第47話目次第49話

Fieldの紅い伝説

Written by B
「あたし、レギュラーから落とされたんだ……」

「えっ……」

真っ昼間の公園。
偶然なのか光と望の周りには誰もいなかった。
ただ蝉が鳴く声が響くだけ。

力のない望の一言も光の耳にストレートに入っていった。

「……どういうこと?」

「たいしたことないよ……」

「たいしたことがないってどういう事よ!」

「あたしより強いヤツがいた……それだけだよ」

「それだけって?」

「……」

「それだけじゃわからないわよ!」

問いかけてもつれない返事。
光はいらだってきた。
光は思わず声を荒げてしまう。
ベンチに座ったまま、立ったままの望をにらむ。



そんな光に気がついたのか、望がぽつりぽつりと話し出した。

「合宿に外国からの新入りが来たんだよ。

 ポジションはあたしとおなじ。

 そいつすごいんだ……
 ドリブルはパワフルだし、
 パスカットは見事だし。
 さらにロングパスが正確なんだぜ!

 近くでプレーしてそのすごさがよくわかるんだよ。
 あたしはかなわないよ……

 おかげであたしはポジションを追われて、今日はレギュラーも……

 もうだめだよ……

 あたしはもう自信もなにもない……」


「ばかっ!」


ぱちん!


頬を打つ乾いた音が公園にかすかに響く。


望が左の頬を左手で押さえながら、驚いたような顔のまま。
光は怒りの表情でぶった右手を降ろさずにいた。



こんどは光が怒る番だ。

「望さんのほうが弱気じゃないの!

 ポジションぐらい実力ですぐに奪い返す、ぐらいのことが何でいえないのよ!

 わたしの知っている望さんはすぐに諦めない!
 わたしの知っている望さんは自分に自信を持ってる!
 わたしの知っている望さんのプレーは誰にも負けてない!」


「光さん……」


「大体レギュラー落ちってなに?

 なんでそんなにすぐにレギュラー落ちなの?

 望さんはどこのポジションでもレギュラーでやっていけるはずだよ!

 もっと自信もってよ!
 もっと強気になってよ!」


「……」


「ねぇ、さっきにわたしへの言葉はなんだったの?

 あれはでまかせなの?

 わたしにあれだけ言っておいて自分はなんなの?

 わたしにあれだけ言うなら教えてよ!
 そのぐらい、実力で跳ね返してよ!
 わたしに教えてよ!」


公園に再び蝉の声だけが響く。
望をにらみつける光。
それに黙っているだけの望。



「ごめん……」


「謝ってどうするのよ!」


「あたしが間違ってた……

 そうだよな……
 あたしが弱気になってどうなるんだろうな……
 自分であれだけ言っておいてな……

 あははは……

 自分が説教されないといけない立場なのにな……
 こんなのあたしらしくないな……」


「望さん……」


「あたしも目が覚めたよ……

 あたし、合宿に戻ってやりなおす!

 レギュラーだって、ポジションだって絶対に取り返してみせる!

 そして、約束……守るから」


「うん、わたしも自分のサッカーを公二にわかってもらう。

 約束……絶対に守るから……秋の全国大会で絶対に戦うから」


「うん、約束、守ろうな……」


二人の顔から自然と笑みがこぼれる。

二人ともようやく普段の顔に戻っていた。



ようやく落ち着きを取り戻した二人。
ベンチに腰掛けて話を始めた。

話の内容は私生活の事、学校のこと、部活の事。
普段電話で話していることだ。


「へぇ〜、花を育てるのが好きなんだ」
「学校の花壇を少しだけ借りて育ててるんだ」
「すごいねぇ」
「あたしだとおかしいかなぁ?」
「ううん!そんなことないよ!似合ってると思うな」
「あはは、ありがとう」


「あれ?中学校の時陸上で都大会3位だっけ?」
「うん、そうだよ。なんで知ってるの?」
「いや、うちの部に神戸留美っているんだけど知ってる?」
「えっ?神戸、神戸、留美、留美……う〜ん、思い出せないなぁ」
「えっ?あいつそのときに4位だったって言ってたけど……」
「う〜ん……ごめん、やっぱり思い出せない……」
「本当か?あいつ、おまえを倒すためにサッカー部に入ってきたんだぞ」
「そうなの?……でも思い出せない……」
「あいつが聞いたら荒れるぞ……」


「きらめきって進学校でしょ?」
「ま、まあそうだな……」
「望さんも頭いいんだ……」
「い、いや、きらめきってスポーツ推薦もあって、あたしはそっち……」
「でも、授業とかのレベルも高いんでしょ?すごいなぁ」
「そ、そんなことは……」
「今度勉強教えてほしいなぁ……」
「あ、それはやめておいたほうが……」


「今週のサッカー記事の公二のインタビュー記事を見たよ」
「望さんも?」
「当然だよ。隣町のチームの監督のインタビューだしそれに……公二だから……」
「どうだった?」
「すごいなぁ……さすが公二だなぁって……」
「どこのコメントが?」
「いや、どのコメントも一つ一つが自信にあふれてて……かっこよかったなぁ……」
(だめだ、自分の世界に入ってる……)



自然と話はサッカーに入っていたのだが。


「あれ?ところで望さん、ポジションを追われたって言ってたけど、どこになったの?」


「えっ?」
「いや、確か前目の守備的MFだったはずだけど……どこになったんだろう?って」
「いや、守備的MFは同じなんだけど、後ろに下げられて……」
「後ろ?」
「うん、だから今よりも守備重視にさせられて……」
「あれ?……」

なにげない会話。
ここで少し光が考え込む。
そして光の表情がパッと明るくなる。

「それならわたしは大歓迎だよ!」



「どうして?」



「だって、直接ぶつかるじゃない!」



「ん?………ああっ!」



望は守備的MFで守備重視。
光は司令塔の攻撃的MF。
つまり。

「でしょ?
 わたしのポジションと望さんのポジション。

 いつでも対戦できるポジションだよ!

 これなら試合になってもいつでもぶつかれる……

 なんかワクワクしてきちゃった!」



望もようやく光の言っていることに気がついた。
望は思わず笑い出してしまう。

「あははは……

 なんだよ……
 あたし達には好都合だったんだ……
 あたし、なに落ち込んでたんだろう……
 このポジションでも良かったんだ……

 落ち込んで損しちゃった」


「よおし!

 気合いが入ってきた!
 望さんが壁になるなら、なんか燃えてきた!」



そして二人はなにか合図した訳でもないが、二人同時に立ち上がった。

「あたしもだよ!

 これからまた合宿に戻るよ。
 早くレギュラーを取り戻さないとね。

 そうしないと、光さんに追いつかれちゃうからね」


「私も合宿所に戻る。

 公二と話し合う。
 そして私も合宿に復帰する!
 もっと上手くなって全国大会にでられる力をつけないとね」



そして二人はまっすぐに見つめ合う。

「頑張ろうね」

「頑張ろうな」

「じゃあ、またね」

「ああ、またな」


パン!


二人は右手をハイタッチさせて、そのまま正反対の方向に走り出した。

後ろを振り返ろうとせず、まっすぐ、まっすぐに。

二人の進むべき道のようにまっすぐに走り出した。



迷い、立ち止まっていた二人は、再び走り出した。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
深刻だったのに2話で決着つきました(笑)

こんなんで解決するか?と言われれば微妙ですが、
まあここは青春話ということで(ひでぇ
(↑前話と同じ文書だろ)

次回は合宿所に戻った二人のそれぞれの様子になるのかな?