第51話目次第53話

Fieldの紅い伝説

Written by B
4日目の早朝。

「ふぁ〜あ、結局陽ノ下は戻ってこなかったなぁ〜、ふぁ〜あ」

ほむらは寝惚け眼をこすりながら、食堂に向かっていた。
あれから、光は部屋に戻ってきていない。
布団の敷き具合からみて、一旦戻ったような様子もない。

「いったいあいつはなにやってるんだ………あれ?」

ほむらの視線には部屋の扉の前でおろおろしている美幸が入ってきた。

「おい、寿」
「あっ……ほ、ほむりん……」
「人の部屋の前で何やってるんだ?……ん?ここは主人の部屋か」

美幸は公二の部屋の前でおろおろしていた。
よく見ると扉が空いている。

「ん?中に入らないのか?」
「だ、だめだよぉ〜!」
「はぁ?」

部屋に入ろうとするほむらをなぜか美幸が止める。
しかもいつもの大声ではなく、小さな声で。

「どうしたんだ?」
「あ、あのね……ぬしりんとひかりんが……」
「ここは主人の部屋だろ?それに昨日は陽ノ下がここに来ていたけど、それがどうした?」
「あのね、今日のスケジュールを聞こうとしてぬしりんを呼ぼうと部屋に入ったら」
「入ったら?」


「ぬしりんとひかりんがラブラブな格好で寝ているの!」


「へっ?なんだそりゃ?」
「とにかくそぉ〜と中を見てよ」
「???まあ見てみるか……」
「ああ〜!入っちゃまずいって!」

ほむらはそぉ〜っと中に入ってみる。
忍び足でこっそりと入る。
美幸も後ろから着いていく。



そして未だに寝ている2人を見下ろすほむらと美幸。

「ほぉ〜。これはたいそうなことで……」
「でしょでしょ?こんなにラブラブだなんて……はぁ〜羨ましい……」


公二と光は抱き合うようにぐっすりと眠っていた。


仰向けに寝ている公二の胸板を枕にして光が寝ている。
しかも光は公二に寄り添って寝ているのではない。
光は公二に覆い被さるように眠っていた。
公二もそんな光をかるく抱きしめるように寝ていた。



「きっと昨日の晩、2人は結ばれちゃったんだよぉ〜、いいなぁ〜」
「どこがだよ………」
「私も花桜梨お姉様とこんな風に寝てみたい」
「はぁ〜……」

羨望のまなざしでみている美幸にほむらは呆れていた。



確かに、どう考えても友達の関係でできる寝方ではない。




でも。




2人はジャージ姿。




しかも床の上。




どう考えても、昨晩結ばれたとは思えない。



「これのどこが結ばれてるんだよ」
「へっ?」
「あたしもよくわからないけど、普通これはないだろ?」
「そうなの?」
「たぶんそうだと思う……さてと、起こすか」
「えっ?」

ほむらは息を思いっきり吸う。
そして一気にはき出す。




「おまえら〜!おきろぉ〜〜〜!」




ぐっすり眠っていた2人がようやく動き出す。

「……ん?……あっ、朝か……」
「……あっ……眠っちゃったんだ……」

そしてお互いの姿が確認できる。

「あっ、公二、おはよう……」
「光、おはよう……」

「ん?……」
「ん?……」

「………」
「………」

だんだんと2人の意識がはっきりしてくる。
そして自分たちの格好にようやく気づく。

「うわぁ!」
「きゃぁ!」

2人は飛び上がって、ベッドの両端に別れる。

「ご、ごめん!わたし、なんてはしたない格好を……」
「ごめん!俺も、光を抱いて寝ていたなんて……」

「私、たしか昨日ビデオを見終わってそれから眠くなって……」
「お、俺もビデオ見終わってからあまり記憶がなくて……」
「起きたか〜?」

「なんか、公二の顔を見つめてた記憶はあるんだけど……」
「光の顔が急に近づいてきて、それから何も……」
「お〜い」

「ごめんなさい……」
「俺もごめん……」



「こらぁ!いい加減に気づけ!」



「うわぁ!か、会長!いつの間に……」
「ほ、ほむら……どうして……」

ほむらが再度大声を出してようやく気づく。

「あたしはさっきからいたぞ」
「えっ?そうなの?」
「そうだよ……まったく、いつまでラブコメやってるんだよ」
「ご、ごめん………」
「もう朝ご飯の時間だぞ。早く支度してご飯食べたらどうだ?」
「そ、そうするね……」
「俺も急ぐから……」
「早くしろよ。ほら、寿。行くぞ」
「う、うんわかった……じゃあまたね〜」

ほむらは美幸の襟の後ろをつかんで引っ張るように部屋を後にした。
そして、部屋はまたふたりっきり。

「………」
「………」
「……ご飯食べに行こうか?」
「うん……」

こうして2人の朝が始まった。



そして食堂。
2人は仲良く横に並んで朝食を摂っている。

「………」
「………」

「恥ずかしい……」
「俺も恥ずかしいよ……」

「ううっ、視線がきつい……」
「ご、誤解だってわかるよ……」

部員達の視線が自分たちに注がれていることはよくわかっている。
朝のわずかな時間で「陽ノ下がコーチの部屋に泊まった」という話が部内に広まっていた。
紛れもない事実だが、な〜んにもなかったことに怪しむ人は多い。

こんな噂はすぐに収まるのだが、当の2人は気が気でならない。

「とっととご飯食べてシャワー浴びよう……昨日風呂に入ってないからな……」
「私も……ちょっと汗くさい……」

お互い苦笑しながら朝ご飯を手早くすませる。



「あれ?光も浴び終わったところか?」
「うん、公二もなんだ」

2人はちょうどシャワーを浴びて、それぞれシャワールームから出てきたところだった。
2人ともジャージ姿。
光はタオルで髪を拭きながら、公二はタオルを首に掛けて出てきた。

「部屋にいくとこ?」
「ああ、そうだけど。光は?」
「私も。着替えなきゃだからね」

2人は並んで廊下を歩いている。
光は公二の左に寄りそう。
ゆっくりとゆっくりと。
歩く時間を引き延ばすかのように2人ともゆっくり歩いている。

「ねぇ、公二。ひとつ聞いていい?」
「いいけど?」
「私を練習から追放した理由……私が勝つことしか考えてない、ってことでしょ?」
「ああ……」


「私、その考え……変えてないよ……いいの?」


「俺はよくないと思う……でも、諦めた……」


「えっ?」
「昨日、倒れて部屋で寝ているときに、ほむらに言われたよ」
「何て?」



『主人。あれからあたしも考えたんだけど……』
『何が?』
『陽ノ下の事だよ。

 あいつが勝つのを第一に考えてること……
 たぶん、変えられねぇと思う。

 そもそも、おまえを勝たせたいがためにサッカーを始めたんだろ?
 その根本はおまえが好きだから。
 そういうのって変えるのはなかなか難しいぞ。

 だいたい、考え方の根本が違う奴がいるのは当たり前だろ?
 あたしもたまに家のスポーツ新聞見るけど、考え方の違いで衝突なんてケースよくあるだろ?

 そこをなんとかするのが監督じゃないのか?

 今日のおまえ達を見ていてそう思った』
『……あはは、ほむらに教えられるとはな……』
『馬鹿言うな。あたしもちったぁ、サッカーの勉強してるんだぞ』
『そうか……』
『まぁ、新聞とか雑誌のサッカー記事呼んでるだけだけどな、にゃはは!』



「そんな事が……」
「そういうことで、これ以上何も言わない……」
「いいの?……こんな私でいいの?」
「ああ、ただ一つだけ……」
「なに?」
「光……」
「えっ……」


公二は突然光の右肩をつかむ。
左手で光の右肩を押すようにして、光の体を自分の真正面に向けさせる。
光の左肩も右手でつかむ。

そして光の目をじっと見つめる。


「光……目の前の試合を勝つことだけを考えるな」
「えっ?」
「次の試合。その次の試合も勝つことを考えろ。いいな」
「う、うん……」


公二に至近距離でじっと見つめられた光は頷くだけだった。

「それじゃあ、もうすぐ練習だからな。遅れるなよ」
「は、はい……」
「じゃあ、グラウンドでな」

そう言うと公二は扉を開けて部屋に入っていた。
いつの間に公二の部屋の前まで歩いてきていたのだ。



「………」

ひかりはその場所で呆然としていた。
いきなり公二に至近距離に見つめられてしまい、パニックになっているようだ。
顔も紅く目もうつろ。

通り過ぎる人もどうしていいのかわからず、誰も何も言わずに通り過ぎる。



しばらく、ぼぉ〜としていた光。
結局練習開始に少し遅れてしまったのは言うまでもない。
Go to Next Game.
後書き 兼 言い訳
みなさまの予想どおり、2人にはなにもありませんでした(笑)

連載突然打ち切りなら、ここで結ばれて一気にエンディングなんですが、まだまだ続きます(笑)

結局、光の考えを変えさせることは諦めたようです。
これが吉なのか凶なのかは、しばらく立たないとわからないかもしれません。

次回はきらめきサイドかなぁ?