みだけで大丈夫ですか?
「ええ、このチームは発展途上です。でも成長力はかなりあると思いますし、あるはずです」

−−−攻撃陣3人が注目されているようですね。
「3人ともタイプが違いますからね。歯車が合えば爆発するんじゃないかとうぬぼれてます(笑)」

−−−個人技中心のチームですか?
「そうですね。このチームは個人技中心が一番いい形だと思ってます」

−−−コーチの理想のサッカーとは?
「僕はパス中心のサッカーが理想ですね。でも理想と現実は違います」

−−−パス中心の理想の戦術はとらないのですか?
「理想は理想です。現実はそれが向いているとは限りません。戦力にあったチーム作りが必要になるんですよ」

−−−そうですか。では最後に。全国大会にいく自信は?
「もちろんあります!ひびきのはまだ都予選の実績すらありませんが、今は違います。絶対に全国大会に行きます!」

−−−それでは全国大会であえるのを楽しみにしています。ありがとうございました。

そこで最後にインタビュアーの感想が書かれておりそれで記事は終わった。



記事を読み終わった4人は感心していた。

「ぬしりんってすごい………」
「すごいね………いや、何がといわれても難しいけど………」
「………尊敬する………」
「さすが主人だな。あたし達のコーチはこうでなくっちゃな」

ほむらは雑誌を閉じた。

「ここまで主人は真剣に考えてるんだ。あたしたちももっと頑張らないとな」
「そうだね。ボクもがんばらなくっちゃ!」
「ゴールきめなきゃね………」
「美幸もがんばるぞぉ〜!」

主人の記事をみて、改めて気合いを入れる4人であった。



ところでその主人はというと………。



「………いったぁ〜い!」





とある部屋から光の声が漏れてきた。

「ごめん、痛かったか?」

「だめぇ、痛くてうごけないよぉ………」

「俺だってこんなのはじめてなんだから、少しは我慢しろよ………」

「私だってこんなに痛いの初めてだよぉ」



その部屋からは公二の声も聞こえてきた。
どうやら二人きりらしい。
声は玄関ではなく、ベッドのほうから聞こえてくる。



「もっとやさしくしてぇ♪」

「そんなこと言われても抑えられないよ」

「下手くそ」

「うるさい!そういう悪い奴はこうだ!えい!えい!」

「痛い!痛い!痛い!もう、ぐりぐりやらないでよぉ」









「まったく、寝ていて足をつる、ってどういうことだよ」
「そんなこと言ったってぇ………」
「部屋の中から絶叫が聞こえてびっくりしたんだから」
「ごめん………」

公二はベッドで光に足のマッサージをほどこしていた。
廊下で光の絶叫を聞いて部屋に飛び込んだところ、ふくらはぎを持ってもだえている光の姿が。
呆れながらも急いで手当をしていた。

「昨日足の疲れをとることはしなかったのか?」
「だって、夜、シュート練習をやって、そのまま寝ちゃって………」
「何もしないですぐ寝るのが一番いけないんだぞ」
「ごめんなさい………」
「まったく、これからは気をつけろよ。ケガしてからじゃ遅いんだかな!」
「………」
「じゃあ、早くご飯を食べておけよ。練習でへばっちまうからな」
「は〜い」
「それじゃあ、僕は先に行くから」

公二はそういって部屋を出て行った。



「ふぅ〜………」
「ふぅ〜………」

公二と光は別の場所で同時にためいきをついていた。

「公二を怒らせちゃった………怪我が一番いけないことなのに………」
「やっぱり、あのシュートの練習をしてたのか………」


「私が無理をしたら、公二と同じように………」
「どおりで最近シュートばかり狙ってると思ったら………やっぱり………」


「でも、あのシュートを打たなくても普通のシュートを打てばいいんだよね………」
「光には熱いお灸を据えないといけないな………」


「さて、叫んだらおなか減っちゃった!早くご飯たべようっと!」
「光泣くかもな………でも、チームのためだし、光のためだからな………」
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
独り言シリーズの変形版、公二のインタビューです。

公二の描く指揮官像がわかって頂ければ幸いです。
さてこっちもぼちぼち書き進めないといけないなぁ。
ようやく夏合宿も中盤だからなぁ。

次回こそは本当にひびきのの3日目になります。