第46話目次第48話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「なんでここにいるの………」
「光さんこそ………」

ひびきの中央公園。
望と光は驚いていた。

(合宿中なのにどうしてここに………)
(なんでこんな公園に………)

お互い合宿の真っ最中。
なのになぜかここにいる。

特に望は隣町のきらめき市から来ているのだ。
驚くのは無理もない。

「………」
「………」

お互いにだまって見つめ合う。
二人ともサッカー部のジャージ姿。
合宿を抜け出したのはお互い感じ取っていた。


しかし、なぜ?


それは言葉にしなかった。
お互いの辛そうな表情を見ればただごとではないぐらいはわかる。

「………座らない?」
「そうだね。ここまで走ってきて疲れちゃった」

二人は近くのベンチに座ることにした。



「………」
「………」

二人並んでベンチに座る。
二人ともお互いの姿を見ていない。
ただじっと地面を見ている。

蝉の鳴く声だけが二人の周りを取り囲んでいる。

お互いに言いたい事があるがなかなか言えないでいる。
時々ちらちらとお互いの顔を伺うがそれっきり。

沈黙が続く。



「ごめんね………」
「えっ?」

先に口を開いたのは光だった。
久しぶりにでた言葉が謝りの言葉。

望は予想外の言葉に驚いた。

「なにが?」
「ごめんね………無理なんだ」

「何が?」
「秋の大会ね、対戦しようって約束したでしょ?」
「ああ、それが?」



「それ………たぶん無理………」



「どうして?」



「だって、私、もう部活に戻れないから………」



「なんでだよ!」



望は思わず声を荒げて立ち上がる。
そして光を見下ろす。
しかし、光の顔をみてそこで止まってしまう。

その光の表情は悲しげな表情だった。



「あのね、『おまえはサッカーを楽しんでない』って公二に言われた」
「公二に?」

「うん。直接は言われてないけど、たぶんそう」
「楽しむって?」

「楽しむというより、『おまえは一人で勝つことしか考えてない』っていう事だと思う」
「なんでわかるんだ?」

「私………それしか考えてないから」
「えっ?」



「望さんに勝つ………私はそれしか考えてない」



「えっ………」


いつしか光の表情は鋭くなっていた。
鋭い視線で望をまっすぐ見つめていた。
望も視線をはずさずにまっすぐに見つめ返す。


そして一気に想いを吐き出す。

「望さんに勝ちたい!

 望さんを1対1で抜き去りたい!

 望さんをかわしてスルーパスを出したい!

 望さんを振りきってドリブルしたい!

 望さんのきらめきに勝ちたい!

 望さんのすべてに勝ちたい!


 それのなにが悪いの?
 望さんを目標にして何が悪いの?
 望さんを勝つことを目的にして何がいけないの?


 私は公二くんが好き。


 この想いをかなえるためには望さん、あなたを倒さなくてはいけない。

 公二くんが好きで始めたサッカー
 公二くんの夢を叶えたくて始めたサッカー
 
 サッカーは楽しいよ。大好きだよ。
 でも、今は勝つことしか考えていない。
 今の私には勝つことを考えるのが一番だと思ってる。


 それの何がいけないの?
 私はどうしたらいいの?

 ………わからない」



「………」

望はなにも言えない。
言った光は想いを一気に吐き出すと再び悲しい表情になる。

「それがわかるまで部活に戻れない………」
「………」

「もう公二くんと分かり合えない………もうおしまい」
「………」

「だから約束守れない………ごめん………」


光はそれっきり地面にうつむいて黙ってしまう。



望の両拳がフルフルと震えている。
体もぶるぶると震えている。

「………ふざけるな………」



「えっ?」



「ふざけるなって言ってるんだ!」

望はベンチで座っている光のジャージの胸ぐらをつかんで持ち上げた。
光を無理矢理立たせてにらみつけた。

望は鬼のように怒っていた。


「そんなことあたしに言ってもしょうがないだろ!

 それを公二に言えよ!

 自分の考えを公二にぶつけろよ!

 公二の考えがなんだよ!
 公二の考えがすべて正しいわけじゃないことぐらいわかるだろ?

 公二の考えは公二の考え。
 あんたの考えはあんたの考えだろ?

 違って何がいけないんだよ!
 人と違うプレーをするのが当たり前だろ?
 人と違う考えするのは当たり前だろ!」


「望さん………」


「大体なんだよ?その弱気は?

 あたしの知ってる光さんはこんな人じゃない!

 もっと前向きで、
 もっと元気で、
 もっと強気だったはずだ!

 こんなことで弱気になってどうするんだよ!

 そんなことじゃ、あたしに勝てないぞ!


 なぁ。これがあたしがライバルと認めた陽ノ下 光か?

 あたしが絶対に負けたくないと思う陽ノ下 光か?

 あたしを本気にさせた陽ノ下 光か?


 違う!
 あたしが知ってる陽ノ下 光は
 自分のサッカーを公二に認めさせる力があるはずだ!」



胸ぐらをつかむ望の手の力が弱まる。
望の手からジャージがするっと抜け出す。
望に持ち上げられている格好だった光はそれにより、支える物がなくなってしまい座り込む。
ドスンとまたベンチに座ってしまう。


「とにかく………公二と話し合ってみろよ」

「ごめん、わたし目が覚めた………公二くんと話し合ってみる」

「………」

「私のサッカーを公二に認めさせる………」

「そうだ、それでこそあたしのライバルだ………」

光に少し笑顔が戻っていた。
満面の笑顔ではないが、何か吹っ切れたな清々しい表情だった。



しかし、望の表情は一向に晴れない。

立ったままうつむいたまま。
両手を腰にあてて、じっと動かない。
顔はうつむいていて表情は見えにくいが、暗い表情であることは確か。

光はようやくそれに気がついた。

「望さん?」

「ごめん、あたしが謝らなくてはいけないようだ………」

「どうしたの?」

「あたしが約束を守れない………」

「ちょっと!どういうことなの?」

光が驚いて顔を上げる。

望が顔を上げた。

望はないていた。




「あたし、レギュラーから落とされたんだ………」



「えっ………」
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後書き 兼 言い訳
1話で決着つけようかと思いましたが長くなりましたので2話に分けることにしました。

最初は光の話。
光の想いがわかっていただけたでしょうか?

こんなんで解決するか?と言われれば微妙ですが、
まあここは青春話ということで(ひでぇ

次回は当然望の番です。