「あたし、レギュラーから落とされたんだ……」
「えっ……」
真っ昼間の公園。
偶然なのか光と望の周りには誰もいなかった。
ただ蝉が鳴く声が響くだけ。
力のない望の一言も光の耳にストレートに入っていった。
「……どういうこと?」
「たいしたことないよ……」
「たいしたことがないってどういう事よ!」
「あたしより強いヤツがいた……それだけだよ」
「それだけって?」
「……」
「それだけじゃわからないわよ!」
問いかけてもつれない返事。
光はいらだってきた。
光は思わず声を荒げてしまう。
ベンチに座ったまま、立ったままの望をにらむ。
そんな光に気がついたのか、望がぽつりぽつりと話し出した。
「合宿に外国からの新入りが来たんだよ。
ポジションはあたしとおなじ。
そいつすごいんだ……
ドリブルはパワフルだし、
パスカットは見事だし。
さらにロングパスが正確なんだぜ!
近くでプレーしてそのすごさがよくわかるんだよ。
あたしはかなわないよ……
おかげであたしはポジションを追われて、今日はレギュラーも……
もうだめだよ……
あたしはもう自信もなにもない……」
「ばかっ!」
ぱちん!
頬を打つ乾いた音が公園にかすかに響く。
望が左の頬を左手で押さえながら、驚いたような顔のまま。
光は怒りの表情でぶった右手を降ろさずにいた。
こんどは光が怒る番だ。
「望さんのほうが弱気じゃないの!
ポジションぐらい実力ですぐに奪い返す、ぐらいのことが何でいえないのよ!
わたしの知っている望さんはすぐに諦めない!
わたしの知っている望さんは自分に自信を持ってる!
わたしの知っている望さんのプレーは誰にも負けてない!」
「光さん……」
「大体レギュラー落ちってなに?
なんでそんなにすぐにレギュラー落ちなの?
望さんはどこのポジションでもレギュラーでやっていけるはずだよ!
もっと自信もってよ!
もっと強気になってよ!」
「……」
「ねぇ、さっきにわたしへの言葉はなんだったの?
あれはでまかせなの?
わたしにあれだけ言っておいて自分はなんなの?
わたしにあれだけ言うなら教えてよ!
そのぐらい、実力で跳ね返してよ!
わたしに教えてよ!」
公園に再び蝉の声だけが響く。
望をにらみつける光。
それに黙っているだけの望。
「ごめん……」
「謝ってどうするのよ!」
「あたしが間違ってた……
そうだよな……
あたしが弱気になってどうなるんだろうな……
自分であれだけ言っておいてな……
あははは……
自分が説教されないといけない立場なのにな……
こんなのあたしらしくないな……」
「望さん……」
「あたしも目が覚めたよ……
あたし、合宿に戻ってやりなおす!
レギュラーだって、ポジションだって絶対に取り返してみせる!
そして、約束……守るから」
「うん、わたしも自分のサッカーを公二にわかってもらう。
約束……絶対に守るから……秋の全国大会で絶対に戦うから」
「うん、約束、守ろうな……」
二人の顔から自然と笑みがこぼれる。
二人ともようやく普段の顔に戻っていた。
ようやく落ち着きを取り戻した二人。
ベンチに腰掛けて話を始めた。
話の内容は私生活の事、学校のこと、部活の事。
普段電話で話していることだ。
「へぇ〜、花を育てるのが好きなんだ」
「学校の花壇を少しだけ借りて育ててるんだ」
「すごいねぇ」
「あたしだとおかしいかなぁ?」
「ううん!そんなことないよ!似合ってると思うな」
「あはは、ありがとう」
「あれ?中学校の時陸上で都大会3位だっけ?」
「うん、そうだよ。なんで知ってるの?」
「いや、うちの部に神戸留美っているんだけど知ってる?」
「えっ?神戸、神戸、留美、留美……う〜ん、思い出せないなぁ」
「えっ?あいつそのときに4位だったって言ってたけど……」
「う〜ん……ごめん、やっぱり思い出せない……」
「本当か?あいつ、おまえを倒すためにサッカー部に入ってきたんだぞ」
「そうなの?……でも思い出せない……」
「あいつが聞いたら荒れるぞ……」
「きらめきって進学校でしょ?」
「ま、まあそうだな……」
「望さんも頭いいんだ……」
「い、いや、きらめきってスポーツ推薦もあって、あたしはそっち……」
「でも、授業とかのレベルも高いんでしょ?すごいなぁ」
「そ、そんなことは……」
「今度勉強教えてほしいなぁ……」
「あ、それはやめておいたほうが……」
「今週のサッカー記事の公二のインタビュー記事を見たよ」
「望さんも?」
「当然だよ。隣町のチームの監督のインタビューだしそれに……公二だから……」
「どうだった?」
「すごいなぁ……さすが公二だなぁって……」
「どこのコメントが?」
「いや、どのコメントも一つ一つが自信にあふれてて……かっこよかったなぁ……」
(だめだ、自分の世界に入ってる……)
自然と話はサッカーに入っていたのだが。
「あれ?ところで望さん、ポジションを追われたって言ってたけど、どこになったの?」
「えっ?」
「いや、確か前目の守備的MFだったはずだけど……どこになったんだろう?って」
「いや、守備的MFは同じなんだけど、後ろに下げられて……」
「後ろ?」
「うん、だから今よりも守備重視にさせられて……」
「あれ?……」
なにげない会話。
ここで少し光が考え込む。
そして光の表情がパッと明るくなる。
「それならわたしは大歓迎だよ!」
「どうして?」
「だって、直接ぶつかるじゃない!」
「ん?………ああっ!」
望は守備的MFで守備重視。
光は司令塔の攻撃的MF。
つまり。
「でしょ?
わたしのポジションと望さんのポジション。
いつでも対戦できるポジションだよ!
これなら試合になってもいつでもぶつかれる……
なんかワクワクしてきちゃった!」
望もようやく光の言っていることに気がついた。
望は思わず笑い出してしまう。
「あははは……
なんだよ……
あたし達には好都合だったんだ……
あたし、なに落ち込んでたんだろう……
このポジションでも良かったんだ……
落ち込んで損しちゃった」
「よおし!
気合いが入ってきた!
望さんが壁になるなら、なんか燃えてきた!」
そして二人はなにか合図した訳でもないが、二人同時に立ち上がった。
「あたしもだよ!
これからまた合宿に戻るよ。
早くレギュラーを取り戻さないとね。
そうしないと、光さんに追いつかれちゃうからね」
「私も合宿所に戻る。
公二と話し合う。
そして私も合宿に復帰する!
もっと上手くなって全国大会にでられる力をつけないとね」
そして二人はまっすぐに見つめ合う。
「頑張ろうね」
「頑張ろうな」
「じゃあ、またね」
「ああ、またな」
パン!
二人は右手をハイタッチさせて、そのまま正反対の方向に走り出した。
後ろを振り返ろうとせず、まっすぐ、まっすぐに。
二人の進むべき道のようにまっすぐに走り出した。
迷い、立ち止まっていた二人は、再び走り出した。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
深刻だったのに2話で決着つきました(笑)
こんなんで解決するか?と言われれば微妙ですが、
まあここは青春話ということで(ひでぇ
(↑前話と同じ文書だろ)
次回は合宿所に戻った二人のそれぞれの様子になるのかな?